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2020年09月21日

車輪の一歩


 一昨日、俳優の斉藤洋介さんが逝去されました。謹んで冥福をお祈りします。

斉藤洋介さんのテレビデビューは、NHKドラマ「男たちの旅路」です。
私は子供の頃からこのシリーズに影響を受けてきました。

脚本は山田太一さん。
山田さんの脚本はその時代時代を鋭く描写していると思います。

「男たちの旅路」は1〜2年に一度、一部がそれぞれ3話ずつという、かつての海外ドラマ「刑事コロンボ」を模したといわれています。第一部から第四部まで。プラス、スペシャル版という、全13話の作品でした。
「車輪の一歩」は、第四部、第3話で1979年11月24日に放映されました。

車イス生活のため毎日を自宅で一人過ごす少女を、同じく車イスの若者たちが自立させようとする物語です。
その若者たちの一人、“川島敏夫”役が斉藤洋介さんでした。

おそらく多くの人たちは車いす生活の人を、その詳細まであまりよく知らないと思います。私もそうです。
それでも25年ほど前、車イスに乗る知人の友と皆で一夜、飲みに出かけたことがありました。

スナックとか居酒屋とか、普段はただ何気なく飲みに行く店も、実は平坦な入口は皆無(きっと雨対策なのでしょう)で、健常者の同伴なしでは外出すら難しいのだとわかりました。車イスにとって意外にも店のドアは狭く、出入りはもちろん、トイレに行くときだってそうなんですね。
押して入るドアを片手で開きながら、車イスを両手で進めることはできません。

「車輪の一歩」
昨夜、斉藤洋介さんの弔いに改めてDVDで見てみました。
今までにもう、何度見たか憶えていません。が、見るたびに涙してしまいます。
ドラマのラストでは少女が自ら通行人に助けを求め、心配で忍ぶように見に来た母が泣き崩れます。

映画に“名作”があるならば、「車輪の一歩」は実にドラマの名作だと思っています。
「男たちの旅路」は、鶴田浩二さんが主役でした。しかし、「車輪の一歩」に限っては、斉藤洋介さんが主役といって良いと思います。

 今の世の中はノーマライゼーション化が進み、歩道には点字帯が設置され、ほとんどの駅にはエレベーターがあります。電車にもバスにも車イス専用のスペースがあります。しかしこのドラマの時代にはエレベーターもなければタクシーに乗車拒否され、バスも乗車禁止という時代でした。

その中で、車イス生活の人たちは社会から虐げられ、職場も借りる家もなく、心もすさんでいく。
そんな時代に、車イス生活を強いられる人たちの「人権」を訴えた作品として、数々の賞を受賞しました。

社会では何かと人の世話にならざるを得ない車イス生活の人々です。
ドラマでは、車イス生活の人が世間に、、

(以下、鶴田浩二さんのセリフ抜粋)------------------------------------------------

迷惑をかけることを恐れるな。と言いたい。

人に迷惑をかけるなというルールを私は疑ったことがなかった。
人に迷惑をかけないというのが、今の社会でいちばん、疑われていないルールかも知れない。
しかし、それが君たちを縛っている。

一歩外へ出れば、電車に乗るのも、少ない石段を上がるのも、誰かの世話にならなければならない。
迷惑をかけまいとすれば、外へ出ることができなくなってしまう。

だったら迷惑をかけても良いんじゃないのか。
ギリギリの迷惑はかけても良いんじゃないのか。

君たちは普通の人が守っているルールは自分たちも守ろうというかも知れないが、
君たちが街へ出て電車に乗ったり、階段を上がったり、映画館へ入ったり、そんなことを自由にできないルールがおかしいんだ。

私は、むしろ堂々と胸を張って、迷惑をかける決心をするべきだと思った。
歩き回れる人間のルールを、同じように守ろうとするのがおかしい。
もっと外をどんどん歩いて、迷惑をかけて。
階段でちょっと手伝わされるとか、切符を買ってやるとか、そんなことを迷惑だと考える方がおかしい。
そうやって、君たちを街でしょっちゅう見ていたら、並の人間の応対の仕方も違ってくるんじゃないだろうか。

君たちは並の人間とは違う人生を歩いている。そのことを私たちも君たちも、しっかり認めあう必要があるんじゃないだろうか。
世話になった。また世話になったと心を傷つけながら生きているより、
「世話になんのは当然なんだ。並の人間がちょっと手伝ったりすることは当然のことなんだ。」
そう世間に思わせてしまう必要があるんじゃないだろうか。
(斉藤洋介:世間がそんなに甘いとは思わない)
それでも、迷惑をかけることを恐れるな。胸を張れ!
そう言いたいんだ。
---------------------------------------------------------------------------------------------------

 車イスに乗る人や家族。極限の生活に置かれた人たち。それぞれ思いの交錯。そして葛藤を、このドラマは実にうまく表現しています。

さらに斉藤洋介さんの名演技。
車イスに乗る斉藤さん演じる“敏夫”は、ある夜母に言いづらい頼みごとをします。
トルコ風呂(ソープランド)に行きたいと。

(以下、斉藤洋介さんのセリフ抜粋)------------------------------------------------
俺、女にモテっこないだろう?嫁さん来ると思う?
いっぺんでいいから、ああいうところでも良いから、女の人と付き合ってみたいんだよ。
一生、女なんか縁ないかも知れないもんな。
---------------------------------------------------------------------------------------------------

そして翌日の晩、敏夫は母に上から下まで新しい服を着せてもらい、夜の街に一人出かけます。恐らく家にとっては、なけなしのお金を持たされて。

帰宅した敏夫は、
「おかげさまで!」
母は
「やだよこの子ったらゲラゲラ笑って。」
敏夫は
「行って良かったよ!良かった、、、」

しかし敏夫のゲラゲラ笑いは、そのまま号泣へと変わってしまいます。
現実は車イスに乗った人を受け入れてくれる店があるはずもなく、辛い思いをしただけの敏夫は、夜の街をたださまようだけでした。

さらに敏夫はヤクザに絡まれ、もしかしたら両親が用意してくれた、なけなしのお金も巻き上げられてしまったのかも知れません。敏夫は母を安心させようと、笑って芝居を打ったのでした。

 このドラマを見た当時、多感な年代だった私は、「こんな地獄があるか?」
そう思いました。それだけ斉藤さんの演技は切実に伝わってきたんです。

かと思うとドラマ中、きっと台本にあったのでしょうが、するどいツッコミを入れて笑わせます。

 昨夜、この記事を書こうとネットで「男たちの旅路」と検索しました。
すると「男たちの旅路 車輪の一歩」と検索候補が出てきます。前からなのか、斉藤さんの訃報を受けた人たちの検索が多かったからなのか、わかりません。

この作品、まだご覧になっていない方は是非、見ていただきたいと思います。
前なら全編をYouTubeで見ることができました。しかし今は見れないようです。
NHKオンデマンドでも検索しましたが、この作品はラインナップさいれいません。

とても残念です。
でも斉藤さんの追悼に、何らかの形で放映されることを期待しています。

 思うのは、もしこのドラマがなければ、今の車イス社会はあったのか?
ということです。現代のノーマライゼーションは海外の影響を受けたことも大きいと思います。

しかし、ネットの検索でも「男たちの旅路(=)車輪の一歩」と出てくるくらい、このドラマが、斉藤さんの演技が、世の中に与えた影響というのはとても大きいんじゃないかと思います。
でも、街で車イスの人をあまり見ることがないのも心配です。

亡くなって気付きました。私は斉藤洋介さんが大好きだったんだと。






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posted by CSおじさん at 10:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 随想
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