2019年03月26日
損得勘定の脳科学B
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
損得勘定
損得勘定の脳科学B
脳科学で裏付けられつつある“癖”と、その個人差
読者の方の中には、ここまで紹介してきた質問において、
多数派とは異なる選択をしてきた人が当然いるだろう。
カーネマン博士らの研究でも、大多数の人と異なる選択をする人は確かに存在していた。
友野教授によれば、例えば価値関数(前日の上のグラフ)の形には個人差があり、
金額などの条件によっても変わるが、
心理学の分野ではそうした差は十分に解明できていないという。
その一方で、脳科学や神経科学によって、判断を行う際に脳で何が起きており、
その働きにどのような個人差があるのかが明らかにされ始めている。
2007年に科学誌『Science』に発表された研究例を紹介する。
この研究では、脳の活動をリアルタイムに測定できるfMRI(機能的磁気共鳴画像)装置を使って、
プロスペクト理論が提唱する「損失回避性」がみられた際の脳活動が調べられた。
研究では、16人の学生の被験者に対して、Q2(前日参照)と似た「50%で賞金をもらえるか没収されるかの賭け」を、様々な金額の組み合わせで繰り返し提示した。
そしてそれぞれの賭けに乗るかどうかを直感的に答えてもらって、
損を得よりどれだけ重く感じるかを示す値を個々人ごとに算出した。
すると、その中央値はカーネマン博士らが示した2.25に近い1.93
(損を得より、1.93倍重く感じる)だった一方で、
最低0.99から最大6.75までの開きがあったという。
損と得をほぼ同等に捉えている人(0.99)から、
損を得より極端に嫌がっている人(6.75)まで、様々だった。
ことのき同時に測定された脳の活動の解析から、こうした損失回避性の個人差と関わる脳の部位がいくつも明らかになった。
特に注目されたのは、サルやネズミとも共通していて本能的な判断を担うとされる“古い脳”の代表的な構成要素である「線条体(被殻と尾状核)」や、ヒトで特に発達しており理性的な判断を担うとされる“新しい脳”に含まれる『前頭前野』だ。
損を得より重く見る度合いが大きい人ほど、これらの部位の活動も大きかったという。
判断の傾向に見られる個人差は、脳の働き方の違いが生み出しているのだ。
言い方を変えるだけで、判断が逆転する?
人間が判断を下す際の“癖”は、紹介しきれないほどたくさん知られている。
次の二つの質問に直感で答えてほしい。
Q3-1
クイズ番組に出たあなたは、賞金50万円を獲得した。
しかし、無条件に賞金を持ち帰ることはできず、次の選択肢のどちらかを選ばなければならない。
A:「賞金のうち20万円を獲得」
B:「賭けに乗る。
確率40%で賞金を全額獲得か、確率60%で全額没収か」
Q3-2
クイズ番組に出たあなたは、賞金50万円を獲得した。
しかし、無条件に賞金を持ち帰ることはできず、次の選択肢のどちらかを選ばなければならない。
A:「賞金のうち30万円を獲得」
B:「賭けに乗る。
確率40%で賞金を全額獲得か、確率60%で全額没収か」
Q3-1とQ3-2で、Bは全く同じ文だ。
Aも言い方を変えただけで、同じ結果を意味している。(「50万円のうち30万円を没収」と「50万円のうち20万円を獲得」で手元に残る金額は同じ)。
それにもかかわらず、もしかするとあなたはQ3-1ではA、Q3-2ではBを選びたくなったのではないだろうか?
この質問によって、人間の損失回避性とともに、言い回しに判断が左右される性質(フレーミング効果)がわかるという。
この質問形式は、『Science』に2006年に発表された研究と同様のものである。
研究では、20人の大学生・大学院生を被験者として、提示する金額と賭けの確率を変えながら繰り返し質問し、直感的に答えてもらった。
その結果、Q3-1と同じ聞き方の場合は約57%の確率で選択肢Aが選ばれたが、Q3-2と同じ聞き方の場合は約62%の確率で選択肢Bが選ばれ、その違いは統計的に意味のあるものだった。
つまり、質問が「得(獲得)」として表現されるか「損(没収)」として表現されるかが異なるだけで、選択の傾向が逆転したのである。
この研究でも、脳の活動が測定されている。
前頭前野の一部領域の活動が高い人ほど、言い回しに判断が左右されにくかったという。(続く)
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
損得勘定
損得勘定の脳科学B
脳科学で裏付けられつつある“癖”と、その個人差
読者の方の中には、ここまで紹介してきた質問において、
多数派とは異なる選択をしてきた人が当然いるだろう。
カーネマン博士らの研究でも、大多数の人と異なる選択をする人は確かに存在していた。
友野教授によれば、例えば価値関数(前日の上のグラフ)の形には個人差があり、
金額などの条件によっても変わるが、
心理学の分野ではそうした差は十分に解明できていないという。
その一方で、脳科学や神経科学によって、判断を行う際に脳で何が起きており、
その働きにどのような個人差があるのかが明らかにされ始めている。
2007年に科学誌『Science』に発表された研究例を紹介する。
この研究では、脳の活動をリアルタイムに測定できるfMRI(機能的磁気共鳴画像)装置を使って、
プロスペクト理論が提唱する「損失回避性」がみられた際の脳活動が調べられた。
研究では、16人の学生の被験者に対して、Q2(前日参照)と似た「50%で賞金をもらえるか没収されるかの賭け」を、様々な金額の組み合わせで繰り返し提示した。
そしてそれぞれの賭けに乗るかどうかを直感的に答えてもらって、
損を得よりどれだけ重く感じるかを示す値を個々人ごとに算出した。
すると、その中央値はカーネマン博士らが示した2.25に近い1.93
(損を得より、1.93倍重く感じる)だった一方で、
最低0.99から最大6.75までの開きがあったという。
損と得をほぼ同等に捉えている人(0.99)から、
損を得より極端に嫌がっている人(6.75)まで、様々だった。
ことのき同時に測定された脳の活動の解析から、こうした損失回避性の個人差と関わる脳の部位がいくつも明らかになった。
特に注目されたのは、サルやネズミとも共通していて本能的な判断を担うとされる“古い脳”の代表的な構成要素である「線条体(被殻と尾状核)」や、ヒトで特に発達しており理性的な判断を担うとされる“新しい脳”に含まれる『前頭前野』だ。
損を得より重く見る度合いが大きい人ほど、これらの部位の活動も大きかったという。
判断の傾向に見られる個人差は、脳の働き方の違いが生み出しているのだ。
言い方を変えるだけで、判断が逆転する?
人間が判断を下す際の“癖”は、紹介しきれないほどたくさん知られている。
次の二つの質問に直感で答えてほしい。
Q3-1
クイズ番組に出たあなたは、賞金50万円を獲得した。
しかし、無条件に賞金を持ち帰ることはできず、次の選択肢のどちらかを選ばなければならない。
A:「賞金のうち20万円を獲得」
B:「賭けに乗る。
確率40%で賞金を全額獲得か、確率60%で全額没収か」
Q3-2
クイズ番組に出たあなたは、賞金50万円を獲得した。
しかし、無条件に賞金を持ち帰ることはできず、次の選択肢のどちらかを選ばなければならない。
A:「賞金のうち30万円を獲得」
B:「賭けに乗る。
確率40%で賞金を全額獲得か、確率60%で全額没収か」
Q3-1とQ3-2で、Bは全く同じ文だ。
Aも言い方を変えただけで、同じ結果を意味している。(「50万円のうち30万円を没収」と「50万円のうち20万円を獲得」で手元に残る金額は同じ)。
それにもかかわらず、もしかするとあなたはQ3-1ではA、Q3-2ではBを選びたくなったのではないだろうか?
この質問によって、人間の損失回避性とともに、言い回しに判断が左右される性質(フレーミング効果)がわかるという。
この質問形式は、『Science』に2006年に発表された研究と同様のものである。
研究では、20人の大学生・大学院生を被験者として、提示する金額と賭けの確率を変えながら繰り返し質問し、直感的に答えてもらった。
その結果、Q3-1と同じ聞き方の場合は約57%の確率で選択肢Aが選ばれたが、Q3-2と同じ聞き方の場合は約62%の確率で選択肢Bが選ばれ、その違いは統計的に意味のあるものだった。
つまり、質問が「得(獲得)」として表現されるか「損(没収)」として表現されるかが異なるだけで、選択の傾向が逆転したのである。
この研究でも、脳の活動が測定されている。
前頭前野の一部領域の活動が高い人ほど、言い回しに判断が左右されにくかったという。(続く)
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
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