2019年05月01日
家族の木 THE FIRST STORY 真一と梨花 <49 病院の風景>
病院の風景
「梨花、ちょっと手の機能が回復しているか確かめたいんだけど。」
「えっ、手の調子も悪かったの?全然言わへんから気が付かへんかった。大丈夫なの?」
梨花が僕の手を見るために僕の顔の前まで腕を伸ばしてきた。
僕はそっと梨花の胸をつかんで感触を確かめた。
「こっちの方が回復度合いの確認がしやすい。どう?もう手のひらの機能回復してるかな?」
「ううん、まだちょっとわからへん。もうちょっと、強くしてみて。」
なんとなく梨花の声がトロンとしてきた。
梨花のしのび笑いが鼻にかかってきたときドアをノックする音が聞こえた。
僕は、いい年をして、つまらない遊びをしていた恥ずかしさで大いに狼狽した。
「田原さん、体温、計れましたか?」と言いながら、いつもの看護師が入ってきた。
「まだ計ってないんですか?バツとして点滴痛くします。」冷たい顔で点滴の用意を始めた。
僕は恐怖で顔を引きつらせた。梨花は呆然と看護師の顔をみつめた。
看護師は少し困った顔をして「ここは笑っていただくところなんですけど。
ホントにやったら私、免許はく奪ですよ。」といった。 いい人だった。
化粧っ気のない顔でハキハキものをいう、いかにも有能といった看護師で名札は「主任 山口」となっていた。
病室で、時々三崎と山口さんが鉢合わせする。三崎も山口さんも軽く目礼するだけで特に話はしない。
ただ、この日は僕も梨花もテレ隠しをして妙に饒舌になった。
なんとなく山口さんに冗談をいうと三崎も一緒に大笑いした。
僕は、なんで三崎は毎日僕の見舞いに来るのだろうと不思議に思っていた。確かに業務の報告や確認はある。それでも、毎日でなくてもいい。
ひょっとしたら山口さんが部屋に来る時間を見計らっているんじゃないかと感じた。
三崎が帰ってから梨花にその話をすると「今頃分かったの?」と言われてしまった。
こういうことは梨花の方が圧倒的によくわかっていた。
三崎は大手不動産会社で働いていたが上司とうまくいかず退職していた。
坂元の叔父の紹介で僕の会社に入った。僕が右も左もわからないとき実質的に教えてくれたのは彼だった。
僕の片腕どころか両腕だった。三崎は以前の退職がきっかけで離婚していた。子供はいない。
問題は山口さんだった。彼女が独身かどうか調べなければならなかった。
小学生ぐらいの子供がいても不思議ではない年頃だ。年齢はいいが独身かどうかは重要な問題だった。
看護師に惚れる患者は多いらしく、看護師の個人情報を安易に聴くと担当替えなどがあるようだ。
看護師へのプレゼントも受け取ってくれないらしい。ここでは梨花が頑張った。
もう退院の日が迫ってきたある日、梨花が山口さんに話しかけていた。「ねえ、山口さん。
このネクタイもらってくれない?お見舞い品なんやけど、うちはネクタイ締めへんのよ。
失礼なんやけど御主人にどうかな?」と言ってネクタイを渡そうとしていた。
僕は梨花の奇妙な設定にドギマギした。
山口さんは一瞬不思議そうな顔をしたが、笑いながら「奥様、残念ですけど私、独身なんですよ。」と答えてくれた。梨花は「まあ、山口さん独身?よかったあ。」といった。
そこへ三崎が入ってきた。梨花は「彼にこのネクタイ似合うと思う?」と山口さんに畳みかけた。
三崎は訳がわからないままネクタイをあてられていた。もう、ほとんど業務妨害だった。
山口さんは当惑しながらも「お似合いだと思います。」と答えた。
梨花の支離滅裂で強引な質問に律儀に返事をした山口さんを見て僕は確信した。
彼女は三崎に好意を持っているのだ。
彼女だって三崎が来そうな時間めがけて、この部屋へ来ているのかもしれない。
僕は三崎に「今日山口さん、早帰りらしいよ。」と大きな声でヤマをかけた。
山口さんは笑いながら部屋を出た。三崎が後を追いかけて行った。
病室に梨花と二人きりになった時に、僕が「梨花、見舞いにネクタイ持ってくる奴いる?」と聞くと、梨花は「たまに、いるような気もするけど。」と真顔で答えた。
その日、山口さんと三崎は一緒に食事をしたらしい。
大人のカップルが親しい関係になるのに時間はかからなかった。1年後には、ささやかな結婚式が挙げられた。
続く
お肌のハリを取り戻したいあなた!化粧品って効果ありました?
お肌のハリは表面の手入れだけでは戻ってきません。
お肌を内側からケアすれば、お肌の透明感やハリが戻りやすいんです。
プラセンタの栄養やアスタキサンチンの抗酸化作用がお肌ダメージを内側からケアします。
「梨花、ちょっと手の機能が回復しているか確かめたいんだけど。」
「えっ、手の調子も悪かったの?全然言わへんから気が付かへんかった。大丈夫なの?」
梨花が僕の手を見るために僕の顔の前まで腕を伸ばしてきた。
僕はそっと梨花の胸をつかんで感触を確かめた。
「こっちの方が回復度合いの確認がしやすい。どう?もう手のひらの機能回復してるかな?」
「ううん、まだちょっとわからへん。もうちょっと、強くしてみて。」
なんとなく梨花の声がトロンとしてきた。
梨花のしのび笑いが鼻にかかってきたときドアをノックする音が聞こえた。
僕は、いい年をして、つまらない遊びをしていた恥ずかしさで大いに狼狽した。
「田原さん、体温、計れましたか?」と言いながら、いつもの看護師が入ってきた。
「まだ計ってないんですか?バツとして点滴痛くします。」冷たい顔で点滴の用意を始めた。
僕は恐怖で顔を引きつらせた。梨花は呆然と看護師の顔をみつめた。
看護師は少し困った顔をして「ここは笑っていただくところなんですけど。
ホントにやったら私、免許はく奪ですよ。」といった。 いい人だった。
化粧っ気のない顔でハキハキものをいう、いかにも有能といった看護師で名札は「主任 山口」となっていた。
病室で、時々三崎と山口さんが鉢合わせする。三崎も山口さんも軽く目礼するだけで特に話はしない。
ただ、この日は僕も梨花もテレ隠しをして妙に饒舌になった。
なんとなく山口さんに冗談をいうと三崎も一緒に大笑いした。
僕は、なんで三崎は毎日僕の見舞いに来るのだろうと不思議に思っていた。確かに業務の報告や確認はある。それでも、毎日でなくてもいい。
ひょっとしたら山口さんが部屋に来る時間を見計らっているんじゃないかと感じた。
三崎が帰ってから梨花にその話をすると「今頃分かったの?」と言われてしまった。
こういうことは梨花の方が圧倒的によくわかっていた。
三崎は大手不動産会社で働いていたが上司とうまくいかず退職していた。
坂元の叔父の紹介で僕の会社に入った。僕が右も左もわからないとき実質的に教えてくれたのは彼だった。
僕の片腕どころか両腕だった。三崎は以前の退職がきっかけで離婚していた。子供はいない。
問題は山口さんだった。彼女が独身かどうか調べなければならなかった。
小学生ぐらいの子供がいても不思議ではない年頃だ。年齢はいいが独身かどうかは重要な問題だった。
看護師に惚れる患者は多いらしく、看護師の個人情報を安易に聴くと担当替えなどがあるようだ。
看護師へのプレゼントも受け取ってくれないらしい。ここでは梨花が頑張った。
もう退院の日が迫ってきたある日、梨花が山口さんに話しかけていた。「ねえ、山口さん。
このネクタイもらってくれない?お見舞い品なんやけど、うちはネクタイ締めへんのよ。
失礼なんやけど御主人にどうかな?」と言ってネクタイを渡そうとしていた。
僕は梨花の奇妙な設定にドギマギした。
山口さんは一瞬不思議そうな顔をしたが、笑いながら「奥様、残念ですけど私、独身なんですよ。」と答えてくれた。梨花は「まあ、山口さん独身?よかったあ。」といった。
そこへ三崎が入ってきた。梨花は「彼にこのネクタイ似合うと思う?」と山口さんに畳みかけた。
三崎は訳がわからないままネクタイをあてられていた。もう、ほとんど業務妨害だった。
山口さんは当惑しながらも「お似合いだと思います。」と答えた。
梨花の支離滅裂で強引な質問に律儀に返事をした山口さんを見て僕は確信した。
彼女は三崎に好意を持っているのだ。
彼女だって三崎が来そうな時間めがけて、この部屋へ来ているのかもしれない。
僕は三崎に「今日山口さん、早帰りらしいよ。」と大きな声でヤマをかけた。
山口さんは笑いながら部屋を出た。三崎が後を追いかけて行った。
病室に梨花と二人きりになった時に、僕が「梨花、見舞いにネクタイ持ってくる奴いる?」と聞くと、梨花は「たまに、いるような気もするけど。」と真顔で答えた。
その日、山口さんと三崎は一緒に食事をしたらしい。
大人のカップルが親しい関係になるのに時間はかからなかった。1年後には、ささやかな結婚式が挙げられた。
続く
お肌のハリを取り戻したいあなた!化粧品って効果ありました?
お肌のハリは表面の手入れだけでは戻ってきません。
お肌を内側からケアすれば、お肌の透明感やハリが戻りやすいんです。
プラセンタの栄養やアスタキサンチンの抗酸化作用がお肌ダメージを内側からケアします。
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/8768101
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック