2024年11月28日
1234 鬼嫁
数年後女房を連れて島へ行った。
すると島のおじさんやおばさん達が私の女房を鬼嫁と呼んでいる。
東京から来た鬼嫁の顔が見たいから夜行くぞと言う。
何んで鬼嫁にされたのか理由を聞くと、両親が上京した際、女房は私が夜な夜な焼き鳥屋で酒を飲んでいる体の為にと一生懸命野菜サラダを作って食卓に出していたのだ。
その野菜サラダがなんと鬼嫁の原因だった。
島では暑い為、腐るのが早い。取り立ての魚の刺身は生で食べるが、他は大体火を通して食べる習慣がある。
女房が一生懸命体の事を考えて出した、あの野菜サラダなるものは見た事も食べた事もない食べ物だった。
島へ帰ると、東京の嫁はあれは鬼嫁だ、葉っぱを水でチョロチョロと洗ってそのまま、料理もせずに食べろと食卓へ出す。
親を何んと思っているのか。
うさぎじゃないんだから、生の葉っぱを食えとはあまりにも酷過ぎる。
このままでは殺される、と急いで帰って来た、と言ったそうだ。
それで女房は鬼嫁と島中の人に伝わり、ひかるの大和嫁、江戸っ子嫁は世にも恐ろしい鬼嫁だ、と伝わっていたのである。
夜、さんさんごご島人達が集まりだした。
酔った勢いで鬼嫁談義でも始められたら女房はタダでは済まないだろう。
必死に築き上げてきた家庭は崩壊、女房の怒り狂った顔が次々と走馬灯の如く頬をバツンバツン撫でて行く。
ひかるは必死で女房にだけは鬼嫁が耳に入らないよう冷や汗を流した。
習慣の違いと言うのは恐ろしい。
テレビでよく泥沼離婚劇が報じられる。
何を考えているのか、と言いたくなるが、何事も紙一重だ。
夫婦生活大いなるスリルが潜んでいるようだ、気を付けてね・・・
1233 食器洗
吊り合いが取れない、習慣が違うという面ではいくらでも書きたてられる。
ひかるの田舎では人が亡くなった場合、頭を西向き、太陽が沈む方向にするのだ。
女房は北向きだと言う、さて布団やベッドにしても西向きと北向き、縁起が悪いので我が家ではやってはいけない事になる。
お互い譲らなければ夫婦喧嘩に発展する。
それでは子供達にどう教えようかという事になるが、我が家ではお母さんが亡くなった時は北向き、お父さんが亡くなった時は西向きにしろと言ってある。孫達の教育は自分達で判断しろ、と。
ひかるは長男なので南の島に住む両親の面倒を見ようと考え、まず一ヶ月間東京で同居する事をテスト的に試みた。
広い庭を用意、農業で長年生活した両親に家庭菜園をさせれば何んとか成るだろうという事で呼び寄せた。
すると、生活環境の違いがモロに出てきた。
周囲が12キロの小さな島、井戸はあるが汲み上げると海水だ。
現在のようにポリ容器のない時代だから飲料水は瓶に貯めて大事に使う。
それこそお金よりも一滴は貴重である。
水道が無いので食後の食器洗いも溜まり水で洗う。
呼び寄せた母親は、せめて食器洗いはさせてくれと言って、女房に一生懸命気を使う。
ところが水道を使った事がなく、ジャージャー流して洗う事は考えられない。
溜水で油ものの食器なども洗う。
女房がお願いだから、お母さんに食器洗いを止めさせてくれ、とてもじゃないが油がギトギトしていると言う。
下手をすると女房とのバトルへ展開する。
母に東京は水道料が基本料金で、いくら使っても料金は上がらない、流しぱなしでも問題ないと言って、何んとかバトルにならなかった。
共働きで子供達は学校、昼間隣近所に話し込む訳にもいかない。
退屈したのだろうか10日もすると島へ帰ると言い出した。
タイミング的にまだ早過ぎたかと考え、とりあえず島へ返した。