2019年04月29日
記憶の可視化
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
連想を生むーニューロン集団D
異なる記憶の関連付けは
私たちが周囲の世界を理解したり体系化したりする上で重要だ
技術革命によって記憶を関連付けるプロセスが明らかになってきた
A.J.シルバ(カルフォルニア大学ロサンゼルス校)
記憶の可視化
「割り当てー関連付け仮説」を実際に検証するには、脳内の記憶をそれがまさに作られている時に見ることができなければならない。
生きたマウスのニューロンを画像化する技術はすでに実用化されているが、大きな顕微鏡にマウスの頭部を固定知る必要がある。
このようなセットアップは私たちの仮説の検証に必要な行動実験では役に立たない。
だが、私はいつも驚かされるのだが、ある技術がどうしても必要になると、絶好のタイミングでそれが登場する。
研究生活ではそういうことが幾度となく起こってきた。
私はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で行われたスタンフォード大学のシュニッツァー(Mark Schnitzer)のセミナーにたまたま出席し、彼が研究室で開発したばかりの小さな顕微鏡を知った。
自由に動き回るマウスのニューロンの活動を可視化できる顕微鏡だ。
重さ2〜3gで、マウスの頭に帽子のように載せることができる。
その顕微鏡こそ、特定の記憶によって活性化されたニューロンを追跡するために必要としていたものだった。
「割り当てー関連付け仮説」の最も重要な予測、つまり数時間後に別の記憶が形成される際に同じニューロンが活性化するかどうかを調べることを可能にするものだ。
私たちはその素晴らしい顕微鏡の可能性に大いに興奮し、自分たちで独自の装置を作ることにした。
UCLAのゴルシャニ(Peyman Golshani)研究室、カーク(Baljit Khakh)研究室とチームを組み、有能なポスドク研究員のアハロニ(Daniel Aharoni)を雇った。
アハロニは後に私たちがUCLAミニスコープと名付けた顕微鏡の製作に取り掛かった。
シュニッツァーの顕微鏡と同様、UCLAミニスコープのレンズも記録したい脳細胞の近くに埋め込むことができる。
装置はマウスの頭蓋骨に固定したベースプレートに取り付け、課題の訓練や記憶テストの最中も動かない。
他の研究者から技術を借りたので、私たちもUCLAミニスコープの技術を進んで公開した。
私たちは科学におけるオープンソース運動を支持しており、世界中の数百の研究グループがUCLAミニスコープの設計とソフトウェアを利用できるようにしている。
ミニスコープを使ってニューロンの活動を可視化するために、カイと同僚のシューマン(Tristan Shuman)はGECI(遺伝子工学的カルシウム感受性蛍光タンパク質)と呼ばれる画像化ツールを活用した。
遺伝子改変によってGECIを発現したニューロンは、内部のカルシウム濃度が上昇すると蛍光を発する。
私たちは海馬のCA1領域に焦点を当てることにした。
場所を学習したり記憶したりする役割を担う領域で、行動実験で使用した箱などを記憶する。
私たちはミニスコープをかぶせたマウスを2つの箱に順に入れた。
知りたかったのは、最初の箱に入れてから2番目の箱に入れるまでの時間が、どのニューロンが活性化されるかに影響するかどうかだ。
結果は予想以上だった。
私たちのミニスコープと行動実験は、2つの箱の記憶が関連付けられている場合、マウスが最初の箱に入れられた時に活性化したCA1ニューロンの多くが、2番目の箱で歩き回っている時にも活性化することを示した。
2つの箱に入れる間隔が5時間程度ならば、2つの記憶はほぼ同じニューロン集団に割り当てられた。
間隔が7日間に成ると、そのような活性化ニューロンのオーバーラップは見られなかった。
私たちはこの結果に喜んだ。
重複するニューロン集団に複数の記憶が保存されることでそれらが結びつけられるという「割り当てー関連付けの仮説」の大前提を裏付けるものだったからだ。
2つの記憶の一方に対応するニューロン集団を後に再活性化すると、もう一方の記憶に対応する集団が刺激され、その記憶が思い出される。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
連想を生むーニューロン集団D
異なる記憶の関連付けは
私たちが周囲の世界を理解したり体系化したりする上で重要だ
技術革命によって記憶を関連付けるプロセスが明らかになってきた
A.J.シルバ(カルフォルニア大学ロサンゼルス校)
記憶の可視化
「割り当てー関連付け仮説」を実際に検証するには、脳内の記憶をそれがまさに作られている時に見ることができなければならない。
生きたマウスのニューロンを画像化する技術はすでに実用化されているが、大きな顕微鏡にマウスの頭部を固定知る必要がある。
このようなセットアップは私たちの仮説の検証に必要な行動実験では役に立たない。
だが、私はいつも驚かされるのだが、ある技術がどうしても必要になると、絶好のタイミングでそれが登場する。
研究生活ではそういうことが幾度となく起こってきた。
私はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で行われたスタンフォード大学のシュニッツァー(Mark Schnitzer)のセミナーにたまたま出席し、彼が研究室で開発したばかりの小さな顕微鏡を知った。
自由に動き回るマウスのニューロンの活動を可視化できる顕微鏡だ。
重さ2〜3gで、マウスの頭に帽子のように載せることができる。
その顕微鏡こそ、特定の記憶によって活性化されたニューロンを追跡するために必要としていたものだった。
「割り当てー関連付け仮説」の最も重要な予測、つまり数時間後に別の記憶が形成される際に同じニューロンが活性化するかどうかを調べることを可能にするものだ。
私たちはその素晴らしい顕微鏡の可能性に大いに興奮し、自分たちで独自の装置を作ることにした。
UCLAのゴルシャニ(Peyman Golshani)研究室、カーク(Baljit Khakh)研究室とチームを組み、有能なポスドク研究員のアハロニ(Daniel Aharoni)を雇った。
アハロニは後に私たちがUCLAミニスコープと名付けた顕微鏡の製作に取り掛かった。
シュニッツァーの顕微鏡と同様、UCLAミニスコープのレンズも記録したい脳細胞の近くに埋め込むことができる。
装置はマウスの頭蓋骨に固定したベースプレートに取り付け、課題の訓練や記憶テストの最中も動かない。
他の研究者から技術を借りたので、私たちもUCLAミニスコープの技術を進んで公開した。
私たちは科学におけるオープンソース運動を支持しており、世界中の数百の研究グループがUCLAミニスコープの設計とソフトウェアを利用できるようにしている。
ミニスコープを使ってニューロンの活動を可視化するために、カイと同僚のシューマン(Tristan Shuman)はGECI(遺伝子工学的カルシウム感受性蛍光タンパク質)と呼ばれる画像化ツールを活用した。
遺伝子改変によってGECIを発現したニューロンは、内部のカルシウム濃度が上昇すると蛍光を発する。
私たちは海馬のCA1領域に焦点を当てることにした。
場所を学習したり記憶したりする役割を担う領域で、行動実験で使用した箱などを記憶する。
私たちはミニスコープをかぶせたマウスを2つの箱に順に入れた。
知りたかったのは、最初の箱に入れてから2番目の箱に入れるまでの時間が、どのニューロンが活性化されるかに影響するかどうかだ。
結果は予想以上だった。
私たちのミニスコープと行動実験は、2つの箱の記憶が関連付けられている場合、マウスが最初の箱に入れられた時に活性化したCA1ニューロンの多くが、2番目の箱で歩き回っている時にも活性化することを示した。
2つの箱に入れる間隔が5時間程度ならば、2つの記憶はほぼ同じニューロン集団に割り当てられた。
間隔が7日間に成ると、そのような活性化ニューロンのオーバーラップは見られなかった。
私たちはこの結果に喜んだ。
重複するニューロン集団に複数の記憶が保存されることでそれらが結びつけられるという「割り当てー関連付けの仮説」の大前提を裏付けるものだったからだ。
2つの記憶の一方に対応するニューロン集団を後に再活性化すると、もう一方の記憶に対応する集団が刺激され、その記憶が思い出される。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
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