2014年02月13日
マンガン
マンガン (英: manganese、羅: manganum) は原子番号25の元素。元素記号は Mn。日本語カタカナ表記での名称のマンガンは ドイツ語: Mangan をカタカナに変換したもので、日本における漢字表記の当て字は満俺である。
目次 [非表示]
1 性質
2 歴史
3 用途
4 産出
5 結晶構造
6 主な化合物
7 同位体
8 人体への影響 8.1 生理作用
8.2 中毒
8.3 酸素欠乏
9 出典
10 参考文献
11 関連項目
性質[編集]
銀白色の金属で、比重は7.2(体心立方類似構造)、融点は1244 °C。マンガン族元素に属する遷移元素。温度によりいくつかの同素体が存在し、常温常圧で安定な構造は立方晶系である。これは硬く非常に脆い。空気中では酸化被膜を生じて内部が保護され、赤みがかった灰白色となる。酸(希酸)には易溶であり、淡桃色の2価のマンガンイオン Mn2+(aq) を生成する。
比較的反応性の高い金属で粉末状にすると空気中の酸素、水などとも反応する。化合物は2〜7価までの原子価を取り得る(+2, +3, +4, +6, +7 が安定)。地球上には比較的豊富に存在するが、単体では産出しない。二酸化マンガンを触媒とする過酸化水素の水と酸素への分解反応は、日本の義務教育課程で触媒の実験の題材とされるため非常に有名である。
単体マンガン自体は常磁性であるが、合金にはホイスラー合金など強磁性を示すものがあり、さらに化合物には様々な磁気的性質を示すものがある。ビスマスとの合金は強磁性体として知られるほか、フェライトに添加することで様々な特性を付加する。
歴史[編集]
スウェーデンのカール・ヴィルヘルム・シェーレ (C.W. Scheele) が1774年に発見、同年ヨハン・ゴットリーブ・ガーン (J.G. Gahn) が単体を単離した[1]。
用途[編集]
一番有名な用途は、二酸化マンガンがマンガン乾電池やアルカリ乾電池の正極に使われる。また、リチウム電池の正極にも用いられ、リチウムイオン二次電池の正極材料として研究されている。 また、磁性材料として、マンガン、亜鉛、鉄を含む金属酸化物である MnZn フェライトがインダクタやトランスのコア材料として用いられている。
マンガン単体が金属材料として用いられることはほとんど無く、合金として、マンガン鋼の原料や、フェロマンガンとして鋼材の脱酸素剤・脱硫黄剤などに使用される。鉄鋼用途で耐磨耗性、耐食性、靭性を付加する為に、マンガン合金(フェロマンガン)や金属マンガンとしてマンガン分が添加される。
また、生物の必須元素としても知られており、硫酸マンガンなどの化合物は肥料としても用いられる。
産出[編集]
マンガンは単体としては産出せず、軟マンガン鉱 (MnO2)、菱マンガン鉱 (MnCO3) などとして産出する。深海底には、マンガン、鉄などの金属水酸化物の塊であるマンガン団塊(マンガンノジュール)として存在している。
戦前では日本国内でも製鉄用に採掘され、第二次世界大戦中には主に乾電池用としてマンガンを採掘する鉱山が多数開発された。とくに後者は日本各地で見られ、京都府中部(丹波地方)を中心に近畿地方に零細鉱山が集中して存在していた。しかし、1950年代以降の鉱物資源の輸入自由化によって激しい競争に晒され、全ての鉱山が1970年代までに閉山に追い込まれた。前者は東日本に多く(北海道上国鉱山、同大江鉱山など)、規模が比較的大きい事から1980年代まで存続したが、現在では岩手県の野田玉川鉱山において宝飾品材料としてバラ輝石が限定的・間欠的に採掘されている他は皆無である。
この金属は、日本国内において産業上重要性が高いものの、産出地に偏りがあり供給構造が脆弱である。日本では国内で消費する鉱物資源の多くを他国からの輸入で支えている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として国内消費量の最低60日分を国家備蓄すると定められている。
主要産出国は以下の通り(2011年実績)[2]。
南アフリカ共和国
中華人民共和国
オーストラリア
ガボン
インド
ブラジル
結晶構造[編集]
マンガンは温度により4つの相を持つ。
αマンガン742 °C以下で安定。単位胞あたり58個の原子を含む複雑な立方晶(体心立方格子類似構造)。原子の位置により4種類の異なるスピンを持ち、全体としては磁気モーメントを持たない、広義の反強磁性体であると考えられている(詳細はいまだ明らかになっていない)。βマンガン742-1,095 °Cで安定。単位胞あたり20個の原子を含む複雑な立方晶。常磁性体である。γマンガン1,095-1,134 °Cで安定。面心立方構造。反強磁性体である。δマンガン1,134-1,245 °C(融点)で安定。体心立方構造。常磁性体である。
主な化合物[編集]
過マンガン酸カリウム (KMnO4) - 酸化剤
二酸化マンガン (MnO2) - 触媒
同位体[編集]
詳細は「マンガンの同位体」を参照
人体への影響[編集]
生理作用[編集]
人体にとっての必須元素。骨の形成や代謝に関係し、消化などを助ける働きもある。一部では活性酸素対策としての必須ミネラルに挙げるものもいる。
不足すると成長異常、平衡感覚異常、疲れやすくなる、糖尿病(インシュリンの合成能力が低下するため)、骨の異常(脆くなる等)、傷が治りにくくなる、生殖能力の低下や生殖腺機能障害などが起こる。しかしマンガンは川など天然の水などに含まれ、上水道水としては多すぎてむしろ除去する場合があるなど、普通に生活していてマンガンが不足することはまずない。
中毒[編集]
マンガン鉱石精錬所作業員・れんが職人・鋼管製造業者など、過剰に曝露されるとマンガン中毒を起こす。
頭痛・関節痛・易刺激性・眠気などを起こし、やがて情動不安定・錯乱に至る。大脳基底核や錐体路も障害し、パーキンソニズム・ジストニア・平衡覚障害を引き起こすほか、無関心・抑うつなどの精神症状も報告されている。マンガン曝露から離れれば、3〜4か月で症状は消える。
酸素欠乏[編集]
マンガンは脱酸素剤として使用されるように強い酸素吸着作用があるため、十分に酸化されていない天然マンガンが多い地層の洞窟や井戸などでは、貧酸素化した地下水を経由して内部の空気の酸素が欠乏し、そこへ十分な換気を行わず奥へ入った場合は酸素欠乏症になり最悪の場合死亡する恐れがある。また肥料の撒きすぎによる土壌の酸化などで土中のマンガンが還元されたり、湖などの水底に溜まったマンガンが貧酸素水などで還元され、結果としてマンガンが酸欠状態を保持したり流れに乗って移動させてしまう現象などもある。
出典[編集]
1.^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、139〜140頁。ISBN 4-06-257192-7。
2.^ 「Mineral Commodity Summaries 2012[1]」p101、USGS
参考文献[編集]
太田恵造 『磁気工学の基礎 I』 共立出版、1973年、ISBN 4-320-00200-8。(結晶構造に関して)
目次 [非表示]
1 性質
2 歴史
3 用途
4 産出
5 結晶構造
6 主な化合物
7 同位体
8 人体への影響 8.1 生理作用
8.2 中毒
8.3 酸素欠乏
9 出典
10 参考文献
11 関連項目
性質[編集]
銀白色の金属で、比重は7.2(体心立方類似構造)、融点は1244 °C。マンガン族元素に属する遷移元素。温度によりいくつかの同素体が存在し、常温常圧で安定な構造は立方晶系である。これは硬く非常に脆い。空気中では酸化被膜を生じて内部が保護され、赤みがかった灰白色となる。酸(希酸)には易溶であり、淡桃色の2価のマンガンイオン Mn2+(aq) を生成する。
比較的反応性の高い金属で粉末状にすると空気中の酸素、水などとも反応する。化合物は2〜7価までの原子価を取り得る(+2, +3, +4, +6, +7 が安定)。地球上には比較的豊富に存在するが、単体では産出しない。二酸化マンガンを触媒とする過酸化水素の水と酸素への分解反応は、日本の義務教育課程で触媒の実験の題材とされるため非常に有名である。
単体マンガン自体は常磁性であるが、合金にはホイスラー合金など強磁性を示すものがあり、さらに化合物には様々な磁気的性質を示すものがある。ビスマスとの合金は強磁性体として知られるほか、フェライトに添加することで様々な特性を付加する。
歴史[編集]
スウェーデンのカール・ヴィルヘルム・シェーレ (C.W. Scheele) が1774年に発見、同年ヨハン・ゴットリーブ・ガーン (J.G. Gahn) が単体を単離した[1]。
用途[編集]
一番有名な用途は、二酸化マンガンがマンガン乾電池やアルカリ乾電池の正極に使われる。また、リチウム電池の正極にも用いられ、リチウムイオン二次電池の正極材料として研究されている。 また、磁性材料として、マンガン、亜鉛、鉄を含む金属酸化物である MnZn フェライトがインダクタやトランスのコア材料として用いられている。
マンガン単体が金属材料として用いられることはほとんど無く、合金として、マンガン鋼の原料や、フェロマンガンとして鋼材の脱酸素剤・脱硫黄剤などに使用される。鉄鋼用途で耐磨耗性、耐食性、靭性を付加する為に、マンガン合金(フェロマンガン)や金属マンガンとしてマンガン分が添加される。
また、生物の必須元素としても知られており、硫酸マンガンなどの化合物は肥料としても用いられる。
産出[編集]
マンガンは単体としては産出せず、軟マンガン鉱 (MnO2)、菱マンガン鉱 (MnCO3) などとして産出する。深海底には、マンガン、鉄などの金属水酸化物の塊であるマンガン団塊(マンガンノジュール)として存在している。
戦前では日本国内でも製鉄用に採掘され、第二次世界大戦中には主に乾電池用としてマンガンを採掘する鉱山が多数開発された。とくに後者は日本各地で見られ、京都府中部(丹波地方)を中心に近畿地方に零細鉱山が集中して存在していた。しかし、1950年代以降の鉱物資源の輸入自由化によって激しい競争に晒され、全ての鉱山が1970年代までに閉山に追い込まれた。前者は東日本に多く(北海道上国鉱山、同大江鉱山など)、規模が比較的大きい事から1980年代まで存続したが、現在では岩手県の野田玉川鉱山において宝飾品材料としてバラ輝石が限定的・間欠的に採掘されている他は皆無である。
この金属は、日本国内において産業上重要性が高いものの、産出地に偏りがあり供給構造が脆弱である。日本では国内で消費する鉱物資源の多くを他国からの輸入で支えている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として国内消費量の最低60日分を国家備蓄すると定められている。
主要産出国は以下の通り(2011年実績)[2]。
南アフリカ共和国
中華人民共和国
オーストラリア
ガボン
インド
ブラジル
結晶構造[編集]
マンガンは温度により4つの相を持つ。
αマンガン742 °C以下で安定。単位胞あたり58個の原子を含む複雑な立方晶(体心立方格子類似構造)。原子の位置により4種類の異なるスピンを持ち、全体としては磁気モーメントを持たない、広義の反強磁性体であると考えられている(詳細はいまだ明らかになっていない)。βマンガン742-1,095 °Cで安定。単位胞あたり20個の原子を含む複雑な立方晶。常磁性体である。γマンガン1,095-1,134 °Cで安定。面心立方構造。反強磁性体である。δマンガン1,134-1,245 °C(融点)で安定。体心立方構造。常磁性体である。
主な化合物[編集]
過マンガン酸カリウム (KMnO4) - 酸化剤
二酸化マンガン (MnO2) - 触媒
同位体[編集]
詳細は「マンガンの同位体」を参照
人体への影響[編集]
生理作用[編集]
人体にとっての必須元素。骨の形成や代謝に関係し、消化などを助ける働きもある。一部では活性酸素対策としての必須ミネラルに挙げるものもいる。
不足すると成長異常、平衡感覚異常、疲れやすくなる、糖尿病(インシュリンの合成能力が低下するため)、骨の異常(脆くなる等)、傷が治りにくくなる、生殖能力の低下や生殖腺機能障害などが起こる。しかしマンガンは川など天然の水などに含まれ、上水道水としては多すぎてむしろ除去する場合があるなど、普通に生活していてマンガンが不足することはまずない。
中毒[編集]
マンガン鉱石精錬所作業員・れんが職人・鋼管製造業者など、過剰に曝露されるとマンガン中毒を起こす。
頭痛・関節痛・易刺激性・眠気などを起こし、やがて情動不安定・錯乱に至る。大脳基底核や錐体路も障害し、パーキンソニズム・ジストニア・平衡覚障害を引き起こすほか、無関心・抑うつなどの精神症状も報告されている。マンガン曝露から離れれば、3〜4か月で症状は消える。
酸素欠乏[編集]
マンガンは脱酸素剤として使用されるように強い酸素吸着作用があるため、十分に酸化されていない天然マンガンが多い地層の洞窟や井戸などでは、貧酸素化した地下水を経由して内部の空気の酸素が欠乏し、そこへ十分な換気を行わず奥へ入った場合は酸素欠乏症になり最悪の場合死亡する恐れがある。また肥料の撒きすぎによる土壌の酸化などで土中のマンガンが還元されたり、湖などの水底に溜まったマンガンが貧酸素水などで還元され、結果としてマンガンが酸欠状態を保持したり流れに乗って移動させてしまう現象などもある。
出典[編集]
1.^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、139〜140頁。ISBN 4-06-257192-7。
2.^ 「Mineral Commodity Summaries 2012[1]」p101、USGS
参考文献[編集]
太田恵造 『磁気工学の基礎 I』 共立出版、1973年、ISBN 4-320-00200-8。(結晶構造に関して)
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/2233494
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック