2020年11月17日
パーキンソン病の原因 〜腸内細菌の協奏曲〜
パーキンソン病の原因 〜腸内細菌の協奏曲〜
(いえ、この画像は腸内細菌ではありません。ただのクラゲです。念のため)
先日、パーキンソン病の原因が分かったという記事を見かけた。
というより、むしろ「今まで原因が分かってなかったのか?」という衝撃を受けた。
その世界では常識のことが、その世界に身を置かない人々にとっては「えっ、そうなの?」ということが実はすごく多い。
それは医学界に限らず、政界でも芸能界でも芸術の世界でも個々にものすごくある「その世界だけの常識」が存在する。
ということはさておき。
医学界、或いは科学の世界では「仮説」で成り立っていることがものすごく多いのだ。
さて、そのパーキンソン病について、実は最近読んだ本にもその発表と同じ「仮説」が書かれていて、これが今後の「常識」へ向かっているのだと知った。
今のところ、最新情報の類に入るのではないかと思ったので、ぜひ、共有させていただこうと思う。
ネットで見掛けたその記事内容は、抗生物質の乱用に寄る腸内細菌のバランスが崩れたことが要因である、というものだったと記憶しているが、それは間違ってはいないのだが、実際はどうもそんな単純なことではないようだ。
『腸と脳』エムラン・メイヤー著 高橋洋訳 紀伊國屋書店に寄ると、まずはヒトの身体に住みついている細菌についての概念を新たにする記述から始まっていた。
腸内フローラはすでに有名だが、微生物は腸内だけでなく、人体の内部や表面(皮膚、顔面、鼻腔、口腔、唇、まぶた、歯の間等)に共生しているものすべてを指すということ。
例えば。
顔や背中では、毛穴から出る脂を餌にするプロピオニバクテリウム属の細菌が、ひじや前腕では、もう少し多様なグループの微生物が共生している。へそ、脇の下、股の下など湿気の多い場所は、高い湿度を好み、汗に含まれる窒素を餌とするコリネバクテリウム属とブドウ球菌属の細菌の棲みかとなっているとのこと。
そして重要なのは、微生物がつくる「第二の皮膚」は、本来の皮膚細胞に寄る防御を強化して、人体内部を二重に守っているという事実である。想像するに、バリアのような役割であろうか。
以前、こんなテレビ番組を観たことがある。
蚊に刺され易い人の足の細菌叢は種類が少ない。という事実である。それを確か当時中学生くらいの男の子が発見していた。彼の妹が人一倍蚊に刺され易く、それは何故なのかという研究から始まったものだった。
マイクロバイオータ(腸内細菌叢)は、腸自体が処理出来ない食物成分の消化、有害な化学物質の解毒、免疫系の訓練や統制、病原菌の侵入や増殖の防止などを行っている。その一方で、マイクロバイオーム(腸内細菌の遺伝情報)の異変や撹乱は、炎症性腸疾患、自己免疫疾患やアレルギー、喘息などのさまざまな疾病を招き、自閉症スペクトラム障害、さらにはパーキンソン病などの神経変性疾患にも結び付く可能性があるということらしい。
事実、先進諸国では神経変性疾患件数が増え続けている。60歳以上の高齢者の100人に1人がパーキンソン病にかかっている。アメリカでは現在、少なくとも50万人がパーキンソン病を抱え、毎年およそ5万人が新たにその診断を下されているという。
最近の研究では、パーキンソン病に典型的に見られる症状が発現するはるか以前から、患者の腸管神経系にパーキンソン病特有の神経変性が生じていること、およびこの疾病には腸内微生物の構成の変化が伴うことが報告されているそうだ。
腸は、専門用語で腸管神経系(ENS)と呼ばれる独自の神経系を備え、「第二の脳」と呼ばれることもある。この第二の脳は5000万から一億の神経細胞で構成される。
そして、私たちの消化器系、腸は、そこに宿る微生物との密接な相互作用を通して、基本的な情動、痛覚感受性、社会的な言動に影響を及ぼし、意思決定さえ導くと言われる。
意思決定?! と、意外に思ったのだが、そういえば、とゾッとする世界を思い出しました。
たとえば、冬虫夏草。
『10%HUMAN』『あなたの体は9割が最近〜微生物の生態系が崩れはじめた〜』by Alanna Collen矢野真千子 訳 河出書房新社に、こんな記述がある。
アリは冬虫夏草にとりつかれるとゾンビになる。
その表現の意味は、冬虫夏草に寄生されたアリは、突然職務を放棄し、ほうけたように木に登る。そして150センチほど登ったところで、木の幹の北側にある葉脈を見つけ、そこに深く食いつき自身の身体を固定させるのだそうだ。数日後、冬虫夏草は芽を出し、柄を伸ばし、胞子を放出する。その胞子はまた次のアリに寄生する。
『腸と脳』の方に記述されていたのは、トキソプラズマだったが、やってることは同じ。そして中間宿主を経て最終宿主に至る過程がもっとエグイ。
トキソプラズマは、繁殖に関しては感染したネコの消化管内でのみ可能なのだが、血液脳関門をかいくぐって、人間を含むあらゆる哺乳類の脳に侵入出来る。それだけで、もうイヤな感じだ。
感染したネコは、排便に寄ってこの微生物を体内から除去する。ネコが排出した寄生虫をげっ歯類が摂取する。すると寄生虫は、げっ歯類の身体内部、とりわけ脳に丸い嚢胞を形成する。トキソプラズマに感染したラット等は、ネコに対する本能的な恐れを失う。そればかりか、ネコの尿の臭いに惹きつけられるようになる。
トキソプラズマは、ラットの脳のオペレーティング・システムを乗っ取り、ネコの匂いに対する性的な関心を喚起させることに寄って、ラットの持つ恐れの反応を圧倒し、自らネコに捕食されるように仕向ける。
宿主の行動を操作する方法を発達させた微生物は他にも数多く存在する。狂犬病ウイスルは、怒りや攻撃性に関与する神経回路に侵入することで、イヌ、キツネ、コウモリなどの宿主を攻撃的にする。それによって、感染個体が他の動物個体(や人間)を頻繁に攻撃し、咬むようになる。唾液に含まれるウイルスは、咬まれた個体に移る機会を得る。
つまり?
腸内細菌を始めとするヒトの身体に共生する微生物のバランスが崩れることで、あらゆる疾患、肥満を始め生活習慣病、さらには精神疾患や発達障害と呼ばれている症状の原因(少なくとも一因)ではないかという最新の研究があるということだ。
何故、共生微生物のバランスが崩れ始めたのか?
抗生物質も然り。
しかし、それだけではないらしいということも分かってきた。
これが原因、というものは恐らく一つではないと思われる。
社会毒も然り。
急激なダイエットなども一因ではないかと言われている。
すでに崩れ始めている微生物たちの世界をどのように救っていくのか、それらを救うことは何より私たちのためでもある。
ヒトの身体に棲む微生物と良い関係を築くこと。彼らの協奏曲に耳を傾けること。そういうことが必要ではないかと、ある年の年末から正月にかけて(食い過ぎで)体調を崩して実感した次第です。
(いえ、この画像は腸内細菌ではありません。ただのクラゲです。念のため)
先日、パーキンソン病の原因が分かったという記事を見かけた。
というより、むしろ「今まで原因が分かってなかったのか?」という衝撃を受けた。
その世界では常識のことが、その世界に身を置かない人々にとっては「えっ、そうなの?」ということが実はすごく多い。
それは医学界に限らず、政界でも芸能界でも芸術の世界でも個々にものすごくある「その世界だけの常識」が存在する。
ということはさておき。
医学界、或いは科学の世界では「仮説」で成り立っていることがものすごく多いのだ。
さて、そのパーキンソン病について、実は最近読んだ本にもその発表と同じ「仮説」が書かれていて、これが今後の「常識」へ向かっているのだと知った。
今のところ、最新情報の類に入るのではないかと思ったので、ぜひ、共有させていただこうと思う。
ネットで見掛けたその記事内容は、抗生物質の乱用に寄る腸内細菌のバランスが崩れたことが要因である、というものだったと記憶しているが、それは間違ってはいないのだが、実際はどうもそんな単純なことではないようだ。
『腸と脳』エムラン・メイヤー著 高橋洋訳 紀伊國屋書店に寄ると、まずはヒトの身体に住みついている細菌についての概念を新たにする記述から始まっていた。
腸内フローラはすでに有名だが、微生物は腸内だけでなく、人体の内部や表面(皮膚、顔面、鼻腔、口腔、唇、まぶた、歯の間等)に共生しているものすべてを指すということ。
例えば。
顔や背中では、毛穴から出る脂を餌にするプロピオニバクテリウム属の細菌が、ひじや前腕では、もう少し多様なグループの微生物が共生している。へそ、脇の下、股の下など湿気の多い場所は、高い湿度を好み、汗に含まれる窒素を餌とするコリネバクテリウム属とブドウ球菌属の細菌の棲みかとなっているとのこと。
そして重要なのは、微生物がつくる「第二の皮膚」は、本来の皮膚細胞に寄る防御を強化して、人体内部を二重に守っているという事実である。想像するに、バリアのような役割であろうか。
以前、こんなテレビ番組を観たことがある。
蚊に刺され易い人の足の細菌叢は種類が少ない。という事実である。それを確か当時中学生くらいの男の子が発見していた。彼の妹が人一倍蚊に刺され易く、それは何故なのかという研究から始まったものだった。
マイクロバイオータ(腸内細菌叢)は、腸自体が処理出来ない食物成分の消化、有害な化学物質の解毒、免疫系の訓練や統制、病原菌の侵入や増殖の防止などを行っている。その一方で、マイクロバイオーム(腸内細菌の遺伝情報)の異変や撹乱は、炎症性腸疾患、自己免疫疾患やアレルギー、喘息などのさまざまな疾病を招き、自閉症スペクトラム障害、さらにはパーキンソン病などの神経変性疾患にも結び付く可能性があるということらしい。
事実、先進諸国では神経変性疾患件数が増え続けている。60歳以上の高齢者の100人に1人がパーキンソン病にかかっている。アメリカでは現在、少なくとも50万人がパーキンソン病を抱え、毎年およそ5万人が新たにその診断を下されているという。
最近の研究では、パーキンソン病に典型的に見られる症状が発現するはるか以前から、患者の腸管神経系にパーキンソン病特有の神経変性が生じていること、およびこの疾病には腸内微生物の構成の変化が伴うことが報告されているそうだ。
腸は、専門用語で腸管神経系(ENS)と呼ばれる独自の神経系を備え、「第二の脳」と呼ばれることもある。この第二の脳は5000万から一億の神経細胞で構成される。
そして、私たちの消化器系、腸は、そこに宿る微生物との密接な相互作用を通して、基本的な情動、痛覚感受性、社会的な言動に影響を及ぼし、意思決定さえ導くと言われる。
意思決定?! と、意外に思ったのだが、そういえば、とゾッとする世界を思い出しました。
たとえば、冬虫夏草。
『10%HUMAN』『あなたの体は9割が最近〜微生物の生態系が崩れはじめた〜』by Alanna Collen矢野真千子 訳 河出書房新社に、こんな記述がある。
アリは冬虫夏草にとりつかれるとゾンビになる。
その表現の意味は、冬虫夏草に寄生されたアリは、突然職務を放棄し、ほうけたように木に登る。そして150センチほど登ったところで、木の幹の北側にある葉脈を見つけ、そこに深く食いつき自身の身体を固定させるのだそうだ。数日後、冬虫夏草は芽を出し、柄を伸ばし、胞子を放出する。その胞子はまた次のアリに寄生する。
『腸と脳』の方に記述されていたのは、トキソプラズマだったが、やってることは同じ。そして中間宿主を経て最終宿主に至る過程がもっとエグイ。
トキソプラズマは、繁殖に関しては感染したネコの消化管内でのみ可能なのだが、血液脳関門をかいくぐって、人間を含むあらゆる哺乳類の脳に侵入出来る。それだけで、もうイヤな感じだ。
感染したネコは、排便に寄ってこの微生物を体内から除去する。ネコが排出した寄生虫をげっ歯類が摂取する。すると寄生虫は、げっ歯類の身体内部、とりわけ脳に丸い嚢胞を形成する。トキソプラズマに感染したラット等は、ネコに対する本能的な恐れを失う。そればかりか、ネコの尿の臭いに惹きつけられるようになる。
トキソプラズマは、ラットの脳のオペレーティング・システムを乗っ取り、ネコの匂いに対する性的な関心を喚起させることに寄って、ラットの持つ恐れの反応を圧倒し、自らネコに捕食されるように仕向ける。
宿主の行動を操作する方法を発達させた微生物は他にも数多く存在する。狂犬病ウイスルは、怒りや攻撃性に関与する神経回路に侵入することで、イヌ、キツネ、コウモリなどの宿主を攻撃的にする。それによって、感染個体が他の動物個体(や人間)を頻繁に攻撃し、咬むようになる。唾液に含まれるウイルスは、咬まれた個体に移る機会を得る。
つまり?
腸内細菌を始めとするヒトの身体に共生する微生物のバランスが崩れることで、あらゆる疾患、肥満を始め生活習慣病、さらには精神疾患や発達障害と呼ばれている症状の原因(少なくとも一因)ではないかという最新の研究があるということだ。
何故、共生微生物のバランスが崩れ始めたのか?
抗生物質も然り。
しかし、それだけではないらしいということも分かってきた。
これが原因、というものは恐らく一つではないと思われる。
社会毒も然り。
急激なダイエットなども一因ではないかと言われている。
すでに崩れ始めている微生物たちの世界をどのように救っていくのか、それらを救うことは何より私たちのためでもある。
ヒトの身体に棲む微生物と良い関係を築くこと。彼らの協奏曲に耳を傾けること。そういうことが必要ではないかと、ある年の年末から正月にかけて(食い過ぎで)体調を崩して実感した次第です。
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