ある日のこと、真夜との約束をすっぽかしてアパートに居たことがあった。ドアを激しく叩き、電話が5分おきぐらいに鳴る。居留守を使いトイレに身を潜めて震えていたこともあった。ある朝、ポストに手紙が入っていて「洗濯機の中を見て下さい、プレゼントです」と書いてある、玄関ドア横の洗濯機には5万はするだろう腕時計が入っていて困ったこともあった。
そんな頃、会社を辞めて無職になった妹が名古屋から泊まりで遊びに来た。真夜は「妹さんが来たから」と張り切り出して半ば強引に観光へ連れ出された。真夜の雰囲気や会話を聞いて妹は「絶対別れた方がいい」と言った。俺も別れる決心をしてある日、思いの内を真夜にぶちまけ「別れる」ときっぱり言った。だが、奴は納得せず「私は認めていない」と手紙攻撃が続くが無視し続けた。
そうこうしているうちに奴は会社を辞めた。顔を合わせなくてもよいとホッとしたが、手紙攻撃は相変わらず。祭の日に会社で露店を出していた時、真夜が他の男を引き連れて憮然とした面で現れたことがあった。俺の嫉妬心を煽りたかったんだろうが何とも思わなかった。
そして俺もバイクで日本を周りたいという理由で会社を辞めてから長期間アパートには帰らなかったので真夜とは疎遠となった。約8ヵ月ほど日本を放浪してアパートに帰ってきた俺はすぐにでも職を探さないといけないほど金欠だったので一度だけ真夜を利用した。電話でうまいこと言って食料を持ってこさした。久しぶりにアパートに来た奴は新しくできた彼とうまく行かずフラれた、抱いて欲しそうな素振りを見せいつまで経っても帰る様子がなかったが、俺が手を出してこないと分かると諦めて帰って行った。
その後、この地で何とか再就職したが人間関係のトラブルがあり３ヶ月で退職した。ここは田舎でしかも不況、スキルのない俺はまともな仕事にありつけないと判断しアパートを引き払って名古屋の実家に帰った。それ以降、真夜とは会っていない。まぁ、あれだけ男に積極的な奴だったから今頃は結婚して幸せに暮らしているんだろう。
◆その他、真夜との思い出
疎遠になる前、真夜は「もやもや病」にかかっていることを手紙に書いてきた。なんじゃそれ？俺の気を引きたいだけか？と気にも留めなかったが、そういう病気が実際存在していることを後に知り、真夜に冷たい態度や酷い言動をとってしまったことは少し後悔している。
・真夜がカラオケで奇跡の点数を叩きだす。
友人と飲みに行く際、私も同行したいと言ってきたが酒を飲めない奴は来るなと拒否したものの、真夜は強引に押しかけてきた。スナックでのこと、学生時代に合唱団所属、歌は上手いとよく自慢していたので酒が飲めないなら歌えとカラオケを勧めた。松任谷由実の曲を歌い出したが蚊の鳴くような小さな声で下手くそ、採点付きのカラオケ、結果はなんと0点！ 店のマスターが必死でフォローしていて俺は笑いをこらえるのに必死だった。
・計画的お泊り
友人に彼女ができたと報告。「俺が見てやるから一緒にメシでも食いに行くぞ」ということで一緒に食事へ。友人は遠方から来ているので俺のアパートに泊まることになっていた。メシを食ってる途中、真夜が体調を悪くして苦しみ出したので家に送ろうとするが、俺のアパートで寝ると言って聞かない。仕方ないのでアパートに連れて行き寝かせる。親が外泊に厳しい人だと聞いていたが電話して状況を伝えるとあっさり「お願いします」とのこと。
結局、友人は別部屋で寝てもらい真夜と俺は同じ布団で寝た。翌朝、マイ歯ブラシで歯を磨いているし着替えも持っている。ということは昨日の体調不良は演技で、俺のアパートに最初から泊まるつもりだったということだ。女というのは恐ろしい。「あいつと付き合うのは大変だぞ、お前がそれでいいなら仕方ないけど」という友人の言葉が印象に残っている。
好きでもないメンヘラ女から一方的に好意を持たれ苦痛の日々を過ごした。おそらくそれが人生最初で最後となるであろう「恋人」の存在となってしまったのは残念でならない。まともな恋愛を経験せずに人生を過ごしてきた自分に激しく後悔するばかりだ。
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