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2014年02月06日

フォーカシング

ジェンドリンは、カウンセリングの成功要因を探る研究の中から、クライエントが自分の心の実感に触れられるかどうかが重要であることを見いだした。そこからジェンドリンは、心の実感に触れるための方法を、クライエントに教える必要があると考え、そのための理論として体験過程理論を構築し、具体的な技法としてフォーカシングを提唱した。

ジェンドリンは来談者中心療法を確立したカール・ロジャースの共同研究者であり、ロジャースの創始した来談者中心療法の実践の中からフォーカシングを体系化した。来談者中心療法とフォーカシングの関係については、両者は別個の体系であるという見解と、フォーカシングは来談者中心療法の本質であるとする見解の2通りがあり、研究者によって意見が異なっている。

体験過程理論[編集]

体験過程理論は、人の心の中に感じられ、刻一刻と変化し流動していく体験過程 (Experiencing) に関する理論である。体験過程は、意識と無意識の境界に注意を向けることで直接、身体的に感じられるものであり、体験過程の流れは、言葉などによって表現される、つまり象徴化されることによって、人が成長する方向へ向かって流れていく。しかし、人の意識が体験過程に向けられず、象徴化の機会が奪われると、体験過程は滞り、様々な心理的困難が生じてくる。

フォーカシング[編集]

フォーカシングという用語は、「現象としてのフォーカシング」と、「技法としてのフォーカシング」という2つの意味で用いられることがある。

現象としてのフォーカシングとは、人がまだ言葉にならない意味のある感覚(フェルト・センス)に注意を向け、その感覚と共に過ごすことをいう。

一方、技法としてのフォーカシングとは、体験過程に直接注意を向け、その象徴化を促進する一連の技法のことをいう。ジェンドリンが考案した方法のほかにも、アン・ワイザー・コーネルによる技法体系など、複数の方法が考案されている。

ジェンドリンによる「技法としてのフォーカシング」をショートフォームという。 具体的には、まず胸の奥や腹の底など身体の中心部分にぼんやりと注意を向けながら、何かの気がかりにまつわる感じ(フェルト・センス)が感じられるのを、受容的な態度で待つ。次に、その感じにぴったりな言葉(ハンドル)を探し、見つかれば、その言葉がフェルト・センスにぴったりかどうかを突きあわせて感じてみる。違っているようであれば、再びぴったりくる言葉を探し、もう一度、フェルトセンスと照合してみるという過程を繰り返す。フェルト・センスとハンドルがぴったりであれば、フェルト・シフトと呼ばれる、ぴったりだという感覚と解放感が得られることがある。さらにフォーカシングを続ける場合、今度はフェルト・センスに対して、「何がそんなに〜なのか」「その感じは私の生活の何と関係があるのだろうか」などの質問をし、フェルト・センスのほうから、自然に何かしらの反応が返ってくるのを静かに待つ。何か反応が得られるようであれば、それを受容的に受け取る。時間的な限界や、フォーカシングを終えてもよいという感覚があれば、最後にフォーカシングの中で得られた体験を丁寧に自分の中に受け取る作業を行ってから、フォーカシングのセッションを終える。

これらのフォーカシングの過程は、一人で行うこともできるが、慣れないうちはフォーカシングの過程を聞いてくれる相手がいるほうがよい。その場合には、フォーカシングを行う人をフォーカサー、聞き役をリスナーとよぶ。また、フォーカサーがまだフォーカシングに不慣れであり、リスナーのほうから積極的に教示を提案するスタイルで行う場合には、ガイドと呼ばれることもある。

フォーカシング指向心理療法[編集]

カウンセリングのエッセンスを抽出する形で生まれたフォーカシングであるが、ジェンドリンはさらにフォーカシングをカウンセリングに還元する方法を体系だてた。それがフォーカシング指向心理療法 (Focusing Oriented Psychotherapy) である。

フォーカシング指向心理療法とは、カウンセリングの過程を、クライエントとカウンセラーの体験過程が導いていく心理療法である。つまり、フォーカシングの技法を使用していても体験過程が動かないカウンセリングはフォーカシング指向心理療法ではなく、フォーカシングの技法を一切使用していなくとも、体験過程がカウンセリングの過程を動かすカウンセリングは、すなわちフォーカシング指向心理療法であるといえる。

ジェンドリンは、フォーカシング指向心理療法においてまず大切なことは、第一にカウンセラーとクライエントの関係性であり、第二に傾聴であり、そして第三にようやくフォーカシングがくるとしており、クライエント自身を無視したような「フォーカシング中心」療法になることを再三、戒めている。

フォーカシング指向心理療法では、クライエントが自分のフェルト・センスに触れることを援助するために、フォーカシングの技法が用いられることがある。それは、何気なくフェルト・センスが感じられるであろうポイントをセラピストが指し示す応答から、フォーカシングに独特な言い回しをそのまま用いた教示まで使用されることがある。

さらに、フォーカシング指向心理療法では、体験過程を促進するために、他の様々な流派の技法や理論を導入することができる。それらの技法や理論を提案し、それがクライエントの体験過程に響くようであれば、その技法・理論を採用し、響かないようであれば、提案を速やかに撤回して傾聴に戻る。そうすることにより、様々な流派の理論を統合的に使用しながらも、クライエントの自主性を尊重することができるのである。

参考文献[編集]
ユージン・ジェンドリン『フォーカシング』福村出版 1982年
池見陽 『心のメッセージを聴く 〜実感が語る心理学〜』講談社現代新書 1995年
アン・ワイザー・コーネル『やさしいフォーカシング 〜自分でできるこころの処方〜』コスモス・ライブラリー出版 1999年

関連書籍[編集]

訳書[編集]
コーネルA.W. (著) 村瀬孝雄(監訳) 大澤美枝子(訳) 1996 フォーカシング入門・マニュアル 東京:金剛出版
コーネルA.W.(著) 村瀬孝雄(監訳) 大澤美枝子・日笠摩子(訳) 1996 フォーカシングガイド・マニュアル 東京:金剛出版
ユージン ジェンドリン (著), 池見 陽 (著, 翻訳), 村瀬 孝雄 (翻訳)  1999/4 セラピープロセスの小さな一歩―フォーカシングからの人間理解 金剛出版
コーネルA.W.(著) 大澤美枝子・日笠摩子(訳) 1999/9 やさしいフォーカシング:自分でできるこころの処方 東京:コスモス・ライブラリー
ヒンターコプフE.(著) 日笠摩子・伊藤義美(訳) 2000 いのちとこころのカウンセリング:体験的フォーカシング法 東京:金剛出版
フリードマンN.(著) 日笠摩子(訳) 2004 フォーカシングとともに@:体験過程との出会い 東京:コスモス・ライブラリー
マケベニュK.(著) 土井晶子(訳) 2004 ホールボディ・フォーカシング:アレクサンダー・テクニークとフォーカシングの出会い 東京:コスモス・ライブラリー
フリードマンN.(著) 日笠摩子(訳) 2004 フォーカシングとともにA:フォーカシングと心理療法 東京:コスモス・ライブラリー
クラインJ.(著) 諸富祥彦(監訳) 前田満寿美(訳) 2005 インタラクティヴ・フォーカシング・セラピー:カウンセラーの力量アップのために 東京:誠信書房
フリードマンN.(著) 日笠摩子(訳) 2005 フォーカシングとともにB:心理療法・瞑想・奇跡 東京:コスモス・ライブラリー
アン・ワイザー・コーネル,バーバラ・マクギャバン(著) 大澤美枝子・上村英生(訳)2005/10 フォーカシング・ニュー・マニュアル―フォーカシングを学ぶ人とコンパニオンのために 東京:金剛出版
パートンC.(著) 日笠摩子(訳) 2006 パーソン・センタード・セラピー:フォーカシング指向の観点から 東京:金剛出版
アン・ワイザー・コーネル,マクギャバン,バーバラ(著)大澤美枝子(訳) 2007/09 すべてあるがままに―フォーカシング・ライフを生きる コスモスライブラリー
バラ・ジェイソン (著), 日笠摩子監訳 (翻訳), 久羽康・堀尾直美・酒井茂樹・橋本薫訳 (翻訳) 2009/2/17 解決指向フォーカシング療法―深いセラピーを短く・短いセラピーを深く 金剛出版
ローリー・ラパポート (著), 池見 陽 (翻訳), 三宅 麻希 (翻訳)  2009/5/18 フォーカシング指向アートセラピー 誠信書房
キャンベル・パートン (著), 伊藤 義美 (翻訳) フォーカシング指向カウンセリング 2009/12 コスモス・ラブラリー

和書[編集]
村山正治・増井武士・池見陽・太田民雄・吉良安之・茂田みちえ(著) 1984 フォーカシングの理論と実際 東京:福村書店
村山正治(編) 1991 フォーカシング・セミナー 東京:福村書店
池見陽(著) 1995 講談社現代新書1241 心のメッセージを聴く:実感が語る心理学 東京:講談社
村瀬孝雄・日笠摩子・近田輝行・阿世賀浩一郎(著) 1995 フォ−カシング事始め:こころとからだにきく方法 東京:日本精神技術研究所
池見陽(編著) 秋山恵子・阿世賀浩一郎・近田輝行・岩島千河子・吉良安之・森あい子・野田悦子・妹尾光男・鈴木陽子・田村隆一(著) 1997 フォーカシングへの誘い:個人的成長と臨床に生かす「心の実感」 東京:サイエンス社
村山正治(編) 1999 現代のエスプリ382 フォ−カシング 東京:至文堂
伊藤義美(著) 2000 フォーカシングの空間づくりに関する研究 東京:風間書房
伊藤研一・阿世賀浩一郎(編) 2001 現代のエスプリ410 治療者にとってのフォ−カシング 東京:至文堂
伊藤義美(編著) 2002 フォーカシングの実践と研究 京都:ナカニシヤ出版
近田輝行(著) 2002 フォーカシングで身につけるカウンセリングの基本:クライエント中心療法を本当に役立てるために 東京:コスモス・ライブラリー
村山正治・藤中隆久(編) 2002 クライエント中心療法と体験過程療法 京都:ナカニシヤ出版
日笠摩子(著) 2003 セラピストのためのフォーカシング入門 東京::金剛出版
伊藤義美(著) 2005 フォーカシングの展開 京都:ナカニシヤ出版
村山正治(監修) 福盛英明・森川友子(編著) 2005 マンガで学ぶフォーカシング入門:からだをとおして自分の気持ちに気づく方法 東京:誠信書房
日笠摩子・近田輝行(編) 2005 フォーカシングワークブック:楽しく、やさしい、カウンセリングトレ−ニング 東京:金剛出版
土江正司 2008/10 「こころの天気を感じてごらん―子どもと親と先生に贈るフォーカシングと「甘え」の本」コスモス・ライブラリー
伊藤研一(著)・諸富祥彦(編著)2009/05 「フォーカシングの原点と臨床的展開」岩崎学術出版社 (ISBN 978-4-7533-0903-0)
諸富祥彦・末武康弘・村里忠之(著) 2009/08 「ジェンドリン哲学入門―フォーカシングの根底にあるもの―」コスモス・ライブラリー (ISBN 978-4-434-13554-5)
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