海の近くで飲食店を経営していた親戚がいた。
過去形なのはその人が既に亡くなっているからだ。
店も継ぐ人がいなかったので閉店した。
その親戚は遠方に暮らしており、会う機会が少なかった。
好きか嫌いか判断できないほど交流は少なかったが、良い人だったのだろうと思う。
他の親戚や従業員から慕われており、店は地元民に愛されていたようだった。
葬式が終わって、飲食店の近くの墓に埋葬された後。
見知らぬ中年男性が二人やってきた。
自分は知らなかったが演歌歌手だそうで、残された親族達はいたく感激して握手を求めていた。
もう一人はしきりに腕時計を確認していた。たぶんマネージャーだった。
案内された墓の前で歌手は手を合わせた。
途端にマネージャーがパシャリとデジカメで墓と歌手を撮影した。フラッシュも炊いていた。
手を合わせてから撮影するまで三秒もかからなかった。
シャッター音が止むと歌手はとっとと離れた。
時間をかけなければいけないとは思わないが、故人を偲ぶには短すぎると思った。
写真撮影したことも、すぐ墓前から去ったことも気に入らなかった。
けれど、写真は広報に使うのだろうし、すぐ立ち去るほど忙しい合間を縫ってきたのだろう。
とそんな感に考えて歌手への不満を潰していった。
帰る間際、飲食店の駐車場にタクシーが来ていた。マネージャーは煙草片手にどこかへ電話していた。
電話を終えて去り際、タバコの吸い殻を海に投げ込んだ。
ポイ捨ての時点で最悪だった。
けれど、よりによって店に面した海にタバコを捨てるのか。
付き人の振る舞いで本人が嫌いになった。