2019年03月27日
損得勘定の脳科学C
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
損得勘定
損得勘定の脳科学C
あなたと私の「公平」は違う?
近年では、他者との比較が関係する、より複雑な状況での意思決定の仕組みについても研究が進められている。
情報通信研究機構脳情報通信融合研究センターの春野雅彦(はるの まさひこ)主任研究員が研究を行っているのは、「不公平の判断」の個人差だ。
春野主任研究員らの実験で使われている形式と同様である、Q4に直感で答えてみてほしい。
Q4
分配ゲームーあなたが納得できる選択肢はどれ?
第3者が提供するお金を、あなたと見知らぬ相手で分け合う。
選択肢は3パターンある。
「A:取り分の差額の絶対値が最小で、合計額は最大」
「B:自分の取り分が最大」
「C:相手との差額が最大」
の中から、最も納得できるものを選ぶことを繰り返す。
あなたが最も納得のいく分配方法は、どれだろうか?
春野主任研究員らは、自分と相手の差額の絶対値が最小で総額は最大の選択肢Aを「向社会的(社会性を重視)」、
自分の取り分が最大の選択肢Bを「個人的」、
相手との差額が最大の選択肢Cを「競争的」呼んでいる。
2010年に春野主任研究員らが神経科学的分野の専門科学誌『Nature Neuroscience』に発表した研究によれば、64人の大学生の被験者に金額の大小を変えた質問に繰り返し答えてもらったところ、25人は選択肢Aをおおむね一貫して選び、14人は選択肢Bをおおむね一貫して選んだ。
選択肢Cを一貫して選んだ被験者もわずかにいた。
つまり選択が一貫していなかった被験者を除けば、被験者の約85%が向社会的、約34%が個人的、1%前後が競争的と判定できたという。
研究ではさらに、向社会的または個人的と判断できた計39人の被験者に対して3パターンの選択肢のいずれかを次々と提示し、好ましさを直感的に4段階で評価してもらった。
この時の脳活動をfMRI装置で測定したところ、二つのグループでは活動に違いが見つかった。「向社会的グループの人では、分配額の差が大きいほど“古い脳”の一部である『扁桃体』が総じて活発に活動していたのに対して、個人的グループの人では、そうした活動は総じて見られなかった。
しかも、扁桃体の活動が大きい人ほど、分配額の差が大きいことを嫌がる度合いも高かった」(春野主任研究員)。
春の種に研究員らが間もなく発表するという研究結果(2014年7月15日時点)よれば、向社会的な人と個人的な人の差は、扁桃体と線条体を含む特定の回路の活動で説明できるという。
不公平かどうかの判断は、理性よりも直感が大きな役割を担っているというのだ。
損得勘定を決定する二つの「システム」
結局のところ、脳はどのように損得の判断を下しているのだろうか?
多くの研究者は、脳には二つの“情報処理システム”が備わっていると考えている。
それは、理屈や推論に基づき時間をかけて判断するシステムと、感情や直感で素早く判断するシステムであるという。
前者は“新しい脳”の前頭前野などが、後者は“古い脳”の線条体や扁桃体などが、それぞれ担っていると考えられている。
ここまで見てきたように、様々な“癖”のある感情や直感のシステムによって、私たちの判断や行動はしばしば支配される。
これは一見“非合理的”にも見えるが、人間の進化の歴史を考えれば“合理的”だったとの見方もできる。
初期の人類は、予測できない危険が今より多い状況で暮らしていた。
そうした状況において、例えば損失回避性は、生存に有利で“合理的”だった可能性が指摘されている。
また、初期の人類の集団は今よりずっと小さく、同じ人と繰り返し関わることが多かったと考えられる。
そうした集団内では自分の利益を優先しすぎないことが“合理的”だった可能性があり、それが春野主任研究員らの研究で向社会的グループの比率が高かった理由かもしれない。
行動の“癖”を知り、実社会に活かす
この記事で見てきた人間の直感の“癖”は、現実の社会制度で“活用”される。
その一例は、個人年金や、主にアメリカの企業年金の方式の一つである「401(k):確定拠出型年金制度」だ。
この制度では、給料が上がった時、旧来のように積立額を増やすかどうかを決めるのではなく、自動的に積立額が増える。
給料が増えたとしても、積立額も増やしてしまうと、その分手取り額の増加が少ない。
これを「損」だと感じて積立額を増やさない、と選択する人を減らすようにしたのだ。
2013年3月に『Science』に掲載された記事によれば、この仕組みによるアメリカ企業全体での積立額の増加は、少なく見積もっても1年あたり74億ドル(約7000億円)と試算されたという。
友野教授はこう語る。
「行動経済学は発展途上であり、人間の直感的な判断と行動の“癖”を捉えようとしている段階です。少なくとも先進国では、そうした人間の“癖”に訴えかけることによって、様々な商品が売られようとしています。
こうした社会において、自分自身の判断と行動の“癖”を認識することは、よりよく生きる助けとなるでしょう」。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行
損得勘定
損得勘定の脳科学C
あなたと私の「公平」は違う?
近年では、他者との比較が関係する、より複雑な状況での意思決定の仕組みについても研究が進められている。
情報通信研究機構脳情報通信融合研究センターの春野雅彦(はるの まさひこ)主任研究員が研究を行っているのは、「不公平の判断」の個人差だ。
春野主任研究員らの実験で使われている形式と同様である、Q4に直感で答えてみてほしい。
Q4
分配ゲームーあなたが納得できる選択肢はどれ?
第3者が提供するお金を、あなたと見知らぬ相手で分け合う。
選択肢は3パターンある。
「A:取り分の差額の絶対値が最小で、合計額は最大」
「B:自分の取り分が最大」
「C:相手との差額が最大」
の中から、最も納得できるものを選ぶことを繰り返す。
あなたが最も納得のいく分配方法は、どれだろうか?
春野主任研究員らは、自分と相手の差額の絶対値が最小で総額は最大の選択肢Aを「向社会的(社会性を重視)」、
自分の取り分が最大の選択肢Bを「個人的」、
相手との差額が最大の選択肢Cを「競争的」呼んでいる。
2010年に春野主任研究員らが神経科学的分野の専門科学誌『Nature Neuroscience』に発表した研究によれば、64人の大学生の被験者に金額の大小を変えた質問に繰り返し答えてもらったところ、25人は選択肢Aをおおむね一貫して選び、14人は選択肢Bをおおむね一貫して選んだ。
選択肢Cを一貫して選んだ被験者もわずかにいた。
つまり選択が一貫していなかった被験者を除けば、被験者の約85%が向社会的、約34%が個人的、1%前後が競争的と判定できたという。
研究ではさらに、向社会的または個人的と判断できた計39人の被験者に対して3パターンの選択肢のいずれかを次々と提示し、好ましさを直感的に4段階で評価してもらった。
この時の脳活動をfMRI装置で測定したところ、二つのグループでは活動に違いが見つかった。「向社会的グループの人では、分配額の差が大きいほど“古い脳”の一部である『扁桃体』が総じて活発に活動していたのに対して、個人的グループの人では、そうした活動は総じて見られなかった。
しかも、扁桃体の活動が大きい人ほど、分配額の差が大きいことを嫌がる度合いも高かった」(春野主任研究員)。
春の種に研究員らが間もなく発表するという研究結果(2014年7月15日時点)よれば、向社会的な人と個人的な人の差は、扁桃体と線条体を含む特定の回路の活動で説明できるという。
不公平かどうかの判断は、理性よりも直感が大きな役割を担っているというのだ。
損得勘定を決定する二つの「システム」
結局のところ、脳はどのように損得の判断を下しているのだろうか?
多くの研究者は、脳には二つの“情報処理システム”が備わっていると考えている。
それは、理屈や推論に基づき時間をかけて判断するシステムと、感情や直感で素早く判断するシステムであるという。
前者は“新しい脳”の前頭前野などが、後者は“古い脳”の線条体や扁桃体などが、それぞれ担っていると考えられている。
ここまで見てきたように、様々な“癖”のある感情や直感のシステムによって、私たちの判断や行動はしばしば支配される。
これは一見“非合理的”にも見えるが、人間の進化の歴史を考えれば“合理的”だったとの見方もできる。
初期の人類は、予測できない危険が今より多い状況で暮らしていた。
そうした状況において、例えば損失回避性は、生存に有利で“合理的”だった可能性が指摘されている。
また、初期の人類の集団は今よりずっと小さく、同じ人と繰り返し関わることが多かったと考えられる。
そうした集団内では自分の利益を優先しすぎないことが“合理的”だった可能性があり、それが春野主任研究員らの研究で向社会的グループの比率が高かった理由かもしれない。
行動の“癖”を知り、実社会に活かす
この記事で見てきた人間の直感の“癖”は、現実の社会制度で“活用”される。
その一例は、個人年金や、主にアメリカの企業年金の方式の一つである「401(k):確定拠出型年金制度」だ。
この制度では、給料が上がった時、旧来のように積立額を増やすかどうかを決めるのではなく、自動的に積立額が増える。
給料が増えたとしても、積立額も増やしてしまうと、その分手取り額の増加が少ない。
これを「損」だと感じて積立額を増やさない、と選択する人を減らすようにしたのだ。
2013年3月に『Science』に掲載された記事によれば、この仕組みによるアメリカ企業全体での積立額の増加は、少なく見積もっても1年あたり74億ドル(約7000億円)と試算されたという。
友野教授はこう語る。
「行動経済学は発展途上であり、人間の直感的な判断と行動の“癖”を捉えようとしている段階です。少なくとも先進国では、そうした人間の“癖”に訴えかけることによって、様々な商品が売られようとしています。
こうした社会において、自分自身の判断と行動の“癖”を認識することは、よりよく生きる助けとなるでしょう」。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2014年7月15日発行
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