2020年07月03日
頂・研究所 第1話 「安心マッサージ」
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「じゃあ早速始めます」
「うむ、頼む」
「リラックスしてくださいね」
「うむ」
「撫で加減はどうですか?」
「おぉ、撫でるのウマいのぉ、気持ちええわ」
「安心はできますか?」
「安心?」
「はい」
「う〜?出来ておるんと思うんじゃが。気持ちええからのぅ」
「じゃあよかったです。ゆっくり、のんびり、気を楽にしてもらって」
「あー、了解じゃ。寝てしもうたらすまんぞ」
「構わないですよ。眠くなったら寝てください」
「あー、分かった」
「すまん」
「どうされました」
「マッサージはぶち気持ちええんじゃが、おでこが痒い」
「痒い?おでこですか?」
「この頭の、、これが当たって痒いんじゃ。ちょっとずらしてもいいか?」
「ちょっと待ってくださいね。オィっと。どうですか?」
「おぉ、よくなった。ちゃんとかぶれてなかったんじゃな。しかし、この被り物はいったいなんじゃ?」
「説明してなかったですね。年老いた犬のイメージになるためのハットです」
「犬ってのはわかったんじゃけど、年老いた犬か。それは、、あれか?わしが老いとるとか、その辺とかかっとるのか?」
「いえ、違いますよ。そういう意味はないですよ。よいマッサージのためです」
「ほぉ、、 年老いた犬の被り物をつけるとよいマッサージができるのか?」
「はい。なくてもいいんですけど」
「ほぉ」
「私のアイデアです。気持ち悪いじゃないですか?大の男が密室で二人。頭皮と手ですけど、触れ合うって」
「まあ、、確かにそうじゃな」
「このハットをつけると、船長の頭がちょうど犬のお腹のところにくるようになってます。で、犬にマッサージしてる気分になれると思って」
「ほぅ」
「ハットがなくてもいいんですけど、なかったとしたら、ふとした瞬間に『気持ち悪っ』ってなるときあったりするかなって」
「ほぅほぅ」
「お互いを『気持ち悪っ』って感覚が行き来は、よい結果にはならないと思うんですよ」
「うん、確かにそうじゃな」
「私、犬を飼ってるんですけど、普段よくマッサージしてあげるんです。 で、このハットを思いついたんです」
「ほぅ、面白いアイデアじゃな。よいマッサージのためか」
「それともう一つあります」
「ほお?」
「お互いが『気持ち悪っ』ってのを避けるため以外に、もう一つ」
「ほぅ、なにがあるんじゃ?」
「安心です」
「あぁ、さっき言ってたな。安心、、」
「そうです。外で飼ってるんですけど、年老いた犬」
「ほぅ」
「今年の2月頃。冬の終わりくらいから、夜になると寂しそうな声で泣くようになったんです。」
「ほぅ」
「どうしたのかな?と思って、犬の望みになるべく合わせて散歩をしてみたり、寒いから湯たんぽを置いてみたり。元気になりそうなことをいくつか試してみたんですけど、変わらなくて」
「ほぉ、困ったのぉ、、」
「そのうち、昼の明るいときや散歩から帰ってすぐでも泣くようになって、、」
「ほぅ」
「初めは散歩に行きたいのかな?と思ったんですけどそうじゃないというか、そんなときもあったとは思うんですけど、でもそうじゃないみたいで」
「ほぅ、どこか痛いとか病気かのぉ?」
「あっ、たしかに足の裏が少し痛いのか砂利道を歩きたがらなくなってました」
「ほぉぅ」
「そうです、その頃。歩き方がとぼとぼになって、後ろの左脚がとくに力ない感じになって、、」
「ありゃぁ」
「で、ふと思ったんです。いまどうしてるかな?って、ちょくちょく窓を開けて様子を見るんですけど、見るたびに起きて立ってるなって」
「ほぅ」
「たまに腹ばいで寝てるときは一応あるんですけど、気持ち良さそうに脚を伸ばした横向きの寝方は最近見てないなって」
「ほぉぅ」
「あっ、睡眠ができてないんだ!って、そのとき気付いたんです」
「ほぅほぅ」
「それで、どうすれば寝るかな?って考えて、、とりあえず撫でてみたんです」
「ふぅーむ」
「そうしたら、すぐフラフラって力なく座り込んで、それでも撫で続けると腹ばいになって寝たんです」
「ほぅほぅ」
「撫でてあげればいいんだ、、って気付いたんです」
「ふむふむ」
「で、どこか痛そうにしてないかなって全身を撫でてみて痛そうにはしてなくて」
「ほぅ」
「でも、 寝てるんですけどちょっとした物音ですぐ起きるんです。車が通り過ぎる音やドアの開け閉め、私の手の関節が鳴る音でも、ビクっとして起きてしまうんです」
「ほおぉ」
「それでも大丈夫、大丈夫、寝ときなって撫で続けるんです。頭や首周り背中、後ろ脚。背骨に沿って撫でるとき気持ちよさそうにしてる場合が多いです。しばらくしてまた音に反応して起きてもまた、大丈夫って繰り返すんです」
「ほぅほぅ」
「そうすると気持ちよくなったのか横向きになって寝たんです。脚も伸ばしました。少し震わせながら伸ばしてそのあと脱力させて、、久しぶりに横向きになって寝ているのを見たときは嬉しかったです。スヤスヤと寝顔も気持ちよさそうでした」
「ほぅほぅ」
「で、そのとき、『安心ができてないんだ』って気付いたんです」
「ほほぉー」
「安心できてないから寝れてなかったんだって」
「ふーむ」
「で、それから安心できるように毎日2時間くらい、3時間のときもあったかもしれません。撫でたりマッサージして、そうしたらそのうち撫でてないときでも寝るようになって。いつのまにか砂利道も歩くようになったんです」
「ほぉ〜ぅ」
「いまは暑いから暑さでとぼとぼのときはあるんですけど、ふつうに砂利道を歩けるし、歩き方も若い頃のようにはいかないですけどしっかりしてます」
「ふぅーむ、よかったのぉ」
「なにより表情がよくなりました。散歩のときもご飯をあげるときも。明るく楽しそうな雰囲気は若いときと同じです」
「ほおーぉ」
「で、思ったんです。人も、安心が出来れば元気になることができるんじゃないかって?頭皮、毛根です」
「ありゃりゃ」
「安心と眠るがセットじゃないとだめかもしれないんですけど、とにかく『安心』がポイントだって」
「ほぉーぅ、なるほど。でも、オランくんは、、ほれっ、薄くはないけどのぅ」
「ハハ、そうですね、いまのところ。でも、少し気になるときはありますよ」
「ほぇ、そんなにあってもかい」
「はい。で、そのときちょうど、船長とすれ違ったんですよ」
「ほほ、ワシの頭部とじゃな」
「ははは、そんな感じですかね。で、思わずというか、気づいたら声をかけてました」
「ほっほ。そんで、いまにいたると」
「そうですね。で、犬のハットをかぶる目的なんですけど、気持ち悪くなることを避けるためもあるんですけど、目的の主は安心するためです」
「ほうほう、なるほどな」
「そろそろ30分経ちましたね」
「おっ、本当じゃな」
「じゃあ、今日はこの辺にしときましょう」
「ふむ。緑茶があるからそれ飲んでお開きにするか」
「はい」
「お湯は魔法瓶に用意しとったんじゃ。ほいっ」
「あ、すいません。ありがとうございます。ふぅーっ、いただきます」
「ほぃ、ほぃ。マッサージ、ありがとさんな。気持ちよかったわ 」
「あ、はい。よかったです」
ならびの机。天板にあおむけで寝る船長。イスに座るオランラウト。
「じゃあ早速始めます」
「うむ、頼む」
「リラックスしてくださいね」
「うむ」
「撫で加減はどうですか?」
「おぉ、撫でるのウマいのぉ、気持ちええわ」
「安心はできますか?」
「安心?」
「はい」
「う〜?出来ておるんと思うんじゃが。気持ちええからのぅ」
「じゃあよかったです。ゆっくり、のんびり、気を楽にしてもらって」
「あー、了解じゃ。寝てしもうたらすまんぞ」
「構わないですよ。眠くなったら寝てください」
「あー、分かった」
こげ茶色のキャップが少し開いたすき間から、ほんのりと潮の香りが室内に入り込む。
「すまん」
「どうされました」
「マッサージはぶち気持ちええんじゃが、おでこが痒い」
「痒い?おでこですか?」
「この頭の、、これが当たって痒いんじゃ。ちょっとずらしてもいいか?」
「ちょっと待ってくださいね。オィっと。どうですか?」
「おぉ、よくなった。ちゃんとかぶれてなかったんじゃな。しかし、この被り物はいったいなんじゃ?」
「説明してなかったですね。年老いた犬のイメージになるためのハットです」
「犬ってのはわかったんじゃけど、年老いた犬か。それは、、あれか?わしが老いとるとか、その辺とかかっとるのか?」
「いえ、違いますよ。そういう意味はないですよ。よいマッサージのためです」
「ほぉ、、 年老いた犬の被り物をつけるとよいマッサージができるのか?」
「はい。なくてもいいんですけど」
「ほぉ」
「私のアイデアです。気持ち悪いじゃないですか?大の男が密室で二人。頭皮と手ですけど、触れ合うって」
「まあ、、確かにそうじゃな」
「このハットをつけると、船長の頭がちょうど犬のお腹のところにくるようになってます。で、犬にマッサージしてる気分になれると思って」
「ほぅ」
「ハットがなくてもいいんですけど、なかったとしたら、ふとした瞬間に『気持ち悪っ』ってなるときあったりするかなって」
「ほぅほぅ」
「お互いを『気持ち悪っ』って感覚が行き来は、よい結果にはならないと思うんですよ」
「うん、確かにそうじゃな」
「私、犬を飼ってるんですけど、普段よくマッサージしてあげるんです。 で、このハットを思いついたんです」
「ほぅ、面白いアイデアじゃな。よいマッサージのためか」
ラジオからカフェジャズ。部屋の外からゆるやかな風の音
「それともう一つあります」
「ほお?」
「お互いが『気持ち悪っ』ってのを避けるため以外に、もう一つ」
「ほぅ、なにがあるんじゃ?」
「安心です」
「あぁ、さっき言ってたな。安心、、」
「そうです。外で飼ってるんですけど、年老いた犬」
「ほぅ」
「今年の2月頃。冬の終わりくらいから、夜になると寂しそうな声で泣くようになったんです。」
「ほぅ」
「どうしたのかな?と思って、犬の望みになるべく合わせて散歩をしてみたり、寒いから湯たんぽを置いてみたり。元気になりそうなことをいくつか試してみたんですけど、変わらなくて」
「ほぉ、困ったのぉ、、」
「そのうち、昼の明るいときや散歩から帰ってすぐでも泣くようになって、、」
「ほぅ」
「初めは散歩に行きたいのかな?と思ったんですけどそうじゃないというか、そんなときもあったとは思うんですけど、でもそうじゃないみたいで」
「ほぅ、どこか痛いとか病気かのぉ?」
「あっ、たしかに足の裏が少し痛いのか砂利道を歩きたがらなくなってました」
「ほぉぅ」
「そうです、その頃。歩き方がとぼとぼになって、後ろの左脚がとくに力ない感じになって、、」
「ありゃぁ」
「で、ふと思ったんです。いまどうしてるかな?って、ちょくちょく窓を開けて様子を見るんですけど、見るたびに起きて立ってるなって」
「ほぅ」
「たまに腹ばいで寝てるときは一応あるんですけど、気持ち良さそうに脚を伸ばした横向きの寝方は最近見てないなって」
「ほぉぅ」
「あっ、睡眠ができてないんだ!って、そのとき気付いたんです」
「ほぅほぅ」
「それで、どうすれば寝るかな?って考えて、、とりあえず撫でてみたんです」
「ふぅーむ」
「そうしたら、すぐフラフラって力なく座り込んで、それでも撫で続けると腹ばいになって寝たんです」
「ほぅほぅ」
「撫でてあげればいいんだ、、って気付いたんです」
「ふむふむ」
「で、どこか痛そうにしてないかなって全身を撫でてみて痛そうにはしてなくて」
「ほぅ」
「でも、 寝てるんですけどちょっとした物音ですぐ起きるんです。車が通り過ぎる音やドアの開け閉め、私の手の関節が鳴る音でも、ビクっとして起きてしまうんです」
「ほおぉ」
「それでも大丈夫、大丈夫、寝ときなって撫で続けるんです。頭や首周り背中、後ろ脚。背骨に沿って撫でるとき気持ちよさそうにしてる場合が多いです。しばらくしてまた音に反応して起きてもまた、大丈夫って繰り返すんです」
「ほぅほぅ」
「そうすると気持ちよくなったのか横向きになって寝たんです。脚も伸ばしました。少し震わせながら伸ばしてそのあと脱力させて、、久しぶりに横向きになって寝ているのを見たときは嬉しかったです。スヤスヤと寝顔も気持ちよさそうでした」
「ほぅほぅ」
「で、そのとき、『安心ができてないんだ』って気付いたんです」
「ほほぉー」
「安心できてないから寝れてなかったんだって」
「ふーむ」
「で、それから安心できるように毎日2時間くらい、3時間のときもあったかもしれません。撫でたりマッサージして、そうしたらそのうち撫でてないときでも寝るようになって。いつのまにか砂利道も歩くようになったんです」
「ほぉ〜ぅ」
「いまは暑いから暑さでとぼとぼのときはあるんですけど、ふつうに砂利道を歩けるし、歩き方も若い頃のようにはいかないですけどしっかりしてます」
「ふぅーむ、よかったのぉ」
「なにより表情がよくなりました。散歩のときもご飯をあげるときも。明るく楽しそうな雰囲気は若いときと同じです」
「ほおーぉ」
「で、思ったんです。人も、安心が出来れば元気になることができるんじゃないかって?頭皮、毛根です」
「ありゃりゃ」
「安心と眠るがセットじゃないとだめかもしれないんですけど、とにかく『安心』がポイントだって」
「ほぉーぅ、なるほど。でも、オランくんは、、ほれっ、薄くはないけどのぅ」
「ハハ、そうですね、いまのところ。でも、少し気になるときはありますよ」
「ほぇ、そんなにあってもかい」
「はい。で、そのときちょうど、船長とすれ違ったんですよ」
「ほほ、ワシの頭部とじゃな」
「ははは、そんな感じですかね。で、思わずというか、気づいたら声をかけてました」
「ほっほ。そんで、いまにいたると」
「そうですね。で、犬のハットをかぶる目的なんですけど、気持ち悪くなることを避けるためもあるんですけど、目的の主は安心するためです」
「ほうほう、なるほどな」
「そろそろ30分経ちましたね」
「おっ、本当じゃな」
「じゃあ、今日はこの辺にしときましょう」
「ふむ。緑茶があるからそれ飲んでお開きにするか」
「はい」
「お湯は魔法瓶に用意しとったんじゃ。ほいっ」
「あ、すいません。ありがとうございます。ふぅーっ、いただきます」
「ほぃ、ほぃ。マッサージ、ありがとさんな。気持ちよかったわ 」
「あ、はい。よかったです」
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