2017年04月02日
シュレーディンガー『生命とは何か』
1953年、ワトソン&クリックによりDNAの二重らせん構造が明らかにされました。
その大発見に先立つことおよそ10年、遺伝子は暗号として働く物質として考えうることを物理学の見地から予言することで、多くの研究者の背中を押した、陰の立役者がいました。
それがかの有名な理論物理学者、エルヴィン・シュレーディンガーです。
実際、ワトソン&クリックもこの『生命とは何か』にインスピレーションを受けたと言っているそうで、それだけでもこの本が今日の分子生物学の発展に果たした貢献度は計り知れません。
さらに、以前当ブログでも紹介した福岡伸一氏が指摘しているように、シュレーディンガーが生み出したもう一つの見逃せない価値があります。
それは、生物の「大きさ」に関する次のような洞察です。
シュレーディンガーはまず、原子はなぜこんなにも小さいのか、と問います。そしてあまりにも小さすぎる原子は、一つ一つをみればランダムな、したがって無秩序な挙動を示すことを、物理学的に解説します。
ここまできて彼は、華麗に問いを反転させます。では(原子の小ささに対し)生物はなぜこれほどまでに大きいのか、と。
生物は秩序を持っています。ところがこの秩序を維持する為には、少数の原子ではとても足りないというのです。原子自体のランダムな振る舞いが、秩序の維持に決定的な影響を与えてしまうからです。
それだからこそ、生物は必然的に莫大な原子数を持たざるを得ない、すなわち「これほどまでに大きい」ということになるのです。
彼のこの洞察は、生物を物理学的視座から見つめ直すことによって、初めて得られたものでした。そして、生物を物質的に理解するという道を、明るい希望の光で照らし出したのです。
最近大学等でにわかに盛んになりつつある学際的研究。その先駆けであり、模範とすべきものこそ、まさにこのシュレーディンガーによる生命論だと言えるでしょう。
本書の扱う範囲はさらに拡がり、エピローグでは哲学的問題に関しても言及されています。しかしこの部分はあまりにもサラッとしすぎており、恐らく著者自身の理解不足のために、混乱を生む内容となっているので、真剣に考慮することはオススメできません。そのうち機会があれば、詳細とそれに対する反論を掲載します。
それでも、この古典的名著の価値が減ずることはありません。
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