でもその人が求めてくれたお守りを、母がランドセルに付けてくれて小学校へ行ったんです。
中学・高校では、部活のバッグに、括り付けてくれました。
仕事を始めてからは、定期券のカード入れに繋いでくれました」
「ある時、このお守りは誰がくれたの?と母に聞いたんです。すると母は、『あなたのお母さんよ』と。
私は吃驚して、お母さん? ここにいるじゃん、と言ったんです。私は、そんな冗談止めてと笑って。
けど、本当は怖くて、それ以上聞けなかった。母も、それ以上何にも言わなかった」
「それからも、母と私の2人の生活は変わりませんでした。毎年暑い夏が来て寒い冬が来て、何時も2人でした」
「ある時、母が祇園祭に誘ってくれました。私は珍しいなあ、祇園祭は人が多くて苦手って言っていたのにと思いました。」
「段々右の大文字が見えてきました。じっと見ていると、母が言ったんです。
『あなたのお母さんは私の姉。あなたを生んで、暫くして亡くなった。あのお守りは姉があなたの為に授かった物。私は姉が大好きで、姉に、あなたを守ると約束した。でも安心して。戸籍はそのまま、私は叔母』。
私は、ぎゅーッと、母の手を握りました」
「お母さんと母、2人の守りの中で、私は守られて生きてきたんだと涙が出た。私は母と養子縁組をし、これからは私が母を守ります」
京都の八坂神社には木槿があります。
「祇園守」と呼ばれるこの木槿、中心の蕊が十文字で、それが八坂神社の護符「祇園守」に似ている事から名付けられた様。
守りの中で、守られて生きている事を、全身で感じる夏である様に思います。
射場 和子 弁護士
愛媛新聞 四季録から
母が2人いるなんて、考えられない。
もう母は居ないけど、母は1人でいいと思う。
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