小さい頃はカッターナイフの使用が禁じられていた。
園はハサミのみ持参可だったし、小学校もやんわり禁止していた。
学生がカッターナイフで事件を起こす前の時代だったが、別に禁止されたところで不満はなかった。
自宅はカッターナイフあったはずだが、自分の前で使われていた記憶がない。
段ボールの開封などに使っていたはずだが。今ほど通販利用していなかったから見る機会がなかったのだろうか。
中学生になると禁止されなくなった。しかしハサミで事足りるので使おうとしなかった。
そんな中、中学生になって出来た友人から「Missing」という小説を貸してもらった。同著者の「断章のグリム」も借りていた。
この著者さんはストーリーや表現がすごい人だった。個人的に特にすごいと感じたのが痛みの描写。読んでいて痛みを想像してしまってぞわっとすることが多々あった。
どちらかのシリーズ外伝にカッターナイフが関わってくる話があった。
……どのシーンも痛そうでカッターナイフが苦手になった。
情けない話だが、使ったこともないままにカッターナイフが使えなくなった。
工作道具の中にあると、使いもしないのに気が滅入っていた。見るだけで駄目だった。
転機が来たのが高校生。
文化祭で屋台の飾りつけに段ボールを使用したのだが、段ボールの加工に基本ハサミは使わない。使うのはカッターナイフである。
極力避けていたが、作業する以上自分も使わざるをえない状況になった。
事前に作業全体の指揮を取っていた美術部の友人に苦手だと伝えていればよかったのだろうが、自分が恥ずかしがって言わなかったのが仇になった。
馬鹿にするどころか心配してくれるだろう良い人だった。それでも高校生にもなってカッターナイフを使えない情けなさと呆れられる怯えが勝った。
内心いやいや受け取ったカッターナイフで、恐々段ボールを切ってみた。……あっさり使えた。
最初は怖がっていたが、次第に慣れてそのまま作業を終わらせた。
この数年間なんだったのだと自分に呆れた。
想像上の恐怖で使えなくなっていたのを、実際に使って「これは大丈夫」と実感できたのがよかったのだと思う。
それ以来、普通にカッターナイフを使えている。怪我をしたこともない。
ただ、何の前触れもなく、例のシーンを連鎖的に思い出してしまって気持ち気分が悪くなることが今もある。こちらも克服できないだろうか。