最初は、別に好きじゃなかった。むしろ、口ばかりの調子が良すぎる教師だと感じていた。実際の所、教師は口ばかりの安っぽい人間で、愛嬌だけで上手く世の中を渡っているような男だった。
だけれど、何故かそんな男に惹かれていった。自分でも理由はわからない。それが恋だと気づくまでには何ヶ月も時間がかかったから。
そして、それが罪だと知るまでには、もっと時間が必要だった。
女子高生が教師と不倫する。
よくある、本当に、よくある下らない、どうでもいい話だ。誰もがそうやって安っぽい関係を見下す。
自分が当事者になるまでは、全て他人事だ。そして、当事者になってしまったら、甘美な沼からは抜け出す事は出来ない。彼の笑顔が好きだ。彼の言葉が好きだ。彼のシャツが好きだ。彼のゴミが好きだ。彼の全てが好きだ。
私にとって彼は生きる意味そのものになっていった。
新宿の奥まった場所にあるラブホテル街にポツポツと灯りが目立ち始める時刻。夜の街で働く人々の間に、一組の男女が佇んでいる。
男の事を「先生」と呼んでいる少女。上着を羽織ってはいるがその下は制服を着ている。許されないその関係は、「男の言葉によって、終わりを迎えようとしていた。
少女は「先生」に泣き縋る。行為が終わってから別れを告げる男の卑怯さと、お腹の中に出来てしまった子供の事を。
学生服を着た少女が立っている。高層ビルの屋上の端。落下防止の鉄柵を越えた一番危ない場所。
眼下に広がるのは新宿の雑踏。人の声や車の音が一体となりゴウゴウという塊のような音となって街を包み込んでいる。少女に気づく者は誰もいない。誰もが自分の事に執着し。誰らが他人の事に無関心だから。
誰かに呼ばれた気がして、少女は目を閉じる。そこに広がってるのは見たこともない荒廃した街だった……
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