2017年05月21日
4-2. 米国経済指標DB(2017年5月版、5月21日改訂)
米国の経済指標発表前後の取引はUSDJPYで行っています。
米国の政治・金融・経済の動向は、どの通貨ペアにも影響を及ぼします。望ましくは、東京時間の取引はUSDJPYで、欧州・米国時間はEURUSDで行いたいものです。
政治的には、4月に続いたリスク回避によるJPY買の動きから一転、4月下旬から5月上旬は仏大統領選終了によるリスク選好によるEUR買、中旬からはロシアゲートや米経済指標の陰りが焦点のUSD売での動きとなっています。5月16日にダウが一時的に大きく下げ、これは3月頃から浮上した米政権政策遂行力への不信感の高まりの一貫と見なせます。
経済的には、米国1-3月期GDP速報値が一時的とは言え低めの数字となり、個人消費と一部の製造業景況感が低下しています。直後の反応こそ限定的だったものの、NY連銀製造業景況感がマイナス値をつけた点は驚きました。がしかし、Phil連銀製造業景況感が予想外に上昇差再反転となり、中旬に大きく下げた株価を戻しつつあります。
5月22日週から5月末にかけては、4月住宅販売・1-3月期GDP改定値・4月PCEの発表が予定されています。内容次第でUSD売が進み、米国側の6月利上げ確率が更に低下する恐れがあります。FOMC議事録の公表も予定されていますが、むしろ地区連銀総裁の発言が多く予定されているので、そちらへの注意が必要です。
2017年の政策金利利上げは3回が予定されています。3月利上げの次は6月か9月を有力視する解説が多いようです。現在、6月利上げを見込む解説記事が多いので、これが9月説に傾くとUSDJPYは売られます。
5月4日、FOMCは政策金利据え置きを発表しました。同時に発表された声明は次の通りです。
結論は、@ FF金利の目標誘導レンジを0.75-1.00%に維持、A 保有債を新発債に再投資する既存の政策を維持、B 再投資は金利水準が十分に正常化されるまで継続を想定、です。
現状認識について、消費拡大継続を支える経済の基礎的諸条件は堅調で、長期的なインフレ期待の指標は総じてあまり変わっておらず、1-3月期の経済成長減速は一時的である可能性が高いとみています。
その論拠として、労働市場が引き締まり続け失業率を低下、家計支出は緩慢に増加、企業の設備投資は安定、インフレ率は長期的目標の前年比2%に近い水準で推移、を挙げています。
今後のFF金利は(緩やかな引上げを続けるため)長期的に到達すると見込まれる水準を下回るレベルで推移する可能性があります。引き続き金融政策の運営姿勢の緩やかな調整により、経済活動が緩やかなペースで拡大し、労働市場の状況はさらにいくらか力強さを増し、インフレ率は中期的に2%近辺で安定すると予測しています。その結果、経済状況はFF金利の緩やかな引き上げを正当化する形で進むのです。
市場ではこの声明と4月分雇用統計の結果を受けて、5月中旬には6月利上げ確率が一時90%まで上昇しました。5月22日週始めには60%まで下がっているようなので、5月25日深夜の前回FOMC議事録公表前後の地区連銀総裁発言には注意が必要です。FRBの過去の姿勢を踏まえると、6月利上げをするなら(しないなら)、そろそろ市場の間違った解釈を正そうとするはずです。
(事例1) FOMC政策金利(2017年5月4日発表結果検証済)
(事例2) FOMC議事録(2017年5月25日公表結果検証済)
米国GDPに対し公共投資が与える影響は、日本の場合に比して小さなものです(絶対額でなく比率で考察)。従って、政府予算の配分が変わることは経済的な直接効果よりも、関連法規改正などで予算配分が増えた分野への政府支援が強まる間接効果となります(日本の場合は直接効果が大きい)。にも関わらず、そうした政策変更は、JPYに対してよりもUSDに対して大きく影響が現れがちな点が不思議です。
がしかし、4月26日に米政府が発表した税制改革案は、そういう次元とちょっと違います。その骨子は、法人税と海外還流利益への減税と、個人の税率区分を現行7段階から3段階に簡略化すること、でした。ここで注目すべき点は海外還流益減税です。
米企業の海外保有益は約2.6兆ドル(日本のGDPの約半分)とされています。日本で以前話題になった政府埋蔵金と同じく、この数字の精度は怪しいものです。がしかし、大金であることに違いありません。トランプ大統領は、税率を下げる代わりにこの金を持って帰れ、と言っている訳です。
これは難しい。
通常、企業が海外で事業収入を得ても、そのお金を国内に還流させるのは容易ではありません。相手国側から見れば、それでは海外資本によって自国民が搾取されたのと同じ構図になるからです。特に、ほとんどの中進国・後進国では、こうした利益移転を法律で厳しく制限しています。現実問題として利益還流なんてまずできない仕組みになっているのは、中国だけではありません。
この政策が実現できるなら、先進国でも多くの反対論が出る一方、日欧英は内心で大賛成でしょう。企業にとっての二重課税回避に向けて、カナダ・オーストラリアを除くG5だけでもルール化が進めば、もしかするとTPPもEUも要らなくなるほど効果が高いのではないでしょうか。何しろ国境の壁が低くなるのです。
あれっ、トランプ政権の政策なのに。
ともあれ、色々な政策事案が5月は時間切れになりました。5月22日週は大統領が外遊中で、米議会は29日から1週間の休止です。中途半端なまま公的活動が止まる以上、報道で政権に悪い話こそあっても良い話が出るとは思えない状況ですね。5月23日には先に公表された予算案の細部詳細が発表されます。
全体的に非常に良い数字が続いていた状況が、5月は陰り始めています。プラスのうちはまだ良いものの、一部の指標でマイナスが出始めました。現状を複雑にしかねないことに、景況感が悪化すると米債金利が上昇して株価が下がるにも関わらず、安全通貨のJPYが買われてしまいます。
(3-1) 総合・非製造業
4月分ISM非製造業総合指数は57.5で、前回結果55.2・市場予想55.8を上回りました。新規受注が63.2(前回結果58.9)で、2005年8月以来の高水準となり、総合指数の伸びの主因です。非製造業景気指数は62.4(前回結果58.9・市場予想58.4)でした。雇用指数は51.4で昨年8月来の低水準だったものの、50はキープしました。
UM(ミシガン大)速報値・景気先行指数も前月より上昇か横這いで、末端(消費者)調査では悪化の兆候がまだ現れいません。
(事例1) ISM非製造業・総合景況指数(2017年6月5日発表結果検証済)
(事例2) CB消費者信頼感(2017年4月25日発表結果検証済)
(事例3) ミシガン大学消費者信頼感指数速報値/確報値(2017年2月11日発表結果検証済)
(3-2) 製造業
最も反応が大きい指標はISMです。ISMへの相関が強いと言われるのがPhil連銀景気指数で、Phil連銀景気指数への相関が強いと言われるのがNY連銀景気指数です。
4月分ISM製造業景気指数は54.8(市場予想56.5、前月結果57.2)と発表されました。2月には2年半ぶりとなる高い数値となっていたものの、その後2か月連続で低下しています。内訳は、新規受注指数が57.5(前回結果64.5)、雇用指数が52.0(前回結果58.9)でした。
5月分NY連銀指数は3か月連続の急降下で、とうとう7か月ぶりのマイナスに転じました。Phil連銀指数で3か月ぶりの大きな上昇転換が確認でき、USD買・株高で5月15日週を終えています。6月1日のISM製造業指数が上昇するか否かが、今後の雰囲気の決め手となるでしょう。
(事例1) ISM製造業景況感指数(2017年5月1日発表結果検証済)
(事例2) Phil連銀製造業景気指数(2017年5月18日発表結果検証済)
(事例3) NY連銀製造業景気指数(2017年5月15日21:30発表結果検証済)
FRBが注目しているというPCEコアデフレータが最重要だと思われます。物価は、材料→生産→消費へと下流に波及すると考えられるため、(事例4)→(事例1)へと影響が進む、と考えられます。但し、この話は単月の取引には役に立たない一般論です。
4月分PPI・CPIは上昇に転じています。
(事例1) PCEコアデフレータ(2017年5月30日発表結果検証済)
(事例2) 消費者物価指数(CPI)(2017年5月12日発表結果検証済)
(事例3) 生産者物価指数(PPI)(2017年5月11日発表結果検証済)
(事例4) 輸入物価指数(2017年5月10日発表結果検証済)
景気を表すのは新規雇用者数と失業率で、これらについては既にFRB幹部も満足しています。だから、最近は景気を後押しする平均時給の伸びが注目されています。インフレ圧力が強まっているのに、賃金が伸びなければいずれ好調な個人消費が減少に転じ、それが経済成長を阻むと考えられているから、です。
5月5日に発表された4月雇用統計では、非農業部門雇用者数が21.1万人(市場予想18.5万人・前回結果7.9万人)、失業率が4.4%で2007年5月以来の約10年ぶりの低水準でした。時間当たり賃金は前月比0.07ドル(+0.3%)で、前年比+2.5%は2016年8月以来の低水準でした。
ここ最近の平均時給は5セントずつぐらい前月より増えています。月160hと考えると、毎月8ドル=年100ドル近い訳ですから、日本のバブル期終盤に相当する賃上げペースです。
これはすごい。インフレ率が高くたって若い人は週末遊びまくりです(米国がそうかどうかは知りません)。
(事例1) 雇用統計(2017年6月2日発表結果検証済)
(事例2) ADP民間雇用者数(2017年6月1日発表結果検証済)
財政収支・国際収支の赤字が続いていても、主要先進国において米国経済は最も好調です。そういう実態を踏まえると、素人にも現状の景気の良し悪しを最もわかりやすく表しているのがGDPなのでしょう。
4月28日、商務省が発表した1-3月期GDP速報値は前期比+0.7%(市場予想+1.0%、前回確報値+2.1%)で、3年ぶりに小さな伸び率でした。
個人消費停滞(それほど悪い数字という訳ではない)と企業在庫減少が原因に挙げられる一方、この数字が実態経済の底堅さを反映していない可能性も指摘されています。というのも、以前から年率換算GDPの算出方法には問題があることが指摘されています。ほぼ最大雇用状態で賃金上昇も続いており、1-3月期の景気指標は軒並みプラスとなっているにも関わらず、こんな数字になるはずない、という訳です。
中国の統計部門が聞いたら喜ぶ話かも知れません。
ともあれ、今回の数字の低さは一時的と見なせ、4-6月期には再び成長が加速すると見なす向きが多いようです(当会所感)。但し、こうした解説記事が5月26日に発表される改定値で数字が良くなるとは言っていないのでご注意を。
(事例1) 四半期GDP速報値(2017年4月28日発表結果速報済)
(事例2) 四半期GDP改定値(2017年5月26日発表結果検証済)
(事例3) 四半期GDP確定値(2017年3月30日発表結果検証済)
最近の傾向は毎月400億ドルの貿易赤字が続いています。毎月400億ドルという大きさは、年間で日本の国家予算並みということですよね。米国の経済規模というのは本当にすごいのですね。本指標は、貿易赤字が多少増えようが減ろうが、発表直後の反応方向に関係なく、そして反応が比較的大きい傾向があること、です。少し変な指標です。
貿易赤字縮小が米政権の政治課題に挙がっており、USDJPYへの影響が直接・間接的に大きくなるでしょう。2月分データ(4月発表)で特記すべき点は、中国からの輸入が27%も減り、日独からの輸入も減った点です。米国の場合、これは物価上昇を招く兆候と見なせます。
5月4日に発表された3月分貿易収支は437.06億ドル(市場予想445億ドル)でした。輸出入ともに減っており、景気減速の予兆でなければ良いのですが。
本結果では対日・対メキシコでの貿易赤字が増加し、ロス商務庁長官が二国間協議による是正を求める旨、発言しています。
(事例1) 貿易収支(2017年4月4日発表結果検証済)
「消費」や「住宅」が景気に関わるというのはわかるような気がします。がしかし、米国で「製造」が経済に与える影響は為替を動かすほど大きいのか、どうもピンとこないまま調査や分析を怠っていました。「住宅」は、もともとあまり反応しません。
やはり基本は、米国GDPの70%を占めるというPCEです。
(3-1) 消費
米国GDPの約70%は個人消費が占めています。
4月28日発表された1-3月期PCE(個人消費)は+0.3%で、2009年10-12月期以来の低水準でした。それは仕方ないことだとしても、気に入らないのはその原因が、暖冬の影響で光熱費が減ったためだった、という解説記事がありました。寒けりゃ寒いで、温けりゃ温いで、どっちにしても1-3月期は駄目な理由がいつも天候要因ばかりです。
さすがにロイターは違います。 ロイターの挙げた1-3月期PCE速報値の低迷原因は、
を指摘しています。分析とはこうでなくちゃ。
(事例1) 四半期PCE速報値(2017年4月28日発表結果速報済)
(事例2) 四半期PCE改定値(2017年5月26日発表結果検証済)
(事例3) 四半期PCE確定値(2017年3月30日発表結果検証済)
(事例4) PCE(2017年5月30日発表結果検証済)
(事例5) 小売売上高(2017年5月12日発表結果検証済)
(3-2) 住宅
FX会社HPなどでは注目度や重要度が高く評価されている指標もあります。反応は素直な傾向が目立つものの、注目度の割に反応が小さい指標ばかりです。
4月25日、米商務省が3月新築住宅販売戸数(季節調整済み)を発表し、年率換算で前月比+5.8%・前年比+15.6%の62.1万件(市場予想58.3万件)と、2016年年7月以来8か月ぶりの高水準でした。
住宅市場全体の約10%を占める新築一戸建ては、売り上げが3か月連続で伸びています。背景には、失業率の低下に加えて、住宅ローン金利が歴史的にみて低い水準であること、中古住宅が在庫不足となっていること、が挙げられます。
好調が続いた反動か、5月16日に発表された4月住宅着工件数・4月建設許可件数は前月比が△2.5%付近となっています。5月22日週には販売件数が発表されます。
(事例1) 中古住宅販売件数(2017年5月24日発表結果検証済)
(事例2) 新築住宅販売件数(2017年5月23日発表結果検証済)
(事例3) 建設支出(2017年4月3日発表結果検証済)
(3-3) 製造
製造業(エネルギー分野を含む)は、米国GDPの約12%を占めています。だから、製造業の好不調が米国経済に与える影響は小さい、と捉えています。雇用指標や景気指標に影響すると考えているので記録を取って見ていますが、反応は大したことありません。
4月27日、商務省の発表した3月耐久財受注前月比は+0.7%(市場予想+1.3%、前回結果+2.3%)でした。コア受注前月比が+0.2%(市場予想+0.5%、前月結果+0.1%)でした。GDP算出に用いられるコア資本財出荷は+0.4%で、エネルギー分野の回復を背景に企業投資が加速しつつあることを示唆しています。
内訳は次の通りです。
機械受注は△0.2%で出荷は+0.7%、民間航空機受注+7.0%、自動車△0.8%となっています。航空機受注を特殊な出来事と見なすと、製造業全体としては最近の好業績からの失速が心配されます。
前月比の数字が良かった原因は、別の統計資料が示しているエネルギー分野の回復によると考えられています。米国内石油掘削リグ稼働数が2年ぶりの高水準で、リグ数が14週連続増加しているそうです。5月のシェールオイル生産量は2年超ぶりの増加となる見込みと伝えられており、米貿易収支への好影響も示唆しています。
5月4日、米商務省は3月分製造業受注が前月比+0.2%(市場予想+0.4%)・前年比+5.2%と発表しました。前回2月分発表値は+1.0%から+1.2%へと上方改定されました。
5月16日、4月鉱工業生産指数が発表され、製造業が+1.0%となり3年2カ月ぶりの大きな伸びとなりました。自動車生産が+5.0%と急拡大しており、これが数値改善の主因のようです。
製造業の設備稼働率は75.9%となり、製造業以外も含めた全体の設備稼働率は76.7%でした。米国では悪い数字ではありません。
(事例1) 鉱工業生産・製造業生産・設備稼働率(2017年5月16日22:15発表結果検証済)
(事例2) 耐久財受注(2017年3月24日発表結果検証済)
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米国の政治・金融・経済の動向は、どの通貨ペアにも影響を及ぼします。望ましくは、東京時間の取引はUSDJPYで、欧州・米国時間はEURUSDで行いたいものです。
政治的には、4月に続いたリスク回避によるJPY買の動きから一転、4月下旬から5月上旬は仏大統領選終了によるリスク選好によるEUR買、中旬からはロシアゲートや米経済指標の陰りが焦点のUSD売での動きとなっています。5月16日にダウが一時的に大きく下げ、これは3月頃から浮上した米政権政策遂行力への不信感の高まりの一貫と見なせます。
経済的には、米国1-3月期GDP速報値が一時的とは言え低めの数字となり、個人消費と一部の製造業景況感が低下しています。直後の反応こそ限定的だったものの、NY連銀製造業景況感がマイナス値をつけた点は驚きました。がしかし、Phil連銀製造業景況感が予想外に上昇差再反転となり、中旬に大きく下げた株価を戻しつつあります。
5月22日週から5月末にかけては、4月住宅販売・1-3月期GDP改定値・4月PCEの発表が予定されています。内容次第でUSD売が進み、米国側の6月利上げ確率が更に低下する恐れがあります。FOMC議事録の公表も予定されていますが、むしろ地区連銀総裁の発言が多く予定されているので、そちらへの注意が必要です。
【4-2-1. 政策決定指標】
(1) 金融政策
2017年の政策金利利上げは3回が予定されています。3月利上げの次は6月か9月を有力視する解説が多いようです。現在、6月利上げを見込む解説記事が多いので、これが9月説に傾くとUSDJPYは売られます。
5月4日、FOMCは政策金利据え置きを発表しました。同時に発表された声明は次の通りです。
結論は、@ FF金利の目標誘導レンジを0.75-1.00%に維持、A 保有債を新発債に再投資する既存の政策を維持、B 再投資は金利水準が十分に正常化されるまで継続を想定、です。
現状認識について、消費拡大継続を支える経済の基礎的諸条件は堅調で、長期的なインフレ期待の指標は総じてあまり変わっておらず、1-3月期の経済成長減速は一時的である可能性が高いとみています。
その論拠として、労働市場が引き締まり続け失業率を低下、家計支出は緩慢に増加、企業の設備投資は安定、インフレ率は長期的目標の前年比2%に近い水準で推移、を挙げています。
今後のFF金利は(緩やかな引上げを続けるため)長期的に到達すると見込まれる水準を下回るレベルで推移する可能性があります。引き続き金融政策の運営姿勢の緩やかな調整により、経済活動が緩やかなペースで拡大し、労働市場の状況はさらにいくらか力強さを増し、インフレ率は中期的に2%近辺で安定すると予測しています。その結果、経済状況はFF金利の緩やかな引き上げを正当化する形で進むのです。
市場ではこの声明と4月分雇用統計の結果を受けて、5月中旬には6月利上げ確率が一時90%まで上昇しました。5月22日週始めには60%まで下がっているようなので、5月25日深夜の前回FOMC議事録公表前後の地区連銀総裁発言には注意が必要です。FRBの過去の姿勢を踏まえると、6月利上げをするなら(しないなら)、そろそろ市場の間違った解釈を正そうとするはずです。
(事例1) FOMC政策金利(2017年5月4日発表結果検証済)
(事例2) FOMC議事録(2017年5月25日公表結果検証済)
(2) 財政政策
米国GDPに対し公共投資が与える影響は、日本の場合に比して小さなものです(絶対額でなく比率で考察)。従って、政府予算の配分が変わることは経済的な直接効果よりも、関連法規改正などで予算配分が増えた分野への政府支援が強まる間接効果となります(日本の場合は直接効果が大きい)。にも関わらず、そうした政策変更は、JPYに対してよりもUSDに対して大きく影響が現れがちな点が不思議です。
がしかし、4月26日に米政府が発表した税制改革案は、そういう次元とちょっと違います。その骨子は、法人税と海外還流利益への減税と、個人の税率区分を現行7段階から3段階に簡略化すること、でした。ここで注目すべき点は海外還流益減税です。
米企業の海外保有益は約2.6兆ドル(日本のGDPの約半分)とされています。日本で以前話題になった政府埋蔵金と同じく、この数字の精度は怪しいものです。がしかし、大金であることに違いありません。トランプ大統領は、税率を下げる代わりにこの金を持って帰れ、と言っている訳です。
これは難しい。
通常、企業が海外で事業収入を得ても、そのお金を国内に還流させるのは容易ではありません。相手国側から見れば、それでは海外資本によって自国民が搾取されたのと同じ構図になるからです。特に、ほとんどの中進国・後進国では、こうした利益移転を法律で厳しく制限しています。現実問題として利益還流なんてまずできない仕組みになっているのは、中国だけではありません。
この政策が実現できるなら、先進国でも多くの反対論が出る一方、日欧英は内心で大賛成でしょう。企業にとっての二重課税回避に向けて、カナダ・オーストラリアを除くG5だけでもルール化が進めば、もしかするとTPPもEUも要らなくなるほど効果が高いのではないでしょうか。何しろ国境の壁が低くなるのです。
あれっ、トランプ政権の政策なのに。
ともあれ、色々な政策事案が5月は時間切れになりました。5月22日週は大統領が外遊中で、米議会は29日から1週間の休止です。中途半端なまま公的活動が止まる以上、報道で政権に悪い話こそあっても良い話が出るとは思えない状況ですね。5月23日には先に公表された予算案の細部詳細が発表されます。
(3) 景気指標
全体的に非常に良い数字が続いていた状況が、5月は陰り始めています。プラスのうちはまだ良いものの、一部の指標でマイナスが出始めました。現状を複雑にしかねないことに、景況感が悪化すると米債金利が上昇して株価が下がるにも関わらず、安全通貨のJPYが買われてしまいます。
(3-1) 総合・非製造業
4月分ISM非製造業総合指数は57.5で、前回結果55.2・市場予想55.8を上回りました。新規受注が63.2(前回結果58.9)で、2005年8月以来の高水準となり、総合指数の伸びの主因です。非製造業景気指数は62.4(前回結果58.9・市場予想58.4)でした。雇用指数は51.4で昨年8月来の低水準だったものの、50はキープしました。
UM(ミシガン大)速報値・景気先行指数も前月より上昇か横這いで、末端(消費者)調査では悪化の兆候がまだ現れいません。
(事例1) ISM非製造業・総合景況指数(2017年6月5日発表結果検証済)
(事例2) CB消費者信頼感(2017年4月25日発表結果検証済)
(事例3) ミシガン大学消費者信頼感指数速報値/確報値(2017年2月11日発表結果検証済)
(3-2) 製造業
最も反応が大きい指標はISMです。ISMへの相関が強いと言われるのがPhil連銀景気指数で、Phil連銀景気指数への相関が強いと言われるのがNY連銀景気指数です。
4月分ISM製造業景気指数は54.8(市場予想56.5、前月結果57.2)と発表されました。2月には2年半ぶりとなる高い数値となっていたものの、その後2か月連続で低下しています。内訳は、新規受注指数が57.5(前回結果64.5)、雇用指数が52.0(前回結果58.9)でした。
5月分NY連銀指数は3か月連続の急降下で、とうとう7か月ぶりのマイナスに転じました。Phil連銀指数で3か月ぶりの大きな上昇転換が確認でき、USD買・株高で5月15日週を終えています。6月1日のISM製造業指数が上昇するか否かが、今後の雰囲気の決め手となるでしょう。
(事例1) ISM製造業景況感指数(2017年5月1日発表結果検証済)
(事例2) Phil連銀製造業景気指数(2017年5月18日発表結果検証済)
(事例3) NY連銀製造業景気指数(2017年5月15日21:30発表結果検証済)
(4) 物価指標
FRBが注目しているというPCEコアデフレータが最重要だと思われます。物価は、材料→生産→消費へと下流に波及すると考えられるため、(事例4)→(事例1)へと影響が進む、と考えられます。但し、この話は単月の取引には役に立たない一般論です。
4月分PPI・CPIは上昇に転じています。
(事例1) PCEコアデフレータ(2017年5月30日発表結果検証済)
(事例2) 消費者物価指数(CPI)(2017年5月12日発表結果検証済)
(事例3) 生産者物価指数(PPI)(2017年5月11日発表結果検証済)
(事例4) 輸入物価指数(2017年5月10日発表結果検証済)
(5) 雇用指標
景気を表すのは新規雇用者数と失業率で、これらについては既にFRB幹部も満足しています。だから、最近は景気を後押しする平均時給の伸びが注目されています。インフレ圧力が強まっているのに、賃金が伸びなければいずれ好調な個人消費が減少に転じ、それが経済成長を阻むと考えられているから、です。
5月5日に発表された4月雇用統計では、非農業部門雇用者数が21.1万人(市場予想18.5万人・前回結果7.9万人)、失業率が4.4%で2007年5月以来の約10年ぶりの低水準でした。時間当たり賃金は前月比0.07ドル(+0.3%)で、前年比+2.5%は2016年8月以来の低水準でした。
ここ最近の平均時給は5セントずつぐらい前月より増えています。月160hと考えると、毎月8ドル=年100ドル近い訳ですから、日本のバブル期終盤に相当する賃上げペースです。
これはすごい。インフレ率が高くたって若い人は週末遊びまくりです(米国がそうかどうかは知りません)。
(事例1) 雇用統計(2017年6月2日発表結果検証済)
(事例2) ADP民間雇用者数(2017年6月1日発表結果検証済)
【4-2-2. 経済情勢指標】
(1) 経済成長
財政収支・国際収支の赤字が続いていても、主要先進国において米国経済は最も好調です。そういう実態を踏まえると、素人にも現状の景気の良し悪しを最もわかりやすく表しているのがGDPなのでしょう。
4月28日、商務省が発表した1-3月期GDP速報値は前期比+0.7%(市場予想+1.0%、前回確報値+2.1%)で、3年ぶりに小さな伸び率でした。
個人消費停滞(それほど悪い数字という訳ではない)と企業在庫減少が原因に挙げられる一方、この数字が実態経済の底堅さを反映していない可能性も指摘されています。というのも、以前から年率換算GDPの算出方法には問題があることが指摘されています。ほぼ最大雇用状態で賃金上昇も続いており、1-3月期の景気指標は軒並みプラスとなっているにも関わらず、こんな数字になるはずない、という訳です。
中国の統計部門が聞いたら喜ぶ話かも知れません。
ともあれ、今回の数字の低さは一時的と見なせ、4-6月期には再び成長が加速すると見なす向きが多いようです(当会所感)。但し、こうした解説記事が5月26日に発表される改定値で数字が良くなるとは言っていないのでご注意を。
(事例1) 四半期GDP速報値(2017年4月28日発表結果速報済)
(事例2) 四半期GDP改定値(2017年5月26日発表結果検証済)
(事例3) 四半期GDP確定値(2017年3月30日発表結果検証済)
(2) 国際収支
最近の傾向は毎月400億ドルの貿易赤字が続いています。毎月400億ドルという大きさは、年間で日本の国家予算並みということですよね。米国の経済規模というのは本当にすごいのですね。本指標は、貿易赤字が多少増えようが減ろうが、発表直後の反応方向に関係なく、そして反応が比較的大きい傾向があること、です。少し変な指標です。
貿易赤字縮小が米政権の政治課題に挙がっており、USDJPYへの影響が直接・間接的に大きくなるでしょう。2月分データ(4月発表)で特記すべき点は、中国からの輸入が27%も減り、日独からの輸入も減った点です。米国の場合、これは物価上昇を招く兆候と見なせます。
5月4日に発表された3月分貿易収支は437.06億ドル(市場予想445億ドル)でした。輸出入ともに減っており、景気減速の予兆でなければ良いのですが。
本結果では対日・対メキシコでの貿易赤字が増加し、ロス商務庁長官が二国間協議による是正を求める旨、発言しています。
(事例1) 貿易収支(2017年4月4日発表結果検証済)
(3) 実態指標
「消費」や「住宅」が景気に関わるというのはわかるような気がします。がしかし、米国で「製造」が経済に与える影響は為替を動かすほど大きいのか、どうもピンとこないまま調査や分析を怠っていました。「住宅」は、もともとあまり反応しません。
やはり基本は、米国GDPの70%を占めるというPCEです。
(3-1) 消費
米国GDPの約70%は個人消費が占めています。
4月28日発表された1-3月期PCE(個人消費)は+0.3%で、2009年10-12月期以来の低水準でした。それは仕方ないことだとしても、気に入らないのはその原因が、暖冬の影響で光熱費が減ったためだった、という解説記事がありました。寒けりゃ寒いで、温けりゃ温いで、どっちにしても1-3月期は駄目な理由がいつも天候要因ばかりです。
さすがにロイターは違います。 ロイターの挙げた1-3月期PCE速報値の低迷原因は、
- 前回10-12月期確報値が、2011年4-6月期以来の伸び率だった反動という可能性、
- 昨年度分の税還付が今年は遅れたため、消費行動が例年より遅れた可能性、
- 1-3月期は10-12月期よりも貯蓄が増えており、その分の消費が減った可能性、
を指摘しています。分析とはこうでなくちゃ。
(事例1) 四半期PCE速報値(2017年4月28日発表結果速報済)
(事例2) 四半期PCE改定値(2017年5月26日発表結果検証済)
(事例3) 四半期PCE確定値(2017年3月30日発表結果検証済)
(事例4) PCE(2017年5月30日発表結果検証済)
(事例5) 小売売上高(2017年5月12日発表結果検証済)
(3-2) 住宅
FX会社HPなどでは注目度や重要度が高く評価されている指標もあります。反応は素直な傾向が目立つものの、注目度の割に反応が小さい指標ばかりです。
4月25日、米商務省が3月新築住宅販売戸数(季節調整済み)を発表し、年率換算で前月比+5.8%・前年比+15.6%の62.1万件(市場予想58.3万件)と、2016年年7月以来8か月ぶりの高水準でした。
住宅市場全体の約10%を占める新築一戸建ては、売り上げが3か月連続で伸びています。背景には、失業率の低下に加えて、住宅ローン金利が歴史的にみて低い水準であること、中古住宅が在庫不足となっていること、が挙げられます。
好調が続いた反動か、5月16日に発表された4月住宅着工件数・4月建設許可件数は前月比が△2.5%付近となっています。5月22日週には販売件数が発表されます。
(事例1) 中古住宅販売件数(2017年5月24日発表結果検証済)
(事例2) 新築住宅販売件数(2017年5月23日発表結果検証済)
(事例3) 建設支出(2017年4月3日発表結果検証済)
(3-3) 製造
製造業(エネルギー分野を含む)は、米国GDPの約12%を占めています。だから、製造業の好不調が米国経済に与える影響は小さい、と捉えています。雇用指標や景気指標に影響すると考えているので記録を取って見ていますが、反応は大したことありません。
4月27日、商務省の発表した3月耐久財受注前月比は+0.7%(市場予想+1.3%、前回結果+2.3%)でした。コア受注前月比が+0.2%(市場予想+0.5%、前月結果+0.1%)でした。GDP算出に用いられるコア資本財出荷は+0.4%で、エネルギー分野の回復を背景に企業投資が加速しつつあることを示唆しています。
内訳は次の通りです。
機械受注は△0.2%で出荷は+0.7%、民間航空機受注+7.0%、自動車△0.8%となっています。航空機受注を特殊な出来事と見なすと、製造業全体としては最近の好業績からの失速が心配されます。
前月比の数字が良かった原因は、別の統計資料が示しているエネルギー分野の回復によると考えられています。米国内石油掘削リグ稼働数が2年ぶりの高水準で、リグ数が14週連続増加しているそうです。5月のシェールオイル生産量は2年超ぶりの増加となる見込みと伝えられており、米貿易収支への好影響も示唆しています。
5月4日、米商務省は3月分製造業受注が前月比+0.2%(市場予想+0.4%)・前年比+5.2%と発表しました。前回2月分発表値は+1.0%から+1.2%へと上方改定されました。
5月16日、4月鉱工業生産指数が発表され、製造業が+1.0%となり3年2カ月ぶりの大きな伸びとなりました。自動車生産が+5.0%と急拡大しており、これが数値改善の主因のようです。
製造業の設備稼働率は75.9%となり、製造業以外も含めた全体の設備稼働率は76.7%でした。米国では悪い数字ではありません。
(事例1) 鉱工業生産・製造業生産・設備稼働率(2017年5月16日22:15発表結果検証済)
(事例2) 耐久財受注(2017年3月24日発表結果検証済)
以上
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