仕事内容でしか会話したことのない若い女性から、「仕事が終わったら一緒に食事しましょう」と声をかけられた。
私は正直驚いた。
普段、会話することもなく、彼女が趣味やプライベートをどう過ごしているかも知らない。
彼女も私のことすらまともにわからないのに食事へ誘ってきたのだ。
これはどういうことなのか。
私は頭をフル回転させた。
「恋なのか?」しかし、そういった気配はまったくない。
「悩み事があるのだろうか」だとすれば、まともに会話したことのない相手にわざわざ相談するだろうか。
意味がわからない。
これで私が食事代を払ったら、まるで歌舞伎町あたりでキャバ嬢にキャッチされている客みたいではないか。
ワリカンも意味がわからない。
だとするならば、払ってもらうしかない。
全額を。
その壁を越えたところに私との会話があるのだ。
つまり、「食事代全額を払ってでも会話したい内容です」ということになる。
私は「全額払ってくれれば行くよ」と伝えたところ、彼女は固まった。
そして、2日後「わかりました。払います」という返事がかえって来た。
私と彼女は仕事が終わった後、落ち着きのあるレストランで夕食をとる為、その場所へと向かっていた。
そんな中、彼女は突然「途中で友達が来る」といいだした。
「男性かい?女性かい?」と質問すると「女性」だという。
「だったらいいよ。楽しみだ。」私はとてもワクワクした。
落ち着きのあるレストランに到着し、さっそく食べ物をオーダーした。
メニューの中では一番高い料理を注文し、追加でデザートとグレープの酎ハイを頼んだ。
私のオーダーを聞くと彼女はおかしなことに「自分はいらない」という。
「ところで、何の話なの?」と聞くが「・・・・・・。」何度聞いても「・・・・・・。」
そうしてる間にも料理と酎ハイが来たので「いただきます」をして料理を食べた。
酎ハイを飲もうとしたとき「お酒は・・」と声がしたがグビグビ飲んだ。
彼女は「電話してきます」と立ち上がり、何か慌てている様子で電話している。
そうして席に着くと「友達は来ない」という。
「なんかあったの?」と聞くが「・・・・・。」「ところで何の話?」と聞いても「・・・・・・。」
下を向いて沈黙するばかり、私は楽しみしていた友達がこなくなったので、ヤケを起こし飲めないお酒を追加で頼んだ。
私はお酒がめっぽう弱いので、たった1杯でもう出来上がってしまっている。
「でぇ、今日はなんろ話?」顔が赤くなって、目がうつろの状態で聞いてみるが「何にもない・・・」とのこと。
食事も終わったし、話も何もないので「もう帰る」とつげ、彼女は私の食事代4000円を払いトボトボと帰って行った。
その後も彼女とは仲良くなれもせず、次第に彼女の姿も見えなくなっていった。
あれはいったいなんだったのか、未だにわからない。
世の中には奇妙な出来事がしばしば起こるのだが、私が体験したこの奇妙な出来事もそんな中の一つだったのかもしれない。
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