2020年08月11日
初心者による初心者のための間違える
ニコニコ動画に「間違える喫茶」が登場
間違える自分へのご褒美?彼からのプレゼント?
「ねえ〜聞いたぁ?」
いきなりの相葉ちゃんの第一声。
「挨拶よりも重要なことなんですか?」
何時も相葉ちゃんに対しては上から目線のニノ。手厳しいが、今回は正論だ。
「ああ、ごきげんよー。でさ、聞いた?」
「はあ? なんですかソレは!?」
眉間に皺が寄るのは端で聞いてる俺も同じ。挨拶も何もすっ飛ばして聞く話の何処に重要性を感じるのか。
「どうせ、大野さんの破局の件でしょ」
「!!」
「!?」
あっさりと答えた松潤に。
「なんだよ〜 知ってるんじゃん」
肩を竦める相葉ちゃんに、スマホから視線を上げたニノに、背中越しに聞いてる俺。
「で、今度の相手は女性ですか? 男性ですか?」
「それが女性だって」
「女ですか、ったく碌な相手じゃなかったんでしょう? あの御仁ですから」
「でもね、女だってことで、もしかして結婚考えてたんじゃないかって話だよ」
「まさか、まだあの人は結婚出来ると思ってんですか」
呆れて物も言えないとばかりに溜息を吐くニノ。それは智君に対しては失礼じゃないか?
確かに智君は男女問わずの困ったさんだが、間口が広いのに、何故か選ぶのはとんでもなく・・・趣味が悪い。自分の価値をこうも低く見るのはある意味嫌味だと思わないのか。自分に釣り合う人間を選ぼうという気がないとしか思えない。
顔の醜悪の問題ではない。美的感覚の点では秀逸だ。問題は・・・性格だな。
自分がどれだけ結婚相手として有望株なのか、それを利用しようとする輩は有象無象に居るという事実を、見ようとしないから困るんだ。
女は軒並み智君が稼ぐお金しか興味がない節操無しばかりだし。男にしても似たようなもんだ。我儘言いたい放題、まるで天下をとったのは自分だと言わんばかりの態度を取る奴ばかりだ。
「智君が来る前に口を閉じた方がいいんじゃないか」
取り敢えず噂話の中味を確認出来たから、俺にはそれ以上の情報はいらない。
「えー だってさ、気になるじゃん? おおちゃん気落ちしてるかも知れないんだし」
「慣れたもんでしょ、あの人の思考回路に反省なんて機能があるとは思えませんし」
言いたい放題なのは智君に対してもらしいニノ。
「わーニノ、冷たーい!!」
「相葉さんもその辺にしておいていいんじゃない? 大野さんが落ち込んでたとしても、俺達にそんな様子見せるとも思えないし。
心配して欲しい時はちゃんと言うよ多分」
「そんな事言って、今まで俺達に相談なんてしたことないでしょ」
今のは正論だな。
「何? なんの相談?」
ガチャッと楽屋のドアが開いたのと同時に智君の声。
ハッとして口を閉ざす面々。
場の空気が滞るのを、智君は気が付かなかったのか、素知らぬ顔で皆に挨拶して何時もの椅子に向かう。
そっと互いの顔を見合う俺を抜かしたメンバー三人。
「?」
すとんと椅子に座って、皆を見渡して・・・俺を見た智君が小首を傾げる。
「翔君?」
「智君と飲み会を開きたい相談」
「飲み会?」
きょとんとした智君、フラれた男の表情は何処にも窺えない。こういうことだけは上出来な人だ。それとも振られた事に対しては免疫が出来たのか。はたまた、気にならないくらいの、所詮その程度の想いだったのか。
「そー。そうそう、おおちゃんと飲みに行きたいてか、誘いたいんだけど、どうすれば行くって言ってくれるかな〜ってさ」
「相葉ちゃんと飲みに行く話? そんなの、何時も行ってるでしょ」
にこっと笑う、その笑顔は同じメンバーに対してだとしても、許さない。ぎろっと視線を相葉ちゃんに送っても、微笑みかけられてぼうっとなってるから、気が付かない。
だから。
この男は無自覚でタラシでどうしようもない男なんだよ!
それだけの武器を持っていながら、しかも天性ときたもんだ。それを有効に使おうと、どうして思わない。いや、厳密にいえば俺以外誰に使おうと許さないがな。
自分が惹かれる人間にはどこまでも甘い、何されても許してしまう馬鹿な男。しかもその相手は大抵人間として・・・最低。
それが、智君だ。
自分が傷ついても仕方ないと、本気で思ってるのだったら相当な、最悪な能天気な馬鹿な・・・最愛の男だ。
こんな男にどうしようもなく募る想いを寄せてる俺は(自分で言うのもなんだが、事実だから仕方ない)、最高ランクの男だと自負してる。
その為の努力を日々怠る事はない。若い頃はアイドル業と学業の両立。今に至ってもラップの研鑽、場を回す話術、人の感情を読み取る緻密な洞察力を磨くことを是としているし、情報収集能力に分析力解析力、そのどれも人より優れている。
これ程完璧な俺が(何度も言うが、事実だから仕方ない)、自分にない世界を持っている智君だけには、勝てない。というか・・・惚れている。
せめて俺よりも優れた相手を選んでいれば・・・そんな相手がいるとも思えないが、もしそうであれば俺も潔く負けを認めて、祝福もしよう。しかし、今までの相手は、少し俺が策をめぐらせばすぐにボロを出す。勝手に自滅する奴も沢山いた。
そう、智君がフラれるのは、智君自身の所為ではない。俺がぶっ潰しているからに他ならない。
「でも、今日は駄目だな、また今度誘って」
「えへへ・・・うん。そうするぅ〜」
へらっとしてるんじゃない相葉雅紀。メンバーだから何もしないが、今日の録りで無茶振りされても文句は言わせないし、フォローしてくれるなど甘ったれんたことを考えない方がいい。
「ほら、相葉さん、メイク行くよ」
へらへらしてる相葉ちゃんを、松潤が引っ張って楽屋を出て行く。
「ニノ、衣装・・・これかな?」
相葉ちゃんと松潤が出て行けば後はニノだけが邪魔だ。俺は多分ニノが着るだろう衣装を見せる。
「!! あ・・・ったく、私のサイズまた間違えてますよね?」
小さく見えがちなニノ。最近身体を鍛えだしてサイズが変わってきてるのに、何度言っても衣装さんは間違える。
「全く・・・」
ぶつぶつ言いながらも衣装を換えに行くニノ。基本俺達は真面目だ、スタッフを呼びつけて交換させるということをしない。自分が動いた方が早いってこともあるからだが、下積みが長かったからなのか名前が売れてからもこのスタイルは変わらない。だからこそのスタッフ受けがいいんだろう。
ま、俺としてはニノを遠ざける手段でしかないが。
「智君。何度言っても自覚がないよね」
二人きりになった楽屋で早速口火を切る。時間なんてすぐに過ぎてしまう、無駄に使うような事はしない。
「え?
もしかして、相葉ちゃん・・・それを気にしてくれてたの?」
振られた事を知られた事よりも、心配させた方を申し訳がる。ほんとにその頭には経験から何かを学ぶという機能はないのか?
「噂になっているらしいって、朝から煩いのなんの」
「悪いことしたな〜 じゃあ今日・・・」
「却下」
「は!?」
「今日は俺との約束が先だ」
「ああ、でも、話だけだったら今でもいいよ?」
そう言って、相葉ちゃんと飲みに行かせよう・・・なんて俺が思うわけない。智君が振られるように仕組んだのには、ちゃんとした理由があるからで、他の男と飲みに行かせる為なんかではない。
「どうせなら、皆と一緒に飲みに行くってことにして、その時に話聞こうか?」
「智君? 俺は二人きりで話がしたいと申し上げたのですけど?」
じっと見つめると、そわそわし始める智君。目が彷徨っている。
「わかったよ。けど、どうせ、何時もの話なんじゃない?」
「本気にしてくれるまで何度も続けるけど?」
「うわー」
口ではそう言ってるけど、表情は微笑みを浮かべてるから。とことん、鈍いのか馬鹿なのか。いや、多分馬鹿なのだこの人は。
「翔君、メンバー思いなのはいい事だけど。プライベートまで気を遣ってくれなくても大丈夫だよ? 俺、馬鹿だけに耐性は強いんだと思うんだ。ま、今回も駄目だったけど、人生長いんだから気長に構えてれば、何時かは幸せになるよ」
なんて超絶麗しい笑みを浮かべて、何を力説してるんだろう。俺の心臓が止まる前に、ここで押し倒して願望を遂げたくなる。
第一今回もって・・・相手が俺でない限り気長に挑戦しても結果は同じだ。いくら人生は長いといっても、そんな無駄な時間を費やすような暇はない。特に俺には!!
がちゃ。
「はあぁっ全く。何度言えば分かってくれるんでしょうね、衣装さん達は」
ぶつぶつ言いながら楽屋に戻って来たニノ。すっと笑みを消して椅子に深く座り込んで目を閉じた智君。どうも話はこれで終わりということらしい。俺としても外野が戻ってきた以上話を続けるつもりはない。視線を紙面に戻した。
トントントン♪
軽快なノックの音。続けてドアを開けてマネージャーが顔を出した。
「あの、今日のゲストさんが挨拶に見えましたけど、今大丈夫ですか?」
「いいよ」
応えたのは松潤。
俺達は一斉にドアの方に身体を向ける。これも下積みが長かった影響なのか、暗黙で俺達は誰に対しても腰が低い。あの時期伊達に話し合って意思統一をしてきた訳ではない。それが巷で評判になってる”仲が良い”の元になっているということだろう。
「おはようございます」
入って来たのは今話題になっている女性フリーアナウンサー霞川碧抒(かすみかわ せきの)。某有名国立大学卒の才女。世のお嫁さんにしたい女性のランキング上位の女性、変に才女をひけらかすわけでもなく、適材適所を弁え、それでも自分の意見はちゃんと主張する、バランスのとれた人間性。今は社会派の情報番組のメインMCでも知られている。
それぞれに挨拶して回り、俺にも卒なく話し、最後に控えている智君へと向かうその横顔が・・・一瞬。
・・・・・・
俺の中で警報がなった。
「はじめまして、よろしくお願いします」
智君が頭を下げて挨拶をする。訪ねて来たのは向こうだ、本来自分から発言するもんじゃないと思うのだが、こういう所が智君らしさだ。絶対に自分からだ。無口で通るキャラとはいえ、要所要所はちゃんとしている。腰が低い俺達と言われる中で、智君は特にだ。
大抵は先に頭を下げる智君を見て、驚く表情を浮かべるのに、霞川は逆に納得したかのような表情を浮かべて、更にははにかむような・・・側に居たから俺には分かったが、楽屋口近くに陣取っていた他のメンバーには見えなかったんだろう。
背中からは何も感じ取れていないようだ。メンバーの表情には変わった所はない。
くすっ。
ほんのりと笑みを浮かべた、その顔を見て俺の中の警報は確信に変わった。
「やっぱり覚えていないんですね」
にこっと笑って答えた霞川に、智君が?の表情で返す。
「前にお会いしたことがあるんですよ?」
嫌味なくさらっと微笑むと、智君に手を差し出した。反射的に握手を返す智君を見て、嬉しそうに頬を染める様も、女性特有の厭らしさを感じさせない。
じっと見つめ合う二人に、俺は靴の先でテーブルの足を突いた。
「「!!」」
はっとして手を離した二人。
非情に・・・面白くない!
「以前? え・・・」
何も思い出せていない智君にほっとする。この人のことだ、学歴の高い女性というだけで別世界の人間にランクされたん筈だ。
霞川にとってとても思い入れのある出会いだったとしても、智君には響いていない。何時もの誰彼かまわず誑し込む無意識が発動しただけ。
「ココニネットのパーティーで」
所が敵もさる者、忘れているのは前提で、くすくす笑い出会いの場を思い出させる。
「! ああ、あの時の?」
「そう、私です」
完全に二人きりの世界を形成しつつある。メンバーも茫然として、どちらのマネージャーもぽかんとして口を開けているのも気が付かない。
だが、彼等はまだ離れた場で見てるだけだ。俺に至ってはすぐ目の前で繰り広げられている、忌々しき事態だ。
「智君」
敢えて口を挟みチラッと警告の視線を霞川に投げる。後ろの状況を確認させようと。
「!」
頭の回転が速い女性は助かる。少なくとも霞川が戦場に選んでいる場では、この手の醜聞(敢えて言う、醜聞だ!!)は命取りだ。
俺の視線の意味を間違えることなく、すっと後ろのマネージャーの反応と、メンバーの反応を読んで、にっこり笑って俺と智君に頭を下げた。
「また、ココニネットに顔を出して下さいね」
卒なく身を引いて、マネージャーの元に帰って行く。俺を通り抜ける時に送る視線の意味は・・・
宣戦布告だ。
続
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