2019年04月20日
記憶を作り変える
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
記憶を新しくつくり、消し去る実験
・私たちの記憶は、それに対応する特定の細胞集団(セルアセンブリ)として脳に蓄えられている。
・マウスの実験で記憶A(丸い部屋)と記憶B(電気ショック)のセルアセンブリを繰り返し同期させて活性化
させると、マウスは記憶Aの丸い部屋に入れられたことをきっかけに、記憶Bの電気ショックを想起して
恐怖反応を示すようになった。
記憶を新しく関連づけることができたのだ。
両方のセルアセンブリに属するオーバーラップ細胞が増えたためだろう。
・逆に関連づいていた記憶を切り離すことも可能だ。
オーバーラップ細胞の活動を実験的に抑えると、2つの記憶を切り離すことができた。
・こうした研究は新しい実験技術が可能にした。
技術の進歩のおかげで脳科学は飛躍的な進歩を遂げている。
記憶を作り変える
独立した2つの記憶を結びつけて新しい記憶にしたり
結びついている記憶を切り離したり
SFのような話だがマウスの実験では可能になっている
井ノ口馨(いのぐち かおる) 富山大学
脳科学の究極の目標は、人間の精神の営みを理解することだ。
精神の営みの基盤には「知識や概念」がある。
私たちが何かを志向するときには、過去に獲得した知識を使いながら新しい事柄を考えていく。
創造性も、そのベースになっているのは過去の知識だ。
知識や概念は1つひとつの記憶や体験をて適切に関連づける(連合させる)ことで形成される。
もし記憶どうしを関連づけることができなければ、知識を形成できず、精神的な営みもできない。
そうした意味で、「記憶の連合」は人間の精神の営みの最も根源にあるといえる。
異なる記憶どうしを連合してあらたな意味をもつ記憶や知識を形成する能力は、脳がもつ最も重要な機能の
1つだ。
私たちは毎日膨大な量の情報を外界から受けている。
それらの記憶は1つひとつが独立したものではなく、互いに関連付けられて脳内に蓄えられていく。
例えば、仕事が終わってからのくつろいだディナーの場面。
料理の味や香りだけでなく、レストランの雰囲気、窓から見える夜景、その時間を共にした仲間との会話、
部屋に流れるピアノの音色―。
それらの記憶は別々のものではなく、夜の素晴らしいひとときの記憶として関連付けされ蓄えられていく。
このように、出来事には必ず複数の情報が含まれている。
記憶として保持するには、脳の各部から送られてくる複数の情報を1個の『記憶』としてまとめ上げなければ
ならない。
概念形成にも記憶の関連付け
さらに、たくさんの記憶が蓄えられていくにつれ、似たような記憶は県連付けられていき、
新たな意味をもった記憶に更新されていく。
私たちはラブラドールレトリーバーを見ても、マルチーズを見ても、「犬」と認識する。
しかし、犬という概念を持っていなければ、あれだけ大きさも形も違う動物を同種のものとは思わない
だろう。
子どもはまわりの大人から「あれはワンワン、犬だね」とか「違うよ、あれニャーニャー、猫よ」などと
繰り返し教えられるうちに、犬とほかの動物の区別がつくようになり、やがては初めて見る犬種でも、
犬だとわかるようになる。
動物を見たときに似たような記憶を脳内から探し出し、比較検討を重ねた結果、犬であると結論付け、
新たな知識=記憶を得るのだ。
人間にとって知識や概念の形成は、異なる経験を通して獲得した記憶を既存の記憶に適切に関連付けていく
作業だと言える。
脳内では個々の記憶が相互に作用し合うことで新たな結びつきが生まれ、既存の記憶が更新されていくと
考えられている。
一方で、関連付けが不適切に行われると、精神疾患の症状を示したり、記憶錯誤などに陥ったりすることも
考えられる。
本来は関連性の弱い記憶どうしの不必要な結びつきはPTSD(心的外傷後ストレス障害)にも関わっていて、
これを理解することは医学的にも重要だ。
PTSDは、強い恐怖などのトラウマ体験の記憶と本来はニュートラルなほかの記憶が不必要に結びつき、
ニュートラルな刺激でトラウマ体験を想起してしまうと考えられている。
このような観点から、記憶どうしが関連付けられる仕組みに関して、多くの神経科学者が研究を進めている。
光遺伝子(オプトジェネティクス)をはじめとする新しい実験技術の登場で、記憶研究は大きな転換期を
迎え、飛躍的に進展している。
これらの技術で神経細胞集団の活動を自由に操ることが可能になり、記憶が連合されて新しい意味をもつ記憶
が形成される仕組みが明らかになってきた。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
記憶を新しくつくり、消し去る実験
・私たちの記憶は、それに対応する特定の細胞集団(セルアセンブリ)として脳に蓄えられている。
・マウスの実験で記憶A(丸い部屋)と記憶B(電気ショック)のセルアセンブリを繰り返し同期させて活性化
させると、マウスは記憶Aの丸い部屋に入れられたことをきっかけに、記憶Bの電気ショックを想起して
恐怖反応を示すようになった。
記憶を新しく関連づけることができたのだ。
両方のセルアセンブリに属するオーバーラップ細胞が増えたためだろう。
・逆に関連づいていた記憶を切り離すことも可能だ。
オーバーラップ細胞の活動を実験的に抑えると、2つの記憶を切り離すことができた。
・こうした研究は新しい実験技術が可能にした。
技術の進歩のおかげで脳科学は飛躍的な進歩を遂げている。
記憶を作り変える
独立した2つの記憶を結びつけて新しい記憶にしたり
結びついている記憶を切り離したり
SFのような話だがマウスの実験では可能になっている
井ノ口馨(いのぐち かおる) 富山大学
脳科学の究極の目標は、人間の精神の営みを理解することだ。
精神の営みの基盤には「知識や概念」がある。
私たちが何かを志向するときには、過去に獲得した知識を使いながら新しい事柄を考えていく。
創造性も、そのベースになっているのは過去の知識だ。
知識や概念は1つひとつの記憶や体験をて適切に関連づける(連合させる)ことで形成される。
もし記憶どうしを関連づけることができなければ、知識を形成できず、精神的な営みもできない。
そうした意味で、「記憶の連合」は人間の精神の営みの最も根源にあるといえる。
異なる記憶どうしを連合してあらたな意味をもつ記憶や知識を形成する能力は、脳がもつ最も重要な機能の
1つだ。
私たちは毎日膨大な量の情報を外界から受けている。
それらの記憶は1つひとつが独立したものではなく、互いに関連付けられて脳内に蓄えられていく。
例えば、仕事が終わってからのくつろいだディナーの場面。
料理の味や香りだけでなく、レストランの雰囲気、窓から見える夜景、その時間を共にした仲間との会話、
部屋に流れるピアノの音色―。
それらの記憶は別々のものではなく、夜の素晴らしいひとときの記憶として関連付けされ蓄えられていく。
このように、出来事には必ず複数の情報が含まれている。
記憶として保持するには、脳の各部から送られてくる複数の情報を1個の『記憶』としてまとめ上げなければ
ならない。
概念形成にも記憶の関連付け
さらに、たくさんの記憶が蓄えられていくにつれ、似たような記憶は県連付けられていき、
新たな意味をもった記憶に更新されていく。
私たちはラブラドールレトリーバーを見ても、マルチーズを見ても、「犬」と認識する。
しかし、犬という概念を持っていなければ、あれだけ大きさも形も違う動物を同種のものとは思わない
だろう。
子どもはまわりの大人から「あれはワンワン、犬だね」とか「違うよ、あれニャーニャー、猫よ」などと
繰り返し教えられるうちに、犬とほかの動物の区別がつくようになり、やがては初めて見る犬種でも、
犬だとわかるようになる。
動物を見たときに似たような記憶を脳内から探し出し、比較検討を重ねた結果、犬であると結論付け、
新たな知識=記憶を得るのだ。
人間にとって知識や概念の形成は、異なる経験を通して獲得した記憶を既存の記憶に適切に関連付けていく
作業だと言える。
脳内では個々の記憶が相互に作用し合うことで新たな結びつきが生まれ、既存の記憶が更新されていくと
考えられている。
一方で、関連付けが不適切に行われると、精神疾患の症状を示したり、記憶錯誤などに陥ったりすることも
考えられる。
本来は関連性の弱い記憶どうしの不必要な結びつきはPTSD(心的外傷後ストレス障害)にも関わっていて、
これを理解することは医学的にも重要だ。
PTSDは、強い恐怖などのトラウマ体験の記憶と本来はニュートラルなほかの記憶が不必要に結びつき、
ニュートラルな刺激でトラウマ体験を想起してしまうと考えられている。
このような観点から、記憶どうしが関連付けられる仕組みに関して、多くの神経科学者が研究を進めている。
光遺伝子(オプトジェネティクス)をはじめとする新しい実験技術の登場で、記憶研究は大きな転換期を
迎え、飛躍的に進展している。
これらの技術で神経細胞集団の活動を自由に操ることが可能になり、記憶が連合されて新しい意味をもつ記憶
が形成される仕組みが明らかになってきた。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
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