2019年05月06日
THE FIRST STORY 真一と梨花 <54 修復>
修復
夕飯を買いに行こうと真梨を誘った。一人で出ていけば帰ってくるのかと心配させてしまうからだ。
真梨は大きな声で「牛丼買いにいきた〜い。」といった。
そういえば真梨が生まれた直後も梨花を休ませるために牛丼を買って帰った。なつかしい食べ物だった。
梨花がコーヒーを飲もうとしたので「胃が荒れてるときにそんなもの飲んだら駄目じゃないか!」というと梨花が笑った。「何がいい?何が食べられる?」と聞くと牛丼がいいと答えた。
真梨のリクエストで牛丼とシュークリームを買って帰った。不思議な取り合わせだったが梨花は喜んだ。
近所の洋菓子店のシュークリームは梨花の好物だった。
真梨が眠ってから、また2人の間に緊張した空気が流れた。
梨花が「真ちゃんあの人のとこへ行ってたん?」と聞いたので「いや、彼女とはあれ以来会ってない。僕が合おうとしないから家に直接乗り込んだんだ。
話をつけるために店に行ったときには、もうクビになってた。妊娠は嘘だったんだ。」というと梨花はポカンとなった。
「考えて見ろよ。たった一度で妊娠するぐらいなら今頃この家はものすごい子だくさんだ。僕の精度はそんなに良くないよ。」といった。
「真ちゃんの赤ちゃん育てる自信はあったんよ。でも、もしかしたら真ちゃんがその人と暮らすって言ったらどうしようって不安で不安でご飯食べられへんかったのよ。」と言って泣いてしまった。
梨花は「たった一ぺんのことで大騒ぎするつもりはなかったんよ。でも、あの人、なんか言ったら年齢的にも、年齢的にもって凄い年の話ばっかりするのよ。そんなこと言われたら私勝てっこないやない。
もう絶対嫌なんよ。真ちゃんが他の女の人と抱き合うこと考えたら気が狂いそうになる。
お願い。絶対嫌なんよ。」とまた泣きじゃくってしまった。
僕は、二度とそういうことをしないと誓う以外のことはできなかった。
梨花は「大阪では真ちゃんのこと休火山やって言うてたんよ。噴火させたらもう止まらへんって。
私、何のことかわからへんかったけど、この間の夜わかった。始めて真ちゃんが本気で怒った顔見たの。
真ちゃんものすごく怖かった。怖かったら別れたらいいんやけど、それも、でけへんのよ。
だから、もうあんなに怖い目に合わせんといて。お願いやから。」 といった。
その話になると、僕は居ても立っても居られないほど辛かった。
「あの事が自己嫌悪で帰ってこられなかった。子供に心配をかけて最低の父親だ。もう許してほしい。」謝る以外のことはできなかった。
その日は何となく気まずい雰囲気で寝室に入った。僕はいつまでも寝付けなかった。
梨花も何度も寝返りを打った。夜も2時を過ぎたころに梨花が僕のベッドに潜りこんできた。
久しぶりに梨花の肩を抱いて思わず大きなため息をついて「キツかった。」と口走ってしまった。
梨花が「真ちゃん、お風呂やないんやから。もうちょっとロマンチックな声出してほしかった。」と言った。涙声だった。
梨花は少しやせていた。
僕が「精子って一匹、二匹って数えるの?」と聞くと「だって、一羽二羽もおかしいでしょ。鳥やないねんから。」と答えた
。僕が「体調とか気分とかいろいろあると思うけど断るときには優しく断ってほしいんだ。梨花に冷たくされたら心が折れる。」というと「心が折れるのはこっちやないの!」と僕の胸をぴしゃぴしゃとたたいて足をバタバタさせた。僕は梨花にたたかれて思わず涙ぐんでしまった。
「休火山のくせに泣き虫の真ちゃんが大好きよ。」と梨花が言った。僕は、だらしなくへらへらと笑った。
他の人には絶対に見せられない泣き虫真一の姿だった。やっと眠りについた時には3時を過ぎていた。
翌日は出勤の前に父の仏様に合掌した。真梨を無事に会社まで送り届けてくれたのは父に違いなかった。
夕方、梨花の好きな松寿司の折を買って帰った。梨花は大阪風の寄せ鍋を作って待っていた。
家族3人で飢えた子供のようにたらふく食べた。
その後も時々、真っ最中に「あの人にもこんなことしたの?」と不意打ちを食らうこともあった。
そういう時は途中撤退は許されない。ただひたすら「君が一番。君が最高。君しかいない」と唱え続けてコトを進めるだけだった。
そんな日々が半年ぐらい続いた。
「あの時濡れてたからいいと思ったんだ。」と半年も過ぎてから弁解をした。
梨花は「真ちゃんにされたら、どんな時でも、そうなってしまう。私は真ちゃんのために生まれたんやもん。」といった。久しぶりに梨花に口説き文句を言われて、へらへらと笑った。
僕は外では抜け目のない商売人になっていたが、それは生活の手段だった。
家ではデレデレの甘いおやじだった。
梨花におだてられて、いい気になってへらへらと笑う自分が好きだった。
続く
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近所の洋菓子店のシュークリームは梨花の好物だった。
真梨が眠ってから、また2人の間に緊張した空気が流れた。
梨花が「真ちゃんあの人のとこへ行ってたん?」と聞いたので「いや、彼女とはあれ以来会ってない。僕が合おうとしないから家に直接乗り込んだんだ。
話をつけるために店に行ったときには、もうクビになってた。妊娠は嘘だったんだ。」というと梨花はポカンとなった。
「考えて見ろよ。たった一度で妊娠するぐらいなら今頃この家はものすごい子だくさんだ。僕の精度はそんなに良くないよ。」といった。
「真ちゃんの赤ちゃん育てる自信はあったんよ。でも、もしかしたら真ちゃんがその人と暮らすって言ったらどうしようって不安で不安でご飯食べられへんかったのよ。」と言って泣いてしまった。
梨花は「たった一ぺんのことで大騒ぎするつもりはなかったんよ。でも、あの人、なんか言ったら年齢的にも、年齢的にもって凄い年の話ばっかりするのよ。そんなこと言われたら私勝てっこないやない。
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翌日は出勤の前に父の仏様に合掌した。真梨を無事に会社まで送り届けてくれたのは父に違いなかった。
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