2017年10月08日
友達とつながるために。施設で育った女子高校生が、どうしても欲しかったもの
BuzzFeed NEWS よりもうテレビよりも新聞よりも インターネットに繋がる 情報端末が必要な時代だ。 生活して行くのに必要なものは なんとかしなくてはならない。 また こういう話は 感情論で語られるべきではない。 誤った出発点から 正しいゴールへ向かうことは あまりない。 じゃあ、実際に何を どうすればよいかという話は 様々な意見があるだろう。 しかし はじめに 設定しなければならないのは 結果として どういう状態を目指すのか ということだ。 何事においても ゴールの設定は最初に必要だ。 この場合 「自己肯定感」 がキーワードだ。 贅沢とか我慢とか また スキルとか リテラシーとか そういう言葉より先に 自己肯定感が 保たれるか、 失われることはないか ということから 何をどうすればよいかを 考えるべきだ。 社会に適応するためには 知識も道具も必要だ。 パソコンにせよ スマホにせよ 遊びの道具としても機能するが それを持って 生きて行くのに必要ではない 贅沢品であるかのように 考えられたら 彼らの損失は計り知れない。 もう生活に絶対必要なものだ。友達とつながるために。施設で育った女子高校生が、どうしても欲しかったもの
初めて 自分のスマートフォンを 手にしたときに感じたのは、 嬉しさよりも心配だった。 「料金を払っていけるのだろうか」 エリさん (仮名、21歳)は、 児童養護施設で育った。 さまざまな事情で 保護者と暮らせない子どもたちが 生活する場所だ。 その施設のルールでは、 中学生まではスマホ禁止。 高校生は、 アルバイトをして 自分で利用料を払うことを条件に、 持つことが認められていた。 他の児童養護施設に比べると、 門限もルールもゆるいほうだったという。 パソコンは 共用のものが1日1時間、 共用リビングの片隅でのみ、 使うことが許されていた。 学校の宿題の調べものを急いで終えて、 YouTubeを観たり、 好きなアーティストの曲を聴いたり。 厳しめのフィルタがかけられていて、 ゲームをすることはできなかった。「0円」のスマホ
中学で不登校だったエリさんは、 定時制の高校に通っていた。 友達とのやりとりは、 LINEやTwitterがほとんどだ。 「LINEでは 細かいグループができて 頻繁にやりとりしていたので、 電話をしてまで他の子を遊びに誘うことはありません。 友達の輪に入るためには、 どうしてもスマホが必要でした」 仮に友達が電話をくれるとしても、 ガラケーも持っていなかったエリさんは、 施設の共用電話を 職員につないでもらうしか、 受ける方法はなかったのだ。 アルバイトの めどが立った高校2年のとき、 施設長に相談し、 携帯電話ショップを訪れた。 「0円」と書かれた端末の中には かわいいピンクやゴールドはなかったけど、 カバーが無料でつくというものに決めた。 黒くて、ゴツめなAndroidだった。 ショップのカウンターで身分証明書を求められ、 医療機関の「受診券」を提示したら、 販売スタッフはけげんな表情をした。 児童養護施設や 里親のところにいる子どもたちの医療費の 自己負担が免除される 「受診券」は、通常の「保険証」とは違うため、 スタッフは見たことがなかったのだ。 同行していた施設長に説明してもらって契約できた。 ようやく手にしたスマホ。 エリさんは、 2人部屋の相方である小学生が消灯した後、 カーテンで仕切った隣のスペースで 机のスタンドだけをつけ、 手のひらの中の世界を楽しんだ。 施設にはWi-Fiがなく、 パケット代を気にしながらだったけれど。常に「下」に合わせる
内閣府の青少年のインターネット利用環境実態調査によると、 高校生のスマホ利用率は94.8%(2016年度)。 このうち92.3%が、 LINEなどコミュニケションツール として利用していた。 もはや高校生の交友関係において、 スマホはなくてはならないツールだが、 児童養護施設では前述のように、 スマホを持つことは簡単ではない。 パソコンの利用や インターネットへのアクセスも 制限されている。 なぜなのか。 児童養護施設の子どもたちの自立を サポートする NPO法人 ライツオン・チルドレン理事長の 立神由美子さんによると、 2つの理由があるという。 1つ目は、 インターネット上の トラブルに巻き込まれることを防ぐため。 施設の職員は 子どもを守るだけでなく、 監督する責任もある。 子どもにリスクマネジメントを教えるのではなく、 リスクそのものに触れさせないようにしがちだ。 出会い系サイトや オンラインショッピングに アクセスできないようにするため、 共用パソコンにはフィルタをかけ、 職員の目の届く場所で 制限時間内に使うという ルールを設けている施設が少なくない。 2つ目は、 施設内格差を作らないため。 家庭の事情によって、 まったく親と会えない子もいれば、 週末に自宅に帰れる子、 親にほしいものを買ってもらえる子がいる。 こうした事情や 所持品の差は 子ども同士のトラブルにつながりかねないため、 施設では親からのプレゼントを 職員が預かることもあるという。 スマホや端末の場合も同様だ。 「多くの施設では、 平等にするために、 常に”下”の水準に合わせようとします。 それでは子どもたちの暮らしは向上しない。 体験格差を埋める努力をしてほしいです」(立神さん)指1本でキーボードを打つ
児童養護施設で暮らす子どもにとって、 情報収集能力を身につけることは 死活問題でもある。 施設にいられるのは18歳になった3月までで、 その後は 自活していかなければならないからだ。 「施設を出るときは、 それまで使っていた 家具・布団などの施設の備品は、 持ち出すことはできません。 新しい生活、 新しい仕事、 新しい人間関係を始めるとき、 子どもたちは孤独で、 大きなストレスと戦っています」 エリさんの場合は、 18歳から20歳までは 自立援助ホームで暮らし、 アルバイトをしながら 専門学校に通って資格を取った。 「私は昔、 ワープロを触った経験があったので、 パソコンで文字を入力することはできました。 施設出身の友人には、 指1本でキーボードを打っている子もいて、 アルバイトを探すのにも苦労していました」 2017年2月、 NHKの特集「見えない貧困」は、 ファッションや所持品などの「物」だけでなく、 「人とのつながり」 「教育・経験」など 外から見えにくい”剥奪”が、 子どもの自己肯定感を失わせている、 と指摘した。 スマホを持っているから困っていない、 と一概に言えるものではない。 テレビや新聞を通じた情報は 施設にいても入ってくるが、 「インターネットができないことは ”経験値の差”につながります」 と立神さん。 情報を一方的に受け取ることはできても、 「情報を自分で取りにいく」 「情報を自分から発信する」 経験ができないからだ。 インターネットに対する”免疫”をつける機会もない。 「まったくITリテラシーがないまま社会に出て、 架空請求がきたのに誰にも 相談できずに払ってしまった、 といったケースもあります。 施設にいて大人に相談できるうちに 転んでおいたほうが、まだいいんです」情報格差をなくしたい
ライツオン・チルドレンでは2014年から、 「e2プロジェクト」 として、 児童養護施設を退所する子どもたちの自立支援のため、 パソコン講習会を開いている。 企業や学校で使わなくなった パソコン、タブレット、携帯電話などの寄贈を受け、 売却する。 その代金で、 再資源化された 中古パソコン(リフレッシュPC)を購入し、 児童養護施設の子どもたちに贈る。 その際、テキストを渡し、 2日間の パソコン講習会を必ず実施する。 「施設に パソコンが寄付されることもありますが、 使い方や接続の仕方がわからず結局、 箱が開けられないままだという話も聞きました。 講習は、 パソコンを使えるようにする目的と同時に、 異なる施設で暮らす子と出会ったり、 講師から仕事の実体験を聞いたりする場でもあります」 講師は、 協力企業の社員がボランティアで務める。 1回につき4、5人の少人数で、 パソコンスキルをマンツーマンで教える。 性的虐待を受けた経験から 男性に近づくことに 抵抗がある子どものために、 講師も参加者も 女性のみという回もある。 講習の1日目は、 ITリテラシーと基本スキルを学ぶ。 FREE Wi-Fiや ネットショッピングを利用するときの注意、 メールの書き方、 ワードの使い方など。 2日目は、 エクセルとパワーポイントに挑戦し、 最後に自力で作った資料で 「私の夢」をプレゼンテーションする。 「早く結婚したい」 「動物を飼ってみたい」など、 将来の夢を語る子どもたち。生きるモチベーションになる
エリさんもこの講習会を受講し、 エクセルとワードが使えるようになった。 いま働いているメーカーでは必須のスキルだ。 「ここで学べておいてよかった」と話す。 2017年3月、 講習会に参加した子どもは 累計200人を超えた。 児童養護施設からのニーズは高まっている。 そのため、 企業から寄贈してもらう 不要パソコンの数が 足りていない状況だ。 「親の事情によって 施設で暮らしているだけで、 子どもたちは何も悪くありません。 トラブルを避けようと 情報から遠ざけることは、 生活の格差を広げることになりかねません」 「ネットを通じて さまざまな世界に触れ、 視野を広げることは、 子どもたちの生きるモチベーションにつながり、 将来を自ら選び取る動機にもなります。 すべての子どもが、 正しい知識を持って、 情報にアクセスできるようになってほしいと思います」 立神さんはそう言い、 支援を呼びかけている。 「e2プロジェクト」への支援に関する情報はこちら。
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