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2014年02月13日

銅(どう)は原子番号29の元素。元素記号は Cu。 周期表では金、銀と同じく11族に属する遷移金属である。英語でCopper、ラテン語でcuprumと言う。



目次 [非表示]
1 名称 1.1 語源
1.2 日本での名称

2 性質 2.1 物理的性質
2.2 化学的性質
2.3 同位体

3 化合物 3.1 二元化合物
3.2 錯体化学
3.3 有機銅化合物
3.4 3価および4価の銅化合物
3.5 主な銅の化合物

4 分析 4.1 定性分析
4.2 定量分析

5 歴史 5.1 銅器時代
5.2 青銅器時代
5.3 古代および中世
5.4 近現代

6 生産 6.1 製錬
6.2 生産量
6.3 埋蔵量
6.4 貿易と消費
6.5 リサイクル
6.6 銅鉱石

7 用途 7.1 電子工学と関連デバイス
7.2 電気モーター
7.3 建築および工業
7.4 生物付着防止
7.5 その他

8 銅合金 8.1 黄銅
8.2 青銅
8.3 洋白
8.4 その他の銅合金

9 生体内での働きと毒性 9.1 摂取および循環
9.2 銅による障害
9.3 植物における銅
9.4 抗菌性

10 脚注
11 参考文献
12 関連項目
13 外部リンク


名称[編集]

語源[編集]

ラテン語では cuprum と言い元素記号Cuはラテン語の読みに由来する。この語はさらに cyprium aes(キプロス島の真鍮)に由来し、キプロスにフェニキアの銅採掘場があったことに由来する[1]。

英語のcopperはラテン語のcuprumに由来し、「カッパー」ないし「コッパー」と呼ばれる。しばしばbronze(ブロンズ)が銅を示すと言われるが誤りで、bronzeは正確には青銅を指す。なお銅メダルの素材は確かに青銅であり、Bronze Medal(ブロンズメダル)というのは正しい。

日本での名称[編集]

その色から赤金[要出典]、銅(あかがね)と呼ばれた。江戸時代には精錬技術が発展し純度の高い銅を素銅(すあか)、不純物を多く含む銅を山銅(やまがね)と呼び区別するようになった[2]。 中国の康煕字典には赤銅の記述が見られるが[3]、日本では赤銅(しゃくどう)は金を数パーセント混ぜた銅合金を示す。

性質[編集]

物理的性質[編集]





連続鋳造およびウェットエッチングによって作られた純度99.95 %の銅ディスク




融点以上の温度に保持された溶融銅。白熱したオレンジ色と共にピンク色の光沢が見られる。
単結晶の銅は柔らかく、電気伝導度および展延性が高い金属であり、これは同じ第11族元素である銀や金と共通した性質である。これは閉殻構造を取るd軌道の外側にs軌道の電子が1つだけ存在しているという、第11族元素の電子配置に起因している。このような電子配置であるためにd軌道の電子の多くは原子間の相互作用に寄与せず、原子同士を結び付ける金属結合はs軌道の電子によって支配される。そのためこれらの元素は、d軌道が閉殻でなくd軌道の電子が結合に寄与する他の金属元素と比較して共有結合性が弱く金属結合性が強い結合が形成されることとなり、高い電気伝導度や延展性といった金属結合に起因する性質が強く現れる[4]。巨視的なスケールにおいては、結晶格子に結晶粒界のような拡張欠陥が発生して硬度が増すため、負荷応力下での流動性の妨げとなる。そのため、通常銅は単結晶形よりも強度の高い多結晶微粒子の形で供給される[5]。

銅は室温において、純粋な金属の中で2番目に高い電気伝導性 (59.6×106 S/m)および熱伝導率 (386 W・m-1・K-1[6])を有する[7]。室温における金属中での電気伝導の抵抗の大部分は結晶格子の熱振動によって電子が拡散されることに起因しているが、銅のような柔らかい金属ではこの熱振動が比較的弱いということがその原因の1つとなっている[4]。空気中における銅の最大許容電流密度は単位断面積あたりおよそ3.1×106 A/m2であり、それ以上になると過熱する[8]。銅は他の金属と同様に、他の金属と接触することで電気腐食(英語版)を起こす[9]。

青みがかった色のオスミウム、黄色の金と共に、銅は自然の色が灰色もしくは銀色以外の色である3つの金属元素のうちの1つである[10]。銅は赤橙色をした金属であるが、空気中に曝されると赤みがかった色に退色する。この特徴的な銅の色は、満たされている3d軌道と半分空になっている4s軌道の間での電子遷移に起因し、これらの電子軌道のエネルギー差が赤橙色の光と一致するためにこのような色を示す。これは金が特徴的な金色を示すメカニズムと同一のものである[4]。

化学的性質[編集]

銅は+1(第一銅)および+2(第二銅)の酸化数を取り、豊富な種類の化合物を形成する[11]。銅は水とは反応しないものの、空気中の酸素とは徐々に反応して黒褐色をした酸化銅の被膜を形成する。生じた錆によって全体が酸化されてしまう鉄とは対照的に、銅の表面に形成される酸化被膜はさらなる酸化の進行を防止する。湿った条件下では二酸化炭素の作用により緑青(水酸化炭酸銅)を生じ、この緑色の層は、自由の女神像や高徳院の阿弥陀如来像などのような古い銅の建造物などにおいてしばしば見られる[12][13]。硫化水素および硫化物は銅と反応して、その表面に様々な形の硫化銅を形成する。硫黄化合物を含んだ空気に曝された際に見られるように、硫化物との反応においては銅は腐食される[14]。赤熱下では酸化銅(II)を生成し、更なる加熱により酸化銅(I)となる[13]。酸素と塩酸によって塩化銅が、酸性条件下で過酸化水素によって2価の銅塩が形成されるように、酸素を含んだアンモニア水は銅の水溶性錯体を与える。塩化銅(II)は銅と均化(英語版)して塩化銅(I)となる[15]。

銅はイオン化傾向が小さいため塩酸や希硫酸といった酸とは反応しないが、硝酸や熱濃硫酸のような酸化力の強い酸とは反応する。
希硝酸との反応
3Cu + 8HNO3 → 3Cu(NO3)2 + 4H2O + 2NO↑濃硝酸との反応
Cu + 4HNO3 → Cu(NO3)2 + 2H2O + 2NO2↑熱濃硫酸との反応
Cu + 2H2SO4 → CuSO4 + 2H2O + SO2
溶融銅は酸素および水素ガスを吸収し、これらの気体を吸蔵した銅は脆性が高い。そこでリチウム、リン、ケイ素が脱酸剤として用いられ、このような処理をした銅を脱酸銅と呼ぶ[16]。

同位体[編集]

詳細は「銅の同位体」を参照

銅には29の同位体があり、63Cuおよび65Cuは安定同位体である。天然銅のおよそ69 %が63Cu、31 %が65Cuであり、共に3/2のスピン角運動量を持つ[17]。銅の他の同位体は放射性同位体であり、最も安定なものは半減期61.83時間の67Cuである[17]。7つの準安定同位体が明らかとなっており、最も長命なもので半減期3.8分の68mCuがある。質量数が64以上の同位体ではβ−崩壊によって崩壊し、64以下のものはβ+崩壊によって崩壊する。半減期12.7時間の64Cuは、β−崩壊とβ+崩壊の両方法で崩壊する[18]。

62Cuおよび64Cuには重要な用途がある。64CuはX線写真の造影剤として利用され、64Cuのキレート錯体はがんの放射線療法に対して用いられる。62CuはCu(II)-pyruvaldehyde-bis(N4-methyl-thiosemicarbazone) (62Cu-PTSM) の形でポジトロン断層法における放射性トレーサー(英語版)として利用される[19]。

化合物[編集]





酸化銅(I)の試料
二元化合物[編集]

銅と他の元素との化合物のうち、最も単純なものは二元化合物である。主要なものは酸化物、硫化物およびハロゲン化物である。1価および2価の銅の両方の酸化物が知られている。多数の銅の硫化物の間で重要なものの例として硫化銅(I)および硫化銅(II)が含まれる。

1価の銅のハロゲン化物は塩素、臭素およびヨウ素とのものが知られており、2価の銅のハロゲン化物はフッ素、塩素および臭素とのものが知られている。2価の銅とヨウ素を反応させてもヨウ化銅(II)は合成されず、ヨウ化銅(I)とヨウ素が得られる[11]。
2 Cu2+ + 4 I− → 2 CuI + I2
錯体化学[編集]





2価の銅はアンモニアを配位子とすることで濃青色の錯化合物を与える。この写真はテトラアンミン銅(II)スルファート(英語版)である。
銅は他の金属と同様に配位子との間で錯体を形成する。水溶液中において2価の銅は[Cu(H2O)6]2+の形で存在している。遷移金属の金属アコ錯体(英語版)に対する配位水の交換速度は最も早い。水酸化ナトリウム溶液を加えることで明青色の水酸化銅(II)が沈降する。
Cu2+ + 2 OH− → Cu(OH)2
アンモニア水を加えた場合も同様に沈殿を生じるが、アンモニア水の添加量が過剰になるとテトラアンミン銅(II)イオンを形成して沈殿が再溶解する。
Cu(H2O)4(OH)2 + 4 NH3 → [Cu(H2O)2(NH3)4]2+ + 2 H2O + 2 OH−
多くのオキソアニオンは銅イオンとの間に錯体を形成し、それには酢酸銅(II)や硝酸銅(II)、炭酸銅(II)などが含まれる。硫酸銅(II)は青色の結晶の5水和物を形成し、それは研究室において最も一般的な銅化合物である。それはボルドー液と呼ばれる殺菌剤として用いられる[20]。





[Cu(NH3)4(H2O)2]2+錯体の球棒モデル。銅(II)に典型的な八面体形分子構造を示す。
複数のヒドロキシ基を含むポリオールは一般的に2価の銅塩と相互作用を示す。例えば、銅塩は還元糖の検出に用いられる。特に、ベネジクト液およびフェーリング液を用いた糖の検出は、青色の2価の銅が赤色の1価の酸化銅(I)に還元される際の色変化によって識別される[21]。シュバイツァー試薬およびエチレンジアミンや他のアミン類との錯体はセルロースを分解する[22]。アミノ酸は2価の銅との間で非常に安定なキレート錯体を形成する。銅イオンに関する多くの湿式反応が存在し、例えば銅イオンを含む溶液にフェロシアン化カリウムを加えることで茶色の銅(II)塩の沈殿が生じる反応がある。

有機銅化合物[編集]

炭素-銅結合を含む化合物は有機銅化合物として知られている。それは酸素に対する反応性が非常に高く酸化銅(I)を形成し、化学において有機銅試薬として多くの用途が存在する(有機銅試薬の反応(英語版))。それは1価の銅化合物をグリニャール試薬もしくは末端アルキン、アルキルリチウムで処理することで合成され[23]、特にアルキルリチウムとの反応ではギルマン試薬が合成される。これらはハロゲン化アルキルによって置換反応を起こしてカップリング生成物を形成し、それらは有機合成の分野で重要である。炭化銅(I)は衝撃に非常に敏感であるが、カディオ・ホトキェヴィチカップリング[24]や薗頭カップリング[25]のような反応の中間体である。エノンへの求核共役付加反応[26]およびアルキンのカルボメタル化(英語版)もまた有機銅化合物を用いることで実現された。1価の銅はアルケンおよび一酸化炭素との間で様々な弱い錯体を形成し、それは特にアミン配位子の存在下において顕著である[27]。

3価および4価の銅化合物[編集]

3価の銅化合物は有機銅化合物の反応において中間体としてしばしば見られる。ジ銅のオキソ錯体もまた3価の銅であることを特徴とする[28]。非常に基本的なフッ化物の配位子は高酸化状態の金属イオンを安定化させ、3価および4価の銅化合物にはK3CuF6やCs2CuF6[11]のようなフッ化物との錯塩がある。紫色をした3価の銅の化合物である、ジおよびトリペプチドは脱プロトン化されたアミド配位子によって高酸化状態が安定化されている[29]。

主な銅の化合物[編集]
硫化銅 (CuS)
塩化銅(I) (CuCl)
塩化銅(II) (CuCl2)
酸化銅(I) (Cu2O)
酸化銅(II) (CuO)
硫酸銅 (CuSO4)

分析[編集]

定性分析[編集]

溶液中の銅の定性分析としては、水酸化ナトリウムを加えた際に生じる水酸化銅(II)の沈殿や、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムを加えた際に生じるフェロシアン化銅の赤褐色沈殿、硫化ナトリウムを加えた際に生じる硫化銅(II)の黒色沈殿などを観察する方法がある[30]。微量な銅イオンの定性方法としてはアンモニアを加えた際に生じるアンミン錯体の青色を検出する方法が用いられ、この方法による検出限界は60 ppmである。妨害元素としては銅と同じ青色のアンミン錯体を形成するNi2+があり、Co2+などのアンミン錯体も呈色によって銅錯体の青色を検出を困難にする。またアンモニア塩基性で沈殿を生じる元素が共存していると銅が共沈してしまうため、こちらも妨害要因となる。さらに感度の高い方法としてジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムとの反応によって生じる黄褐色化合物を検出する方法があり、この方法による検出限界は10 ppmである。妨害元素の多くはEDTAの添加によってマスキングすることができるが、Bi3+が200 ppm以上共存していると銅と同様の反応を起こして妨害となる[31]。Cu+はほとんどの化合物が難溶性であり溶液中に存在することが希である[32]。

銅は青緑色の炎色反応を示すため炎色反応の観察によっても定性分析をすることが可能であり、その青緑色の輝線の波長は530から550 nmの幅を持つブロードなスペクトルである[30]。

定量分析[編集]

銅の定量分析法のうち、古典的なものとして重量分析法と比色分析法がある[33]。重量分析法では、試料を溶解させた溶液を処理して酸化銅(II)や硫化銅(II)、チオシアン酸銅(II)などの溶解度の極めて低い銅化合物を生成させて分離し、その重量を測定することで試料中の銅濃度を定量するという方法が利用される[34]。例えば酸化銅(II)を生成させる方法では、試料を酸性溶液に溶解させた後に水酸化ナトリウムなどを加えて塩基性とした状態で加熱することで水酸化銅(II)の沈殿を生成させ、これに臭素水等を加えてさらに過熱することで水酸化銅(II)を酸化させて酸化銅(II)とする。こうして得られた酸化銅(II)をるつぼに入れて強熱した後、その重量を測定することで試料中の銅濃度を定量することができる[35]。酸化銅(II)を用いる方法は比較的分析精度が高いものの高濃度試料の分析には適さず、チオシアン酸銅(II)を用いる方法は様々な夾雑元素を分離できるため銅鉱石のような試料の分析に適している[36]。また比較的新しい方法としては、試料を溶解させた溶液を電気分解して金属銅を析出させ、その重量を測定する電解重量法も銅の重量分析法として用いられる[37]。電解重量法は国際標準化機構によるISO 1553:1976, ISO 1554:1976および、日本工業規格による対応規格であるJIS H 1051:2005において銅および銅合金中の銅定量方法として規格されている。この方法では、電解させた後の溶液中に銅が残存してしまうため電解残液中の銅を別の方法で測定する必要があり、その方法としてはオキザリルジヒドラジド吸光光度法や原子吸光光度法、誘導結合プラズマ発光分析法が規定されている[38]。比色分析法では、定性分析として用いられる銅のアンミン錯体が呈する青色の発色の程度が銅濃度に比例することを利用して、目視[39]もしくは分光光度計を利用した分光光度法によって銅濃度を定量することができる[40]。銅を発色させる試薬は様々な種類のものが研究されており、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(バソクプロイン)を用いる方法では溶液中の銅濃度2 μg/Lという検出限界が達成されている[33]。

容量分析法もまた、銅の定量分析法として用いられる。このような方法としては、銅のアンミン錯体が青色でありシアノ錯体は無色であることを利用した錯滴定法や、酢酸酸性条件において銅がヨウ化カリウムと反応することで遊離するヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定する酸化還元滴定法などがある[41]。また、重量分析法で利用されるチオシアン酸銅(II)は水酸化ナトリウム溶液中で加熱すると水酸化銅(II)とチオシアン酸ナトリウムが生成されるため、このチオシアン酸ナトリウムを濃度既知の過マンガン酸カリウム溶液で酸化還元滴定をすることによっても銅を定量することができる[42]。

溶液中に含まれる微量な銅の定量分析には、原子吸光光度法 (AAS) や誘導結合プラズマ発光分析法 (ICP-AES)などの機器分析が利用される[43]。試料中の銅濃度が低く検出できない場合や共存する元素によって分析結果に誤差が生じるような場合には、前処理としてジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを用いて銅錯体を形成させ、酢酸ブチルを有機層として溶媒抽出することで銅を分離、濃縮する操作が行われる[44]。AASでは通常アセチレン-空気炎を用いて324.8 nmの吸収波長で測定され[45]、試料の原子化に黒炭炉を用いた黒炭炉原子吸光分析を利用することで分析感度を向上させることができる[46]。ICP-AESでは324.754 nmの発光波長で測定され、夾雑元素によるスペクトル干渉を受けやすい[47]。また、蛍光X線元素分析法 (XRF)やイオン電極、ストリッピングボルタンメトリーなどによる定量分析も利用される[46]。

歴史[編集]

銅器時代[編集]

詳細は「銅器時代」を参照





クレタ島のザクロス(英語版)遺跡から発見された腐食した銅のインゴット。当時、典型的だった動物の毛皮状の成型がされている。
銅は自然銅として自然中に存在しており、最初期の文明のいくつかにおいても知られ先史時代から使われてきた金属である。銅の使用には少なくとも1万年の歴史があり、紀元前9000年の中東で利用されはじめたと推測されている[48]。イラク北部で紀元前8700年と年代決定された銅のペンダントが出土しており、これは確認される最古の銅だと言われている[49][50]。金および隕鉄(ただし鉄の溶融は出来ていない)だけが、人類が銅より前に使用していたという証拠がある[51]。銅の冶金学の歴史は、1. 自然銅の冷間加工、2. 焼きなまし、3. 製錬および4. インベストメント鋳造の順序に続いて発展したと考えられる。東南アナトリアにおいては、これら4つの冶金技術はおよそ紀元前7500年頃の新石器時代のはじめに若干重複して現れる[52]。農業が世界中のいくつかの地域(パキスタン、中国およびアメリカ大陸を含む)でそれぞれ独立して発明されたのと同様に、銅の溶錬もいくつかの異なる地域で発明された。それはおそらく、紀元前2800年ごろの中国、西暦600年頃の中央アメリカ、および西暦9から10世紀頃の西アフリカでそれぞれ独立して発明された[53]。インベストメント鋳造は紀元前4500から4000年頃に東南アジアで発明され[48]、また、放射性炭素年代測定によってイギリス、チェシャーのアルダリー・エッジ(英語版)にある銅鉱山が紀元前2280年から紀元前1890年のものであると確かめられた[54]。紀元前3300年から紀元前3200年頃のものと見られるミイラのアイスマンは、純度99.7%の純銅製の斧の頭とともに発見された。彼の髪に高純度のヒ素が見られたことから、彼が銅精錬に関わっていたのではないかと考えられている[55]。ミシガンおよびウィスコンシンのオールドカッパー文化(英語版)(古代北米におけるネイティブ・アメリカンの社会。銅製の武器や道具を広く利用していた。)における銅の生産は紀元前6000年から紀元前3000年の間の年代を示している[56][57]。これらのような銅と関わった経験が他の金属の利用の発展の助けとなり、特に、銅の溶錬から鉄の溶錬(塊鉄炉(英語版))の発見に至った[55]。

青銅器時代[編集]

詳細は「青銅器時代」を参照





春秋時代の青銅器
銅とスズとの合金である青銅の製造は銅の溶錬法の発見からおよそ4000年後にはじめて行われ、その2000年後には自然銅の一般的な用途となった。シュメールの都市から発見された青銅製品や、エジプトの都市から発見された銅および青銅製品は紀元前3000年頃のものと見られている[58]。青銅器時代は東南ヨーロッパで紀元前3700年から紀元前3300年頃に始まり、北ヨーロッパでは紀元前2500年頃から始まった。青銅器はまたエジプト、中国(殷王朝)などでも使われるようになり、世界各地で青銅器文明が花開いた。それは鉄器時代の始まり(中東では紀元前2000年から紀元前1000年頃、北ヨーロッパでは紀元前600年頃)によって終了した。新石器時代から青銅器時代への移行期は、石器とともに銅器が使われ始めた時代であることから以前は銅石器時代と呼ばれていた。この用語は、世界の一部の地域では新石器時代と銅石器時代の境界が重なっているために徐々に使われなくなっていった。銅と亜鉛の合金である真鍮の起源はずっと新しい。それはギリシャ人には知られていたが、ローマ帝国期の青銅の不足を補う重要な合金となった[58]。

古代および中世[編集]





錬金術において銅のシンボル(恐らくは枠にはめた鏡)はまた女神および金星のシンボルでもある。




ティムナ・バレー(英語版)(イスラエル、ネゲヴ)にある銅石器時代の銅鉱山
ギリシャでは、銅はカルコス(χαλκός、chalkos)として知られていた。それはギリシャ人、ローマ人および他の民族にとって重要な資源であった。ローマ時代にはキュプリウム・アエス(aes Cyprium、キプロス島の銅)として知られており、アエス (aes)は多くの銅が採掘されたキプロス島からの銅合金および銅鉱石を示す一般的なラテン語の用語である。キュプリウム・アエスというフレーズはクプルム (cuprum)と一般化され、そこから英語で銅を示すカッパー (copper)となった。銅の光沢の美しさや、古代には鏡の生産に銅が用いられていたこと、および女神を崇拝していたキプロスとの関係から、女神であるアプロディーテーおよびウェヌスは神話と錬金術において銅の象徴とされた。古代に知られていた7つの惑星は古代に知られていた7つの金属と関連付けられ、金星は銅に帰されていた[59]。

イギリスでの真鍮の初めての使用は紀元前3から2世紀頃に起こった。北アメリカでの銅鉱山はネイティブアメリカンによって周辺部の採掘から始まった。自然銅は800年から1600年までの間に、原始的な石器によってアイル・ロイヤル(英語版)から採掘されていたことが知られている[60]。銅の冶金学は南アメリカ、特に1000年頃のペルーにおいてで盛んであった。アメリカ大陸における銅の利用の発展は他の大陸よりも非常に遅く進行した。15世紀から銅の埋葬品が見られるようになったが、金属の商業生産は20世紀前半まで始まらなかった。

銅の文化的な役割は、特に流通において重要だった(銅貨)。紀元前6世紀から紀元前3世紀までを通して、ローマでは銅の塊をお金として利用していた。初めは銅自体が価値を持っていたが、徐々に銅の形状と見た目が重要視されるようになっていった。ガイウス・ユリウス・カエサルは真鍮製のコインを作り、一方でアウグストゥスのコインは銅-鉛-スズ合金から作られた。当時の銅の年間生産量は15,000トンと推定されており、ローマの銅採掘および溶錬活動(ローマにおける冶金(英語版))は産業革命の時まで凌駕されない規模に達していた。最も熱心に採掘された属州はヒスパニア、キプロスおよび中央ヨーロッパであった[61][62]。現代の日本の硬貨においても、5円硬貨が黄銅、10円硬貨が青銅、50円硬貨、100円硬貨、旧500円硬貨が白銅、新500円玉がニッケル黄銅という銅の合金が用いられている。

エルサレム神殿の門は色揚げ(英語版)によって作られたコリント青銅(英語版)が使われた。それは錬金術が始まったと考えられるアレクサンドリアで一般的なものであった[63]。古代インドにおいて銅は、全体的な医療であるアーユルヴェーダにおいて外科用器具および他の医療用器具のために用いられた。紀元前2400年の古代エジプト人は傷や飲料水の殺菌のために銅を利用し、後には頭痛、火傷、かゆみにも用いられるようになった。はんだ付けされた銅製のシリンダーを持つバグダッド電池はガルバニ電池に類似している。年代は紀元前248年から西暦226年にさかのぼり、これが初めての電池であるように人々に考えられているがこの主張は実証されていない[64]。

近現代[編集]





廃坑となったパレース・マウンテン(英語版)の銅鉱山から流出し、影響を及ぼしている酸性鉱山排水(英語版)
スウェーデンのファールンにある大銅山(英語版)は10世紀から1992年まで操業された銅鉱山である。大銅山は17世紀のヨーロッパの銅需要の2/3を満たし、その期間にスウェーデンが行っていた戦争において戦費の大きな助けとなった[65]。それは国の金庫と呼ばれ、スウェーデンは銅に裏打ちされた通貨を有していた(スウェーデンにおける銅貨の歴史(英語版))[66]。また同時代の主要な銅産出国としては他に、17世紀に発見された足尾銅山や別子銅山などによって銅生産が活発になっていた日本が挙げられる[67][68]。1680年代中頃には50の銅山から年間およそ5400トンの銅が産出され[69]、ピーク時の1697年における年間およそ6000トンという産出量は当時世界一であったと推測されている[67]。生産された銅のおよそ1/2から2/3は長崎から海外へと輸出されており当時の日本にとって重要な輸出品目であったが、その後日本の銅生産量は減少の一途をたどり18世紀中旬には産業革命を迎えたイギリスに抜かれて二位となった[68][70]。明治に入ると新規産業技術の導入や機械化などによって日本の銅生産は持ち直したが[71]、チリやアメリカ、アフリカの大規模鉱山の開発が始まるとそちらが世界の主流となっていった[72]。日本の銅山はその後、公害問題や採算性の悪化により1970年代頃から閉山が相次ぎ、1994年に日本最後の銅鉱山が閉山した[73]。

近現代における銅生産量の増加は、銅精錬の際の副産物である亜硫酸ガスの大量放出にもつながり、例えば16-17世紀にはスウェーデンの大銅山において亜硫酸ガスの排出による影響で周辺森林の樹木が枯死し、全滅するという大規模公害が長期間に渡って続いていたことが記録されている[74]。このような亜硫酸ガスによる公害は世界中の銅山で発生していたものと推測されている[74]。このような状況は産業革命以降加速し、イギリスのコーニッシュ銅山では「もし悪魔がここを通りかかったら我が家に帰ったと、錯覚するだろう[75]」と言われるほどの深刻な公害が引き起こされ[76]、主要な銅産出国であった日本においても明治以降の近代化に伴い足尾鉱毒事件などが起こっている[77]。

銅の利用は通貨に限られたものではなく、芸術においても利用されていた。それはルネサンス期の彫刻家や、ダゲレオタイプとして知られる写真技術、自由の女神像 (ニューヨーク)などで用いられた。船体への銅めっき(英語版)および銅包板(英語版)の利用は広範囲におよび、クリストファー・コロンブスの船はこれを備えた最初期のものの1つであった[78]。1876年、ノルドドイチェ・アフィネリー(英語版)社はハンブルクで最初の現代的な電気めっき工場による生産を始めた[79]。1830年、ドイツの科学者であるゴットフリート・オサン(英語版)が金属の原子量を測定していた際に粉末冶金が発明された。その前後に、スズのような銅合金の構成元素の量と種類によってベル・トーンに影響を及ぼすことが発見された。自溶炉(英語版)はフィンランドのオウトクンプ(英語版)社によって開発され、1949年にハルハヴァルタ(英語版)ではじめて用いられた。自溶炉はエネルギー効率が良く、世界の主要な銅生産の50 %を占めている[80]。

1967年、石油における石油輸出国機構 (OPEC)と類似した役目を担うことを目的としてチリ、ペルー、ザイール、ザンビアによって銅輸出国政府間協議会が設立された。しかしながら、当時世界2位の銅生産国であるアメリカがメンバーに加わらなかったためOPECのような影響力を持つことができずに1988年に解散した[81]。

生産[編集]





世界最大規模の露天掘り銅鉱山の1つであるチリのチュキカマタ鉱山。
詳細は「銅山」を参照

2009年現在、世界における銅の全生産量のうち50-60 %が斑岩銅鉱床(英語版)より産出されている。斑岩銅鉱床からは銅の他にモリブデンやロジウムなどが併産される。斑岩銅鉱床はプレートの沈み込みに関連して形成されるため、南米のアンデス山脈や東南アジアのフィリピン、インドネシア周辺などプレートの周辺部に偏在している。斑岩銅鉱床から産出される鉱石の銅含有量はおよそ0.2-1.0 %ほどである。斑岩銅鉱床から採掘される銅鉱山の例として、チリのチュキカマタ鉱山やアメリカユタ州のビンガムキャニオン鉱山(英語版)などが挙げられる。斑岩銅鉱床に次いで産出量が多いのは堆積鉱染型鉱床で、銅の全生産量の20%を占める。堆積鉱染型の銅鉱床からは銀が併産され、中央アフリカのものではコバルトも併産される。堆積鉱染型鉱床は岩石の風化および堆積によって形成される堆積岩によるものであるため大陸部に偏在する。このタイプの鉱床としては、中央アフリカのザンビアからコンゴ民主共和国にかけて伸びるカッパーベルトが最大のものであり、他にポーランドのルビン鉱山などがある[82]。その他にも、熱水鉱床の一種である銅スカルン鉱床や火山性塊状硫化物鉱床、海底噴気堆積鉱床など様々な種類の銅鉱床が知られている[83]。これらの銅鉱山では、主に露天掘りによる採掘が行われている。他の方法として、採掘抗を掘り進める坑内採鉱や、希硫酸を鉱床に注入して銅を溶解抽出する原位置抽出法(英語版)も行われているが、坑内採鉱ではコストや安全性の問題が、原位置抽出法では採用可能な地質条件が限られているなどの問題があるため主流な方法とはなっていない[84]。世界の10大銅山のうちの5つはチリにあり(エスコンディーダ(英語版)、コデルコ・ノルテ(チュキカマタ鉱山を含む)、コジャワシ、エル・テニエンテ(英語版))、ロス・ペランブレス(スペイン語版))、2つがインドネシア(グラスベルグ鉱山、バツビジャウ鉱山(英語版))、1つがアメリカ(モレンシ鉱山、アリゾナ州モレンシ)、ロシア(タイミル半島)およびペルー(アンタミナ(スペイン語版))に存在する[85]。かつて日本は日本三大銅山とされる足尾銅山、別子銅山、日立銅山等、多くの鉱山をかかえた輸出国であったが、現在は全て廃鉱となり100 %輸入に頼っている状態である。

製錬[編集]

銅鉱石中の銅濃度は平均して0.6 %ほどでしかなく、商業利用される鉱石の大部分は硫化物(特に黄銅鉱 CuFeS2、少ない範囲では輝銅鉱 Cu2S)である[86]。これらの鉱石は粉砕され、泡沫浮選(英語版)もしくはバイオリーチング(英語版)によって10から15 %程度にまで銅濃度が高められる[87]。こうして銅が濃縮された鉱石に燃料としてのコークスのほか融剤として石灰石とケイ砂を加えて溶錬炉で溶融させることで、黄銅鉱中の鉄の大部分はスラグとして除去される。この方法は鉄の硫化物が銅の硫化物よりも酸化されやすい性質を利用しており、銅よりも先に鉄がケイ砂と反応してケイ酸スラグを形成し、低比重のケイ酸スラグが溶融原料上に浮上してくることで鉄が分離される。また、ケイ砂と石灰石からケイ酸カルシウムが生成し、これが融剤として銅の融点を下げる。
{\rm {4CuFeS_{2}+9O_{2}\longrightarrow 2Cu_{2}S+2Fe_{2}O_{3}+6SO_{2}}}{\rm {2Fe_{2}O_{3}+C+4SiO_{2}\longrightarrow 4FeSiO_{3}+CO_{2}}}{\rm {SiO_{2}+CaCO_{3}\longrightarrow CaSiO_{3}+CO_{2}}}
その結果得られた硫化銅から成る銅ハ(マット(英語版))を空気酸化しながら焙焼することで、銅ハ中の硫化物は酸化物へと変換され[86]、硫黄は酸化除去される。
{\rm {2Cu_{2}S+3O_{2}\longrightarrow 2Cu_{2}O+2SO_{2}}}
得られた酸化第一銅は2000 °Cを越える高温で加熱されることで還元され粗銅(銅含有率は約98 %)となる。
{\rm {2Cu_{2}O\longrightarrow 4Cu+O_{2}}}
サドバリー鉱山で用いられているマット法では、硫化物の半分だけを酸化物とした後、酸化銅を酸素源として硫化銅と反応させることで硫黄を除去する方法が用いられている。このようにして得られた粗銅は電解精錬によって精製され、副生する陽極泥からは金や白金が回収される。この工程は銅の還元されやすさが利用され、このように電解精錬によって得られた銅は電気銅とも呼ばれる。
{\rm {Cu^{{2+}}+2e^{-}\longrightarrow Cu}}
そこからさらに不純物を除いて純銅を生産するための方法としては、電気銅をシャフト炉で溶解製錬を行う(タフピッチ銅)、リンなどの脱酸剤を加えて残留酸素を除去する(脱酸銅)、高真空中で溶解させることで酸素を除去する(無酸素銅)などの方法が挙げられる[88]。

生産量[編集]





2005年の銅生産量




世界の生産動向
2005年の銅の生産量は世界全体で1501万トンであった[89]。その内訳はチリが35 %と大半を占め[89]、以下米国7.5 %、インドネシア7.1 %、ペルー6.7 %、オーストラリア6.1 %、中国5.0 %、ロシア4.6 %と続く。2011年の生産量は1610万トンとなり、チリが542万トンと世界生産量の1/3以上を占めており、それにペルー、中国が続いている[90] 。2005年の製錬銅の生産量は世界全体で1658万トンであり、そのうち38 %は中国および日本を中心とするアジア諸国が占めていた[91]。


2011年 銅生産量


順位



生産量(2011年)
(1000トン/年)

1 チリの旗 チリ 5,420
2 ペルーの旗 ペルー 1,220
3 中華人民共和国の旗 中国 1,190
4 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 1,120
5 オーストラリアの旗 オーストラリア 940
6 ザンビアの旗 ザンビア 715
7 ロシアの旗 ロシア 710
8 インドネシアの旗 インドネシア 625
9 カナダの旗 カナダ 550
10 コンゴ民主共和国の旗 コンゴ民主共和国 440
11 ポーランドの旗 ポーランド 425
12 メキシコの旗 メキシコ 365
13 カザフスタンの旗 カザフスタン 360

出典: U.S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries, January 2012[90]



埋蔵量[編集]

銅は少なくとも一万年前から人類によって利用されてきたが、これまでに採掘、製錬された全ての銅の95 %以上は1900年以降に抽出されたものである。アメリカ地質調査所の2005年版Mineral Commodity Summariesを元にした東北経済産業局の報告書によれば、地球上の銅の確認埋蔵量はおよそ9億4000万トン、可産鉱量はおよそ4億7000万トンである[92]。また、2011年版Mineral Commodity Summariesでは可産鉱量は6億9000万トンに増加しており、国別ではチリの1億9000万トンが最も多く全体の28 %を占めており、2位のペルーが9000万トン(13 %)とそれに続いている[90] 。鉱業的に利用可能な銅の可産年数の様々な推定データは、銅生産量の成長率などの主な要素の仮定によって25年から60年の間で変動し[93]、2005年のデータを元に単純に可産鉱量を年間生産量で割り可産年数を算出すると32年となる[92]。そのため、銅は2040年頃に枯渇すると言われる事がある[94]。


2011年 銅可産埋蔵量


順位



世界の銅埋蔵量(2011年)
(100万トン)

割合

1 チリの旗 チリ 190 28 %
2 ペルーの旗 ペルー 90 13 %
3 オーストラリアの旗 オーストラリア 86 12 %
4 メキシコの旗 メキシコ 38 6 %
5 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 35 5 %
6 中華人民共和国の旗 中国 30 4 %
7 ロシアの旗 ロシア 30 4 %
8 インドネシアの旗 インドネシア 28 4 %
9 ポーランドの旗 ポーランド 26 4 %
10 コンゴ民主共和国の旗 コンゴ民主共和国 20 3 %
11 ザンビアの旗 ザンビア 20 3 %
12 カナダの旗 カナダ 7 1 %
13 カザフスタンの旗 カザフスタン 7 1 %

出典: U.S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries, January 2012[90]



貿易と消費[編集]





2003–2011の銅価格(USD/トン)
銅は鉄、アルミニウムに次いで世界で3番目に多く消費される金属であり[95] 、銅の世界貿易で年間およそ300億ドルが動く重要な貿易品目でもある[96]。

銅取引はロンドン金属取引所(英語版)、ニューヨーク・マーカンタイル取引所、上海金属取引所の3つの主要な市場があり、これらの市場で日々銅相場や先物価格が決定される[96]。銅の価格は歴史的に不安定であり[97]、銅のキログラム単価は1999年6月の1.32USドルから2006年5月の8.27USドルまでおよそ5倍に上昇した。2004年の銅価格の高騰は中国をはじめとした新興国の需要の増加によるものであり[98]、電気インフラへのリスクが生じるような銅製品(特に銅ケーブル、電線)の盗難の波が世界中で引き起こされた[99][100][101][102] 。それは2007年2月に5.29USドルまで下落し、そして2007年4月に7.71USドルまで反発した[103]。2009年2月には、前年の高値から一転して世界需要の後退と物価の急な下落によって3.32USドルまで下落した[104]。


2006年 銅消費量


順位



製錬銅の消費量
(1000トン/年)

1 欧州連合の旗 欧州連合 4,320
2 中華人民共和国の旗 中国 3,670
3 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 2,130
4 日本の旗 日本 1,280
5 大韓民国の旗 大韓民国 810
6 ロシアの旗 ロシア 680
7 中華民国の旗 台湾 640
8 インドの旗 インド 440
9 ブラジルの旗 ブラジル 340
10 メキシコの旗 メキシコ 300

出典: World Copper Factbook 2007[85]



銅の主要な産出国では銅鉱石および製錬銅の両方を輸出している。主な輸入国は先進工業国であり、日本、中国、インド、韓国およびドイツでは鉱石として、アメリカ、ドイツ、中国、イタリア、台湾は製錬銅として輸入している[85]。

リサイクル[編集]

リサイクルは主要な銅の資源となっている[105]。銅はアルミニウムのように、原料のままの状態であっても製品中に含まれている状態であっても関係なく、品質の損失なしに100 %リサイクルすることが可能である[106]。そのため銅製品に使われている銅がリサイクルされたものかどうかを判別するのは不可能であり、銅は古来からリサイクルされてきた素材の1つである[107]。銅をリサイクルする方法は大まかに言えば銅を抽出する方法と同じであるが必要な工程は抽出よりも少なく、高純度の銅スクラップは炉で溶融、還元された後ビレットおよびインゴットに鋳造され、低純度のスクラップは硫酸浴中で電解製錬される[108]。銅のリサイクルにはこのような製造工程の他にもリサイクル元となる原料の収集や分別といった作業が必要となるが、それでもリサイクルに必要となるエネルギー量は鉱石から銅を抽出、製錬する場合の25 %にすぎない[109]。大規模な銅のリサイクルの例としては、2002年に欧州連合加盟国のうち12か国が通貨をユーロに切り替えた際に旧通貨となった硬貨のリサイクルが挙げられる。この通貨切り替えによっておよそ147,496トンの銅が含まれた約260,000トンの硬貨が流通停止となり、これらの硬貨に含まれる銅は溶融させてリサイクルされ、新しい硬貨から様々な工業製品まで広い範囲で再利用された[109]。

リサイクルの効率は、製品設計のような技術的要因や銅の経済的価値、持続可能な開発への社会意識の向上といった要因に依存し、また、法律も重要な要因である。現在、家電製品や電話、自動車などの銅を含有した製品における最終的なライフサイクルの責任ある管理を推進するために、140以上の国内もしくは国際的な法律、規制、政令およびガイドラインが定められている[85]。電気・電子機器の廃棄に関する欧州議会及び理事会指令(2002/96/CE、RAEEもしくはWaste Electrical and Electronic EquipmentからWEEE指令)は、廃棄物の発生が少ない製品を生産する生産者に対するインセンティブによって産業廃棄物および一般ごみを義務的かつ大幅に削減することを含んだ、廃棄物最小化を推進する政策である[110]。

2004年の銅需要のうち9 %はリサイクルされた銅によって賄われており、鉱石から銅を生産し、製錬する過程で生じた廃棄物からの銅の回収も「リサイクル」であるとするならば、リサイクルされた銅の割合は全世界で31 %、欧州に限れば41 %にも上る[107]。国際資源パネル(英語版)のMetal Stocks in Society reportによると、社会で使用中の銅を備蓄と捉えて算出した世界1人あたりの銅備蓄量は35-55キログラムである。これらの大部分は途上国(1人当たり30-40キログラム)よりもむしろ先進国(1人あたり140-300キログラム)に存在している。

銅鉱石[編集]





自然銅、米国ミシガン州
銅鉱石を構成する鉱石鉱物には、次のようなものがある。
自然銅 (Cu)
輝銅鉱 (Cu2S)
斑銅鉱 (Cu5FeS4)
銅藍(コベリン)(CuS)
黄銅鉱 (CuFeS2)
硫砒銅鉱 (Cu3AsS4)
安四面銅鉱 ((Cu,Fe,Zn)12Sb4S13)
赤銅鉱 (Cu2O)
黒銅鉱 (CuO)
藍銅鉱 (Cu3(CO3)2(OH)2)
孔雀石 (Cu2(CO3)(OH)2)

用途[編集]





銅管の継手
銅は古代から人類とのかかわりが深く、重要な金属として扱われていた。日本でも、銅塊が発見され朝廷に献上されたことを祝い、年号が慶雲から和銅に改められた事例がある[111]。銅は、金属製品や貨幣の材料として多くの文化で使用された。現代でも様々な場で使用されており、鉄に次いで重要な金属材料といえる。銅の主要な用途として電線 (60 %)、屋根ふき材および配管 (20 %)、産業機械 (15 %)が挙げられる。銅の大部分は金属銅として利用されるが、より高硬度が求められる用途に際しては他の元素を加えて真鍮や青銅のような合金が作られ、このように合金とされる銅は全体のおよそ5 %である[112] 。銅供給量のうちの少量は、栄養補助食品や農業における殺菌剤のための銅化合物の生産に用いられる[20][113]。銅の機械加工は可能であるが、通常複雑な部品を作るための良好な被削性能を得るには合金を用いる必要がある。

電子工学と関連デバイス[編集]





電力を大きな建物に分配する銅製のバスバー(英語版)
銅は工業をはじめあらゆる用途に広く用いられるが、特に電気器具の配線、電磁石のようなデバイス、銅線(英語版)などの材料として用いられる。これは銅が銀に次いで電気抵抗が少なく電気伝導性に優れ、室温における伝導率が銀の94 %と遜色がない一方で、銀よりコストが格段に安いためである。またその優れた電気伝導性により、希少金属の価格高騰や伝導性の改善のために、集積回路やプリント基板において金や銀、アルミニウム配線配線の代替としても銅が用いられる。しかしながらニッケルやコバルトと比較しても他のプロセスへの汚染度が激しいため、同一のチャンバーやラインを使用することによる銅汚染が問題となる。また、銅装置に触れた器具や工具はもとより、エンジニアやオペレーターを介した汚染もある。そのため、半導体製造工程上は、銅が他のプロセスへの影響が出ないように隔離した状態で製造するため若干のコストがかかる。

銅は比較的高い熱伝導率を持つため熱放散能力に優れており、かつ加工性にも優れているためヒートシンクや熱交換器のような廃熱・放熱部分にも銅が用いられる。真空管およびブラウン管、電子レンジにおけるマグネトロンなどでマイクロ波を伝送するための導波管にも銅が用いられている[114]。

銅は他の金属の電気伝導率をはかる国際基準としても使われ、温度20 ℃、長さ1 m、断面積1 mm2の条件における電気抵抗が0.017241 オームとなる「万国標準軟銅 (IACS)」の伝導率が基準値 (100 %)とされる[115]。

電気モーター[編集]

銅は他の金属材料と比較して優れた電気伝導性を有しているため、電動機の電気エネルギー効率を向上させる[116]。電動機および電動機の駆動システムによる電気消費は世界の全電気使用量の43-46 %、工業では69 %を占めているため、電動機のエネルギー効率は重要な問題である[117]。コイル内で銅の質量と断面積を増大させることで発動機の電気エネルギー効率は向上する。エネルギー節約を主要な目的とする電動機設計の新技術である銅製回転子[118][119]は、NEMAによるプレミアム効率(英語版)規格を達成し、さらに上回る多目的誘導電動機の実現を可能にする[120]。

建築および工業[編集]





ミネアポリス市庁舎(英語版)の緑青で覆われた銅の屋根




イスラエルのレストランの古い銅製器具
銅はその防水性および防食性、外観の美しさために古代から多くの建物で屋根葺として用いられてきた。これらの建物の屋根に見られる緑色は長期の化学反応によるものである。銅ははじめ酸化銅(II)に酸化された後第一銅および第二銅の硫化物を経て最終的に緑青と呼ばれる炭酸銅(II)となり、この緑青は酸化腐食に対する高い耐久性を有している[121]。この用途における銅はリンによって脱酸されたリン脱酸銅 (Cu-DHP)として供される[122]。銅は他の屋根材と比べると高価なため近年の日本ではは高級住宅や寺社建築などに限られる。尚、現在では酸性雨の影響もあり、「半永久的な」耐腐食性の建材というわけではない。

避雷針は、主な建築物が破壊される代わりに電流を地面へとそらすための方法として銅が用いられる[123]。銅は優れたろう付け性能およびはんだ付け特性を有しており、溶接することができ、最良の結果はマグ溶接によって得られる[124]。

生物付着防止[編集]

銅包板はフジツボやイガイ、フナクイムシなど固着性の水生生物から船底を保護するための静生物性(微生物が成長、増殖するのを抑制する性質。バイオスタティック)物質として長く用いられてきた。初期には純銅が用いられていたが、その後マンツメタル(英語版)に代替された。銅は静生物性を有しているため、銅の表面上では微生物は生育することができない。同様に、銅合金は極限状態においても抗菌性(英語版)および生物付着(英語版)防止性を有しており[125]、また構造材としての強さと防腐性を持つ[126]という特性を海洋環境において示すため 、養殖業において重要な金属材料となった(養殖業における銅合金(英語版))。

その他[編集]





銅の炎色反応の様子
銅は花火の着色料としても用いられる。これは銅の化合物が炎色反応を示すことを利用したもので、青色を得るのに用いられる。炎色反応は青緑色である。また、オリンピックをはじめ、様々な大会やコンクールなどで、金、銀に次ぐ3位の色として使われる。

銅は精子を殺す能力があることから子宮内避妊器具(IDU)に用いられ、その効果は卵管結紮(英語版)に匹敵する。

液体状態における銅化合物は木の防腐剤に用いられ、特に乾腐(英語版)による損傷を修復している間に構造の元の部分を取扱う際に利用される。亜鉛と共に銅のワイヤーはコケの成長を阻害するため、被導電性の屋根材量の上に置かれることがある。抗菌性の紡織線維を作るために銅が用いられる[127]。銅は細い導線を容易に作成できるため、繊維に織り込んで絨毯やマットなどに使用されている。また、このような絨毯は銅の高い導電性により静電気の発生を抑制する効果も得られる。同様に銅イオンの持つ殺菌作用を利用した用途として、抗菌仕様の靴下や靴の中敷などにも利用され、陶磁器の釉薬やステンドグラス、楽器などにも用いられる。

電気メッキにおいては、ニッケルのような他の金属をメッキする際の下地として銅が用いられる。

銅は鉛、銀と共に、博物館材料の保管試験であるオディ試験(英語版)と呼ばれる試験方法に用いられる3つの金属のうちの1つである。この試験において、銅は塩化物、酸化物および硫化物を検出するために用いられる。

銅は化合物または触媒としても用途が広く、代表的な銅の化合物としては塩化銅(II)・酸化銅(II)・硫酸銅(II)などがあり、各種触媒や、防腐剤、殺虫剤、顔料などに用いられている。

銅はまた装飾品としても見られ、民間療法では銅のブレスレットは関節炎を和らげるとされるが、その証明はされていない[128]。また、銅鉱石のうち孔雀石などはその外観の美しさから宝石としても利用される[129]。

銅合金[編集]

純粋な銅は降伏強度が非常に低く (33 MPa)、軟らかい(モース硬度3、ビッカース硬さ50)といった機械的に弱い物理的性質を有しているため[130]、機械加工部品材料としては使用しにくい。このような銅の機械的な弱さとは対照的に、他の金属と合金化して銅合金とすることで非常に優れた機械的強さを示すようになるため、銅の欠点を補い利点を伸ばす銅合金としての用途も幅広い。主要な銅合金として青銅や黄銅があり[131]、ベリリウムやカドミウムなど少量の元素を添加した高純度銅合金なども開発されている[132]。銅はまた、銀や金の合金、宝石業界で用いられるろう材の成分として最も重要なもののうちの1つでもあり、色調の補正や、硬度や融点の調節に利用される[133]。

これらの多様な銅合金は一般的にISO 1190-1:1982もしくはそのISO規格に対応するローカル規格(例えばスペイン国家規格 UNE 37102:1984)によって分類され[134]、これらの規格における各合金の標準規格番号はUNS番号(英語版)が使用される[135]。

黄銅[編集]





エジプトの黄銅製の花瓶(ルーヴル美術館、パリ)。
詳細は「黄銅」を参照

銅と亜鉛の合金は一般に黄銅とよばれる[136]。亜鉛の含有率を変化させることで連続的に引っ張り強さや硬さが増大する性質を有しており[136]、銅と亜鉛の比率によって7/3黄銅や6/4黄銅などとよばれそれぞれの性質に合わせて異なる用途に用いられる[137]。金管楽器や仏具などに使われる真鍮は黄銅の1つである。真鍮は錆びにくく、色が黄金色で美しいことから模造金や装飾具などとしてもよく見かける金属である。

黄銅は海水などの塩類を多く含む溶液との接触によって亜鉛が溶出する脱亜鉛現象とよばれる腐食が起こる[138]。このような脱亜鉛現象を防ぐためには黄銅へのスズの添加が有効であり、6/4黄銅にスズを0.7から1.5 %ほど加えたネバール黄銅とよばれるスズ入り黄銅は特に海水に強いため船舶部品などに利用される[139][140]。スズ入り黄銅のように他の元素を微量に加えた黄銅を特殊黄銅とよび、鉛を加えて切削性を向上させた快削黄銅や、マンガンおよび微量のアルミニウム、鉄、ニッケル、スズを加えて強度や耐食性、耐摩耗性を高めた高力黄銅(またはマンガン青銅とも)などがある[140]。快削黄銅では、鉛の環境負荷に配慮して鉛の代わりにビスマスやセレンが用いられることもある[131]。

青銅[編集]





青銅製の聖ダビデ像
詳細は「青銅」を参照

古代から武器や通貨などとして用いられた青銅はスズと銅の合金であり、現在でもブロンズ像など、彫刻の材料である。また、アルミニウム青銅などのように、高強度、高硬度、防錆性を有するスズ以外との銅合金も総称して青銅とよばれる[140][141]。青銅はスズの割合と温度によって多様な相を取り、それぞれ異なった性質を示す。例えば、スズの含有率が少ないものは加工性が良好であるが、スズの含有率が増加するとともに加工性が低下するため、スズ量の少ないもの (10 %以下) は加工用、多いものは鋳造用として利用される[140]。

黄銅と同様に、他の元素を微量に加えた青銅を特殊青銅とよび、リンを加えて冷間加工性やばね性を向上させたリン青銅や、軸受けに用いられる鉛青銅、リンおよび鉛を加えて切削性を向上させた快削リン青銅、ケイ素を加えて耐酸性を向上させたケイ素青銅などがある[142][143]。

銅に6から11 %のアルミニウムを加えた合金はスズを含んでいないもののアルミニウム青銅とよばれる[142]。アルミニウム青銅は機械的な強度が高く耐食、耐熱、耐摩耗性にも優れた合金であり、機械部品や船舶部品などに用いられる[142]。銅とニッケルの合金も同じくスズを含んでいないもののニッケル青銅とよばれる[144]。銅とニッケルはどのような混合比でも合金化するため、銅に10から30 %のニッケルを加えた白銅や、60 %のニッケルを加えたモネルといった幅広い組成比の合金が作られている[142][144]。白銅は高温での耐食性に優れているため復水器や化学工業用の部材として利用され[142]、貨幣にも使われる[145]。モネルは銅、ニッケルの他に3 %ほどの鉄が含まれており、耐食性および耐熱性に優れている[146]。ニッケル含有量が45 %のニッケル青銅はコンスタンタンとよばれ、標準抵抗線や熱電対に利用される[147]。

洋白[編集]





洋白製のゆで卵置き
詳細は「洋白」を参照

銅、ニッケルおよび亜鉛の合金は洋白もしくは洋銀とよばれ、その組成は銅が50から70 %、ニッケルおよび亜鉛がそれぞれ13から25 %である[148]。洋白はその白銀色の外観から銀の代用として食器などに利用され、良好なばね特性を有しているためばね材やバイメタルにも用いられる[149][150]。また、洋白に1から2 %のタングステンを加えた白色の合金はプラチノイドとよばれ、電気抵抗線に用いられる[151][152]。

その他の銅合金[編集]

主な工業用の合金として、高純度銅合金や純銅と呼ばれる極めて高い純度の銅にごくわずかな添加物を加えた合金がある。代表的な高純度銅合金にはカドミウム銅・クロム銅・テリウム銅・ベリリウム銅などがあり、工業的には機械工業を初めとした分野で銀含有銅・ヒ素銅・快削銅などが利用される。

また、銅に金、銀を加えた合金である赤銅は工芸材料として用いられる[145]。

生体内での働きと毒性[編集]





光合成はチラコイド膜の範囲内での精巧な電子伝達の連鎖によって機能する。この連鎖を結びつける中心は青色銅タンパク質と呼ばれるプラストシアニン(英語版)である。
銅は微生物においてはそうでないが、動植物においては重要な微量元素である。銅タンパク質は生体内における電子伝達や酸素の輸送、Cu(I)とCu(II)の簡単な相互変換を利用したプロセスといった多様な役割を有している[153]。銅の生物学的役割は地球大気における酸素の出現とともに始まった[154]。銅の役割としては、ヘモグロビンを合成するために不可欠である元素であることが知られているが、ヘモグロビンそのものには銅は存在しない。銅が活性中心である酸素結合タンパク質であるヘモシアニンは哺乳類におけるヘモグロビンに相当し、ほとんどの軟体動物と、カブトガニのような多くの節足動物において酸素輸送の役目を担う[155]。ヘモシアニンは酸素と結合して青色を呈するためこれらの生物の血は青色をしており、酸素輸送をヘモグロビンに頼る生物のような赤い血は見られない。構造的にヘモシアニンはラッカーゼおよびモノフェノールモノオキシゲナーゼと関係している。これらのタンパク質では、ヘモシアニンが酸素と可逆的な結合を形成する代わりに、ラッカーの形成における役割のように基質を酸化する[153]。

銅はまた、酸素の処理に関わる他のタンパク質の活性中心でもある。酸素を使う細胞呼吸に必要なシトクロムcオキシダーゼはミトコンドリアにおける呼吸鎖に関連しており、酸素の還元のために銅と鉄が協働する。コラーゲン合成に必須なモノアミンオキシダーゼやリジルオキシダーゼの活性中心も銅であり、さらにスーパーオキシドアニオンを酸素と過酸化水素に不均化することによって分解して無毒化するスーパーオキシドディスムターゼの活性中心も銅でもある。
2 HO2 → H2O2 + O2
青色銅タンパク質のようないくつかの銅タンパク質は直接基質とは反応しないためそれらは酵素ではない。それらのタンパク質は、電子移動反応とよばれるプロセスによって電子を中継する[153]。

摂取および循環[編集]





銅の豊富な食品としてはカキ、牛やラムの肝臓、ブラジルナッツ、廃糖蜜、ココア、黒コショウがある。良い補給源としてはロブスター、ナッツやヒマワリの種、グリーンオリーブ、アボカド、小麦の糠がある。
人体には体重1 kgあたりおよそ1.4から2.1 mgの銅が含まれている[156]。言い換えれば、通常の健康な大人における銅の推奨所要量 (DRA)は一日当たり0.97 mgおよび3.0 mgと見積もられる[157]。銅は腸で吸収され、その後肝臓に輸送されてアルブミンと結合する[158]。肝臓で処理された後の銅は第二段階として他の組織に分散される。ここの銅輸送プロセスでは、大多数の銅を血液中に輸送するセルロプラスミンが関与している。セルロプラスミンはまた、乳中に排出される銅を運搬し、特に銅源として効率よく吸収される[159]。一日あたりおよそ1 mgの銅が食品から摂取および排出されるのに対して、体内では通常一日あたりおよそ5 mgの銅が肝臓から運び出されて腸で再吸収される腸肝循環によって循環しており、必要であれば胆汁を通じて過剰な銅を体外へと排出できる[160] [161]。

銅による障害[編集]

膜輸送体が鉄を細胞に取り込むためには銅による還元が必要であるため銅の欠乏によって鉄の吸収量が低下し、貧血のような症状や好中球減少(英語版)、骨の異常、低色素沈着(英語版)、成長障害、感染症の発病率増加、骨粗鬆症、甲状腺機能亢進症、ブドウ糖とコレステロールの代謝異常などがもたらされる。しかし、銅は要求量がそれほど多くなく、食品中に豊富に存在するためそのようなことはまれである。ただし、特に反芻動物は銅に対して敏感な性質を持つため、家畜などにおいては銅の不足により神経障害や貧血、下痢などが発生することがある。これは飼料に銅を含んだミネラル分を添加することで改善される。また、亜鉛の過剰摂取は小腸細胞において金属結合性タンパク質であるメタロチオネインが誘導され、銅がこのタンパク質にトラップされる結果、銅の摂取が阻害される。例えば、ウサギの健康な成長の為に必要な最低限の銅摂取量は、少なくともエサ中に3 ppmは必要であることが報告されている[162]。



NFPA 704



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金属銅に対するファイア・ダイアモンド表示

ヒトにおいては、体内の銅の吸収と排出を管理する銅の輸送システムのために銅の過剰症は通常起こらない。しかしながら、銅の輸送タンパク質における常染色体の劣性突然変異によってこの輸送システムが働かなくなるため、このような欠陥遺伝子対を遺伝した人において肝硬変や銅の蓄積を伴うウィルソン病が発症することがある[156]。また、グラム単位の様々な銅塩は人体に対して深刻な毒性を示すため自殺目的に用いられ、その機序はおそらく酸化還元サイクルおよび、DNAに損傷を与える活性酸素種の生成によると考えられている[163]。銅換算で体重1 kgあたり30 mgに相当する量の銅塩は動物に対して毒性を示すように[164]、多くの動物にとって慢性的に過剰な銅の摂取は毒である。反芻動物では銅の過多により肝硬変や発育不全、黄疸、などが起こりうる。例えば、ウサギのエサ中の銅濃度が100 ppm、200 ppm、500 ppmとより高濃度になると、飼料要求率(英語版)や成長率、枝肉の歩留まりに有意な影響がある可能性が示唆されている[165]。無脊椎動物の多くは過剰供給となって代謝異常を起こす閾値が脊椎動物よりも低い。例えば水槽内で海産魚を飼育するときに魚病薬として硫酸銅の水溶液を少量飼育水に添加することがあるが、この処置をいったん行った水槽は、飼育水中に微量の銅イオンが溶け出すため、もはや海産無脊椎動物の飼育には不適当といわれている。

著しい銅の欠乏は血漿もしくは血清銅濃度の低下(セルロプラスミン濃度の低下)および、赤血球スーパーオキシドディスムターゼ濃度の低下の検査によって発見することができるが、これらの検査は低濃度の銅に対する感度が高くない。「白血球および血小板のシトクロムcオキシダーゼ活性」は欠乏のもう一つの要因として提示されたが、その結果は反復試験によって確かめられなかった[166]。

植物における銅[編集]

植物における銅の役割としては、生体内における数種類の酸化還元反応にかかわる酵素を活性化する働きや、光合成に必要なクロロフィルに銅が結合しており、クロロフィルの合成に銅が不可欠であるということが分かっている。しかし、クロロフィルの合成段階において銅がどのような役割を担っているのかなど詳しいことについてはまだわかっていない。銅の欠乏によって黄白化、光合成能力の低下、種子の形成異常あるいは枯死などが起こる。銅の過剰供給もまた植物に対して毒性を示し、そのような環境下では銅イオン耐性の強い特殊な植物が繁茂する。例えば、寺社の銅屋根を伝った水が滴るような場所には銅イオン耐性の強いホンモンジゴケが優占することがよく知られている。下等植物の生育や増殖に少量の銅が不可欠であることが知られている。

抗菌性[編集]

多くの抗菌効果の研究において、A型インフルエンザウイルスやアデノウイルス、菌類だけでなく広範囲に渡る細菌を不活化するための銅の有効性について過去10年間研究されてきた[167]。研究の結果、建物内の給水管に使用した場合、表面に生成される酸化膜や塩素化合物の影響により短期間に不活化能力が低下する現象の他、残留塩素の低減作用が明らかとなっており、実用上の課題として認識されている[168]。

銅合金表面の表面には広範囲の微生物を不活化する固有の能力があり、例えば腸管出血性大腸菌O157:H7やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)、ブドウ球菌、クロストリジウム・ディフィシル(英語版)、A型インフルエンザウイルス、アデノウイルスなどを不活化する[169][167]。約355の銅合金において、定期的に洗浄していれば2時間以内に病原菌の99.9 %以上が不活化されると証明された[170]。アメリカ合衆国環境保護庁 (EPA)は「公的医療による抗菌性材料」としてこれらの銅合金の登録を承認し[170]、登録された抗菌性銅合金で製造された製品の明確な公衆衛生効果の主張を合法的に行うことが許可された。さらにEPAは、横木、手摺、蛇口、ドアノブ、洗面所ハードウェア、キーボード (コンピュータ)、スポーツクラブの器具など、抗菌性銅から作られた抗菌性銅製品の長い一覧を承認した(全品目はen:Antimicrobial copper-alloy touch surfaces#Approved products参照)。銅製のドアノブは病院で院内感染を防ぐために用いられ、レジオネラ症は配管システムに銅管を用いることで抑制することができる[171]。抗菌性銅合金製品はイギリス、アイルランド、日本、韓国、フランス、デンマークおよびブラジルにおいて医療施設に用いられており、また、サンティアゴの地下鉄輸送システムにおいては銅-亜鉛合金製の手摺が2011年から2014年の間に約30の駅に取り付けられることになっている[172][173][174]。

脚注[編集]

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参考文献[編集]
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ニッケル

ニッケル (英: nickel, 羅: niccolum) は、原子番号28の金属元素である。元素記号は Ni。

地殻中の存在比は約105 ppmと推定されそれほど多いわけではないが、鉄隕石中には数%含まれる。特に 62Ni の1核子当たりの結合エネルギーが全原子中で最大であるなどの点から、鉄と共に最も安定な元素である。岩石惑星を構成する元素として比較的多量に存在し、地球中心部の核にも数%含まれると推定されている。



目次 [非表示]
1 性質
2 用途
3 歴史
4 産地 4.1 日本のニッケル鉱山と産出

5 生物との関わり
6 主な合金
7 ニッケルの化合物
8 同位体
9 脚注・出典
10 関連項目
11 外部リンク


性質[編集]

銀白色の金属で鉄族に分類される。原子量は約58.69である。常温で安定な結晶格子は、面心立方構造 (FCC) であり、また、鉄よりは弱いが強磁性体でキュリー点は350 °Cであり鉄族元素としては最も低い。

銀白色の光沢ある金属であり乾燥した空気中ではさびにくいが、微粒子状のものは空気中で自然発火することもあり、細いニッケル線は酸素中で火花を出して燃焼する。水素よりイオン化傾向がやや大きく、塩酸および希硫酸に徐々に溶解し緑色の水和ニッケルイオンを生成するがその反応は極めて遅い。酸化作用を持つ希硝酸には速やかに溶解し濃硝酸では不動態を形成する。アルカリに対しては比較的強い耐食性を示す。
Ni + 2 H+(aq) → Ni2+(aq) + H23 Ni + 8 HNO3 → 3 Ni(NO3)2 + 2 NO + 4 H2O
微粒子状の金属粉末は水素および窒素ガスなどを吸蔵し水素付加反応を活性化させる作用をもち、融解状態でもこれらの気体を吸収し、凝固時にその大部分を放出するため表面が巣穴になりやすい。また鉄と同様に融解状態では炭素を6.25 %まで溶解し、凝固するとグラファイトを析出する。

50-60 °Cで微粉末状のニッケルに一酸化炭素を反応させるとテトラカルボニルニッケルを生成し、これを200 °Cに加熱すると分解してニッケルを生じるためこの反応はモンド法と称してニッケルの精製に用いられる。
Ni + 4 CO \rightleftarrows \ Ni(CO)4
用途[編集]

光沢があり耐食性が高いためめっきに用いられるほか、ステンレス鋼や硬貨の原料などにも使用される。日本で2010年現在発行されている50円硬貨や100円硬貨は銅とニッケルの合金(白銅)である。アメリカ合衆国の5セント硬貨も白銅だが、通称「ニッケル」と呼ばれている。純ニッケルも硬貨の材料として用いられたことがある。これはニッケルが特殊鋼や薬莢の材料である白銅の原料として重要であるため、国家が備蓄し、平時は硬貨として流通させ、有事に際しては他の素材の硬貨や紙幣で代替して回収するためである。日本でも第二次世界大戦直前の1933年(昭和8年)から1937年(昭和12年)にかけて、5銭と10銭のニッケル硬貨が発行されており、その名目で軍需物資であるニッケルを輸入した。ただし、戦後もニッケル硬貨は発行されていて、1955年(昭和30年)から1966年(昭和41年)まで発行されていた50円硬貨がニッケル硬貨である。
磁性材
ニッケルと鉄にモリブデンやクロムを加えた合金をパーマロイと呼ぶ。優れた軟磁性材料であることから、変圧器の鉄心や磁気ヘッドに用いられている。
耐熱材
ニッケル36 %、鉄64 %の合金を「インバー」、ニッケル36 %、鉄52 %、コバルト12 %の合金を「エリンバー」と呼ぶ。インバー合金は熱膨張率が非常に小さく、エリンバー合金は温度による弾性率の変化が非常に小さいという特徴があり、機械式時計の発条などの精密機械に用いられている。ニッケルベースの合金である各種のインコネルは、その耐熱性からタービン用コンプレッサ材料等に用いられる。
形状記憶合金
チタンとニッケルの1:1の合金は最も一般的な形状記憶合金となる。
触媒
ニッケルは不飽和炭素結合に対する水素付加の不均一系触媒としてラネー合金などに加工され工業的に用いられる。
電極材
水酸化ニッケルはニッケル・水素蓄電池やニッケル・カドミウム蓄電池等の二次電池の正極に使われる。
水素貯蔵合金
水素を取り込む性質を利用し、水素貯蔵合金の AB5 型、Mg 型。

歴史[編集]

アクセル・クロンステット (Axel Frederik Cronstedt) が1751年に単体分離。名称はドイツ語の Kupfernickel(悪魔の銅)に由来する[3]。これは、ニッケル鉱石である紅砒ニッケル鉱 (NiAs) が銅鉱石に似ていながら これから銅を遊離できなかったために、坑夫たちがこう呼んだためと言われている。

産地[編集]

ニッケル鉱石の生産は世界全体で134万トン(2009年現在)である。その内訳はロシアが19 %、オーストラリア14 %、インドネシア12 %、カナダ10 %、ニューカレドニア7 %となっている[4]。

鉱石としては、主に蛇紋岩中に産出する珪ニッケル鉱(Garnierite、(Ni,Mg)3Si2O5(OH)4 とされるが、組成が一定しないので独立種とは認められていない)、磁硫鉄鉱などと共産するペントランド鉱(Pentlandite、(Fe,Ni)9S8)が主に採掘されている。

日本のニッケル鉱山と産出[編集]

詳細は「大江山鉱山」を参照

日本では第二次世界大戦中、京都府与謝郡の大江山で開発されたニッケル鉱山で日本冶金工業が採鉱して、近くの製錬所でフェロニッケルに製錬し、さらに川崎市の同社工場でニッケル合金として軍用に提供していた。 また山口県においても、山口県周南市〜岩国市にかけて断続的に蛇紋岩帯があり、昭和15年〜20年にかけて金峰鉱山などで採掘が行なわれた。この他に千葉県の房総半島など、蛇紋岩帯の存在する地域で採掘が行なわれた。しかし、これは戦時体制による商業コストを度外視したものであり、ほとんどが終戦とともに閉山・廃鉱となった。

この金属は、日本国内において産業上重要性が高いものの、産出地に偏りがあり[5]供給構造が脆弱である。日本では国内で消費する鉱物資源の多くを他国からの輸入で支えている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として国内消費量の最低60日分を国家備蓄すると定められている。

生物との関わり[編集]

ウレアーゼ(尿素分解酵素)やいくつかのヒドロゲナーゼ(分子型水素の酸化還元酵素)などは、その機能を発現するためにニッケルを取り込んでいる[6]。しかしながら、ニッケルは金属アレルギーを引き起こしやすい金属の一つであり、WHO の下部組織 IARC はニッケル化合物を「Group1:ヒトに対する発癌性が認められる化学物質」としている[7]。記事 IARC発がん性リスク一覧に詳しい。

主な合金[編集]
白銅(キュプロニッケル)
洋白(洋銀)
ステンレス鋼
ニッケルクロム鋼
ホワイトゴールド
コンスタンタン
形状記憶合金(ニチノール)
インコネル
パーマロイ
マルエージング鋼

ニッケルの化合物[編集]

化合物中の原子価は2価が最も安定であるが3価および4価のニッケル原子を含む錯体も存在し、-1、0、+1といった低原子価の錯体も存在する。強酸の陰イオンよりなる塩類は一般的に水に可溶であるが、カルコゲンなどとの化合物は難溶または不溶である。
酸化ニッケル(II) (NiO)
水酸化ニッケル(II) (Ni(OH)2)
塩化ニッケル(II) (NiCl2)
硫酸ニッケル(II) (NiSO4)
テトラカルボニルニッケル
スルファミン酸ニッケル(II) (Ni(NH2SO3)2) - ニッケルめっきに使用
ニッケル酸リチウム (LiNiO2) - リチウムイオン二次電池の正極材料

同位体[編集]

詳細は「ニッケルの同位体」を参照

脚注・出典[編集]

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1.^ M. Carnes et al. (2009). “A Stable Tetraalkyl Complex of Nickel(IV)”. Angewandte Chemie International Edition 48: 3384. doi:10.1002/anie.200804435.
2.^ S. Pfirrmann et al. (2009). “A Dinuclear Nickel(I) Dinitrogen Complex and its Reduction in Single-Electron Steps”. Angewandte Chemie International Edition 48: 3357. doi:10.1002/anie.200805862.
3.^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、155頁。ISBN 4-06-257192-7。
4.^ 外務省 国際ニッケル研究会の概要
5.^ ロシア、カナダ、インドネシア、豪州、ニューカレドニアで約3分の2を占める。
6.^ 一島英治、『酵素の化学』 p.45
7.^ ただし、IARC の報告は疫学的リスク評価であり、ニッケルおよびニッケル化合物に人に対して発癌するリスクが存在するという意味であり、どの位の量をどのくらい長期間接触したら発癌するといった量的評価ではない。

関連項目[編集]

ウィキメディア・コモンズには、ニッケルに関連するメディアがあります。
露天掘り
サドベリー隕石孔 - カナダの主要な産地。
ノリリスク - ロシアの主要な産地。
ニューカレドニア - 主な産地の一つ。独立運動がある。
大江山鉱山

コバルト

コバルト (英: cobalt、羅: cobaltum) は、原子番号27の元素。元素記号は Co。鉄族元素の1つ。安定な結晶構造は六方最密充填構造 (hcp) で、強磁性体。純粋なものは銀白色の金属である。722 K以上で面心立方構造 (fcc) に転移する。

鉄より酸化されにくく、酸や塩基にも強い。



目次 [非表示]
1 歴史
2 産出地
3 用途 3.1 合金材料
3.2 化合物

4 同位体
5 コバルト爆弾
6 出典
7 関連項目


歴史[編集]

1735年、スウェーデンのイェオリ・ブラント (Georg Brandt) により発見[2]。コバルトという名称と元素記号は、ドイツ語で地の妖精を意味するコーボルト (kobold または kobalt) に由来する。コバルト鉱物は冶金が困難なため、16世紀頃のドイツでは、コーボルトが坑夫を困らせるために魔法をかけたものと考えられていた。

産出地[編集]

この金属は、日本国内において産業上重要性が高いものの地殻存在度が低く供給構造が脆弱である。日本では国内で消費する鉱物資源の多くを他国からの輸入で支えている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として国内消費量の最低60日分を国家備蓄すると定められている。

主要産出国は以下の通り(2011年実績)[3]。特にコンゴ民主共和国の産出量は多く、年間産出量の53%を占める。
コンゴ民主共和国
カナダ
中華人民共和国
ロシア
ザンビア
オーストラリア

用途[編集]

合金材料[編集]

単体金属としてのコバルトの用途はほとんどないが、、主に合金として重要であり工業的に利用される。初期のコバルト合金は、高速度工具鋼にコバルトを添加した超高速度工具鋼に用いられた。また切断工具材料としてそれまでの合金に添加されることで、コバルトの需要は増していった。現在、ニッケル・クロム・モリブデン・タングステン、あるいはタンタルやニオブを添加したコバルト合金は高温でも磨耗しにくく、腐食にも強いため、ガスタービンやジェットエンジンといった、高温で高い負荷が生ずる装置などに用いられているほか、溶鉱炉や石油化学コンビナートなどでも十分に役割を果たす。またステライトに代表される、コバルト・クロム・タングステンあるいはモリブデン・炭素を使った4元系の合金は、磨耗に強く、表面強化が必要となる工業分野において幅広く利用され始めている。この合金は、鋳型として使用するほか、粉末として吹き付けることや溶射して利用することも可能であり、利用技術の発達によって、航空機の表面にコーディングすることなどをはじめ、広い分野で実用化が始まっている。コバルト-モリブデン-ケイ素合金は、耐摩耗性を有し摩擦係数が小さい(滑らかな)性質を示し、ベアリングの特徴を併せ持つなど、有用な特性を持った合金も開発されている。またコバルト-クロム-モリブデン合金とコバルト-クロム-タングステン-ニッケル合金は腐食しにくいため歯科医療や外科手術などでも使われている。近年では飛躍的に進歩したものとして、ニッケル-コバルト-モリブデン鋼の大幅な特性向上があげられる。非常に強い強度と高い靭性を持ったこの合金は、多くの分野での応用が期待されており研究が進んでいる。

加えてコバルト合金は他にも磁気材料として鉄とともに最も重要な役割を果たしてきた。コバルトを添加することにより、磁性やキュリー値が上昇するなど磁気材料としての性能が高まる。コバルトを使った合金のひとつであるアルニコ合金はかつては最も幅広く用いられていた永久磁気材料であった。サマリウムコバルト磁石はコバルトとサマリウムの金属間化合物で、強い保磁力がある。

化合物[編集]
ケイ酸コバルトとして入ることによって、ガラスなどが青色を呈する。
アルミン酸コバルトは青色の顔料であるコバルト青の原料となり、陶磁器の着色や絵具などに用いられている。他にも亜鉛とコバルトの複合酸化物やコバルト、ニッケル、チタン、亜鉛の複合酸化物はコバルト緑と呼ばれる緑色の顔料として利用される。
ヘキサニトロコバルト(III)酸カリウムはコバルト黄と呼ばれる黄色の顔料となり、その絵具はオーレオリンと呼ばれる。
塩化コバルト(II)は、シリカゲルに混ぜ、湿気の吸収具合を色の変化で示す指示薬として使われる。
コバルト酸リチウムは、リチウムイオン二次電池の正極材として用いられ、携帯電話など小型デジタル機器の急速な普及により需要が増大している。
ビタミンB12(コバラミン)は、その名の通り分子の中心にコバルトを持つ生理活性物質であり、欠乏すれば人体に深刻かつ不可逆的な損傷をもたらしうるビタミンである。すなわちコバルトは、人体にとって、ごく微量ながらも他の元素では代替できない必須元素である。

同位体[編集]

詳細は「コバルトの同位体」を参照

放射性同位体のコバルト60は、γ線源として用いられる。医療分野での放射線療法、ガンマ線滅菌、食品分野での食品照射(ジャガイモの発芽防止)、工業分野での非破壊検査などに広く利用されている。

コバルト爆弾[編集]

レオ・シラードにより、核開発への警告として発表された核爆弾の一種で、原子爆弾又は水素爆弾のまわりをコバルトで包んだものである。具体的には、核反応が充分に進行しないうちに核物質が四散して爆発が不完全に終わるのを防ぐ「タンパー」と呼ばれる重金属の覆いにコバルトを用いる。コバルトの原子量は59であるが、核反応により放出される中性子を取り込んでコバルト60が生成され、これが爆弾の爆発と共に広範囲にまき散らされる。コバルト60は半減期5.3年でγ線を放射するため、コバルト爆弾は放射線兵器となる。中性子爆弾と共に SF の第三次世界大戦など核戦争による世界破滅するジャンルでよく使用想定されていたが、中性子爆弾と違って、コバルト爆弾では半減期の長いコバルト60による汚染のため味方にも被害が及び、被災地の占領も困難であるなどの理由で実用化されることは無かった。

出典[編集]

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2.^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、151頁。ISBN 4-06-257192-7。
3.^ 「Mineral Commodity Summaries 2012[1]」p47、USGS

鉄(てつ、旧字体/繁体字表記:鐵、英: iron、羅: ferrum)は原子番号26の元素。元素記号は Fe。金属元素の一つで、遷移元素である。太陽や他の天体にも豊富に存在し、地球の地殻の約5%を占め、大部分は地核にある。古代には地表に落下してきた隕鉄が使われた。



目次 [非表示]
1 概要
2 性質 2.1 同位体
2.2 鉄の「臭い」

3 用途 3.1 産業

4 製法 4.1 産出
4.2 選鉱
4.3 製錬
4.4 新製鉄法 4.4.1 最近提案/実用化されている製鉄法


5 鉄利用の歴史 5.1 古代
5.2 古代・中世前期日本
5.3 中世後期・近世日本
5.4 近世ヨーロッパ

6 主な化合物
7 世界の鉄鋼生産
8 イメージ
9 生体内での利用 9.1 鉄分の役割
9.2 鉄分の吸収
9.3 鉄分の不足
9.4 鉄分の過剰
9.5 鉄分の許容量
9.6 鉄分の推奨量
9.7 その他

10 その他
11 脚注・出典
12 参考文献
13 関連項目
14 外部リンク


概要[編集]

元素記号の Fe は、ラテン語での名称「ferrum」に由来する。日本語では、鈍い黒さから「くろがね(黒鉄、黒い金属)」と呼ばれていた。

道具の材料として、人類にとって最も身近な金属元素の1つで、様々な器具・工具や構造物に使われる。鉄を最初に使い始めたのはヒッタイトである。ヒッタイト以前の紀元前18世紀ごろ、すでに製鉄技術があったことが発掘された鉄によって明らかになっている。鉄器時代以降、鉄は最も重要な金属の1つであり、産業革命以降、益々その重要性は増した。鉄は、炭素などの合金元素の存在により、より硬い鋼となり構造物を構成する構造用鋼などや、工具鋼などの優れたトライボロジー材料にもなる。

性質[編集]

純粋な鉄は白い金属光沢を放つが、イオン化傾向が高いため、湿った空気中では容易に錆を生じ、見かけ上黒ずんだり褐色になったりする。一方、極めて純度の高い (99.9999 %) 鉄は、比較的高いイオン化傾向を有するにも拘らず、塩酸や王水などの酸に侵されにくくなるうえ、液体ヘリウム温度(-268.95℃)でも失われないほどの高い可塑性を有するようになる[3]。この超高純度鉄は東北大学金属材料研究所の安彦兼次客員教授により、電解鉄を超高真空中で溶解し、電子銃を用いた浮遊帯溶融精製で処理することにより1999年に製造に成功し[4][5]、2011年に日本とドイツの標準物質データベースに登録された[6]。

固体の純鉄は、フェライト相(BCC構造)、オーステナイト相(FCC構造)、デルタフェライト相(BCC構造)の3つの相がある。911 °C以下ではフェライト、911 - 1392 °Cはオーステナイト、1392 - 1536 °Cはデルタフェライト、1536 °C以上は液体の純鉄となる。常温常圧ではフェライトが安定である。強磁性体であるフェライトがキュリー点を超えたところからオーステナイト領域までの770 - 911 °Cの純鉄の相は、以前はβ鉄と呼ばれていた。

栄養学的には、鉄は人(生体)にとって必須の元素である。鉄分を欠くと、血液中の赤血球数やヘモグロビン量が低下し、貧血などを引き起こす。腸で吸収される鉄は二価のイオンのみであり、3価の鉄イオンは2価に還元されてから吸収される。鉄分を多く含む食品はホウレンソウやレバーなどである。動物性の食物起源の鉄の方が吸収効率が高い。ただし、過剰に摂取すると鉄過剰症になることもある。

同位体[編集]

詳細は「鉄の同位体」を参照

自然の鉄の同位体比率は、5.845 %の安定な 54Fe、91.754 %の安定な 56Fe、2.119 %の安定な 57Fe、0.282 %の安定な 58Fe からなる。60Fe は不安定で比較的短寿命(半減期150万年)なため、自然の鉄中には存在しない。理論的に予測される 54Fe の二重β崩壊の検出は未確定である[7]。58Fe と 56Fe の原子核は非常に安定(核子1つあたりの質量欠損が大きい)であり、全ての原子核の中でそれぞれ2番目と3番目に安定である(最も安定な核種は62Ni)[8][9]。

しばしば全ての原子核の中で 56Fe が最も安定とされることがあるが、これは誤りである。このような誤解が広まった理由として、56Fe の天然存在比が 62Ni や 58Fe よりもはるかに高いことに加え、核子1つあたりの質量を比較した場合には 56Fe が全原子核中で最小となることが挙げられる。中性子の方が陽子よりもわずかに重いため、核子1つあたりの質量が最小となる核種と質量欠損が最大になる核種は一致しない。また、下記のように恒星の核融合の最終生成物が 56Fe であることを「鉄が最も安定であるため」と便宜的に説明されることがあることも誤解を招いていると考えられる。

58Fe よりも不安定な 56Fe のほうが存在比が高い理由は、星の元素合成の過程で質量数が4の倍数の核種が主に作られるためである。炭素より重い元素は 4He の融合(アルファ反応)によって作られるために生成する核種の質量数は4の倍数に偏る。太陽質量の4 - 8倍の質量を持った恒星ではアルファ反応は 56Ni まで進行するが、次の 60Zn の原子核は 56Ni よりも不安定なため、これ以上は反応が進行しない。56Ni は2度のβ崩壊を経て 56Fe を生成するため、恒星の核融合の最終生成物は 56Fe になる(詳しくはIa型超新星参照のこと)。鉄より重い核種も超新星爆発等であわせて生成するが、その生成プロセスは明確になっていない。

鉄の「臭い」[編集]

鉄棒などの鉄製品を手に持つと、手に特有の臭いが付く。これは俗に「金属臭」、「鉄の臭い」と呼ばれるが、原因は鉄そのものではない(鉄は常温では揮発しない)。研究により、人体の汗に含まれる皮脂分解物と鉄イオンが反応して生じる炭素数7-10の直鎖アルデヒド類や1-オクテン-3-オンなどの有機化合物、そしてメチルホスフィン・ジメチルホスフィンなどのホスフィン類がこの臭いの原因であることが確認されている[10][11]。

用途[編集]

産業[編集]





セヴァーン川にかかるコールブルックデール橋。世界初の鉄橋とされる。
安価で比較的加工しやすく、入手しやすい金属であるため、人類にとって最も利用価値のある金属元素である。特に産業革命以後は産業の中核をなす材料であり、「産業の米」などとも呼ばれ、「鉄は国家なり」と呼ばれる程、鉄鋼の生産量は国力の指標ともなった。この為、鉄鋼産業には政府の桿入れも大きく、第二次世界大戦後の世界的な経済発展にも大きく影響している。現在においても工業生産されている金属の大半は鉄鋼であり、鉄を含まない金属は非鉄金属と呼ばれる。

鉄は、炭素をはじめとする合金元素を添加することで鋼となり、炭素量や焼入れなどを行うことなどで硬度を調節できる極めて使い勝手の良い素材となる。鋼は古くから刃物の素材として使われ、ほとんどの機械は鉄鋼を主な素材とする。さらに鉄鋼は、鉄道レールの素材となるほか、鉄筋や鉄骨、鋼矢板などとして建築物や土木構築物の構造用部材に使われ大量に消費されている。

鉄に炭素とさまざまな微量金属を加えることで、多様な優れた特性を持つ合金鋼が生み出される。鉄とクロム・ニッケルの合金であるステンレス鋼は腐食しにくく強度が高く、なおかつ見た目に美しく比較的安価な合金として知られる。このため、ステンレス鋼に加工された鉄は、液体や気体を通すパイプ、液体や粉体を貯蔵するタンクや缶、流し台、建築資材などにも用いられるほか、鍋や包丁などの生活用具、家電製品、鉄道車両、自動車部品、産業ロボットなど、あらゆる分野に利用されている。また、工具鋼は固体材料の中で最も強度増幅能力が高く超硬材料と比べても高い曲げ強度を有するため、不変形特性が重要でかつ加工形状の自由度が要求される金型に多用される。金属材料で最も熱膨張係数が低いインバー合金、最強の保磁力を持つ磁性材料(ネオジム磁石)も鉄を含む。

他にも、鉄化合物はインクや絵具などの顔料として、赤色顔料のベンガラや青色顔料のプルシアンブルーなどとして使われる。

鉄は強い磁性を持つため、不燃物からの回収が容易であり、再利用率も高い。屑鉄として回収された鉄は、電気炉で再び鉄として再生される。

製法[編集]

産出[編集]

詳細は「鉄鉱石」を参照

大規模な鉄鉱床は、光合成により酸素単体が大量に発生したことにより、海水中に溶存しイオン化していた鉄が、酸化鉄として沈殿したことにより産み出されたと言われている。

選鉱[編集]

詳細は「選鉱」を参照

製錬[編集]





宋応星が著した「天工開物」の1頁。攪拌精錬法による製鉄方法を解説している。
鉄の製錬はしばしば製鉄と呼ばれる。簡単にいえば、鉄鉱石に含まれる様々な酸化鉄から酸素を除去して鉄を残す、一種の還元反応である。アルミニウムやチタンと比べて、化学的に比較的小さなエネルギー量でこの反応が進むことが、現在までの鉄の普及において決定的な役割を果たしている。この工程には比較的高い温度(千数百度)の状態を長時間保持することが必要なため、古代文化における製鉄技術の有無は、その文化の技術水準の指標の1つとすることができる。

製鉄は2つ、もしくは加工まで加えた3つの工程からなる。鉄鉱石とコークスから炭素分の多い銑鉄を得る製銑、銑鉄などから炭素を取り除き炭素分の少ない鋼を作る製鋼、さらに圧延である[12]。製銑には古くは木炭が使われていたが、中国では、前漢時代に燃料として石炭の利用が進み、更に石炭を焼いて硫黄などの不純物を取り除いたコークスを発明、コークスを使った製鉄が始められた[13]。文献記録としては4世紀の北魏でコークスを使った製鉄の記録が最も早い[14]。以来、華北では時代と共にコークス炉が広まり北宋初期には大半がコークス炉となった。その1000年以上の後、森林が減ったことから1620年頃にイギリスのダッド・ダドリー(英語版) (Dud Dudley) も当時安価に手に入った石炭を使うことを考えて研究を進めた。石炭には硫黄分が多く、そのままでは鉄に硫黄が混ざり使い物にならなかったので、ダッドは石炭を焼いて硫黄などの不純物を取り除いたコークスを発明し、1621年にコークスを使った製鉄方法の特許を取った。しかし1709年からエイブラハム・ダービー(英語版)が大々的にコークスで製鉄することを始めるまでは、コークスを使った製鉄の使用は少数にとどまっていた[15]。

日本では古来からたたら吹き(鑪吹き、踏鞴吹き、鈩吹き)と呼ばれる製鉄技法が伝えられている。現在では島根県安来市の山中奥出雲町等の限られた場所で日本刀の素材製造を目的として半ば観光資源として存続しているが、それと並存し和鋼の進化の延長上にもある先端的特殊鋼に特化した日立金属安来工場がある。鉄鉱石を原料とする日本の近代製鉄は1858年1月15日(旧暦1857年(安政4年)12月1日)に始まったと言われ、幕末以降欧米から多数の製鉄技術者が招かれ日本の近代製鉄は急速に発展した。現在の日本では、鉄鉱石から鉄を取り出す高炉法とスクラップから鉄を再生する電炉法で大半の鉄鋼製品が製造されている。高炉から転炉や連続鋳造工程を経て最終製品まで、一連の製鉄設備が揃った工場群のことを銑鋼一貫製鉄所(もしくは単に製鉄所)と呼び、臨海部に大規模な製鉄所が多数立地していることが、日本の鉄鋼業の特色となっている。日本では電炉法による製造比率が粗鋼換算で30 %強を占める。鉄が社会を循環する体制が整備されており、鉄のリサイクル性の高さと日本における鉄蓄積量の大きさを示している。鉄スクラップは天然資源に乏しい日本にとって貴重な資源であり、これをどう利用するかが、注目されるべき課題とされている。

新製鉄法[編集]





イギリスのコークス炉を用いた製鉄工場の絵。フィリップ・ジェイムズ・ド・ラウザーバーグ画(1801年)




製鉄百年記念切手 (日本)
従来の高炉法の場合、下記の欠点があった。
銑鉄を製造するだけでも高炉のほかにコークス炉(石炭を乾留)・焼結炉が必要であり、また反応速度も8時間かかり、巨大設備投資が必要な割りに生産量が少ない。
コークスを製造できる石炭は石炭の中の極一部である粘結炭(原料炭)だけであり、もともと価格が高かった。近年資源メジャーによる原料炭鉱山の買占めのため、単年度で原料炭価格が2倍に上昇するなど大きなコスト上昇要因となっている。高炉法に羽口からの非粘結炭(一般炭)吹き込みを併用しても、価格の安い一般炭の使用比率は全石炭使用量の25 - 30 %程度が限界である。
鉄鉱石価格は塊鉱石が高価で粉鉱石が安価であるが、高炉で粉鉱石を使う場合焼結炉で塊に焼き固めなければならない。その結果、焼結炉が必要で焼結工程で燃料を消費してコストが掛かるのみならず二酸化炭素を発生させてしまう。
酸素濃度を多少増やす工夫もされているが基本は空気を吹き込む製鉄法である。反応速度が遅いほか、C1化学の立場からは製鉄排ガスに窒素が混入する事が、製鉄排ガスの化学工業的・商業的価値を落とし、製鉄排ガス(合成ガス)を原料とした大規模な自動車燃料合成、燃料自給率向上を妨げているとの批判もある。

最近提案/実用化されている製鉄法[編集]
溶融還元製鉄法溶融還元炉では粉状の一般炭を酸素吹きで燃焼させ高温の一酸化炭素ガスを発生させ、予備還元した粉鉄鉱石を一気に還元し溶かして溶けた銑鉄を造る。溶融還元炉を出た一酸化炭素ガスは流動床/回転炉/シャフト炉で鉄鉱石を予備還元する。予備還元炉を出た一酸化炭素ガスは石炭乾燥空気の加熱などを経て、発電やスラブの再加熱、化学原料などに使用される。利点コークス炉、焼結炉が不要で、反応速度が速く比較的小さな溶融還元炉で大きな生産能力を持つために製鉄所新設の設備投資が高炉法より安くつく。
一般炭100 %使用可能なため、資源メジャーの原料炭値上げで大きな損害を出さなくて済む。製鉄だけを目的とするなら半無煙炭などの炭素含有量の高い石炭を使えば、投入原単位を節約できるが、副生ガスを化学工業原料として販売できる立地なら、より安価な高揮発分石炭でガス産出を増やす事もできる。
予備還元炉の一部に流動床か回転炉を使えば、安価な粉鉱石も使える。
酸素製鉄の場合、発生する還元ガスである一酸化炭素に窒素が混入しないため、燃料としてもカロリーが高いばかりでなく、C1化学の出発原料である合成ガスとして活用できる。日本の製鉄石炭消費は年間1億tに及び、その排ガスを活用してフィッシャー・トロプシュ法で軽油を生産したり、メタノールを生産した場合数千万tの自動車燃料を自給できる可能性があると言われている。
鉄ガス併産・化学とのコプロダクション(資源エネルギー庁省エネルギー技術戦略 9P参照)
課題日米欧とも蒸留設備は過剰気味である。日米欧とも鉄鋼需要は大きな成長はない。需要の増大している中国インドでは国産鉄鋼の価格が安く冷延鋼板より上流の製品では日米欧製品は価格が高すぎて売れないので、日本鉄鋼メーカーの設備投資は亜鉛/錫メッキ鋼板設備など下流高級用途に集中している。中国では熱効率が悪く二酸化炭素排出が多い中小高炉が乱立する様相を示しており、地球環境の視点からは、製鉄企業の適正な合併指導と新製鉄法の技術供与が望まれるが、それは中国インド産鋼鉄の価格競争力を高め、日本産鉄鋼の価格競争力が地盤沈下するブーメラン効果の原因ともなりうる(中国鉄鋼生産の現状と神戸製鋼の対中技術供与)。
鉄鋼会社が溶融還元法に転換すると、現在コークスを鉄鋼企業に納品している企業はコークス炉の経営が立ち行かなくなる。そのため、現在稼動中のコークス炉が40年の寿命を迎える2015年まで溶融還元製鉄の導入は困難と見られていたが、昨今の原料炭価格の急激な上昇、韓国浦項総合製鉄の溶融還元製鉄炉操業開始など、切替え前倒しが必要になるかもしれない事象が起きている。
技術的には酸化鉄による炉壁の溶損の解決が課題の一つのようである。
酸素製鉄法は膨大な酸素を消費する。東京湾・伊勢湾・大阪湾のような液化天然ガスの大消費地であれば液化天然ガスの冷熱利用で低コストに酸素を量産できる可能性があるが、そうでない場合、空気の分留によって酸素を製造するのに多大な電力を消費する。
炭材内装塊の高速自己還元技術粉炭と粉鉱石を加熱成型した塊を高炉に装填した場合、コークスと塊鉱石を交互装填した場合の5倍の速さで還元反応が進む。また同様の混合ペレットを溶融還元炉に使用した場合、炉壁溶損原因となる FeO の溶出が3 %で済むという。回転炉によるITmk3法も後述のフロートスメルター法も同技術を使用しているとのこと。フロートスメルター法粉炭に窪みを作り、粉炭と粉鉱石と石灰を混合したものを窪みに充填し周囲の石炭を燃焼して加熱する。特徴50万トン/年規模の小型プラントに適する。炭素の酸化発熱は炭素>一酸化炭素より一酸化炭素>二酸化炭素の発熱量が大であり、石炭を CO2 まで酸化することで石炭の使用原単位が減り、CO2 の半減効果が得られる。ただし、発生するガスは二酸化炭素なので化学合成には使えない。

鉄利用の歴史[編集]

古代[編集]

今のところ製鉄技術が普及し始めたのは紀元前25世紀頃のアナトリアと考えられているが、鉄の利用自体はそれよりも古い。メソポタミアでは紀元前3300年から紀元前3000年頃のウルク遺跡から鉄片が見つかっている。また、エジプトのゲルゼーからも、ほぼ同時期の装飾品が見つかっている。これらの鉄器はニッケルの含有量から隕鉄製と考えられている。鉄利用の開始は更に有史以前に遡ると思われるが、詳細はわかっていない。カマン・カレホユック遺跡やアラジャホユック遺跡、紀元前20 - 18世紀頃のアッシリア人の遺跡からも当時の鍛鉄が見つかっている。

古代・中世前期日本[編集]

鉄器は紀元前3世紀頃 青銅とほぼ同時期に日本へ伝来した。当初は製鉄技術はなく輸入されていた。

青銅は紀元前1世紀頃から日本で作られるようになり、製鉄は弥生時代後期後半(1 - 3世紀)頃から北部九州のカラカミ遺跡(壱岐市)や備後の小丸遺跡(三原市)で開始され、それから時代が下り出雲地方や吉備でも製鉄が行われるようになった。総社市の千引かなくろ谷遺跡は6世紀後半の製鉄炉跡4基、製鉄窯跡3基が見つかっている。鞴(ふいご)を使い、原料は鉄鉱石である。製鉄炉の作り方は、これまで朝鮮半島からの導入と推定されていた[16]が、近年の研究により、中国北東部から伝わったとされている。また日本人支配地域であった任那においても日本に遅れて製鉄が開始され、鉄製品の生産拠点となった。

日本の製鉄法はある時期以降は「たたら」と呼ばれる一種の鋼塊炉 (bloomery) を用いた、砂鉄を原料とする直接製鉄法である。直接製鉄法とは、砂鉄または鉄鉱石を低温で還元し、炭素の含有量が極めて低い錬鉄を生成するもので、近代の製鉄法が確立する前は(漢代以降の中国などの例外を除いて)広く世界的に見られた方法である。日本の製鉄法の特色は、鉄の含有量が高い砂鉄を原料に用いていることであろう。 古代、中世においては露天式の野だたら法が頻繁に行われていたが、16世紀中葉から全天候型で送風量を増加した永代たらら法に発展した。この古代以来の日本独自のたたら製鉄法では、玉鋼や包丁鉄といった複数の鉄が同時に得られるために、それが後の日本刀を生み出す礎となった。以後、出雲は一貫として日本全国に鉄を供給し、現在でも出雲地方にその文化の名残が認められ、日立金属などの高級特殊鋼メーカーへと変貌を遂げている。

農器具が鉄器で作られるようになると、農地の開拓が進んだ。中世日本では鉄は非常に貴重であり、鉄製の農機具は政府の持ちもので、朝借りて来て夕方には洗って返すことになっていた。私有地の耕作には鉄の農機具を使う事が出来なかったため、良い農地は政府の所有であった。すなわち、中世の日本の貴族は鉄の所有権を通して遠隔地にある荘園を管理した[17]。

11世紀頃から鉄の生産量が増えると、鉄が安価に供給されるようになった。個人が鉄の農機具を持つ事が出来るようになると、新しい農地が開墾されるようになった。

中世後期・近世日本[編集]





暦応5年(1342年)鋳物師の認可状 巻末




官営八幡製鉄所
戦国時代にあった日本では、1550年代頃に銃器の生産が普及した。鉄の技術者は鍛冶師、鋳物師と呼ばれた。また、永代たたらの普及により生産量が爆発的に増加したため、生産性の観点から歩止まりの良い砂鉄が採れる中国地方や九州地方への産地の集中が進むこととなった。

当時、鉄の精錬には木炭が使われた(ただし、宋代以降の中国においては石炭の利用が始まる)。日本の森林は再生能力に優れ、幸いにも森林資源に枯渇することが無かった。豊富な砂鉄にも恵まれており、鉄の生産量と加工技術では世界で抜きん出た存在になった。

中世後期から江戸時代にかけて、刀剣は輸出商品として長崎から輸出された。輸出先は中国やヨーロッパである。今日でもヨーロッパ各地の博物館で当時の貴族たちが収集した日本刀を見ることができる。明は一貫して日本との交易を禁じる政策を取ってきたが、鄭若曽の『籌海図編』には倭寇が好んだもの(倭好)として「鉄鍋」が挙げられ、謝杰の『虔台倭纂』には「鉄鍋重大物一鍋価至一両銭、重古者千文価至四両、小鍋曁開元永楽銭二銭、及新銭不尚也」(上巻「倭利」)として記し、日本人が小鍋でも永楽銭2銭を出して手に入れようとした事が記されている。これについて、太田弘毅は16世紀に西日本、特に倭寇とのつながりが強い瀬戸内海沿岸や九州に新興の日本刀産地が発生している事を指摘し、戦国時代に増大する日本刀需要(軍事的、あるいは密輸出用として)を賄うために中国から鉄鍋などの中古の鉄を獲得したと論じる[18]。また、16世紀の明の人で倭寇事情を調べるために日本を訪れて帰国後に『日本一鑑』を著した鄭舜功によれば、「其鉄既脆不可作、多市暹羅鉄作也、而福建鉄向私市彼、以作此」(巻二「器用」)と述べて日本の鉄砲に使われていた鉄がシャムや福建からの密輸品(収奪を含む)であったことを指摘している。更に近年において佐々木稔らによって行われた日本産の鉄砲などに用いられた鉄の化学分析によれば、日本の砂鉄には含まれていない銅やニッケル、コバルトなどの磁鉄鉱由来成分の含有が確認されており、佐々木は近世以前の日本国内において磁鉄鉱の鉱床開発が確認できない以上、国外から輸入された銑鉄などが流通していたと考えざるを得ないと指摘する[19]。

壊れた鉄製品を修復する需要があり、鉄の加工技術は日本各地で一般化していった。鍛接・鋳掛けの他にも、金属の接合にはろう付け・リベットが使われた。

鋳物業の盛んな富山県高岡市にも鋳物師の伝統である高岡銅器があり、この地域には古い技術がよく伝承されている。現在でもYKK、新日軽といった金属加工関係の大企業の工場が富山県に多くあるのはこの伝統と無縁ではない。

江戸幕末には、艦砲を備えた艦隊の武力を背景に開国を迫る西洋に対抗するために、大砲鋳造用の反射炉が各地に建造された。これらは明治時代になるとより効率の良い高炉にとって代わられた[20]。

近世ヨーロッパ[編集]

鉄を生産している所では森林破壊が深刻で、16世紀に鉄の生産が増加したイギリスでは、17世紀には鉄生産のための森林破壊が深刻となって木炭が枯渇し始め、製鉄の中心地だったウィールドでは17世紀末になると生産量が盛時だった17世紀前半の半分以下まで落ち込み、18世紀中葉には1/10まで減少した。18世紀後半にはダービーでコークスを使った精錬が始まる。コークスは石炭を蒸し焼きにしたもので、不純物が少なく鉄の精錬に使うことができ、火力も強かった。コークスの発明により木材資源の心配が無くなり、鉄の生産量も増加した。

主な化合物[編集]
塩化鉄(II) (FeCl2)
塩化鉄(III) (FeCl3)
酸化鉄(II) (FeO)
四酸化三鉄 (Fe3O4)
硫化鉄(II) (FeS)
硫酸鉄(II) (FeSO4)
硫酸鉄(III) (Fe2(SO4)3)
ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム (K4[Fe(CN)6])
ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム (K3[Fe(CN)6])
その他についてはCategory:鉄の化合物を参照。

世界の鉄鋼生産[編集]

世界全体では、15.5億トンの粗鋼が生産されている(2012年)。[21]。

国別粗鋼生産量ベスト10(2012年)…1位中国7.17億トン、2位日本1.07億トン、3位アメリカ0.89億トン、4位インド0.77億トン、5位ロシア0.71億トン、6位韓国0.69億トン、7位ドイツ0.43億トン、8位トルコ0.36億トン、9位ブラジル0.35億トン、10位ウクライナ0.33億トン。

世界の企業別粗鋼生産量ベスト10(2012年)…1位アルセロールミッタル(ルクセンブルク)8,800万トン、2位河北鋼鉄集団(中国)6,900万トン、3位新日鉄住金(日本)4,600万トン、4位鞍鋼集団(中国)4,500万トン、5位宝鋼集団(中国)4,300万トン、6位ポスコ(韓国)3,800万トン、7位武漢鋼鉄(中国)3,600万トン、8位江蘇沙鋼集団(中国)3,200万トン、9位首鋼集団(中国)3,100万トン、10位JFEスチール(日本)3,000万トン。

イメージ[編集]

西洋占星術や錬金術などの神秘主義哲学では、軍神マルスと関連づけられ、その星である火星を象徴する。これは、古くから鉄が武器の材料として利用された事や、鉄錆がくすんだ血のような色である事に由来すると思われる。また、妖精は冷たい鉄を嫌うという伝説があり、ファンタジー小説において魔法的なものとの相性が悪いとされる。

また上記のような理由から「鉄」は「強固なもの」の代名詞となり「鉄の○○」などといえば「強固で倒しがたいもの」という比喩となる(例:鉄のカーテン、鉄の女、鉄十字、鉄人)。

一方の日本では、鉄は邪悪なものを取り除く力を持つと考えられていた時代もあった。たとえば『遠野物語』では、怪力の河童を鉄の針で退治したり、山中で身の危険を感じた猟師が魔除け用に持っていた鉄の弾を撃つというエピソードがある[要出典]。

「鉄」の旧字体(繁体字)である「鐵」は「金・王・哉」に分解できることから、本多光太郎は「鐵は金の王なる哉」と評した。なお、「鉄」は「鐵」の略字という説が有力であるが、使用頻度が高いために失われやすい点から、「鐵」の誤字「鉄」が略字になったという説がある。又、「鉄」以外にも「wikt:銕」という略字もある。

しかし、「鉄」の表記は「金を失う」となるため、製鉄業者・鉄道事業者などでは忌み嫌う傾向も見られ、あえて繁字体の「鐵」を使用する会社(新日本製鐵、大井川鐵道、和歌山電鐵など)や、「金が矢のように入る」とするため本来は鏃の意味を持つ「wikt:鉃」の字を「鉄」の代替としてロゴで使用する会社(四国旅客鉄道を除くJR各社)も存在する。

鉄はその用途から、機械や人工物を象徴する元素として用いられることも多い。対する人間・生物の象徴としては、有機化合物の主要元素である炭素(元素記号C)が用いられる。

生体内での利用[編集]

鉄分の役割[編集]

鉄の生物学的役割は非常に重要である。赤血球の中に含まれるヘモグロビンは、鉄のイオンを利用して酸素を運搬している[22]。ヘモグロビン1分子には4つの鉄(U)イオンが存在し、それぞれがポルフィリンという有機化合物と錯体を形成した状態で存在する[23]。この錯体はヘムと呼ばれ、ミオグロビン、カタラーゼ、シトクロムなどのタンパク質にも含まれる[24]。ヘモグロビンと酸素分子の結合は弱く、筋肉のような酸素を利用する組織に到着すると容易に酸素を放出することができる[23]。

フェリチンは鉄を貯蔵する機能を持つタンパク質ファミリーである。その核は鉄(V)イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、リン酸イオンからなる巨大なクラスター(オキソヒドロキソリン酸鉄)で、分子あたり4500個もの鉄イオンを含む[23]。

おもな鉄含有タンパク質[23]


タンパク質名

1分子中の鉄原子数

機能

ヘモグロビン 4 血液中のO2輸送[22]
ミオグロビン 1 骨格筋細胞中のO2貯蔵[22]
トランスフェリン 2 血液中のFe3+輸送[25]
フェリチン 4500以下 肝臓、脾臓、骨髄などの細胞中でのFe3+貯蔵[25]
ヘモシデリン 103〜104 Feの貯蔵
カタラーゼ 4 H2O2の分解
シトクロムc 1 電子移動
鉄-硫黄タンパク質 2〜8 電子移動

鉄分の吸収[編集]

肉や魚のミオグロビンやヘモグロビンに由来するポルフィリンと結合した鉄はヘム鉄と呼ばれ、非ヘム鉄と比較して2-3倍体内への吸収率が高い。非ヘム鉄は、ビタミンCと一緒に摂取すると、水溶性の高いFe2+に還元されて体内への吸収が促進されるが、玄米などの全粒穀物に含まれるフィチン酸、お茶や野菜類に含まれるポリフェノールなどは非ヘム鉄の吸収を阻害する[26][27]。

鉄分の不足[編集]

体内の鉄分が不足すると、酸素の運搬量が十分でなくなり鉄欠乏性貧血を起こすことがあるため、鉄分を十分に補充する必要がある。鉄分は、レバーやホウレンソウなどの食品に多く含まれ、その他に鉄分を多く含む食品は、ひじき、海苔、ゴマ、パセリ、アサリ、シジミなどである。これらを摂取することで鉄分の不足が改善される。

また鉄の溶解度が小さい土壌で育てられる植物などでは、鉄吸収が不足することで植物の成長が止まり黄化することがある。この症状は、土壌に水溶性型の鉄肥料を与えるなどすると一時的に改善されるが、植物中に含まれる鉄量が増えるわけではなく、ビタミンAの含有量が増えることがわかっている。したがって、鉄肥料を与えることは植物中の鉄分ではなくビタミンAを増やすことに役立つ。植物の鉄欠乏を長期的に改善するには、土壌に大量の硫黄を投入するなどして、土壌質を変える必要がある。なお陸上植物に限らず、藻類も微量の鉄を必要とする。

鉄分の過剰[編集]

一方で、過剰な鉄の摂取は生体にとって有害である。自由な鉄原子は過酸化物と反応しフリーラジカルを生成し、これが DNA やタンパク質、および脂質を破壊するためである。細胞中で鉄を束縛するトランスフェリンの量を超えて鉄を摂取すると、これによって自由な鉄原子が生じ、鉄中毒となる。余剰の鉄はフェリチンやヘモジデリンにも貯蔵隔離される。過剰の鉄はこれらのタンパク質に結合していない自由鉄を生じる。自由鉄がフェントン反応を介してヒドロキシラジカル(OH•)等の活性酸素を発生させる。発生した活性酸素は細胞のタンパク質やDNAを損傷させる。活性酸素が各臓器を攻撃し、肝臓には肝炎、肝硬変、肝臓がんを、膵臓には糖尿病、膵臓癌を、心臓には心不全を引き起こす[28]。ヒトの体には鉄を排出する効率的なメカニズムがなく、粘膜や粘液に含まれる1-2mg/日程度の少量の鉄が排出されるだけであるため、ヒトが吸収できる鉄の量は1-2mg/日程度と非常に少ない[28]。しかし血中の鉄分が一定限度を超えると、鉄の吸収をコントロールしている消化器官の細胞が破壊される。この為、高濃度の鉄が蓄積すると、ヒトの心臓や肝臓に恒久的な損傷が及ぶ事があり[29]、最悪の場合は死に至ることもある。鉄中毒の治療には、デフェロキサミンが投与される。

鉄分の許容量[編集]

米国科学アカデミーが公表している DRI 指数によれば、ヒトが1日のうちに許容できる鉄分は、大人で45 mg、14歳以下の子供は40 mgまでである。摂取量が体重1 kgあたり20 mgを超えると鉄中毒の症状を呈する。鉄の致死量は体重1 kgあたり60 mgである。6歳以下の子供が鉄中毒で死亡する主な原因として、硫酸鉄を含んだ大人向けの錠剤を飲み過ぎるケースがあげられる。

なお、遺伝的な要因により、鉄の吸収ができない人々もいる。第六染色体のHLA-H遺伝子に缺陥を持つ人は、過剰に鉄を摂取するとヘモクロマトーシスなどの鉄分過剰症になり、肝臓あるいは心臓に異変を来す事がある。ヘモクロマトーシスを患う人は、白人では全体の0.3 - 0.8 %と推定されているが、多くの人は自分が鉄過剰症であることに気づいていないため、一般に鉄分補給のための錠剤を摂取する場合は、特に鉄欠乏症でない限り、医師に相談することが望ましい。

鉄分の推奨量[編集]

鉄分の摂取についての必要量、推奨量は、以下の式で表される。
推定平均必要量=基本的鉄損失 ÷ 吸収率(0.15)
推定平均推奨量=推定平均必要量 × 1.2
20歳前後の男性の鉄分損失量は0.9 mg/日であるので、必要量は6.0 mg/日、推奨量は7.2 mg/日、となる。
月経のある女性の鉄分の必要量は、以下の式で表される。
推定平均必要量=(基本的鉄損失+月経血による鉄損失(0.55 mg/日)) ÷ 吸収率(0.15)
20歳前後の女性の鉄分損失量は0.76 mg/日であるので、必要量は8.7 mg/日、推奨量は10.5 mg/日、となる。
鉄分の耐用上限量は、0.8 mg/kg体重/日とされる。70kgの成人で56 mg/日が上限となる[30]。

その他[編集]

鉄の同位体の一種である 59Fe は、鉄動態検査に用いられる。

その他[編集]
日本では第二次世界大戦中に「夢の製鉄法」と呼ぶ騒動があった。ある発明家が畑に砂鉄を盛り、さらにアルミニウムの粉末を加え燃焼させて純鉄を作った。この手法により高価な溶鉱炉を要する事なく、ふんだんにある砂鉄から武器の元となる鉄を精製できると大日本帝国陸軍は色めき立った。その実態は以前から知られたテルミット法であり、中谷宇吉郎は「1台の戦車を作るのに100台の飛行機を潰すような話」と評した[31]。

脚注・出典[編集]

[ヘルプ]

1.^ Demazeau, G.; Buffat, B.; Pouchard, M.; Hagenmuller, P. (1982). “Recent developments in the field of high oxidation states of transition elements in oxides stabilization of Six-coordinated Iron(V)”. Zeitschrift für anorganische und allgemeine Chemie 491: 60. doi:10.1002/zaac.19824910109.
2.^ R. S. Ram and P. F. Bernath (2003). Journal of Molecular Spectroscopy 221: 261. http://bernath.uwaterloo.ca/media/266.pdf.
3.^ 超高純度鉄
4.^ 金属の超高純度化を基に高温金属材料開発、東北大学金属材料研究所ナノ金属高温材料学寄附研究部門
5.^ 安彦兼次、「究極の超高純度金属」、日経サイエンス2000年10月号
6.^ 「東北大の純鉄が標準物質に 日独で登録」、2011年1月16日、日本経済新聞
7.^ Audi, Bersillon, Blachot, Wapstra. The Nubase2003 evaluation of nuclear and decay properties, Nuc. Phys. A 729, pp. 3-128 (2003).
8.^ M. P., Fewell (7 1995). “The atomic nuclide with the highest mean binding energy”. American Journal of Physics 63 (7): 653-658. doi:10.1119/1.17828 2008年2月17日閲覧。.
9.^ R. Nave, Carl (2005年). “The Most Tightly Bound Nuclei” (English). Hyperphysics. ジョージア州立大学(Georgia State University). 2008年2月17日閲覧。
10.^ A 'metallic' smell is just body odour Nature News
11.^ 鉄のにおいの正体
12.^ 萩原芳彦 監修 『ハンディブック 機械 改訂2版』 オーム社 2007年3月20日 p.93
13.^ 鄭州古栄鎮遺跡出土鋳造所
14.^ 翻道安『西域記』
15.^ ロジャー・ブリッジマン『1000の発明・発見図鑑』丸善株式会社 平成15年11月1日 p.89
16.^ 狩野久「吉備の国づくり」 藤井学・狩野久・竹林栄一・倉地克直・前田昌義『岡山県の歴史』山川出版社 2000年 23-24ページ
17.^ 司馬遼太郎「この国のかたち」文春文庫 p.113-120
18.^ 太田弘毅「倭寇が運んだ輸入鉄―「鉄鍋」から日本刀製作へ―」(所収:明代史研究会明代史論叢編集委員会 編『山根幸夫教授退休記念明代史論叢』上巻(汲古書院、1990年) P521-538)
19.^ 佐々木稔/編『火縄銃の伝来と技術』(吉川弘文館、2003年 ISBN 978-4-642-03383-1)P84-87・191-201ほか。
20.^ 鉄と生活研究会編 『鉄の本』 2008年2月25日初版1刷発行 ISBN 978-4-526-06012-0
21.^ 『日本の鉄鋼業』(日本鉄鋼連盟、2013年)
22.^ a b c 八木康一編著 『ライフサイエンス系の無機化学』 三共出版、 p.155-159、1997年、ISBN 4-7827-0362-7
23.^ a b c d Geoff Rayner-Canham, Tina Overton『レイナーキャナム 無機化学(原著第4版)』西原寛・高木繁・森山広思訳、p.355-356、2009年、東京化学同人、ISBN 978-4-8079-0684-0
24.^ 八木康一編著 『ライフサイエンス系の無機化学』 三共出版、 p.95、1997年、ISBN 4-7827-0362-7
25.^ a b 八木康一編著 『ライフサイエンス系の無機化学』 三共出版、 p.163、1997年、ISBN 4-7827-0362-7
26.^ 「健康食品」の安全性・有効性情報「鉄解説」
27.^ 専門領域の最新情報 最新栄養学 第8版:建帛社
28.^ a b 輸血後鉄過剰症の診療ガイド
29.^ 肝臓病食における鉄制限 (群馬県肝臓病食懇話会記録 (PDF)
30.^ 日本人の食事摂取基準(2010年)6.2.微量ミネラル 6.2.1.鉄(Fe)
31.^ 読売新聞「編集手帳」2009年5月21日13S版1面から要約

参考文献[編集]
『メイド・イン・ジャパン-日本製造業変革への指針-』(ダイヤモンド社、1994年)
『産業技術短期大学大学案内2011』(産業技術短期大学、2010年)
『産業技術短期大学五十年のあゆみ』(学校法人鉄鋼学園 産業技術短期大学、2012.4.25)
『日本の鉄鋼業』(日本鉄鋼連盟、2013年)

ほか

関連項目[編集]

ウィキクォートに鉄に関する引用句集があります。

ウィキメディア・コモンズには、鉄に関連するカテゴリがあります。
隕鉄

たたら吹き
たたら研究会
産業革命
溶接
鉄バクテリア
マルテンサイト
人造黒鉛電極
KEY to METALS - データベース
製鉄所
鉄鋼業
日本鉄鋼連盟
産業技術短期大学−日本の鉄鋼業界(日本鉄鋼連盟)が設立した大学。

マンガン

マンガン (英: manganese、羅: manganum) は原子番号25の元素。元素記号は Mn。日本語カタカナ表記での名称のマンガンは ドイツ語: Mangan をカタカナに変換したもので、日本における漢字表記の当て字は満俺である。



目次 [非表示]
1 性質
2 歴史
3 用途
4 産出
5 結晶構造
6 主な化合物
7 同位体
8 人体への影響 8.1 生理作用
8.2 中毒
8.3 酸素欠乏

9 出典
10 参考文献
11 関連項目


性質[編集]

銀白色の金属で、比重は7.2(体心立方類似構造)、融点は1244 °C。マンガン族元素に属する遷移元素。温度によりいくつかの同素体が存在し、常温常圧で安定な構造は立方晶系である。これは硬く非常に脆い。空気中では酸化被膜を生じて内部が保護され、赤みがかった灰白色となる。酸(希酸)には易溶であり、淡桃色の2価のマンガンイオン Mn2+(aq) を生成する。

比較的反応性の高い金属で粉末状にすると空気中の酸素、水などとも反応する。化合物は2〜7価までの原子価を取り得る(+2, +3, +4, +6, +7 が安定)。地球上には比較的豊富に存在するが、単体では産出しない。二酸化マンガンを触媒とする過酸化水素の水と酸素への分解反応は、日本の義務教育課程で触媒の実験の題材とされるため非常に有名である。

単体マンガン自体は常磁性であるが、合金にはホイスラー合金など強磁性を示すものがあり、さらに化合物には様々な磁気的性質を示すものがある。ビスマスとの合金は強磁性体として知られるほか、フェライトに添加することで様々な特性を付加する。

歴史[編集]

スウェーデンのカール・ヴィルヘルム・シェーレ (C.W. Scheele) が1774年に発見、同年ヨハン・ゴットリーブ・ガーン (J.G. Gahn) が単体を単離した[1]。

用途[編集]

一番有名な用途は、二酸化マンガンがマンガン乾電池やアルカリ乾電池の正極に使われる。また、リチウム電池の正極にも用いられ、リチウムイオン二次電池の正極材料として研究されている。 また、磁性材料として、マンガン、亜鉛、鉄を含む金属酸化物である MnZn フェライトがインダクタやトランスのコア材料として用いられている。

マンガン単体が金属材料として用いられることはほとんど無く、合金として、マンガン鋼の原料や、フェロマンガンとして鋼材の脱酸素剤・脱硫黄剤などに使用される。鉄鋼用途で耐磨耗性、耐食性、靭性を付加する為に、マンガン合金(フェロマンガン)や金属マンガンとしてマンガン分が添加される。

また、生物の必須元素としても知られており、硫酸マンガンなどの化合物は肥料としても用いられる。

産出[編集]

マンガンは単体としては産出せず、軟マンガン鉱 (MnO2)、菱マンガン鉱 (MnCO3) などとして産出する。深海底には、マンガン、鉄などの金属水酸化物の塊であるマンガン団塊(マンガンノジュール)として存在している。

戦前では日本国内でも製鉄用に採掘され、第二次世界大戦中には主に乾電池用としてマンガンを採掘する鉱山が多数開発された。とくに後者は日本各地で見られ、京都府中部(丹波地方)を中心に近畿地方に零細鉱山が集中して存在していた。しかし、1950年代以降の鉱物資源の輸入自由化によって激しい競争に晒され、全ての鉱山が1970年代までに閉山に追い込まれた。前者は東日本に多く(北海道上国鉱山、同大江鉱山など)、規模が比較的大きい事から1980年代まで存続したが、現在では岩手県の野田玉川鉱山において宝飾品材料としてバラ輝石が限定的・間欠的に採掘されている他は皆無である。

この金属は、日本国内において産業上重要性が高いものの、産出地に偏りがあり供給構造が脆弱である。日本では国内で消費する鉱物資源の多くを他国からの輸入で支えている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として国内消費量の最低60日分を国家備蓄すると定められている。

主要産出国は以下の通り(2011年実績)[2]。
南アフリカ共和国
中華人民共和国
オーストラリア
ガボン
インド
ブラジル

結晶構造[編集]

マンガンは温度により4つの相を持つ。
αマンガン742 °C以下で安定。単位胞あたり58個の原子を含む複雑な立方晶(体心立方格子類似構造)。原子の位置により4種類の異なるスピンを持ち、全体としては磁気モーメントを持たない、広義の反強磁性体であると考えられている(詳細はいまだ明らかになっていない)。βマンガン742-1,095 °Cで安定。単位胞あたり20個の原子を含む複雑な立方晶。常磁性体である。γマンガン1,095-1,134 °Cで安定。面心立方構造。反強磁性体である。δマンガン1,134-1,245 °C(融点)で安定。体心立方構造。常磁性体である。
主な化合物[編集]
過マンガン酸カリウム (KMnO4) - 酸化剤
二酸化マンガン (MnO2) - 触媒

同位体[編集]

詳細は「マンガンの同位体」を参照

人体への影響[編集]

生理作用[編集]

人体にとっての必須元素。骨の形成や代謝に関係し、消化などを助ける働きもある。一部では活性酸素対策としての必須ミネラルに挙げるものもいる。

不足すると成長異常、平衡感覚異常、疲れやすくなる、糖尿病(インシュリンの合成能力が低下するため)、骨の異常(脆くなる等)、傷が治りにくくなる、生殖能力の低下や生殖腺機能障害などが起こる。しかしマンガンは川など天然の水などに含まれ、上水道水としては多すぎてむしろ除去する場合があるなど、普通に生活していてマンガンが不足することはまずない。

中毒[編集]

マンガン鉱石精錬所作業員・れんが職人・鋼管製造業者など、過剰に曝露されるとマンガン中毒を起こす。

頭痛・関節痛・易刺激性・眠気などを起こし、やがて情動不安定・錯乱に至る。大脳基底核や錐体路も障害し、パーキンソニズム・ジストニア・平衡覚障害を引き起こすほか、無関心・抑うつなどの精神症状も報告されている。マンガン曝露から離れれば、3〜4か月で症状は消える。

酸素欠乏[編集]

マンガンは脱酸素剤として使用されるように強い酸素吸着作用があるため、十分に酸化されていない天然マンガンが多い地層の洞窟や井戸などでは、貧酸素化した地下水を経由して内部の空気の酸素が欠乏し、そこへ十分な換気を行わず奥へ入った場合は酸素欠乏症になり最悪の場合死亡する恐れがある。また肥料の撒きすぎによる土壌の酸化などで土中のマンガンが還元されたり、湖などの水底に溜まったマンガンが貧酸素水などで還元され、結果としてマンガンが酸欠状態を保持したり流れに乗って移動させてしまう現象などもある。

出典[編集]

1.^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、139〜140頁。ISBN 4-06-257192-7。
2.^ 「Mineral Commodity Summaries 2012[1]」p101、USGS

参考文献[編集]
太田恵造 『磁気工学の基礎 I』 共立出版、1973年、ISBN 4-320-00200-8。(結晶構造に関して)

クロム

クロム (英: chromium, 羅: chromium) は原子番号24の元素。元素記号は Cr。クロム族元素の1つ。銀白色の金属で、硬く、融点は1903 °C、沸点は2200 °C(他に融点に関しては1857 °C、沸点に関しては2670 °C、2690 °Cという値がある)。常温、常圧で安定な結晶構造は、体心立方構造 (BCC)。表面はすぐさま酸化皮膜に覆われ不動態を形成するのでさびにくく、鉄のめっきによく用いられる(クロムめっき)。希塩酸、希硫酸には溶けるが、濃硝酸、王水など酸化力の強い酸には不動態をつくり反応しにくい。クロムに1 %程度のマンガンを混ぜると反強磁性金属となる。別名:クロミウム。



目次 [非表示]
1 歴史
2 用途
3 必須元素としてのクロム
4 クロムの毒性
5 RoHS規制物質としてのクロム
6 クロムの化合物
7 同位体
8 出典
9 関連項目
10 外部リンク


歴史[編集]

1797年にフランスのルイ=ニコラ・ヴォークランによってシベリア産の紅鉛鉱(クロム酸鉛、PbCrO4)から発見され、酸化状態によってさまざまな色を呈することからギリシャ語の χρωμα(chrōma、色)にちなんでルネ=ジュスト・アユイにより命名された。ヴォークランはこの翌年(1798年)ルビーが赤いこと、エメラルドが緑色であることについて、クロムが不純物として入っているためであることを発見した。秦の始皇帝の兵馬傭坑より出土した青銅剣にもクロムメッキが施されていた。

用途[編集]

金属としての利用は、光沢があること、固いこと、耐食性があることを利用するクロムめっきとしての用途が大きい。また、鉄とニッケルと10.5 %以上のクロムを含む合金(フェロクロム)はステンレス鋼と呼ぶ。ステンレス鋼ではクロムが不動態皮膜を形成するため、ほとんど錆を生じないので車両や機械といった重工業製品から流し台、包丁などの台所用品まで幅広い用途がある。

この金属は、日本国内において産業上、重要性が高いものの、産出地に偏りがあり供給構造が脆弱である。日本では、国内で消費される鉱物資源の多くが他国からの輸入で賄われている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として、国内消費量の最低60日分を国家備蓄すると定められている。

必須元素としてのクロム[編集]

インスリンが体内でレセプターと結合するのを助ける働きをしている耐糖因子を構成する材料となる3価のクロムが体内で不足すると、糖代謝の異常が起こり糖尿病の発症に至る可能性があることが明らかにされている。この方面の研究によって、人間にとって必須の栄養素であることがわかってきた。

1日の必要量は、50-200 μg。クロムを多く含む食品は、ビール酵母、レバー、エビ、未精製の穀類、豆類、キノコ類、黒胡椒などである。

もともと、クロムは体内に吸収されにくいミネラルであるが、穀物を精製するとクロムが大幅に失われてしまう問題が存在する。小麦粉の場合、精白すると98 %のクロムが失われ、米を精米すると92 %のクロムが失われるとされている。そのため、体内へのクロム吸収率の向上を図ったサプリメントなども開発・販売されている。また精製された砂糖にはクロムの体外排出を促進してしまう働きがあるため、クロムを効率よく摂取する際にはこれらを極力控える必要がある。

クロムの毒性[編集]

クロム単体および3価のクロムには毒性が知られていない。ステンレスなどの工業製品として出回っている物の中に含まれているクロムは毒性を持たない。3価のクロムは人体の必須栄養素でもある。

6価のクロム化合物(六価クロム)は極めて毒性が高い。かつては六価クロムをめっき用途として使うことが多かったが、土壌汚染を起こすなどでしばしば問題視され、使われなくなってきている。また、4価のクロム化合物は WHO の下部機関 IARC より発癌性があると (Type1) 勧告されている。

RoHS規制物質としてのクロム[編集]

EU-RoHS においては6価クロムの濃度を1000 ppm以下に抑えること、中国版 RoHS においては意図的添加、処理を対象としている。検出方法としてはジフェニルカルバジド法を用いる。これは6価クロムが1,5-ジフェニルカルボノヒドラジドと酸性溶液中で反応してクロム‐ジフェニルカルバゾン錯体を形成することを利用したもので、紫外可視分光光度計を用いて吸光度を測定し、濃度を求める。この際、共存元素(3価鉄、5価バナジウム、6価モリブデン)の影響を受ける。

クロムの化合物[編集]
酸化クロム - 5種類が存在する。 酸化クロム(II) (CrO) - 酸化クロムの1種。
酸化クロム(III) (Cr2O3) - 同上。
酸化クロム(VI) (CrO3) - 同上。

クロム酸カリウム (K2CrO4) - 6価の化合物で、強力な酸化剤。劇物として扱われ、6価クロムによる汚染の際、問題になる事も多い。
二クロム酸カリウム (K2Cr2O7) - クロム酸カリウムと同じく、強力な酸化剤。
クロム酸鉛 (PbCrO4) - 紅鉛鉱として天然に産するほか、黄色顔料・黄鉛(クロムイエロー)として使われる。
クロム酸亜鉛 (ZnCrO4) - 黄色顔料・ジンククロメート(亜鉛黄、ジンクイエロー)として使われる。
クロム酸ストロンチウム (SrCrO4) - 黄色顔料・ストロンチウムクロメート(ストロンシャンイエロー、ストロンチウムイエロー)として使われる。
クロム酸バリウム (BaCrO4) - 黄色顔料・バリウムクロメート(バリウムイエロー、バリウム黄)として使われる。

ルテニウム

ルテニウム (英: ruthenium) は原子番号44の元素。元素記号は Ru。漢字では釕(かねへんに了)と表記される。白金族元素の1つ。貴金属にも分類される。銀白色の硬くて脆い金属(遷移金属)で、比重は12.43、融点は2500 °C、沸点は4100 °C(融点、沸点とも異なる実験値あり)。常温、常圧で安定な結晶構造は、六方最密充填構造 (HCP)。酸化力のある酸に溶ける。王水とはゆっくり反応。希少金属である。



目次 [非表示]
1 用途
2 歴史
3 ルテニウムの化合物
4 同位体
5 出典


用途[編集]

オスミウムとの合金が、万年筆などのペン先(ニブポイント)に使われる。有機化学分野においては不飽和結合を水素化する際の触媒として多用される。不斉要素を持った配位子を配位させることによって面選択的な水素化も実現しており、この技術を開発した野依良治教授が2001年のノーベル化学賞を受賞している。四酸化ルテニウムや過ルテニウム酸塩などは酸化剤として多用される。またルテニウムのカルベン錯体は二重結合同士を組み替えるメタセシス反応の触媒となり、中でも近年開発されたグラブス触媒は近年の有機合成分野に革命的な変化をもたらしている。グラブスらは、メタセシス反応により有機合成化学のみならず、多様な分野に与えた革新的な業績が評価され、2005年のノーベル化学賞を受賞した。

また、HDD の容量増大の目的でも用いられている。具体的には、数原子層のルテニウムを記録層の間に挟むことで反強磁性的結合状態をつくり、磁化の方向(0/1の記録に対応)を安定化している。この手法により、ビットサイズを小さくした際の超常磁性効果によってもたらされる、記録の熱的不安定性を抑制することが可能となる。

歴史[編集]

ベルセリウス (J.J.Berzelius) とオサン (G.W.Osann) が1828年に存在を予測し命名。1844年にクラウス (K.Glaus) の研究により単体分離に成功、存在が証明された[3]。ラテン語でルーシを表すルテニアが語源。

1973年に北海道の雨竜川で、ルテニウムを最も含む白金族元素の合金が発見され、命名規則から自然ルテニウム (Ruthenium) と登録された。日本で発見された初の元素鉱物の新鉱物である。

ルテニウムの化合物[編集]
酸化ルテニウム(IV) (RuO2) - 低温での抵抗温度計や、チップ抵抗器として用いられる
酸化ルテニウム(VIII) (RuO4) - 融点が40 °Cと低く、揮発性がある
ルテニウム酸ストロンチウム (SrRuO4) - スピン三重項超伝導が観測されている

同位体[編集]

詳細は「ルテニウムの同位体」を参照

出典[編集]

1.^ “Ruthenium: ruthenium(I) fluoride compound data”. OpenMOPAC.net. 2007年12月10日閲覧。
2.^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
3.^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、214頁。ISBN 4-06-257192-7。

オイルサンド

オイルサンド[1] (Oil sand、油砂(ゆさ)[2])あるいはタールサンド(Tar sands)とは、極めて粘性の高い鉱物油分を含む砂岩のこと。原油を含んだ砂岩が地表に露出、もしくは地表付近で地下水などと反応し、揮発成分を失ったものと考えられている。色は黒ずみ、石油臭を放つことが特徴。油分が石炭を乾留した時に出るコールタールに似ていることから、初めタールサンドと呼ばれたが、実際の成分は石油精製から得られるアスファルトに近い。

母岩が砂岩ではなく頁岩の場合にはオイルシェール (Oil Shale) と呼ばれる。



目次 [非表示]
1 原油代替としてのオイルサンド
2 地球温暖化問題とオイルサンド
3 世界の分布
4 脚注
5 関連項目


原油代替としてのオイルサンド[編集]

世界中に埋蔵されているオイルサンド、オイルシェールから得られる重質原油は約4兆バレルで通常原油の2倍以上と推定されており、石油燃料代替資源として注目を浴びている。オイルサンドから1バレルの重質原油を得るためには、数トンの砂岩を採掘し、油分(ビチューメン)を抽出する必要があり、大量の廃棄土砂(産業廃棄物)が発生する。従来の原油と比較して生産コストが高く、さらに廃棄土砂の処理に多額の費用がかかるため、長い間不採算の資源として放置されていた。かつて第2次世界大戦中、石油資源の枯渇した日本軍部が満州のオイルサンド採掘に取り組んだこともあり、1970年代のオイルショックの際には日本の国家プロジェクトとしてオイルシェール生産プラント実験が行われた[3]。カナダ・アルバータ州では2000年代以降の油価高騰が起こる数十年前より大規模な露天掘りが行われ、カナダ原油生産の相当部分を占めるようになった。一方、ベネズエラでは地下に埋蔵があるため通常原油のように坑井を通して採掘される。

地球温暖化問題とオイルサンド[編集]

気候変動枠組条約締約国であるカナダにおける地球温暖化ガスの排出量は、京都議定書の目標年である2008年から2012年の間に1990年比で30%近くの大幅な増加が見込まれている。この増加の要因の一つには、オイルサンドの生産、精製の工程で生じる温暖化ガスの相当量が排出量にカウントされることにあり、オイルサンド自体が地球温暖化問題を通じてネガティブな資源として注目を浴びるようになった。なお、カナダは2011年12月に開かれた第17回気候変動枠組条約締約国会議(COP17)において、京都議定書からの離脱を表明している[4]。

世界の分布[編集]





カナダ・アルバータ州のオイルサンド埋蔵地
大規模なオイルサンドは、カナダ(アルバータ州北東部のアサバスカ地域)、ベネズエラ東部のオリノコ地域に分布、ほかにコンゴやマダガスカルにもある。極めて低質なものは日本でも新潟県新潟市の新津油田などに見られる。代表的なオイルシェール地帯はアメリカ合衆国(西部)、ブラジル、ロシア、オーストラリアなどに分布する。

脚注[編集]

[ヘルプ]

1.^ 文部省・土木学会編 『学術用語集 土木工学編 増訂版』 土木学会、1991年、ISBN 4-8106-0073-4。(オンライン学術用語集)
2.^ 文部省編 『学術用語集 地学編』 日本学術振興会、1984年、ISBN 4-8181-8401-2。(オンライン学術用語集))
3.^ 週間ダイヤモンド 2008年6月28日号
4.^ カナダ、京都議定書を「障害」と批判。正式に脱退表明、締約国で初(Sankei Biz 2011年12月14日)2012年1月7日

バナジウム

バナジウム (新ラテン語: vanadium[1]) は原子番号23の元素。元素記号は V。バナジウム族元素の一つ。灰色がかかった銀白色の金属で、遷移元素である。

主要な産出国は南アフリカ・中国・ロシア・アメリカで、この4か国で90 %超を占める。バナジン石などの鉱石があるが、品位が高くないため、資源としては他の金属からの副生回収で得ているほか、原油やオイルサンドにも多く含まれているので、それらの燃焼灰も利用される。



目次 [非表示]
1 性質
2 用途 2.1 鉄鋼
2.2 合金
2.3 触媒
2.4 顔料・塗料
2.5 電気・電子

3 歴史
4 生産
5 生体におけるバナジウム 5.1 濃縮
5.2 毒性
5.3 医薬・健康

6 環境への放出
7 バナジウムの化合物
8 脚注
9 関連項目
10 外部リンク


性質[編集]

金属としては軟らかく、展延性があり容易に圧延加工できる。常温・常圧で安定な結晶構造は体心立方格子で、比重は6.11、融点は1726 °C(他に1890 °C、1915 °Cという実験値あり)、沸点は3410 °C(3000 °C、3350 °Cなどの実験値あり)。普通の酸・アルカリや水とは反応しないが、濃硝酸・濃硫酸やフッ化水素酸には溶ける。原子価は2価から5価まで多様な値をとる。

用途[編集]

製鋼添加剤としての用途が8割以上を占めているが、バナジウム化合物は触媒としても極めて重要なほか、化学・電気工学・電子工学の分野でも重要である。

しかし、原油中のバナジウム(ポルフィリン化合物として揮発性を持ち、製油によって重油に移行する)は燃焼時に酸化物となると、鋼材表面の不動態皮膜を低融点化させる高温腐食現象(バナジウム・アタック)を引き起こす。特にガスタービンエンジンのフィンを傷めるケースが多い。ほかにも触媒毒となるため、燃料重油中のバナジウムは十分に除去するのが望ましい。

鉄鋼[編集]

バナジウム鋼にフェロバナジウムとして添加する。鋼にバナジウムを0.1 %程度添加すると、炭素と結合して結晶粒がより細かい金属構造になるため、靭性を損なわないで強度を増せる上、機械的性質や耐熱性なども向上する。伝説的なダマスカス鋼からも微量のバナジウムが確認されている。
高張力鋼 - 高強度低合金鋼と呼ばれる安価で強靱な鋼として、高層ビルの構造建材や橋、貨車、石油パイプライン用の厚板などに使用されている。
非調質鋼 - 自動車の車軸、ボルトなど。焼き入れ・焼き戻しといった調質熱処理なしでそれに匹敵する強靱さが保証される。熱処理設備が不要なので、コスト面で有利。
工具鋼 - 巨大摺動機械から小さいところではスパナ・レンチなどの機械用工具や切削工具・対衝撃工具・金型工具など。表面に硬度や耐摩耗性が必要で、高温で衝撃に対する破損の抵抗力が必要な工具に、クロムバナジウム鋼(バナジウム・クロムを付加させた合金)を用い、高速度工具鋼はその代表例となっている。
耐熱鋼 - 自動車のエンジンバルブ、タービンブレード用の耐熱性ステンレス鋼に使われる。

合金[編集]

鉄鋼系以外の合金には、主にアルミニウムとの合金が利用される。
チタン合金 - 航空用途に開発された、バナジウムを2 – 6 %含む合金 (Ti6.4, Ti-6Al-4V) が普及している。日本ではゴルフクラブのヘッド用として多用され、使用量の半分を占めていた。その他ミサイル・ジェットエンジン・原子炉・デンタルインプラントに使用される。
超伝導体 - 単体での第二種超伝導体であり、臨界温度は5.3 K、臨界磁場は1020 Oe。ガリウムとの金属間化合物バナジウムガリウムは最も硬い超伝導体で臨界磁場特性も高いが、ニオブ系に比べ臨界電流が小さく、実用化は進んでいない。他に強相関電子系の研究に使用されるバナジウム酸化物が、数万atmの超高圧下で擬一次元超伝導体となることが分かっている。

触媒[編集]

1924年に触媒作用が発見されて以来、バナジウム化合物を用いた触媒は広く利用され、その用途は拡大する傾向にある。
硫酸製造 - 高純度 (99.9 %) の五酸化バナジウムとして、接触法の硫黄酸化触媒に使用する。かつての白金触媒に替わり、広く普及した。
有機化学 - 酸化触媒として、プラスチックの原料として重要な無水マレイン酸や無水フタル酸の製造に利用する。他にルイス酸触媒としての用途もあり、また使用化学形は様々で、メタバナジン酸塩や酸化バナジウムの有機錯体、さらに高分子化合物なども開発されている
排気ガス処理 - 脱硝用に、タングステンやチタンの酸化物と複合または表面担持して用いる。また水素化脱硫装置で生じた硫化水素の酸化触媒に用いることがある。

顔料・塗料[編集]

バナジウムは酸化数による色彩の変化が多様であるため、高温に耐える着色剤として利用される。バナジウムの示す色としては、五酸化バナジウムや塩化バナジウム(III)が鮮やかなオレンジから赤を示すほか、概ね2価が紫、3価が緑、4価が青であり、5価で無色となる。
セラミックスの釉薬 - 他の元素を添加することにより、さまざまな色を合成することができる。
ターコイズブルー - ZrSiO4 にバナジウムイオンが固溶したもの。青色のセラミック顔料。
バナジウムジルコニアイエロー - ZrO2 にバナジウムイオンが固溶したもの。黄色のセラミック顔料。
バナジウムティンイエロー - SnO2 にバナジウムイオンが固溶したもの。黄色のセラミック顔料。
ビスマスバナジウムイエロー - バナジウム酸ビスマスから製造され、カドミウムイエローの代替として普及している。
アルミニウム系塗料の着色

電気・電子[編集]
電子素子 - 酸化バナジウム(IV) V2O4 や酸化バナジウム(III) V2O3 は温度によって電気抵抗が大きく変化する性質を持つことから、酸化物半導体としてサーミスタや赤外線カメラの CMOS 受光素子に利用されている。
レドックス・フロー電池 - 硫酸バナジウム(III)および酸化硫酸バナジウム(IV)の希硫酸溶液で構成される二次電池の一種。バナジウム価数の変化により、充放電が行われる。電力貯蔵用大型電池としてナトリウム・硫黄電池を越える可能性が期待されている。
蛍光体 - 小型表示素子に使用される薄い発光部の素材として、研究が進められている。
化学気相蒸着法 (CVD) - 材料としてバナジウムアルコキシドが利用される。

歴史[編集]

バナジウムの発見には紆余曲折があり、歴史に埋もれかけた別名をいくつか持っている。
18世紀 - メキシコのイダルゴ州・シマパン鉱山で、褐鉛鉱(バナジン鉛鉱、バナダイト)が発見される。
1801年 - アンドレス・マヌエル・デル・リオが未知の化合物を発見し、クロムを思わせる色調からパンクロミウム (panchromium) と命名。後に、化合物を加熱すると鮮やかな赤色になることから、「エリスロニウム」(erythronium) と改名。
1805年 - フランスの研究機関によってクロムと鑑定され、その後も不運から新元素は公認されなかった。
1830年 - スウェーデンのニルス・ガブリエル・セフストレーム(英語版)が軟鉄中から再発見。非常に美しいさまざまな色に着色することから、スカンジナビア神話の愛と美の女神バナジス (vanadis) にちなんで命名された。
1831年 - ドイツのフリードリッヒ・ヴェーラーによって、エリスロニウムとバナジウムが同じものと確認される(後にアメリカでリオニウム (rionium) が提案されたが実現はしなかった)。
1867年 - イギリスのヘンリー・エンフィールド・ロスコーが塩化バナジウム(III)の水素還元により金属バナジウムを得る。
1880年 - イタリアのアルカンジェロ・スカッキ(イタリア語版)が新元素を発見し、ベスビオ山にちなんで vesbium と命名したが、後にバナジウムと判明。
1925年 - アメリカで金属カルシウムによる還元により、高純度の金属バナジウムを精製することに成功。

生産[編集]

物質としてのバナジウムは広範囲に分布し、ほとんどどこにでも存在する。しかし、資源としては偏在性が強く、埋蔵量のほとんどは南アフリカ、中国、ロシアに存在するほか、ベネズエラのオリコタール(超重質油中)やカナダのオイルサンドビチューメンなどの中に、硫黄などと共に含まれる。また、その生産も、上記3か国とアメリカとで9割以上を占める。そのため、供給は不安定なものとなりやすく、これらの国家や生産企業の動向による価格の高騰が、1988、1994、1997、2003、および2004年以降と頻繁に発生している。

バナジウム鉱物の主要なものとしては、緑鉛鉱 Pb5(PO4)3(OH,F,Cl) に類似した鉱物である褐鉛鉱 Pb5(VO4)3(OH,F,Cl) がある[2][3]。他にはカルノー石 2(UO2)2(VO4)2•3H2O、パトロン石 V2S5 などが知られているが、資源としては品位が低い。加えて、バナジウムの多くは他の鉱物と共に(あるいはむしろ他の鉱物の副産物として)産出されており、他の鉱物の需給状況にバナジウムの生産も影響を受ける。

以上のような背景から、日本国内において産業上重要性が高いにもかかわらず、産出地に偏りがあり供給構造が脆弱である。日本では国内で消費する鉱物資源の多くを他国からの輸入で支えている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として国内消費量の最低60日分を国家備蓄すると定められている。またリサイクル確立も重要視され、日本では廃触媒からの回収や、重油ボイラーの灰などからの回収が行われている。

生体におけるバナジウム[編集]

バナジウムは、ヒトを含む大部分の脊椎動物にとって不可欠なミネラルではない。しかし、生体内の酵素や錯体の構成に加わっている例が多数確認されており、特に窒素固定細菌では、その酵素系における必須元素のモリブデンが欠乏した時、これを補うためにバナジウムを含む酵素が働くことが判っている。これらから、一部の生物では何らかの役割を果たしているものと考えられている。

濃縮[編集]

バナジウムは様々な生物(比較的単純な生物が多い)から検出され、乾燥重量で100 ppmを超える生物も多数確認されている。また、特異的に濃縮する生物も何種か知られている。石油中に多く含まれる原因とも考えられている。
ホヤ - 血液中の濃縮細胞(バナドサイト)内に pH 3 前後の硫酸とともに、種によって海水の数万〜数百万倍の濃度で蓄積し、最も著しい例では1 %に達する。これは、バナジウムと特異的に結びつく、バナジウム結合タンパク質(英語版)の働きによる。かつてヘモバナジンと呼ばれたのは、これが分析の過程で変質したものとも考えられている。
ベニテングダケ - 選択的に取り込み、4価の錯体(アマバジン)として保持しているとされる。
藻類 - コンブなどの褐藻や紅藻で多い。
地衣類、環形動物のケヤリムシ、一部のプランクトン。

このほか「多く含まれている食品」としてエビやカニ、パセリ、黒こしょう、マッシュルームなどが知られている。

毒性[編集]

バナジウムイオンが試験管内で細胞に対し、致死毒性を持つことが確認されている。
水生生物に対する毒性 - 急性 LC50 の調査結果によると、濃度レベルは0.1-100 mg/L台の範囲にあり、大部分の生物が1–12 mg/L であったという。特に鋭敏な生物はカキで、幼生の発生への影響が0.05 mg/Lで現れる。
ラット・マウスの経口投与 - 5価バナジウム化合物に対する半数致死量 (LD50) としてそれぞれ10 mg/kg、5–23 mg/kg。
ヒトに対する影響 - 現在のところ WHO は、無機バナジウムの発癌性について、その有無を判断できる材料がないとしている。このため、ヒトに対して発癌性があるかもしれない、と分類されている。
作業環境における管理濃度 - 酸化バナジウム(V)の粉じんについては、0.03 mg/m3(バナジウムとして)が定められている。

医薬・健康[編集]

現在、ある程度効果が確認されているものは、次のとおりである。
ラットを使った研究でインスリンに似た働きをする(血糖値を下げる)ことが示唆され、糖尿病治療薬になるのではないかと注目されている。
理論的に、抗凝血薬の作用を強める(効果と副作用の両方とも)可能性がある。

健康食品に関連して2000年頃から話題になり、ミネラルウォーターやサプリメントが販売されている。検証はなされていないが、摂取することで何等かのメリットがあるものと期待させる宣伝が行われている(疑似科学)。

環境への放出[編集]

バナジウムは原油・重油中に多く含まれていることから、その燃焼により毎年10万トンのレベルで大気中に放出されている。自然現象による放出は年間10トンのレベルと見積もられており、大気中の浮遊塵や降水中に含まれるバナジウムはそのほとんどが、人間活動によるものである。

従って、天然水中のバナジウムを定量することで、化石燃料による影響を評価することができるが、バナジウムは安定した酸化物を形成するため、原子吸光分析では電気加熱炉法を用いる必要がある。

バナジウムの化合物[編集]
酸化バナジウム(II) (VO)
酸化バナジウム(V) (V2O5)
塩化バナジウム(III) (VCl3)

脚注[編集]

1.^ “Encyclo - Webster's Revised Unabridged Dictionary (1913)”. 2011年9月25日閲覧。
2.^ 櫻井武、鈴木晋一郎、中尾安男 『ベーシック無機化学』 化学同人、2003年、101頁。ISBN 4759809031。
3.^ “Vanadinite”. mindat.org. 2012年6月17日閲覧。

チタン

チタン (英: titanium, 羅: titanium) は、原子番号22の元素。元素記号は Ti。第4族元素(チタン族元素)の一つで、金属光沢を持つ遷移元素である。チタニウムと呼ばれることもある。

地球を構成する地殻の成分として9番目に多い元素で、遷移元素としては鉄に次ぐ。普通に見られる造岩鉱物であるルチルやチタン鉄鉱といった鉱物の主成分である。自然界の存在は豊富であるが、さほど高くない集積度や製錬の難しさから、金属として広く用いられる様になったのは比較的最近である。チタンの性質は化学的・物理的にジルコニウムに近い。酸化物である酸化チタン(IV)は非常に安定な化合物で、白色顔料として利用され、また光触媒としての性質を持つ。



目次 [非表示]
1 特徴
2 性質
3 用途 3.1 金属素材 3.1.1 航空機用途

3.2 建材
3.3 絵具
3.4 紙
3.5 その他
3.6 チタン製品の一覧

4 歴史
5 チタンの生産 5.1 クロール法

6 チタンの化合物
7 同位体
8 出典・注釈
9 関連項目
10 外部リンク


特徴[編集]

チタンは酸化物が非常に安定で侵されにくく、空気中では不動態となるため、白金や金とほぼ同等の強い耐食性を持つ。室温では酸や食塩水(海水)などに対し高い耐食性を示し、少量の湿気が存在する場合は塩素系ガスとも反応しない。そのため純チタンはやや接着性に劣るが、逆に表面の汚れやごみなどの付着物を容易に取り除ける。しかし高温ではさまざまな元素と反応しやすくなるため、鋳造・溶接には酸素・窒素を遮断する大掛かりな設備を必要とする。炭素・窒素とも反応してそれぞれ炭化物・窒化物を作り、これらは超硬合金の添加物としてしばしば利用される。

特に純度の高いチタンは無酸素空間においての塑性に優れ、鋼と似た色合いの銀灰色光沢を持つ。チタンは鋼鉄以上の強度を持つ一方、質量は鋼鉄の約55%と非常に軽い。チタンはアルミニウムと比較して、約60 %重いものの、約2倍の強度を持つ。これらの特性により、チタンはアルミよりも金属疲労が起こりにくいが、工具鋼などの鉄鋼材料には劣る。

性質[編集]

外観は銀灰色を呈する金属元素であり、比重は4.5。融点は1812 °C(1667 °C、1668 °Cの報告もあり)、沸点は3285 °C(3287 °Cの報告もあり)であり、遷移金属としては平均的な値である。常温常圧で安定な結晶として六方最密充填構造を持つが、880 °C以上で体心立方構造に転移する。純粋なものは耐食性が高く、展性・延性に富み、引張強度が大きい(硬くかつ粘り強い)。空気中では常温で酸化被膜を作り内部が保護される。フッ化水素酸には徐々に溶けフルオロ錯体 TiF62- を生成し、加熱下の塩酸に溶けて青紫色の3価のイオン Ti3+ を生成する。アルカリ水溶液とはほとんど反応しない。

150 °C以上でハロゲンと、700 °C以上で水素・酸素・窒素・炭素と反応する。安定な酸化数は+IIIまたは+IVである。磁石に僅かに引きつけられるほどの弱い常磁性や、極めて低い電気伝導性・熱伝導性を持っている。

用途[編集]





窒化チタンでコーティングされたドリルの刃




チタンの円柱材
金属チタンは強度・軽さ・耐食性・耐熱性を備え、様々な分野で活用されている。しかし、金属チタンは製錬・加工が難しく、費用もかかるため大量には使われていない。化合物では酸化チタン(IV)が安価な白色顔料として広く用いられ、日常でも接する機会が多い。

金属素材[編集]

チタンあるいはチタン合金の持つ強度・軽さ・耐食性・耐熱性といった性質から、航空機や潜水艦、自転車、ゴルフクラブなどの競技用機器、化学プラント、生体インプラントの材料、打楽器[2]など多岐にわたって使用されるほか、合金鋼との脱酸剤や、ステンレス鋼において炭素含有量を減少させる目的などにも使用される。加工性はかなり難しくこれは鉄鋼材料がもつ熱処理による強度増幅能力が劣っているためである。金属チタン製の部品は高価になってしまうため、その用途は耐食性・耐熱性・軽量化と強度のバランスを考慮した狭い領域に限られる。

1952年に生体親和性が非常に高く骨と結合する(オッセオインテグレーション)ことが発見されると、デンタルインプラントのフィクスチャー(インプラント体)のほとんどがチタンを使用するようになった。拒絶反応や金属アレルギーを防ぐため、グロー放電でクリーニングしたり、純度の高いチタンが使用される。また、人工関節/人工骨といった整形外科分野でも利用されている。

航空機用途[編集]

航空機用途において耐熱性・強度を優先すると、現在[いつ?]のチタン合金は1000 °Cを超える耐熱性を持たないので、ジェットエンジンのホットセクションには使われない。金属チタンは500 °C以下の部分で、ニッケル超合金よりも軽量化できるノズルなどに使われる。その他のより低温な機体構造には、より安価で軽量化できるアルミニウム合金を多用する。低温部でも鉄鋼よりも軽量化できることから、降着装置に用いた例もある。複合材料の発達により強度・軽量を求められる部位への使用量は減っており、機体重量においてチタン合金の使用割合が最も多いのは1950年代に開発開始されたSR-71であって、潤沢な製造原価を充てられる軍用機といえどもこれ以降に開発された機体への使用割合は多くはない。

建材[編集]

チタンは酸化皮膜の屈折率の違いによる独特な干渉色や、その表面加工による意匠性の高さ、汚れの付きにくさや強い耐蝕性によるメンテナンスの容易さなどを活かし、建材としての利用も行われている。

絵具[編集]

チタンの約95 %は酸化チタン(IV)として、主に白色の顔料として絵具や合成樹脂などに使用される。酸化チタン(IV)で作られた絵具は赤外線の反射率が高いため、屋外での絵画の描写に向いているほか、セメントなどにも使用される。また光触媒としての性質を持ち、光を吸収して有機物を分解する。この性質によって、光のあたる場所では有機物による汚れが分解されるために白さが長く保たれる。しかし有機系の色素や合成樹脂も分解してしまうため、これらと混ぜて利用するのは難しい。

紙[編集]

酸化チタン(IV)は紙に織り込むという方法でも使用される。チタンを織り込むことで、白く丈夫で透けない良質の紙を作ることが可能となる。一方で、金属化合物であるため重くなる。広辞苑など、長期に亘って使用される分厚い書籍に利用されるようになっている。

その他[編集]


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この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。出典を追加して記事の信頼性向上にご協力ください。(2012年2月)

また、他にも以下の用途等に使用されている。
海水への耐蝕性から、海水の淡水化プラントにおける熱交換器で利用される。
イオン化しにくいために金属アレルギーを引き起こしにくいことから、ピアスなどの装身具の材料として利用される。
健康器具を兼ねたネックレスなどのアクセサリーの材料としての利用。
軽量でさびにくく高強度であることから、チタンジルコニウム合金の刃物として利用される。
酸化しにくい特徴を生かし、腕時計の腕に接する面での利用。
形状記憶合金の材料としての利用。
ニオブなどとの合金による超伝導素材。
チタン酸バリウムあるいはチタン酸ストロンチウムは、その高誘電率により電子材料(積層セラミックコンデンサ)に用いられる。
チタン酸ストロンチウムは高屈折材料として人工宝石や光学材料に用いられる。
塩化チタン(IV)はガラスの着色や、高湿度の空気中で発煙する性質を利用して煙幕や空中文字へ利用される。
酸化チタン(IV)の皮膚を保護する性質から日焼け止め剤としての利用される。
酸化チタン(IV)は光触媒作用により有機物を分解するため、トイレの表面に利用される。
オレフィン重合に係るチーグラー・ナッタ触媒としての利用。
チタン板をガスバーナーで熱するなど加工することによる、美術品の作成[3]。

チタン製品の一覧[編集]





チタン製のピアス。金属アレルギーを起こしにくく、銀などの貴金属と比べると頑丈で安価なチタンは、常時身に付けるタイプの装身具の材料として人気がある。






チタン製の自転車のフレーム






ビルバオ・グッゲンハイム美術館。ガラス以外の部分は殆どがチタンの板で造られ、平らな面が一切ない。脱構築主義建築の傑作。






チタン製のスプーン。鋼鉄製よりも軽い。






人間の頭蓋骨のX線写真。骨折を治療するために、眼窩の部分にチタン製のプレートとネジが埋め込まれている。






左腕にプレートが埋め込まれているのがはっきりとわかる。右腕は比較用。


歴史[編集]





マルティン・ハインリヒ・クラプロート
チタンはイギリスで1791年、聖職者のウィリアム・グレゴールが発見した。彼は自分の教区内のメナカン谷で発見したのでメナカイト (menachite) と命名したが、一般的には知れ渡らなかった。ほぼ同じ時期にミュラー・フォン・ライヒェンシュタインが同様の物質を作ったが、彼はそれをチタンと特定できなかった。

1795年にはドイツのマルティン・ハインリヒ・クラプロートが鉱石(ルチルかチタン鉄鉱のどちらかであるが、いずれかははっきりしていない)から独自に再発見し、ギリシア神話における地球最初の子であるティーターンに因んで「チタン」と命名された。しかしこの頃はまだチタンを単体として分離する手法が存在しなかった。

チタンの発見から100年以上経た1910年、ニュージーランド出身でアメリカの化学者であるマシュー・A・ハンター[4]が、チタンを高純度 (99.9 %) で分離することに成功した。

1946年には、ルクセンブルクの工学者であるウィリアム・クロールがマグネシウムで還元するクロール法を考え出し、さらに高純度のチタンを作り出すことに成功する。

1950年代 - 1960年代にかけての冷戦で、ソ連はアメリカ軍がチタンを使用することを防ぐための戦術として世界中のチタン市場を買い占めることを試みたが失敗した。

また、当時発見されていたチタン鉱脈はほとんど東側諸国であったため、アメリカはチタンをソ連から調達していた。冷戦中ゆえアメリカはニセの会社を設立し、そこを通じてアメリカへ密輸入していた[5]。

チタンの生産[編集]





99.999%の高純度を持つチタンの結晶。目に見える金属組織を持つ。
自然界には純粋なチタンの単体は殆ど存在せず、化合物として主に鉱石の中に含まれる。地殻の中に約0.6 %存在し、火成岩やそこから得られた沈澱物の中に多く含まれ、地球上に広く分布している。チタンの鉱石鉱物には、チタン鉄鉱(イルメナイト、FeTiO3)やルチル(金紅石、TiO2)、板チタン石(TiO2)、灰チタン石(ペロブスカイト、CaTiO3)およびくさび石(チタナイト、CaTiSiO5)などが存在するが、特にチタン鉄鉱とルチルが経済的に重要な役割を持っている。チタンの主な採掘は、オーストラリア大陸やスカンディナヴィア半島、北アメリカ大陸などであり、1997年におけるチタンの世界のシェアは以下の順になっている。
オーストラリア 35.9 %
カナダ 21.0 %
南アフリカ共和国 17.9 %
ノルウェー 6.1 %

アポロ17号が月面に到着した際に持ち出された岩石から12.1 %の TiO2 が検出されたほか、隕石の中からも検出されており、太陽やM型の恒星にも存在すると考えられている。

クロール法[編集]

詳細は「クロール法」を参照

チタン鉄鉱やルチルなどの、鉄分を含む鉱石からチタンを精錬する方法は、まず炭素と熱して鉄を除いた後、さらに炭素と熱しながら塩素を通じて塩化チタン(IV) TiCl4(沸点136 °C)とし、蒸留して精製する。


TiO2 + 2C + 2Cl2 → TiCl4 + 2CO

チタンは高温で炭化物や窒化物を作りやすいので、アルゴン中約900 °Cにおいてマグネシウムで還元した後、塩化マグネシウムを真空分離して多孔質の金属チタンを得る。


TiCl4 + 2Mg → Ti + 2MgCl2

こうして得られたチタンは多孔質であるため、スポンジチタンと呼ばれる。通常はこの状態で出荷される。途中、真空蒸留により分離された塩化マグネシウムは、塩素とマグネシウムの原料として再利用される。これをクロール法と呼ぶ。チタンの製造は、プロセスが複雑で鉄鋼のように連続生産ができないため、製鉄よりも費用がかかり高価になる。

チタンの化合物[編集]

化合物中の原子価は+4価が最も安定であり、+2価および+3価のものも存在するが酸化されやすい。
酸化チタン(II) (TiO)
酸化チタン(IV) (TiO2) - 結晶にはルチル、アナターゼ、ブルッカイト型がある。白色顔料、光触媒としても注目されている。
炭化チタン (TiC)
窒化チタン (TiN)
塩化チタン(III) (TiCl3)
塩化チタン(IV) (TiCl4) - 三塩化チタン、四塩化チタンともにチーグラー・ナッタ触媒として使われる。
Ti-3Al-2.5V
Ti-6Al-4V
Ti-6Al-7Nb
NiTi - 代表的な形状記憶合金
チタン酸バリウム (BaTiO3)

同位体[編集]

詳細は「チタンの同位体」を参照

チタンは5つの安定同位体を持つが、その中でも 48Ti が最も多く地球上に存在し、不安定同位体を含めたチタンの同位体は、39.99から57.966までの質量範囲(原子質量単位)を持つ。

出典・注釈[編集]

1.^ Andersson, N. et al. (2003). “Emission spectra of TiH and TiD near 938 nm”. J. Chem. Phys. 118: 10543. doi:10.1063/1.1539848.
2.^ キタノドラム
3.^ 「山口さんのチタン画 「梅」と「天の川」銀座に」『毎日新聞』2006年7月6日、24面、地域のニュース。
4.^ http://periodic.lanl.gov/elements/22.html
5.^ 『ステルス戦闘機 スカンク・ワークスの秘密』ベン・R. リッチ (著)、増田 興司 (訳) 講談社 (1997/01) ISBN 4-06-208544-5
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