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2021年09月12日

can of steal

奴等のヒソヒソ話が聞こえる距離。

部屋から、微かな灯を背に、中肉中背の男が出てくる。
片手に何か持って、用心するように階段を下りていく。
男が、下の階段に見えなくなる。

ワタシは静かに、しかし素早く、灯のもれる部屋にとりつく。
通路の壁に背中を押し付けたまま、部屋の中を覗き込む。

部屋の奥、床に置かれた防災用らしきライト。
その灯の奥に、椅子に座らされた彼女。
表情は分からないが、動く気配はない。
睡眠薬でも飲まされているのか。

彼女の脇で、床にすわっている男。
大きな背中に、ピンヒールのワタシでも、立ち上がると見上げそうな巨漢。

無意識に、上着のボタンを外す。
左手で上着の腰を捲って、ブラックジャックを取り出す。
次の瞬間、一気に部屋の奥に駆け込む。

男が、ヒールの音に気づいて、振り向きながら立ち上がる。
男の顔にめがけて、スチール缶を投げるワタシ。
暗がりで避け損ねた男が、悪態をつく。

距離があると思っている男の足に、左手のブラックジャックを叩き込む。
「うぐっ」
男が呻いて片膝をつく。

絶妙の高さ、ここは逃さない。
右脚を軸に左脚の飛びまわし蹴り、一閃。
巨漢が蹌踉めく。
着地して背を向けたワタシに、掴みかかろうとする奴の気配。
「…貴様あ…」

時間はかけられない。
反転して屈むと、下からブラックジャックで突き上げる。
そのまま、手元のスイッチを押す。
男が痺れたように痙攣している。
構わず、椅子の彼女に近づく。

ぐったりしている彼女の首に、手をあてる。
眠らされているだけ?とにかく此処を出よう。
椅子の背に後ろ手に縛られているロープを解く。

椅子のまま彼女を押して、コンクリート剝き出しの部屋を出る。
階段に向かおうとして、椅子を押す手をとめる。
そこに、息を切らして中肉中背の男が立っている。

物音を聞きつけて、下から一気に駆け上がって来たらしい。
右手に黒い塊。
窓から入る通りの薄明かりの中、右手を真ん中に構えて息の間から言う。
「…動くな…」

ゆっくり両手を挙げるワタシ。
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posted by afakenation at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 9.rescue
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