2019年05月24日
家族の木 THE SECOND STORY 俊也と真梨 <10 継父>
継父
真梨が納得してくれたことを叔父に報告した。叔父は穏やかな表情で喜んでくれた。そして小さな声で「女ってすごいだろ?」と聞いた。「はあ、予想外の反応で、なんとなく尻に敷かれそうな気がします。」というと叔父は珍しく「はっはっは」と大声で笑った。
そして「問題は聡だ。」と言った。僕は「いや、父は喜んでくれると思います。」といったが叔父は「結婚は喜ぶが、お前が東京に残ることは納得しないと思う。聡の中で長男はお前だ。お前が田原興産を継がないことを聡は納得しない。」といった。
確かにそうだった。継父はよく、僕と聡一を並べて家の事業の話をした。その時に、いつもそれとなく、僕が後を継いで聡一が補佐をするような話しぶりをした。母はその様子を好ましく思っていなかった。おばあちゃんに申し訳ないといった。この家の惣領は聡一なのにとよく言ったのだ。
祖母は、そんな、そぶりを微塵も見せることはなかった。祖母の本当の気持ちは今は分からない。ただ、継父は僕を長男としてとらえていたのはよくわかっていた。
だからと言って叔父が真梨を大阪へ出すわけもなかった。叔父の中では僕が婿に入るのは決定事項だった。僕も、それが両家にとって一番いい形だろうと思っていた。母も一息つけるだろうとも思った。ただ継父がこれを簡単に納得するとも思えなかった。
最初に継父に結婚の話を切り出すのは僕の仕事だろうと思うけれど、継父が納得するまで説明してくれるのは叔父だと思った。叔父と継父の間には特別な何かがあるように感じていた。
真梨と僕で大阪に行った。結婚したいという気持ちを伝えるためだった。もちろん両親はとても喜んでくれた。「真梨ちゃんやったらいつでも歓迎や。何ならこのまま大阪に住んだらどうや?」とのっけから継父に先制攻撃をされてしまった。とにかく、その日は結婚の許しをもらうという形にした。その日一泊して東京へ帰った。
それから改めて叔父夫婦と僕で大阪へ行った。叔父は継父に向かって珍しく改まったものの言い方をした。服装もスーツにネクタイだった。叔父は「この度は、結婚を認めてもらってありがとう。真梨も本当に喜んでいる。俊也君なら間違いないし僕も本当に安心した。」とまずは頭を下げてくれた。二人の間で頭を下げるなどは、ついぞないことだった。
叔母も「俊君が真梨と結婚してくれるのんホントにうれしい。これ、真梨の初恋成就やねんよ。」とにこやかに話した。
叔父が口火を切った。「知っての通り真梨はうちの一人娘だ。真梨を外に出すわけにはいかない。ついては俊也君をうちの婿にいただきたいんだが。」といった。僕が立ち上がって「僕もそのつもりをしております。」と挨拶した。継父に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
僕の実父との約束を果たすべく一生懸命僕を養育してくれた父だった。僕をこの家の跡継ぎにすることは継父の意地に近いものだったと思う。
父と母は母の離婚が成立する前に始まった関係だった。他人から見れば不倫だ。僕の養育に本気で力をそそいでくれたのは継父の贖罪的な気持ちも働いていたことだろう。それを婿養子に出してしまえば、継父の贖罪は未完成のままになってしまう。そんな気がした。継父はまぎれもなく僕の人生の大恩人だった。
継父は苦い表情をした。「そういうことを言われるとは思ってた。でも真梨ちゃんは、うちにも良く慣れてるし大阪住まいが嫌やったら東京に住んでもええ。俊也は婿には出されへん。うちの惣領や。」といったまま口を開かない。
同席していた聡一が「じゃあ僕が真梨ちゃんの婿になったろか?僕は東京住まいでもかまへんよ。」といったとたんに、叔母や母が大げさに笑い出した。叔母が「無理、無理、わがまま娘と生活するのん大変やから。真梨がのぼせ上ってる俊君しか無理。」というと、母が大げさに笑った。聡一は「ええ〜、僕、もうふられたん?」と大げさに驚いて見せた。そんなこんなで笑いに包まれて大団円、とはいかなかった。
皆がことさらに大声で笑う中、継父が苦虫をかみつぶしたまま黙りこくっていたからだ。叔父も言葉の接ぎ穂がなく黙ってしまった。聡一の体を張った懐柔策は見事に失敗に終わった。
その時叔母が継父の心臓めがけて大きな矢を放った。「7人中6人が賛成してる話に1人だけ反対しても無理やから。よう考えてみて。ヨリちゃんが凄い気兼ねしながら子育てしてきたこと。俊君がその気持ちを読んでしんどがってたこと、聡君はそれで悩んでたこと、全部わかってるんでしょ?それで意地はったら友達なくすよ。」と。
みんなが呆気に取られていると継父が微笑んだ。「おねえ、兄ちゃんと結婚して女らしなったと思たけど中身はオヤジのままやないか、久しぶりにオヤジ節聞いた。」といった。
「僕が俊也を放したくないのは意地や約束のためやないよ。俊也がいると楽しかった。俊也と聡一と三人で話すのが楽しかったからや。そこは、兄ちゃんも、ねえもわかっといてほしい。兄ちゃんやから僕は了承するよ。幸せにしてやってくれ。頼む。」継父は花嫁の父のように頭を下げた。
話し合いが終わって帰り際、母がこっそりと僕に話しかけた。「真梨ちゃん、事情全部知ってやるの?昔のこと。」と聞かれたので「うん、全部話した。わかってくれた。」と答えた。「そう、よかった。おめでとう。」という短い会話だった。不器用な母の精一杯の愛情表現だった。
帰りの新幹線の中で叔父が「凄いね、あんなに揺さぶられたら、誰だって嫌だって言えない。やっぱり昔取った杵柄だね。」というと、叔母が「交渉のプロよ。」と自慢した。
「え、叔母さん交渉事強いんですか?」と聞くと、叔父が「田原興産で一番売り上げを上げていた営業マンだよ。」と笑った。僕が子供のころ叔母が黒のレンジローバーに乗っていたことを思い出した。叔母の天然が素なのか演技なのかわからなくなった。
続く
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真梨が納得してくれたことを叔父に報告した。叔父は穏やかな表情で喜んでくれた。そして小さな声で「女ってすごいだろ?」と聞いた。「はあ、予想外の反応で、なんとなく尻に敷かれそうな気がします。」というと叔父は珍しく「はっはっは」と大声で笑った。
そして「問題は聡だ。」と言った。僕は「いや、父は喜んでくれると思います。」といったが叔父は「結婚は喜ぶが、お前が東京に残ることは納得しないと思う。聡の中で長男はお前だ。お前が田原興産を継がないことを聡は納得しない。」といった。
確かにそうだった。継父はよく、僕と聡一を並べて家の事業の話をした。その時に、いつもそれとなく、僕が後を継いで聡一が補佐をするような話しぶりをした。母はその様子を好ましく思っていなかった。おばあちゃんに申し訳ないといった。この家の惣領は聡一なのにとよく言ったのだ。
祖母は、そんな、そぶりを微塵も見せることはなかった。祖母の本当の気持ちは今は分からない。ただ、継父は僕を長男としてとらえていたのはよくわかっていた。
だからと言って叔父が真梨を大阪へ出すわけもなかった。叔父の中では僕が婿に入るのは決定事項だった。僕も、それが両家にとって一番いい形だろうと思っていた。母も一息つけるだろうとも思った。ただ継父がこれを簡単に納得するとも思えなかった。
最初に継父に結婚の話を切り出すのは僕の仕事だろうと思うけれど、継父が納得するまで説明してくれるのは叔父だと思った。叔父と継父の間には特別な何かがあるように感じていた。
真梨と僕で大阪に行った。結婚したいという気持ちを伝えるためだった。もちろん両親はとても喜んでくれた。「真梨ちゃんやったらいつでも歓迎や。何ならこのまま大阪に住んだらどうや?」とのっけから継父に先制攻撃をされてしまった。とにかく、その日は結婚の許しをもらうという形にした。その日一泊して東京へ帰った。
それから改めて叔父夫婦と僕で大阪へ行った。叔父は継父に向かって珍しく改まったものの言い方をした。服装もスーツにネクタイだった。叔父は「この度は、結婚を認めてもらってありがとう。真梨も本当に喜んでいる。俊也君なら間違いないし僕も本当に安心した。」とまずは頭を下げてくれた。二人の間で頭を下げるなどは、ついぞないことだった。
叔母も「俊君が真梨と結婚してくれるのんホントにうれしい。これ、真梨の初恋成就やねんよ。」とにこやかに話した。
叔父が口火を切った。「知っての通り真梨はうちの一人娘だ。真梨を外に出すわけにはいかない。ついては俊也君をうちの婿にいただきたいんだが。」といった。僕が立ち上がって「僕もそのつもりをしております。」と挨拶した。継父に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
僕の実父との約束を果たすべく一生懸命僕を養育してくれた父だった。僕をこの家の跡継ぎにすることは継父の意地に近いものだったと思う。
父と母は母の離婚が成立する前に始まった関係だった。他人から見れば不倫だ。僕の養育に本気で力をそそいでくれたのは継父の贖罪的な気持ちも働いていたことだろう。それを婿養子に出してしまえば、継父の贖罪は未完成のままになってしまう。そんな気がした。継父はまぎれもなく僕の人生の大恩人だった。
継父は苦い表情をした。「そういうことを言われるとは思ってた。でも真梨ちゃんは、うちにも良く慣れてるし大阪住まいが嫌やったら東京に住んでもええ。俊也は婿には出されへん。うちの惣領や。」といったまま口を開かない。
同席していた聡一が「じゃあ僕が真梨ちゃんの婿になったろか?僕は東京住まいでもかまへんよ。」といったとたんに、叔母や母が大げさに笑い出した。叔母が「無理、無理、わがまま娘と生活するのん大変やから。真梨がのぼせ上ってる俊君しか無理。」というと、母が大げさに笑った。聡一は「ええ〜、僕、もうふられたん?」と大げさに驚いて見せた。そんなこんなで笑いに包まれて大団円、とはいかなかった。
皆がことさらに大声で笑う中、継父が苦虫をかみつぶしたまま黙りこくっていたからだ。叔父も言葉の接ぎ穂がなく黙ってしまった。聡一の体を張った懐柔策は見事に失敗に終わった。
その時叔母が継父の心臓めがけて大きな矢を放った。「7人中6人が賛成してる話に1人だけ反対しても無理やから。よう考えてみて。ヨリちゃんが凄い気兼ねしながら子育てしてきたこと。俊君がその気持ちを読んでしんどがってたこと、聡君はそれで悩んでたこと、全部わかってるんでしょ?それで意地はったら友達なくすよ。」と。
みんなが呆気に取られていると継父が微笑んだ。「おねえ、兄ちゃんと結婚して女らしなったと思たけど中身はオヤジのままやないか、久しぶりにオヤジ節聞いた。」といった。
「僕が俊也を放したくないのは意地や約束のためやないよ。俊也がいると楽しかった。俊也と聡一と三人で話すのが楽しかったからや。そこは、兄ちゃんも、ねえもわかっといてほしい。兄ちゃんやから僕は了承するよ。幸せにしてやってくれ。頼む。」継父は花嫁の父のように頭を下げた。
話し合いが終わって帰り際、母がこっそりと僕に話しかけた。「真梨ちゃん、事情全部知ってやるの?昔のこと。」と聞かれたので「うん、全部話した。わかってくれた。」と答えた。「そう、よかった。おめでとう。」という短い会話だった。不器用な母の精一杯の愛情表現だった。
帰りの新幹線の中で叔父が「凄いね、あんなに揺さぶられたら、誰だって嫌だって言えない。やっぱり昔取った杵柄だね。」というと、叔母が「交渉のプロよ。」と自慢した。
「え、叔母さん交渉事強いんですか?」と聞くと、叔父が「田原興産で一番売り上げを上げていた営業マンだよ。」と笑った。僕が子供のころ叔母が黒のレンジローバーに乗っていたことを思い出した。叔母の天然が素なのか演技なのかわからなくなった。
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