2019年04月10日
家族の木 THE FIRST STORY 真一と梨花
姓
依子さんが退院して1週間がたって僕は一旦東京へ帰ることにした。仕事の資料を持ってくる必要もあったが入籍も済ませたかった。
本当は二人で東京で入籍したかったが、これにはママが大反対をした。「不安定な時期に何考えてるのん。なんかあったらどうするのん!」と激怒されてしまった。
この時にママから言われたことは姓の話だった。東京へ住むのは構わない。二人の東京生活には協力する。ついては田原姓を名乗ってくれないかという話だ。もともと、東京の本家の息子なのだから田原を名乗ってもおかしな話ではないというのだ。僕はそういうことには無知だった。
姓がどうの名前がどうのという育ちではないから、特段どちらの姓を名乗りたいといった思いもないけれど、姓が変わるとは一度も考えたことがなかった。
戸惑いもある。それに、今思えば僕を育ててくれたのは母方の祖父母だ。その人たちはどう感じるのだろうかという思いもある。
婚姻届けには、どちらの姓を名乗るか記載するところがある。ぼくにはずいぶん悩ましい問題なのだが書類はレ点一つで届けるのである。そりゃ、そうだ。役所からしたら姓など単なる符牒なのだから、はっきりしてさえあればそれでいいのだ。
住所はとりあえずは僕の現住所にしておいた。この部分を書く時には多少興奮したものだ。あの狭い部屋に嫁さんが来る。しかも、おなかにはもう子供だっている。去年のいまごろ、こうなることを誰が想像しただろう。人生は、ある日突然変化する。
僕は梨花の気持ちを優先することにした。「どうしてほしい?どの姓で暮らしたい?」聞いても梨花は真ちゃんの好きな方がいいという。夫婦がどちらでもよくて義母が田原を名乗ってほしいのなら、義母の希望を聞いてあげればいいだけだ。僕は田原姓を名乗ることを了承した。
そのことを梨花に伝えた夜、梨花は悪い顔をして僕に言った。「ふふん。これで真ちゃんは私ひとりのものや。真由美さんもマヤさんも真知子さんも、もう絶対真ちゃんには近づかんようになる。」とほくそ笑んだ。笑顔は相変わらず小学生のように無邪気だったが僕の心臓はグルンと一回転した。
「びっくりした?ママが真ちゃんのこと全部調べたらしい。そしたら、女の人三人名前が出てきたんよ。ママが、真ちゃんモテてたみたいやけど重なって付き合ってないから安心したって。まあ若い時の失敗は大目に見なしょうがないって。それに、借金もないし暴力沙汰もないから心配いらんって。だから、田原姓の話が出たんよ。」
僕は背筋が凍るような気がした。金持ちとはこんなものだ。明日少しママに抗議しよう。形だけでもしておいた方がいい。
梨花は「真ちゃんにどんな過去があろうと絶対私が守ってあげるから。私、結構強いのんよ。ママが何言っても真ちゃんとしか結婚でけへんし。」梨花はまた殺し文句を言ってくる。
僕はほかの人がいるところでは結構はっきり意見を言った。相変わらず男っぽい熱っぽい雰囲気を心がけていた。ところが梨花と二人っきりになると、梨花は「守ってあげる、私がいるから大丈夫。」という。
僕は高校を卒業するころから梨花に出会うまで一度も「守ってあげる」といわれたことはない。ついでに言えば、梨花のほかの女からは、むしろ守ってほしいといわれていたのだ。梨花はなぜ僕を守りたがるのだろう?
翌朝、僕はママに身上調査のことに抗議した。「聞いてくれたらなんでも正直に答えます。黙って調べるのはマナー違反です。」ママは面と向かって抗議されて、目を見開いて驚いていた。
「怒った顔がうちのおじいちゃんによう似てる。娘を嫁に出すのに調べへんなんて親として怠慢でっせ。まして東京に住むのやったら余計ですやろ。」とママが答えた。悪びれた様子はなかった。
そのあとで田原姓を名乗ることを告げるとママはずいぶん喜んで「これで、東京のおじさんも安心しはったと思う。これからイギリスの方とお墓の話もせなあかんけど。」といった。
こうなると、ちょっと面倒な気もしてきた。イギリスの方というのは一度もあったことがない年の離れた姉だ。本妻の子供である姉は妾の子である弟と一度も会おうとしなかった。多分憎んでいるのだろう。
この部分はママにお任せだ。僕は自分がどんな墓に入るかには全く興味がなかった。まして確執のある姉と相談なんてまっぴらだった。それよりも部屋の片づけの方が気にかかった。婚姻届けは二人で書いて区役所へは一人で行くつもりだった。
続く
依子さんが退院して1週間がたって僕は一旦東京へ帰ることにした。仕事の資料を持ってくる必要もあったが入籍も済ませたかった。
本当は二人で東京で入籍したかったが、これにはママが大反対をした。「不安定な時期に何考えてるのん。なんかあったらどうするのん!」と激怒されてしまった。
この時にママから言われたことは姓の話だった。東京へ住むのは構わない。二人の東京生活には協力する。ついては田原姓を名乗ってくれないかという話だ。もともと、東京の本家の息子なのだから田原を名乗ってもおかしな話ではないというのだ。僕はそういうことには無知だった。
姓がどうの名前がどうのという育ちではないから、特段どちらの姓を名乗りたいといった思いもないけれど、姓が変わるとは一度も考えたことがなかった。
戸惑いもある。それに、今思えば僕を育ててくれたのは母方の祖父母だ。その人たちはどう感じるのだろうかという思いもある。
婚姻届けには、どちらの姓を名乗るか記載するところがある。ぼくにはずいぶん悩ましい問題なのだが書類はレ点一つで届けるのである。そりゃ、そうだ。役所からしたら姓など単なる符牒なのだから、はっきりしてさえあればそれでいいのだ。
住所はとりあえずは僕の現住所にしておいた。この部分を書く時には多少興奮したものだ。あの狭い部屋に嫁さんが来る。しかも、おなかにはもう子供だっている。去年のいまごろ、こうなることを誰が想像しただろう。人生は、ある日突然変化する。
僕は梨花の気持ちを優先することにした。「どうしてほしい?どの姓で暮らしたい?」聞いても梨花は真ちゃんの好きな方がいいという。夫婦がどちらでもよくて義母が田原を名乗ってほしいのなら、義母の希望を聞いてあげればいいだけだ。僕は田原姓を名乗ることを了承した。
そのことを梨花に伝えた夜、梨花は悪い顔をして僕に言った。「ふふん。これで真ちゃんは私ひとりのものや。真由美さんもマヤさんも真知子さんも、もう絶対真ちゃんには近づかんようになる。」とほくそ笑んだ。笑顔は相変わらず小学生のように無邪気だったが僕の心臓はグルンと一回転した。
「びっくりした?ママが真ちゃんのこと全部調べたらしい。そしたら、女の人三人名前が出てきたんよ。ママが、真ちゃんモテてたみたいやけど重なって付き合ってないから安心したって。まあ若い時の失敗は大目に見なしょうがないって。それに、借金もないし暴力沙汰もないから心配いらんって。だから、田原姓の話が出たんよ。」
僕は背筋が凍るような気がした。金持ちとはこんなものだ。明日少しママに抗議しよう。形だけでもしておいた方がいい。
梨花は「真ちゃんにどんな過去があろうと絶対私が守ってあげるから。私、結構強いのんよ。ママが何言っても真ちゃんとしか結婚でけへんし。」梨花はまた殺し文句を言ってくる。
僕はほかの人がいるところでは結構はっきり意見を言った。相変わらず男っぽい熱っぽい雰囲気を心がけていた。ところが梨花と二人っきりになると、梨花は「守ってあげる、私がいるから大丈夫。」という。
僕は高校を卒業するころから梨花に出会うまで一度も「守ってあげる」といわれたことはない。ついでに言えば、梨花のほかの女からは、むしろ守ってほしいといわれていたのだ。梨花はなぜ僕を守りたがるのだろう?
翌朝、僕はママに身上調査のことに抗議した。「聞いてくれたらなんでも正直に答えます。黙って調べるのはマナー違反です。」ママは面と向かって抗議されて、目を見開いて驚いていた。
「怒った顔がうちのおじいちゃんによう似てる。娘を嫁に出すのに調べへんなんて親として怠慢でっせ。まして東京に住むのやったら余計ですやろ。」とママが答えた。悪びれた様子はなかった。
そのあとで田原姓を名乗ることを告げるとママはずいぶん喜んで「これで、東京のおじさんも安心しはったと思う。これからイギリスの方とお墓の話もせなあかんけど。」といった。
こうなると、ちょっと面倒な気もしてきた。イギリスの方というのは一度もあったことがない年の離れた姉だ。本妻の子供である姉は妾の子である弟と一度も会おうとしなかった。多分憎んでいるのだろう。
この部分はママにお任せだ。僕は自分がどんな墓に入るかには全く興味がなかった。まして確執のある姉と相談なんてまっぴらだった。それよりも部屋の片づけの方が気にかかった。婚姻届けは二人で書いて区役所へは一人で行くつもりだった。
続く
プラセンタは大人の女性のお肌に驚くほどの潤いを与えてくれます。
きめのそろった優しい肌は女性の美しさを引き立ててくれます。
またアスタキサンチンは最強の抗酸化成分といわれるすぐれたアンチエイジング効果が期待されています。
お肌や眼の疲労にも効果があります。
これら効果が心も晴れ気分にしてくれます。
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またアスタキサンチンは最強の抗酸化成分といわれるすぐれたアンチエイジング効果が期待されています。
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