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2014年02月07日

タミル語

タミル語(タミルご、தமிழ் Tamiḻ)は、ドラヴィダ語族に属する言語で、南インドのタミル人の言語である。同じドラヴィダ語族に属するマラヤーラム語ときわめて近い類縁関係の言語だが、後者がサンスクリットからの膨大な借用語を持つのに対し、タミル語にはそれが(比較的)少ないため、主に語彙の面で隔離されており意思疎通は容易でない。インドではタミル・ナードゥ州の公用語であり、また連邦レベルでも憲法の第8付則に定められた22の指定言語のひとつであるほか、スリランカとシンガポールでは国の公用語の一つにもなっている。世界で18番目に多い7400万人の話者人口を持つ。1998年に大ヒットした映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』で日本でも一躍注目された言語である。

「タミール語」と呼称・表記されることもあるが、タミル語は母音の長短を区別する言語であり、かつ Tamiḻ の i は明白な短母音である。そのため、原語の発音に忠実にという原則からすれば明らかに誤った表記といえる。タミル(Tamiḻ)という名称は、ドラミラ Dramiḻa(ドラヴィダ Dravida)の変化した形という説もある。Tamiḻ という単語自体は sweetness という意味を持つ。

なお、ドラヴィダとは中世にサンスクリットで南方の諸民族を総称した語で、彼らの自称ではなく、ドラヴィダ語族を確立したイギリス人僧侶 Caldwell による再命名である。



目次 [非表示]
1 地域
2 歴史
3 文字
4 発音
5 文法 5.1 品詞
5.2 数詞 5.2.1 基本数詞


6 他言語からの影響
7 日本語クレオールタミル語説
8 タミル映画と日本での認知
9 その他
10 脚注
11 関連書籍
12 関連項目


地域[編集]

南インドのタミル・ナードゥ州で主に話されるほか、ここから移住したスリランカ北部および東部、マレーシア、シンガポール、マダガスカル等にも少なくない話者人口が存在する。これらはいずれも、かつてインド半島南部に住んでいたタミル人が自ら海を渡ったり、あるいはインドを植民地化した英国人がプランテーションの働き手として、彼らを移住させた土地である。スリランカには人口の約10%を占めるイスラム教徒、スリランカムーア人が存在するが、彼らの母語もタミル語である。

歴史[編集]

タミル語はドラヴィダ語族の中で書かれた言語としては最も古く、現在残る文献の最も古いものの起源は紀元前後までさかのぼるといわれる。

文字[編集]

詳細は「タミル文字」を参照

現代タミル語は、主として独自の文字であるタミル文字で表記される。詳しくはタミル文字の項目を参照のこと。 なおイスラム教徒は、かつてタミル語をアラビア文字で書き記していた(arwiを参照)。現在はイスラム教徒もタミル文字を使用している。

発音[編集]

北インドの多くの言語が三母音(サンスクリット等で母音/半母音として扱われるrやlを除いて)を基礎としており、ヒンディー語等ではe、oが常に長母音として扱われる。それに対してタミル語の基本はa, i, u, e, oの五母音であり、それに長短の別と二重母音(aiとau)が加わることで計12の母音を区別することになる。

子音は有気音と無気音を区別しない他、有声音(日本語で言う濁音)と無声音(同じく清音または半濁音)の間の対立もない。ただ単語の先頭や同子音が重なった場合に無声音、単語の中途、同系の鼻音の後などに有声音で発音される傾向がある(これらの点は日本語の連濁と相似である)。

タミル語で特徴的なのは、日本語で「ラ行」にあたる音、英語を含む西洋語なら r や l の流音に相当する音に、五種の区別が存在することである。日本語で「ン」にあたる音、鼻音にも4種の区別がある。このうち、l は ṟ・ṉ と互換性があり、その ṉ も ṟ と互換性がある。朝鮮語・韓国語で音節末の l と語中の r が違う音素であるのに、同一の形態素として扱っているのと対照的である。更に、反り舌の ḷ と l、ṟ と r(/j/ と同じ調音位置)が入れ替わっても意味の変わらない単語がある。ṟ は語中の位置によって /r, t, d/ と三様に発音される。

また日本語を母語とする者にとって習得が難しいとされるものに、反舌音(舌の先を硬口蓋まで反らせて発音する一連の子音)があるが、こちらは他のインド系言語にも共通する特徴である。

文法[編集]

サンスクリットの影響を受けて古くから文法が記述されており、現在の正字法は詩論を含む文語文法書であり13世紀に書かれた『ナンヌール』などに基づいている。

語順は日本語と同様、基本的にはSOV型。OSV型となる場合もあるが、動詞に接辞をつけて文相当の意味を持たせる場合はSOVが基本。ただし、マラヤーラム語と同様に、主部だけが文末に来るOVS型も少なからず用いられる。倒置表現とされる場合もあるが、新聞等にも見られ、修辞技法として意図されていないことが明らかとなっている。

修飾語は被修飾語の前につく。

主(格)語はしばしば省略されるが、日本語のように文脈でわかるからというより、スペイン語などのように動詞に人称が示されるため、省略されるのである。コピュラ(英語のbe動詞、日本語の「だ」)は用いない。所有を表すには「私は…を持っている」でなく「私には…がある」と表現する。

複文を作るための関係詞はなく、日本語と同じく「水を-飲む-人」、「私が-見た-物」という順でつなげばよい。ただし、文芸作品ではサンスクリット語の影響を受けた関係節表現が見られる。たとえば、サンスクリット語の「यथा…तथा…」の構文に従い、「எப்படி…அப்படி…」と表現するような実例がある。

タミル語は他のドラヴィダ諸語と同じく膠着語であり、単語は語根にいくつかの接辞(ほとんどは接尾辞)を付加して作られている。接辞は単語の意味などに変化を加える派生接辞と、文法カテゴリ(人称、数、法、時制など)により変化する活用接辞とに分けられる。膠着の長さにはあまり制限はなく、例を挙げると、 pōkamuṭiyātavarkaḷukkāka (「行けない人々のために」という意味)は、
pōka(行くこと)- muṭi(できる)- y(調音)- āta(否定)- var(人々)- kaḷ(複数)- ukku(ために)- āka(「ために」の強調)
と分析できる。

詩歌(サンガム)には、五七五七五七……七、五七五七七、五七七の音節を持つものがある。係り結びもある(下記品詞、係助詞の項参照)。

品詞[編集]

名詞および代名詞は名詞クラス(印欧語の性のようなもの)により分類される。まず2つの超クラス(tiṇai)に分類され、さらに全部で5つのクラス(paal :「性」の意味)に分けられる。超クラスの1つは "rational" (uyartiṇai) で、人および神がここに含まれ、さらに男性単数・女性単数・複数(性によらない)に分けられる。複数形は単数に対する敬語としても用いられる。もう1つは "irrational" (aḵṟiṇai) で、その他の動物・物体・抽象名詞がここに含まれ、単数・複数(性によらない)に分けられる。このクラスにより代名詞が使い分けられるほか、主語のクラスによって動詞の接尾辞が変化する。

代名詞の前に動詞(「…する人」など)や形容詞(「よい人」など)を付加して複合名詞にする。この場合など、下の例(「…する人(物)」)のように、paal が接尾辞によって示される。

peyarccol (名詞)
uyartiṇai
(rational) aḵṟiṇai
(irrational)
āṇpāl
男性 peṇpāl
女性 palarpāl
複数の人 oṉṟaṉpāl
単数の物 palaviṉpāl
複数の物
例:タミル語「…した人(物)」
ceytavaṉ
した男 ceytavaḷ
した女 ceytavar
した人々 ceytatu
した物(単数) ceytavai
した物(複数)

また格を表すのにも日本語の助詞に相当する接尾辞が用いられる。伝統的にはサンスクリットに倣って8格に分類される(が実際には複合的なものもあり、必ずしも8格に収まらない)。

また日本語の「こ・そ・あ・ど」にちょうど相当する4種の接頭辞i、a、u、e がある。vaḻi 「道」に対して、ivvaḻi 「この道」、avvaḻi 「あの道」、uvvaḻi 「その道」、 evvaḻi 「どの道」。ただし、uは古語および擬古体で用いられ、普通の現代語では用いられず、「その」はaにより代表される。

動詞は、人称、数、法、時制および態を示す接尾辞によって活用する。たとえば aḷkkappaṭṭukkoṇṭiruntēṉ 「私は滅ぼされんとしていた」は次のように分析される:


aḷi

kka

paṭṭu

koṇṭiru

nt

ēn

動詞語根
滅ぼす 不定詞マーカー
受動態の態マーカーへの接続形 態マーカー
受動態 態マーカー
過去進行 時制マーカー
過去 人称マーカー
一人称
単数

人称と数は代名詞の斜格(語幹)に接尾辞をつけた形で示される(例では ēn)。このような人称マーカーはアイヌ語にもある(アイヌ語では an)。三人称はクラスにより変化する。さらに時制と態も接尾辞として示される。

態は補助動詞によって表現される。受動態のみならず、主動詞に対し進行などの動詞のアスペクトを表すことができる。

動詞には強変化と弱変化の対応する2種あるものがあり、おおよそ強変化は他動詞、弱変化は自動詞に対応する。たとえば、「aḷi」(強変化「滅ぼす」:aḷikka、弱変化「滅びる」:aḷiya)、「ceer」(強変化「集める」:ceerkka、弱変化「集まる」:ceera)など。 また、語幹が対応する一組の動詞で他動詞と自動詞に対応しているものもある。たとえば、「aaku」(成る)に対する「aakku」(作る←成す)、「aṭnku」(従う)に対する「aṭkku」(従える)など。

時制には過去・現在・未来があるが、古語では現在形が見られず、未来形により表現されていた。未来形という名称にもかかわらず、実際の文章では「〜したものだった」という過去の習慣や、「〜する」という現在の意味、「〜するだろう」という推量の意味にも用いられ、未来の意味以外にも用法は広い。法は命令法、願望法のほか、話者の態度(事象やその結果に対する軽蔑、反発、心配、安心など)を示すことができる。

このほか、準動詞(動名詞や種々の分詞など)も動詞語幹に接尾辞をつけて作られる。

形容詞と副詞の区別はなく(uriccol という)、名詞を基本として接尾辞をつけて形容詞または副詞とするのが普通(独立の形容詞・副詞も一部ある)。ほかに接続詞(iṭaiccol )がある。 係助詞(clitic)があり、名詞、動名詞・分詞名詞・(ē)、副詞・副詞+(ē) などで結ぶ。

数詞[編集]

通常の数詞に使われる文字の他、タミル語では10、100、1000には特別な文字を使う。参考のために上記に加えて、日、月、年、負債、残高、同上、貨幣単位(ルピー)、数詞を以下に示す。


0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

100

1000

௦ ௧ ௨ ௩ ௪ ௫ ௬ ௭ ௮ ௯ ௰ ௱ ௲








負債

残高

同上

ルピー

数詞

௳ ௴ ௵ ௶ ௷ ௸ ௹ ௺

基本数詞[編集]

以下に0から9までの基本数詞の読みを示す。


現代タミル文字

アラビア数字

タミル語とその発音

0 0 சுழியம் (Suzhiyam)
௧ 1 ஒன்று (Ondru)
௨ 2 இரண்டு (Irendu)
௩ 3 மூன்று (moondru)
௪ 4 நான்கு (nangu)
௫ 5 ஐந்து (ainthu)
௬ 6 ஆறு (aaru))
௭ 7 ஏழு (ézhu)
௮ 8 எட்டு (ettu)
௯ 9 ஒன்பது (onepathu)

他言語からの影響[編集]

タミル語にはきわめて近縁のマラヤーラム語という言語があるが、両者は同一の言語の方言の関係にあるとは必ずしも言いがたい。それはマラヤーラム語は北インドのサンスクリット語、プラークリット、ヒンドゥスターニー語をはじめとするインド・アーリア語族の言語から語彙、文法面での多大な影響を受けており、その他アラビア語、ペルシア語、ポルトガル語、英語などの語彙を借用しているため、両者の意思疎通が容易でないからである。

但しタミル語はドラヴィダ語族の諸語の中では最も上記の言語からの影響が少ない部類に入るが、サンスクリットやヒンドゥースターニー語などからの借用語は少なからずある。

日本語クレオールタミル語説[編集]

国語学者大野晋は、日本語の原型がドラヴィダ語族の言語の影響を大きく受けて形成されたとする説を唱えている。ただし、この説には系統論の立場に立つ言語学者からの批判も多く、この説を支持するドラヴィダ語研究者は少ない。

詳細は「大野晋#クレオールタミル語説」を参照

タミル映画と日本での認知[編集]

日本でも、1990年代のアジア映画ブームの中で、インド映画が紹介された。その中でも特に『ムトゥ 踊るマハラジャ』などのタミル映画作品がピックアップされたことなどから、昨今ではタミル語を学ぶ日本人も増えてきている。

その他[編集]

タミル語は7000万人もの話者を持つ言語であり、インド国内のみならず世界的に見ても大言語である。南アジア、東南アジアのいくつかの国で公用語にも採用され、豊富な古典文語も持つ。これだけの影響力のある言語でありながら、日本では本格的なタミル語文法学習の書籍や辞書、音声教材などがほとんど出ていない(小さい書籍が数点出版されているにとどまる)。かなりマイナーな言語も扱う大手の語学専門出版社でも、タミル語の学習書はあまり出版されていない[1]。その一方で、タミル語と日本語の関連性を扱った書籍は多数出版されている。そのような現状から、タミル語学習の書籍を出版すると、批判の多い仮説を扱った書籍と混同されるのを恐れて、大手の出版社はタミル語の学習書を出版するのを躊躇っているのではないかといった都市伝説さえ生まれた。しかし実は、タミル語を学習する書籍は英語などの他言語で出版された物でも決して豊富とは言いがたい。
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