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2024年09月21日
【羊の木 (2018)】
映画『羊の木』(2018年)は、山上たつひこの同名漫画を原作としたサスペンスドラマで、「犯罪者たちの社会復帰」をテーマにしたちょっと異色な作品です。平凡な港町が舞台となっていて、そこに“秘密”を抱えた6人の元受刑者が移住してくるところから物語が始まります。表向きは「過疎化対策」として彼らを受け入れているんですが、実はその裏にはもっと深い事情があって…。
主人公の市役所職員・月末一(錦戸亮)は、町にやってきた彼らの世話を任されますが、最初から不安でいっぱい。元受刑者たちは普通の人に見えるけど、何かがちょっと違う。彼らの過去が少しずつ明らかになるにつれて、月末や町の人たちは徐々に不穏な空気を感じ始めます。とはいえ、彼らの素性を知らない町の人たちは、初めは何事もなく過ごしていて、元受刑者たちも普通に生活しているんですよね。でも、「何か」が起きそうな雰囲気がずっと続くので、観ているこちらも落ち着かない感じ。
映画の序盤は、のどかな港町の風景が広がり、穏やかで平和な日常が描かれます。このギャップが逆に不気味さを際立たせていて、「この平和、いつまで続くんだろう…」と、どこかで危険なことが起きそうな予感を抱かせます。そんな日常の中で少しずつ元受刑者たちの“本性”が見えてくると、町全体が不穏な雰囲気に包まれていくんです。登場人物たちが普通に生活しながらも、それぞれが抱える秘密や過去がじわじわと滲み出てくる様子が非常に緊張感がありました。
特に印象に残ったのが、6人の元受刑者たちのキャラクター。彼らはそれぞれ個性的で、過去に犯した罪も異なるんですが、みんな一様にどこか影がある。彼らを演じる俳優陣もクセのある演技が光っていて、特に松田龍平が演じる杉山勝志というキャラは独特の存在感を放っていました。松田龍平の演技は淡々としているんだけど、その裏に何かとてつもないものを秘めている感じがあって、不気味さと同時に目が離せなくなります。
他の元受刑者たちも、彼らがどのような過去を持っているのかが少しずつ明らかになっていくと、その平穏な生活がいつ壊れてもおかしくないという緊張感が高まります。6人それぞれが再スタートを切ろうとしているように見えるんだけど、彼らの心の中にはまだ消えない闇が潜んでいる。観客としては「この人、信じていいのかな?」って常に疑いながら観てしまうんですよね。特に、普通に暮らしているように見えても、どこか不気味さが漂う感じが全体を通じて続くのがこの映画の独特な魅力です。
また、この映画では「過去とどう向き合うか」というテーマも描かれています。過去に犯した罪を償い、新たな生活を送ろうとする元受刑者たち。でも、その過去は完全には消えないし、周りの人々が彼らをどう見るかによっても、彼らの新しい人生は左右されてしまう。観ていて、「自分だったらどう受け入れるんだろう?」とか、「過去を完全に許すことってできるのかな?」と考えさせられる部分が多かったです。
月末一というキャラクターも、物語が進むにつれてどんどん複雑な感情を抱くようになります。最初は、ただの市役所職員として無難に彼らのサポートをしていればいいと思っていたけど、元受刑者たちと接していく中で、彼自身も大きく揺れ動きます。月末の感情の変化は、観ているこちらとしても共感できる部分が多く、彼が直面するジレンマが物語に深みを与えています。
そして、何よりもこの映画の終盤。静かな日常が続く中で、徐々に緊張が高まり、ついに事件が発生します。ここからが怒涛の展開で、まさに息をつかせない緊迫感が続きます。特にクライマックスでは、思わぬ形で物語が動き出し、「こう来るか!」という驚きが待っています。これ以上はネタバレになるので詳しくは言えませんが、後半は目が離せなくなる展開が続くので、サスペンス好きにはたまらないはず。
ただ、少し気になったのは、映画全体が少し「静かすぎる」というところ。緊張感はあるんだけど、もう少しアクションや動きがあってもよかったかなと感じました。元受刑者たちの心の闇や、彼らの過去がもっと大きな形で爆発するのかなと思っていたので、そこが若干物足りなく感じるかもしれません。でも、逆にこの静かな不気味さがこの映画の良さとも言えるので、そこは好みの問題かもしれませんね。
全体を通じて、『羊の木』は独特の空気感と緊張感が続くサスペンス映画で、登場人物たちの抱える過去や秘密がじわじわと明らかになっていく過程が見どころです。錦戸亮の演技も控えめでリアルな感じが良かったし、松田龍平や他のキャストもそれぞれ個性を発揮していました。過疎化が進む地方都市の静けさと、そこに潜む危険が交差する不気味な雰囲気が好きな人にはぴったりな映画です。
過去を背負った人々が新しい生活を始めるというテーマは、現実世界でも考えさせられる内容なので、観た後に色々と考えるきっかけになる映画だと思います。スリリングでありながらも、静かに展開するこの物語にぜひ一度引き込まれてみてください!
2024年09月20日
【渇き。 (2014)】
映画『渇き。』(2014年)は、役所広司主演で、衝撃的かつスリリングなストーリーが展開されるサスペンス映画です。原作は「告白」で知られる作家・深町秋生の小説『果てしなき渇き』。この映画は、正直言ってかなりダークでエグい展開が続くので、万人向けではないかもしれませんが、その分、観る人を強烈に引き込むパワーがあります。
物語は、元刑事の藤島昭和(役所広司)が、突然失踪した娘・加奈子(小松菜奈)を探すところから始まります。娘を探し求める父親という、よくある設定かと思いきや、この映画ではそこにとどまりません。むしろ、物語が進むにつれて明らかになる加奈子の正体や、彼女に関わる人物たちがどんどん異常で、狂気に満ちているんです。
藤島は元刑事ということで、暴力的で手段を選ばないタイプの男。娘の行方を追う中で、次々と闇の深い世界に足を踏み入れていきます。加奈子の学校の同級生や、関わりのある人々に話を聞いていくうちに、次第に娘の表の顔と裏の顔が浮かび上がってくるんですけど、その裏の顔がもうヤバい。加奈子は単なる被害者ではなく、むしろ彼女自身が他人を破滅に導くような存在だったことが徐々に分かってきます。
映画の進行は、テンポが速くて、どんどん謎が明らかになっていく展開にはハラハラさせられます。でも、その反面で、藤島が直面する真実があまりにも過酷で、観ているこちらも時々「ここまでやる?」って引いてしまうくらいの衝撃があります。とにかくエグい描写が多いので、そういうのが苦手な人にはキツいかもしれませんが、逆にスリル満点の映画を求めている人にはピッタリです。
藤島役を演じる役所広司の演技は、圧倒的な存在感。彼の演技は、娘を探す必死さと狂気が入り混じっていて、観ていると胸が苦しくなるほど。娘を思う父親の愛情と、次第に明らかになる娘の狂気、そのギャップに翻弄される藤島の姿が見事に表現されています。役所広司って、どんな役でもこなせる名優ですが、今回は特にその「追い詰められた父親」の演技が際立っていました。
そして、小松菜奈演じる加奈子。このキャラクターがまたすごい。小松菜奈は、この作品で一気に注目を集めましたが、彼女の不気味さや妖艶さがしっかりと加奈子というキャラクターに反映されています。加奈子は一見、普通の女子高生に見えるんですが、実際は周りを破滅に追い込むような存在で、その異常性が次第に浮き彫りになっていきます。小松菜奈の演技力があってこそ、この役が成り立っていると言っても過言ではないです。
他のキャストも個性的で、特に藤島が出会う人物たちがまた狂ってるんですよね。加奈子の同級生や彼女に関わる大人たち、みんながみんなどこかしら異常な面を持っていて、藤島の娘探しはどんどんカオスな状況に巻き込まれていきます。特に、二階堂ふみ演じる加奈子の同級生は、彼女もまた異様な雰囲気を持っていて、観ているこっちを不安にさせる存在感でした。
物語が進むにつれて、藤島は加奈子の失踪の真相に近づいていくんですが、その過程で暴力や裏社会、薬物、性的な描写など、かなりショッキングなシーンが次々と登場します。映画全体が暗くて重たい雰囲気なので、観ていると気持ちがどんどん沈んでいく感じがしますが、それでも最後まで目が離せない。藤島が娘に対してどんな答えを見つけるのか、そして娘は本当にどこに消えたのか。その謎が気になって、どんどん引き込まれていきます。
ただ、この映画、観終わった後には結構ズシンとくるものがあります。藤島がたどり着いた真実は、決してスッキリするものではなく、むしろ後味の悪さが残る結末です。観る人によっては、この終わり方に賛否が分かれるかもしれませんが、それこそがこの映画の持つ独特の魅力なんだと思います。簡単に「良かった」とか「感動した」とは言えないけど、観た後に深く考えさせられる作品です。
この映画の面白いところは、ただのサスペンスやスリラーで終わらないところ。テーマとして描かれているのは、親と子の関係や、現代社会に潜む闇、そして人間の本質的な悪。藤島は娘を愛しているからこそ、彼女の失踪に必死になるけれど、最終的に彼が見つけたのは、彼女の真の姿であり、それは想像を絶するものでした。親としての藤島の葛藤や苦しみが、映画を観ているこちらにも強く伝わってくるんです。
総じて、『渇き。』は、ダークで激しい映画です。暴力や狂気、破滅的な人間関係が中心に描かれているため、決して明るい気持ちで観られる映画ではありません。でも、スリリングで衝撃的な映画が好きな人や、役所広司や小松菜奈の演技が見たい人には、一見の価値ありです。
観終わった後にズシンと残る重さと、どこか虚無感さえ感じるラスト。そんなエッジの効いた映画を観たいと思う人にとっては、まさにぴったりの作品。逆に、軽い気持ちで観るにはちょっとヘビーすぎるかもしれませんが、刺激を求めるならこの映画、ぜひ挑戦してみてください。
2024年09月19日
【関ケ原 (2017)】
映画『関ケ原』(2017年)は、戦国時代の大きな出来事である「関ヶ原の戦い」を描いた歴史映画です。司馬遼太郎の原作を基にしていて、石田三成と徳川家康の二人が激しく対立する姿がメインです。戦国時代好きはもちろん、歴史に興味がない人でも迫力ある合戦シーンとキャラクターのドラマを楽しめる映画だと思います。
まず主人公は石田三成(岡田准一)。彼は「忠義」と「正義」を貫く武士で、豊臣家を守るために命をかけて戦う人物です。三成はめちゃくちゃ真面目で、信念が強いキャラ。理想を追い求めるあまり、周りと衝突してしまい、孤立していく姿がなんとも切ないんですよね。観ている側としては、「あー、もうちょっと柔軟に考えれば…」なんて思っちゃうんだけど、それでも彼の生き方には何か共感できる部分があるんです。自分が信じるものを貫き通す姿勢ってやっぱりかっこいいなって。
そして、三成を支える忍び・初芽(有村架純)との関係も感動的です。初芽は三成の側にずっと寄り添い、彼のために尽くすんだけど、その姿がまた涙を誘います。戦国時代の厳しい世界で、こういう人間関係が描かれると、映画全体に温かさが加わって良い感じなんです。
一方で、三成のライバル徳川家康(役所広司)は、まさに「冷静沈着な策士」って感じ。家康は現実主義で、勝つためにはどんな手段でも取る、まさに戦国の大物です。彼の行動は常に計算されていて、天下を狙うために冷酷な選択もためらわない。三成の熱さに対して、家康は冷静に動くタイプなので、この対照的な二人の関係が映画の大きな魅力です。お互いが全く違う信念で動いているので、どっちの言い分もわかるんだけど、それがまた見ていて面白いところですね。
さて、この映画のハイライトといえば、もちろん「関ヶ原の戦い」。これはもう本当に圧巻です!何千人もの兵士がぶつかり合う大規模な合戦シーンは、迫力満点で、まるでその場にいるかのような臨場感があります。CGやエキストラを駆使して、当時の戦場がリアルに再現されているので、歴史好きにはたまらない映像体験です。戦の混乱や兵士たちの動きがしっかり描かれているから、まるで自分がその時代にタイムスリップしたみたいな感覚になれます。
でも、映画全体としてちょっと気になる点もあります。『関ケ原』の原作ってすごく長くて、登場人物もめちゃくちゃ多いんです。だから、映画に収めるにはどうしても時間が足りないところがあって、登場人物一人ひとりの背景がそこまで深掘りされていないんですよね。特に戦国時代やこの時代の人物に詳しくない人にとっては、誰が誰で、どんな動機で動いているのかがちょっと分かりにくいかもしれません。もう少しキャラクター同士の関係や感情が描かれていれば、もっと感情移入できたかなと思います。
それでも、岡田准一の石田三成役は本当に素晴らしかったです。三成の理想を追い求める姿や、その信念に苦しむ様子がリアルに伝わってきて、彼の演技にグッと引き込まれました。また、役所広司の徳川家康も圧倒的な存在感で、彼の冷静な戦略家としてのキャラクターを見事に演じていました。この二人の演技合戦は本当に見応えがあって、映画全体を引き締めています。
さらに、戦国時代の政治的な駆け引きや、各勢力の思惑が錯綜する様子も見どころです。三成は忠義を貫こうとするけれど、その正義感がかえって彼を孤立させてしまう。一方で、家康はその弱みを巧みに利用して天下を狙っていく。この二人の戦略の違いが、物語をさらに面白くしています。映画を観ていると、ただの合戦映画ではなく、戦国時代の複雑な権力闘争や人間関係の深さがよく伝わってきます。
『関ケ原』は、戦のシーンが派手でカッコいいだけじゃなくて、そこに生きた人々の信念や葛藤が丁寧に描かれた映画です。石田三成と徳川家康という対照的な二人が、どうやって天下を目指し、それぞれの運命を迎えるのか。見終わった後に、戦国時代の人間ドラマの重みがじわじわと心に残ります。
この映画は、歴史ファンにはもちろん、戦国時代のドラマや人間関係に興味がある人にもぜひ観てほしい一作です。岡田准一と役所広司の演技を堪能したい人や、迫力ある合戦シーンを楽しみたい人にもぴったり。ぜひ、一度この壮大な歴史ドラマにどっぷり浸かってみてください!