2016年11月01日
[小説ネタバレあり]ウール(WOOL)〜世界崩壊後の「サイロ」を巡るポストアポカリプス三部作
■作品紹介
世界が終末を迎え、生き延びた人類は地下144階建てのサイロで、限りある資源を再利用しながら暮らしていた。カフェテリアのスクリーンに映る、汚染された外の世界。出られるのは、レンズを磨く「清掃」の時のみ。だが「清掃」に出された者が生きて戻ることはなかった。機械工のジュリエットが、外の世界に足を踏み出すまでは・・・。
■ウール 上・下
著者/ヒュー・ハウイー
訳者/雨海弘美
価格/各780円(+税)
発売日/2013/09/25
出版社/角川文庫
■ストーリーはこの順番です
ウール 上下巻 WOOL
↓
シフト 上下巻 SHIFT
↓
ダスト 上下巻 DUST
おまけ 各国の表紙集
<ネタバレあり! 結末まで掲載しています!>
<ウール・上巻>
■サイロの中で
舞台は今より未来の地球。地球の環境は核により汚染され、わずかに生き残った人々はサイロと呼ばれる地下に144階まで伸びる特別な施設で生き延びていた。
食べ物はサイロ内の耕地を耕し、エネルギーは地下を掘り進むことで得る石油に頼り、人口統制のため出産は完全に統制され、サイロ内の上下の移動は中央を貫く螺旋階段で行う。サイロの中では移動や通信だけでなく思想や仕事など多くのものが厳しく制限されている。サイロの最高権力者は市長だが、過去の知識を極秘裏に管理するIT部が実質的に大きな特権を有していた。
■ウールの布きれ
地上の汚染された世界への言及はタブーとされ、外に出たいと口に出す、あるいは外部への脱出を試みると清掃と呼ばれる実質的な処刑の判決がくだされる。防護服に身を包み、ウールの布きれ(WOOL)を持たされ、地表の様子を映し出すレンズの外側を拭く仕事が課せられるのだ。
荒涼とした外の世界に追い出された後の行動は誰にも強制力がないのだが、不思議なことに今までの清掃でレンズを拭く任務を放棄した者はいない。皆、レンズを拭き、その後毒の大気で死に至る。
このサイロは建造されてからすでに数百年は過ぎ去っており、もはや地上に生きていた頃の記憶を持つ者はいなくなっていた。ただこの管理社会で生まれ、そして死んでいくだけの日々が続いていた。
※人物写真はイメージです
■新しい保安官
サイロの保安官ホルストンは外の世界に出たいと自ら市長ジャンズに明言した。ホルストンは防護服を着せられると清掃に赴き、地上で息絶える。彼が死の間際に見たものは、荒れ果てた地上ではなく、緑に溢れた草原だった。
市長ジャンズは保安官の後任として下層階で働く機械部の女性技師ジュリエットを任命する。しかし過去にジュリエットと諍いのあったIT部部長バーナードは強くこれに反発する。その直後、市長ジャンズは何者かの陰謀により毒殺されてしまう。
保安官となったジュリエットは、カフェテラスのレンズごしに星を見る男性ルーカスと出会う。彼は中層階に住むコンピュータ技師だった。星の観察は外の世界を考える事と同等であるため、違法の可能性もあるとジュリエットは思ったが、今は心にしまっておいた。
■新しい市長
ジュリエットは以前の仲間だったスコッティから連絡を受ける。前の保安官ホルストンは用途不明のとある映像データの存在を知り、それが何なのか確かめるために清掃に赴いたようだと。スコッティはその事を知ってしまったことでひどく怯えていた。
その事は忘れるよう伝えたジュリエットは上層階に戻るが、しばらくしてスコッティは原因不明の自殺を遂げる。バーナードは自殺はジュリエットのせいだと決めつけ、IT部の権限により自らを市長と名乗りあげるとともに、新しい保安官には司法部のピーターを就け、ジュリエットには清掃を命ずる。
■清掃
ジュリエットはウールの布きれを渡され地上へと追い出された。しかし彼女はレンズを磨かず、そのまま進み続けた。
防護服を着て、ヘルメットのバイザー越しに見た地上は草原と青い空が広がっていた。地上はすでに緑豊かに復活していたのだ。これまで清掃を命じられた人々は、だから喜んでレンズを磨いていたのだった。レンズを磨き、サイロに残る者たちに地上を見てほしかったから。そしてヘルメットを外し、やはり変わらず荒れ果てた地表を自分の目で見ることで騙された事を知り、死んでいったのだった。
ジュリエットはスコッティから聞いた情報により、ヘルメットのバイザー越しに嘘の地表を見せられていることに気付いていた。酸素の続く限り進もうと決心すると、何故かサイロの入り口が見えてきた。いつの間にか戻ってしまったのかと思ったが様子がおかしい。ジュリエットは別のサイロにたどり着いたのだ。しかしサイロ入り口は大量の朽ち果てた死体に包まれていた。このサイロで何かあったのだろうか。
<ウール・下巻>
■後継者
IT部長バーナードはジュリエットを見失ったことで不安を感じる。そこで万が一のことを考え、コンピュータに詳しいルーカスをIT部長の見習いとして任命する。バーナードはルーカスをIT部の隠し部屋に連れていき、サイロは実は複数あり、我々IT部はサイロを監視し、過去の情報を保管し続ける重要な役割があると打ち明ける。
そんな中、サイロに残された機械部の者たちは、ジュリエットがレンズを磨かなかったことについて真実を知り、IT部に対して反乱を起こす。
■サイロ17号
ジュリエットは塞がれていた入り口をこじ開け、隣のサイロ17号へと侵入し、そこで何年もたったひとりで暮らしていたという男性ソロと出会う。彼によると、34年前にこのサイロにいた人たちは皆頭がおかしくなってサイロから出ていったらしい。
ソロはこのサイロ17号のIT部の部屋に住んでいた。彼は数十年前に無線を使ってサイロ1号と会話したことがあるらしい。ジュリエットはサイロが50個もある事について半信半疑ながら、自分の居たサイロ18号に無線で話しかける。
バーナードは無人のはずの隣のサイロから無線の呼び出しを受けて驚く。しかもそれは死んだと思っていたジュリエットからで「あんたを仕留めに戻る」と言うと無線は切れてしまった。
■秩序の書、協定の書、遺産の書
ルーカスはバーナードに命じられ、IT部に保管されている過去の知識を勉強していく。「反乱が起きた時」、「地震が起きた時」、「清掃が失敗した時」・・・すべて「秩序の書」に対処法が書かれていた。はるか昔、このサイロを作った者たちはここまで想定して準備していたのだ。
バーナードはサイロ1号と無線をつなぎ、ルーカスを正式な後継者とすることを伝える。サイロ1号はルーカスを「世界秩序五十作戦(W・O・O・L)」の一員に加わることを認めた。
■最後の清掃
ルーカスは過去の遺産を勉強するうちに無線がジュリエットとつながり、お互いの状況を伝え合っていたが、それをバーナードに知られてしまい、ルーカスは清掃送りとされてしまう。無線でそれを知ったジュリエットは急いで元のサイロに戻ることを決意する。
ジュリエットはサイロ17号で入手した安全な防護服を身にまとい、サイロ18号へと走る。サイロの入り口に防護服を着たルーカスがいた。しかし、彼はサイロ入り口の焼却滅菌の部屋から出ようとせず、炎に焼かれて死んでしまった。
ジュリエットは火傷を負いながらもルーカスの死体に近寄る。ヘルメットを外すと、それはルーカスではなくバーナードだった。ルーカスは清掃送りにされる所だったが、新しい保安官ピーターに知っていることをすべて打ち明けた。そしてピーターはバーナードこそ追放すべきと判断し、ルーカスを助けたのだ。
サイロ18号の住民たちはジュリエットに新しい市長になってほしいと伝えるが、ジュリエットはまだやることがあった。サイロ17号にソロを残してきてしまったので、助けに戻る必要がある。そして、得体の知れないサイロ1号とも、もはやこのままではいられないだろう・・・。
<END>
サイロ三部作の1作目「ウール」です!
上下巻の表紙をつなげると一枚のイラストになります。
このシリーズは、ヨットの船長を8年務めたという異色の経歴を持つ、ヒュー・ハウイーによって書かれたSF小説です。2011年に「ウール」第1部をアマゾン・キンドルで発表すると、瞬く間に話題となり爆発的にヒットし、世界30カ国以上で発売されたネット発の超大作ですね。映画化の話も出ているそうです。
ごくまれに、あらすじを読んだだけで「これは絶対傑作だ!!!」と思う作品があります。この「ウール」でもそんな感じでした。まぁ、「世界が崩壊した後の、核シェルターを舞台とするSF作品」。これだけ書くと結構あるある設定かもしれませんが。「厳しく管理されたシェルター」設定も、「実は他にも同じシェルターはたくさんある」設定も、かなり「フォールアウト」ではあります。
しかしこの三部作、とにかく善人が死ぬ!悪者も別に根っからの悪人ではなく、施設の維持管理を目的としているだけなんですが、粛清!といった感じでどんどん殺されますね。お前ら、もうちょっと話し合えよって、何度も思いました。
蛇足ですが、ジュリエット後任の保安官と、ジュリエットの父親はどちらも名前が「ピーター」ですね。
ところで、ヨーロッパでは本のタイトルを「サイロ」とした出版社が多かったんですが、日本では原題のまま「ウール」にしたそうですね。素晴らしいです。ウールはいわゆる羊毛の布きれのことなんですが、この作品内ではレンズを磨かせる「死刑」を表す重いワードですね。また、「世界秩序五十作戦(WOOL:World Order Operation Fifty)」の事でもあります。
物語の感想は人それぞれですよね。「1作目の設定が最高で、後はそれほど」という感想もちらほら見かけますが、私はこの作品、1作目を踏まえての2作目「シフト」の方が一段と面白かったですね。シフトは「アルバイトのシフト」とか、「昼夜2交代制のシフト」のシフトの事なんですが、この作品では人生をかけたシフトを指します。気になる方は「シフト」を読んで下さい。K・グリムウッドの小説「リプレイ」とか「5億年ボタン」のような、気が遠くなるような時間の経過に対して背筋に冷たいものを感じるけど、そういうのも好きよって方にオススメです。
■ストーリーはこの順番です
ウール 上下巻 WOOL
↓
シフト 上下巻 SHIFT
↓
ダスト 上下巻 DUST
おまけ 各国の表紙集
■ウール
上巻・文庫 | 下巻・文庫 | 上巻・電子書籍 | 下巻・電子書籍 | ||||||||
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■シフト
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■ダスト
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サササッ 三|ノシ・з・|┐ それではまた!
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