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2014年02月13日

ウラン

ウラン(独: Uran, 新ラテン語: uranium[3])とは、原子番号92の元素。元素記号は U。ウラニウムの名でも知られるが、これは金属元素を意味するラテン語の派生名詞中性語尾 -ium を付けた形である。なお、ウランという名称は、同時期に発見された天王星 (Uranus) の名に由来している。



目次 [非表示]
1 概要
2 性質
3 歴史
4 生産
5 用途
6 ウランの化合物
7 同位体
8 その他
9 関連項目
10 注釈
11 出典
12 関連項目


概要[編集]

ウランは、アクチノイドに属する元素の一つである。現在の地球上に天然に存在している元素のうち、大量に存在しているものとしては、ウランが最も原子番号が大きく[4]、また最も原子量も大きい元素である。元々、ウランが地球上で天然に存在している元素としては、最も原子番号が大きいとされていたが、1951年にネプツニウムが、1952年にプルトニウムが、それぞれウラン鉱石中にごくごくわずかに含まれていることが発見された[5]。既述の通りウランの原子番号は92であるが、ウランは原子半径も大きいため、その比重(密度)は、原子番号77番付近のオスミウムやイリジウムや白金などよりも小さい。(室温付近で、ウランが1cm3当り19g程度であるのに対し、オスミウムとイリジウムが22.5g程度、白金が21.5g程度である[注釈 1]。)ウランには幾つもの同位体が知られているが、その全ての同位体が放射性核種であり(一つも安定核種が存在せず)[6]、地球上では安定して存在し続けられない元素であることが知られている。しかし、ウランの同位体の中には半減期が長い(寿命が長い)同位体も存在する。特に長いのは、ウラン238(半減期は約44億6800万年)と、ウラン235(半減期は約7億380万年)である[7]。このように半減期の長い放射性核種は、ウランに限らず、現在の地球にも天然の放射性物質として存在している。ウランの場合、現在の地球に天然に存在しているのは、ウラン238(現在の地球ではウランの約99.274%を占めている)、ウラン235(現在の地球ではウランの約0.7204%を占めている)、ウラン234(現在の地球ではウランの約0.0054%を占めている)の3種の同位体である[8][注釈 2]。このうちウラン238とウラン235は、半減期が長い(寿命が長い)ために現在の地球に存在している。(なお、ウラン238の割合が多いのは、ウラン238の半減期が一番長いことが関係している。)これに対してウラン234の半減期は、たったの約24万5500年程度でしかないにもかかわらず、現在の地球に存在している[9]。ウラン234が現在の地球に存在していられる理由は、ウラン238が鉛206に変化する過程(ウラン系列)に、このウラン234が属しているからだ。ウラン238が1回のα崩壊と2回のβ崩壊をすることで、このウラン234になるため、ウラン238が存在する限り、ウラン234も無くならない(ウラン234が崩壊しても新たに補充される)のである。なお、このようにウランの同位体は半減期がまちまちなので、地球上のウランの同位体の存在比は、少しずつ変化している。

ウランは、地球の地殻中や海水中に微量ながら広く分布している元素として知られている。ただし、地球上でウランは安定して存在し続けられないため、その存在量は減り続けている。現在の地球の地殻におけるウランの濃度は、地殻1g中に2.4μg程度であると考えられている[10]。(異なる推定値もある。)同じく、現在の地球の海におけるウランの濃度は、海水1リットル中に3.2μg[11]〜3.3μg[10]程度である。海水中の場合、ウランは海の表層から深層まで、ほぼ一様な濃度で存在している[11]。これに対して地中の場合、地球表層部(地殻中)のウランの濃度が高く、地球深部のウランの濃度は低いと考えられている。その根拠は、もし地中全体に1g中に2.4μgの濃度でウランが存在していた場合、ウランがα崩壊する時に放出される熱によって、地球は加熱されて温度が上昇していると見積もられているが、実際にそのような温度上昇は観測されていないことにある[10]。地球におけるウランは、その存在量のほとんど(約1017kg)が、地殻の表層付近(地表から20km以内)に存在していると言われている[10]。このように地球では表層付近に濃縮されているのは、ウランが不適合元素だからと説明される。なお、現在の太陽系におけるウランの原子の数の比は、珪素を1.00×106とした時、ウランは0.009であると推定されている[12]。

ウランは核燃料としても知られ、核兵器に使用できることでも知られている。これはウランに核分裂を起こさせることで、エネルギーを取り出しているのである。ただし、これらの用途に使用できるのは、現在の地球上に一番多く存在するウラン238ではなく、次に存在量が多いウラン235である。このウラン235は、唯一天然に産出する核分裂核種として知られ、原子力の分野では重要視されている。このため、しばしばウラン235を濃縮するという作業が行われている。なお、この作業の結果に生ずる、ほぼウラン238だけになった放射性廃棄物を、劣化ウランと呼ぶ。

他、一般的な重金属と同様に、ウランの場合も生体内に取り込まれると化学的な毒性を発揮するが、それに加えてウランは放射能を持つため内部被曝の原因ともなる。また、メカニズムは不明だが、ヒトの場合、特に腎臓がダメージを受けることで知られている。

性質[編集]





イエローケーキ
ウランの単体は、銀白色の金属である。常温常圧での安定構造は斜方晶構造(α型)であるが、668 °Cで正方晶構造(β型)へ、775 °Cで立方晶構造(γ型)へ相転移する。比重19.05 (25 °C)、融点1132 °C、沸点3745 °C。ウラン単体は、反応性が高く、粉末を空気中に放置すると、空気中の酸素によって発火する。またウラン単体を水に投入すると、ウランは水から酸素を奪って、水素ガスが発生する。ウラン化合物の原子価は+2価から+6価をとり得る。このうち、一般に+6価が最も安定である。これに対し、+2価と+5価は特に不安定であり、特殊な条件でないと存在できない。+4価は硝酸水溶液および酸化物等では安定な価数であり、水溶液にしたときには緑色になる。+3価の水溶液は赤紫色となるが安定せずに、水を還元して水素を発生させながら+4価に変化するため、色も緑色に変化する。+6価は水溶液中でも安定であり、ウラニルイオン (UO22+) となって、水溶液は黄色を呈する。水溶液に限らず、+6価のウランは一般に黄色を呈するため、イエローケーキと呼ばれる。なお、ウランのハロゲン化物は+3価から+6価までをとり得るが、これらは揮発性であることが知られており、その蒸気圧は、+3価が一番小さく、+4価、+5価、+6価と大きくなる傾向にある。

歴史[編集]

酸化ウランの利用は紀元後79年にさかのぼる。イタリアのナポリ付近で製造されていたガラスには1%程度の酸化ウランが着色剤として混合されており、黄色-緑色の美しい色彩を有していた。19世紀にこのガラス製品が再発見された時点ではウラン源としてはボヘミアのハプスブルク銀鉱のみが知られており、ナポリのガラス工は成分を秘密にしていた。

元素としてのウランはドイツのマルティン・ハインリヒ・クラプロート (M. H. Klaproth) が1789年に閃ウラン鉱から発見した。1781年にウィリアム・ハーシェルにより発見された天王星 (uranus) が語源となっている。クラプロートは、閃ウラン鉱から分離した酸化物を炭素で還元して金属光沢を持つ黒色粉末を分離。この物質を金属ウランと発表したが、これは後に二酸化ウラン (UO2) だったと判明した[13]。1841年にウジェーヌ=メルキオール・ペリゴーが塩化物をカリウムで還元することにより初めて金属単体として分離に成功し、1850年にはイギリスでもガラスの着色剤としての利用が始まった。

ウラン鉱物が放射線を発していることは、1896年にフランスのアンリ・ベクレルによって発見された[10]。光が当らないようにした(黒い紙で包んだ)写真乾板を、ウラン鉱物のそばに置いておくと、その乾板が感光したのである。2年後の1898年、ピエール・キュリー、マリ・キュリー夫妻によってチェコスロバキアのヨアヒムスタール鉱山で得たウラン鉱石からラジウムとポロニウムの抽出に成功し、自然に放射性壊変を起こす元素の存在が世界で初めて証明された。

ウランは発見当初は最も原子番号の大きな元素であったが、1940年、ウランに中性子線を照射することで、原子番号のより大きな超ウラン元素であるネプツニウムとプルトニウムが発見された。その後は地上に天然に存在する最も原子番号の大きな元素と見做されていたが、1951年にネプツニウム、1952年にプルトニウムが、ウラン鉱石の中からごく微量に検出されたことで、ウランは地球上に天然に存在する最も原子番号の大きな元素の座を譲った。ただし、それらは本当に微量しか存在せず、あくまでウランが宇宙線などが原因で発生する中性子線を吸収した結果、生じているに過ぎないと考えられている。(もし、地球誕生時にネプツニウムやプルトニウムが存在していたとしても、これらの元素は半減期が短過ぎるために、現在まで存在し続けているとは考えにくい。ウラン234のように、新たに生成され続けていると考えられる。)また、ネプツニウムよりも原子番号の大きな元素が超ウラン元素としてウランよりも軽い元素とは区別されるのは、2012年現在でも変わっていない。

生産[編集]

ウランは地殻や海水中に微量ながら広く分布している元素であり、存在量はスズと同程度である[14]。

現在までに知られているウランの70%はオーストラリアに埋蔵されており、なかでもオーストラリア南部のオリンピックダム鉱山が世界最大とされる。一方、輸出量としてはカナダが世界最大で、サスカチュワン州とアルバータ州の北部にまたがるアサバスカ堆積盆地で高品質のウランが産出されている。他、ウラン鉱山としては、ユーラシア大陸にカザフスタンのハラサン鉱山 (Kharasan)、Inkai鉱山、Akdala鉱山、Irkol鉱山などがあり、アフリカ大陸にコンゴ民主共和国のシンコロブエ鉱山やニジェールのアクータ鉱山などがある。日本では岡山県・鳥取県の人形峠の鉱床が古くから知られており、岐阜県土岐市の東濃鉱山も核燃料鉱床として採掘の対象となったことがある。しかし両者とも採算の合う埋蔵量ではなかったため、稼動することのないまま閉山となった。

詳細は「天然ウラン」を参照

用途[編集]
核反応物質としての利用
ウランの多くは核燃料として原子力発電に利用されるが、核兵器への転用が可能であるため国際原子力機関によって流通等が制限されている。また、トリウムを原料としてウラン233を作成し、核燃料とする研究も進められている。

詳細は「ウラン濃縮」を参照
金属資材としての利用
ウランは比重が高いためにバラストに用いられることが過去にあった。また砲弾に添加して強度を増して徹甲弾の威力を増すために使用される。

詳細は「劣化ウラン」を参照
蛍光材としての利用
ルミネッセンス反応を示すために蛍光材として使用された。特にガラスに極微量のウランを着色材として加えた製品をウランガラスと呼び、美しい蛍光緑色を呈する。ヨーロッパが発祥で、食器やさまざまな日常雑貨が作成された。現在では民間でウランを扱うことが難しいため、新たなものは極少量が生産されているに過ぎないが、骨董・アンティークとしてファンも多く、高値で取引されている。
その他の用途
ウランの原子核崩壊により生じる核種変化を追跡することで、岩石等の生成年代を特定することが可能である。

詳細は「放射年代測定」を参照

ウランの化合物[編集]

Category:ウランの化合物を参照。

ウランの化合物は、一般にウランの酸化数が+6価のものが安定であることが知られている。ただし、酸化物の場合は、ウランの酸化数が+4価(つまり二酸化ウラン)でも安定である。なお、ウランがこの他の酸化数である時の化合物は、一般に不安定である。

同位体[編集]

詳細は「ウランの同位体」を参照

ウランの同位体は幾つも知られている。それらの中で最も寿命が長いのは、ウラン238である。次いで、ウラン235、ウラン236、ウラン234、ウラン233、ウラン232と続く。これら以外で半減期が1日以上なのは、ウラン230、ウラン231、ウラン237の3核種のみである。これら以外は、半減期が1日以内の非常に寿命の短い核種ばかりである。

その他[編集]

ウランの原子核の断面積は、およそ1バーンに等しい。

関連項目[編集]
天然ウラン(ウラン鉱石)
濃縮ウラン
劣化ウラン
ウラン235
ウラン236
ウラン238
フィッショントラック法
ウラン系列
原子爆弾
原子力発電

注釈[編集]
1.^ 1cm3当り0.5g刻みで、おおよその値を記してある。ここで記したのは、あくまで説明のために、おおよその密度を感覚的に知っていただくためであって、厳密な値を示すことを意図していない。(この部分が、あくまで「概要」の節であることを留意。)より詳しい値については、それぞれの元素の記事の右上に表示されている表を参照のこと。
2.^ 地球上に天然に存在するウランの同位体は、ウラン238、ウラン235、ウラン234の3種であると考えて差し支えない。なお、全ての安定核種と半減期の特に長い放射性核種を合わせて原生核種(英語版)と呼ばれるが、原生核種として数えられるのは、このうちウラン238とウラン235の2核種である。

出典[編集]
1.^ The Chemistry of the Actinide and Transactinide Elements: Third Edition by L.R. Morss, N.M. Edelstein, J. Fuger, eds. (Netherlands: Springer, 2006.)
2.^ BNL-NCS 51363, vol. II (1981), pages 835ff
3.^ http://www.thefreedictionary.com/uranium
4.^ 桜井 弘 編 『ブルーバックス1627 元素111の新知識 第2版』 p.379 講談社 2009年1月20日発行 ISBN 978-4-06-257627-7
5.^ 桜井 弘 編 『ブルーバックス1627 元素111の新知識 第2版』 p.380 講談社 2009年1月20日発行 ISBN 978-4-06-257627-7
6.^ 桜井 弘 編 『ブルーバックス1627 元素111の新知識 第2版』 p.372 講談社 2009年1月20日発行 ISBN 978-4-06-257627-7
7.^ 国立天文台 編 『理科年表(2008年版、文庫サイズ)』 p.466 ISBN 978-4-621-07902-7
8.^ 国立天文台 編 『理科年表(2008年版、文庫サイズ)』 p.456、p.460 ISBN 978-4-621-07902-7
9.^ 国立天文台 編 『理科年表(2008年版、文庫サイズ)』 p.456、p.460、p.466 ISBN 978-4-621-07902-7
10.^ a b c d e 桜井 弘 編 『ブルーバックス1627 元素111の新知識 第2版』 p.371 講談社 2009年1月20日発行 ISBN 978-4-06-257627-7
11.^ a b 国立天文台 編 『理科年表(2008年版、文庫サイズ)』 p.944 ISBN 978-4-621-07902-7
12.^ 国立天文台 編 『理科年表(2008年版、文庫サイズ)』 p.137 ISBN 978-4-621-07902-7
13.^ 桜井 弘 編 『ブルーバックス1627 元素111の新知識 第2版』 p.370 講談社 2009年1月20日発行 ISBN 978-4-06-257627-7
14.^ http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/EV_D_G1.html
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