2019年04月08日
家族の木 THE FIRST STORY 真一と梨花
殺人未遂
梨花の妊娠で僕の気持ちは盛り上がったり迷ったりへこんだり右往左往していた。田原の家はママが大張り切りで出産準備をした。
このどさくさの中で聡の恋人が大けがをした。夫にやられたらしい。全治一か月。僕は警察官時代の経験から暴力沙汰で全治一カ月のけがが尋常ではないことが分かっていた。
一瞬かっとなって殴ったレベルでは、そんな大けがはしない。刃物で刺されたか鉄パイプのようなもので殴られたか、とにかく、多分、殺そうとしたのだ。このことを子供に知らせてはいけない。それが僕の思いだった。
僕はママや聡に頼んだ。破談になるのはしょうがない。でも子供には母親が父親に大けがをさせられたことを悟らせないでほしい。泣きたい気持ちで頼んだ。一方で、梨花にこの話にかかわらせないでほしいとも頼んだ。とにかく、のんびり機嫌よく過ごしてほしかった。体を大事にしてほしかった。
僕は急いで大阪へ行った。梨花は面倒見がいい。聡の恋人が大けがをしたのだ。梨花が深入りするのは目に見えていた。
大阪の家に着いてから聡に電話をかけた。聡は「命に別状はない。意識もしっかりしてる。そやけど精神的なショックが大きい。俊也、子供を見るもんがおらんから家に連れて帰る。破談にはせえへんよ。兄ちゃん、依子と俊也、うちへ引き取るわ。二人っきりではほっとかれへん。」といった。
「わかった。協力するから何でも言ってくれ。」と僕が答えると「兄ちゃん、病院へ来られるかな?家で話したら姉が聞くやろ。あいつかっとなりよるから。」という。聡も梨花が深入りするのを心配していた。
依子さんには田原の家で一度会っていた。一度会ったら忘れないような美人だった。一瞬ラテン系のハーフかと思ったものだ。しかし、その日の依子さんは、やつれて目の周りにはクマが出ていた。
半泣きで「そんなことできません。これ以上ご迷惑かけられません。」といったが聡は「俊也、安全な場所で暮らせるようにせなあかんやろ。君も怪我が治ったらうちへきたらいい。」と優しくいった。それでも、依子さんは絶対に行けないと拒んだ。
僕は「依子さん、感情的な話じゃないんですよ。俊也君の生活をどうして守るかが先決です。」ちょっと厳しくいった。依子さんは、言葉を継げなくなって了承した。
「あなたが動けるようになるまで、僕もこちらにいます。大丈夫ですから安心してください。僕と聡で、お宅へ行って当面の荷物をもってきましょう。僕ね、元警察官なんです。柔道3段です。」というと聡が驚いた顔をしていた。
「俊也君はこのまま、田原の家に行って、おばあちゃんに見てもらおうね。」と僕がいうと俊君は不安そうにうなづいた。子供にしてみれば嫌だと答えることなどできなかっただろう。そう思うだけで僕は胸が痛くなった。僕は孤独な子供を捨ててはおけなかった。
帰り道で聡は「ああいうとき、兄ちゃんのいい方は説得力あるわ。びっくりした。」と言った。
僕は「依子さんはお前以外の人の了解が欲しかったんだよ。お前だけの了解じゃ家に来にくいだろ?お前を家の中で孤立させたくなかったんだ。」と聡に言った。きっと、依子さんは僕のことを怖いオッサンだと思ったことだろう。
聡と僕の2人になった時に、聡は「警察沙汰になってしもたから本山君は今拘束されてる。今は心配いらん。俊也にこのことがわからんようにしたりたい。」といった。
依子さんの夫という人は四国で水産会社を経営していて、経営が傾きだしてから夫婦仲も悪くなったらしい。依子さんにつらく当たって暴力も振るったということだ。
僕は意外と金で解決がつくんじゃないかと思った。その男は先行きがはっきりしなくて不安でしょうがないのだ。先行きのめどさえつけば案外簡単に納得するのではないかという気がした。
聡に「弁護士を通じて最初から金の話にした方がいいじゃないか?」と提案してみた。「本来は払う必要のない金だけど、俊也君のことを考えると、話は早く終わらせた方がいい。それに父親が借金まみれで放り出されるようなことにはしてはいけない。」とも提案した。結局は、金が一番あとくされのない解決方法だと思った。
聡は「本山、金に困って捨て鉢になったんや。それまでは、普通にいいやつやったみたいや。金が一番早い方法やと思う。」と言った。
「あとくされがないようにできるか?」と聞くと、「依子が家出てしもてから会社も経営行き詰ってる。多分つぶれる。こんな事件起こしたら無理や。お義父さんも病気で経営は無理や。お義父さんの病院なんかの解決付いたら落ち着くと思うんや。」と答えた。
「どの程度の金なんだ?」
「わからん。それを話し合わないかん。兄ちゃん、柔道3段やったら同行してくれる?」といわれたので、一緒に四国へ行くことにした。
続く
梨花の妊娠で僕の気持ちは盛り上がったり迷ったりへこんだり右往左往していた。田原の家はママが大張り切りで出産準備をした。
このどさくさの中で聡の恋人が大けがをした。夫にやられたらしい。全治一か月。僕は警察官時代の経験から暴力沙汰で全治一カ月のけがが尋常ではないことが分かっていた。
一瞬かっとなって殴ったレベルでは、そんな大けがはしない。刃物で刺されたか鉄パイプのようなもので殴られたか、とにかく、多分、殺そうとしたのだ。このことを子供に知らせてはいけない。それが僕の思いだった。
僕はママや聡に頼んだ。破談になるのはしょうがない。でも子供には母親が父親に大けがをさせられたことを悟らせないでほしい。泣きたい気持ちで頼んだ。一方で、梨花にこの話にかかわらせないでほしいとも頼んだ。とにかく、のんびり機嫌よく過ごしてほしかった。体を大事にしてほしかった。
僕は急いで大阪へ行った。梨花は面倒見がいい。聡の恋人が大けがをしたのだ。梨花が深入りするのは目に見えていた。
大阪の家に着いてから聡に電話をかけた。聡は「命に別状はない。意識もしっかりしてる。そやけど精神的なショックが大きい。俊也、子供を見るもんがおらんから家に連れて帰る。破談にはせえへんよ。兄ちゃん、依子と俊也、うちへ引き取るわ。二人っきりではほっとかれへん。」といった。
「わかった。協力するから何でも言ってくれ。」と僕が答えると「兄ちゃん、病院へ来られるかな?家で話したら姉が聞くやろ。あいつかっとなりよるから。」という。聡も梨花が深入りするのを心配していた。
依子さんには田原の家で一度会っていた。一度会ったら忘れないような美人だった。一瞬ラテン系のハーフかと思ったものだ。しかし、その日の依子さんは、やつれて目の周りにはクマが出ていた。
半泣きで「そんなことできません。これ以上ご迷惑かけられません。」といったが聡は「俊也、安全な場所で暮らせるようにせなあかんやろ。君も怪我が治ったらうちへきたらいい。」と優しくいった。それでも、依子さんは絶対に行けないと拒んだ。
僕は「依子さん、感情的な話じゃないんですよ。俊也君の生活をどうして守るかが先決です。」ちょっと厳しくいった。依子さんは、言葉を継げなくなって了承した。
「あなたが動けるようになるまで、僕もこちらにいます。大丈夫ですから安心してください。僕と聡で、お宅へ行って当面の荷物をもってきましょう。僕ね、元警察官なんです。柔道3段です。」というと聡が驚いた顔をしていた。
「俊也君はこのまま、田原の家に行って、おばあちゃんに見てもらおうね。」と僕がいうと俊君は不安そうにうなづいた。子供にしてみれば嫌だと答えることなどできなかっただろう。そう思うだけで僕は胸が痛くなった。僕は孤独な子供を捨ててはおけなかった。
帰り道で聡は「ああいうとき、兄ちゃんのいい方は説得力あるわ。びっくりした。」と言った。
僕は「依子さんはお前以外の人の了解が欲しかったんだよ。お前だけの了解じゃ家に来にくいだろ?お前を家の中で孤立させたくなかったんだ。」と聡に言った。きっと、依子さんは僕のことを怖いオッサンだと思ったことだろう。
聡と僕の2人になった時に、聡は「警察沙汰になってしもたから本山君は今拘束されてる。今は心配いらん。俊也にこのことがわからんようにしたりたい。」といった。
依子さんの夫という人は四国で水産会社を経営していて、経営が傾きだしてから夫婦仲も悪くなったらしい。依子さんにつらく当たって暴力も振るったということだ。
僕は意外と金で解決がつくんじゃないかと思った。その男は先行きがはっきりしなくて不安でしょうがないのだ。先行きのめどさえつけば案外簡単に納得するのではないかという気がした。
聡に「弁護士を通じて最初から金の話にした方がいいじゃないか?」と提案してみた。「本来は払う必要のない金だけど、俊也君のことを考えると、話は早く終わらせた方がいい。それに父親が借金まみれで放り出されるようなことにはしてはいけない。」とも提案した。結局は、金が一番あとくされのない解決方法だと思った。
聡は「本山、金に困って捨て鉢になったんや。それまでは、普通にいいやつやったみたいや。金が一番早い方法やと思う。」と言った。
「あとくされがないようにできるか?」と聞くと、「依子が家出てしもてから会社も経営行き詰ってる。多分つぶれる。こんな事件起こしたら無理や。お義父さんも病気で経営は無理や。お義父さんの病院なんかの解決付いたら落ち着くと思うんや。」と答えた。
「どの程度の金なんだ?」
「わからん。それを話し合わないかん。兄ちゃん、柔道3段やったら同行してくれる?」といわれたので、一緒に四国へ行くことにした。
続く
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