2019年04月01日
THE FIRST STORY 真一と梨花
嘘の恋の終わり
僕の日々は、いつもと同じように地味な仕事をこなしながら続いていた。何のために文章を書いているのだろうと考えていた。生活費を稼ぐために毎日粛々と与えられた仕事こなしていた。それは工場の生産ラインにたって作業をこなしているのに似ていた。
不幸感はなかった。これが生活というものだと、わかりかけてきた。生活費を稼げるだけの仕事があることは幸福なことだとわかってきた。僕は、やっと大人になってきたのだ。
真知子は、時々僕を急襲した。僕は女を怒れない性格だった。仕事を盾にとって泊まるのを断るのが精いっぱいだった。梨花への執着心は、そのまま真知子への衝動となっていく。なのに、その時間が過ぎれば、何か足りない空虚な時間に思えた。真知子にあまりにも酷な自分を軽蔑した。
僕は父の不始末の子供だった。父は母への執着心を募らせて断ち切ることができなかったのかもしれない。執着心を愛というのなら、僕は父と母の愛の結晶なのかもしれないと思った。
今、僕は女への執着心を愚かなものだと思うことはできなかった。僕は、いい大人になって初めて本当の恋を知ったのかもしれなかった。
梨花は真知子のことには一切触れなかった。お互いに、触れてはいけないという不文律ができていた。梨花とは結婚できないだろう。多分、相応の縁談がまとまれば、別れなくてはならないだろう。その事を受け入れる自信がなかった。
身分違いなどという言葉は今の日本では死語だと思っていた。ところが、その言葉が今、自分に降りかかってきていた。梨花とはあまりにも持っている条件が違い過ぎた。
あまりにも暮らしぶりが違い過ぎて、梨花が僕の暮らしに適応できるような気がしなかった。それでも、どうしても、たとえつかの間でも梨花との関係を続けたかった。
真知子も考えてみれば身分違いだ。れっきとした医者の娘だった。それでも、こんなに怖気づかなかった。結局は、いずれ別れる女だと割りきっていたということだ。自分は根が冷たいのだ。梨花との関係ができてしまった以上、真知子と続けるわけにはいかなかった。
真知子とホテルのロビーで待ち合わせた、人目がある場所の方が修羅場にならないだろうと見込んでいた。他に好きな女ができたと正直に打ち明けた。これほど決定的な別れ方はないのだ。
真知子は、人目があっても泣き出してしまった。僕は、こんな場面に弱い。僕の部屋に居れば泣き止ませるために、また抱いてベッドに連れて行ってしまっただろう。女を喜ばせたいときも黙らせたいときも、いつも、僕は一つの方法しか思い浮かばない。何も解決せず、その場をごまかすのにその方法は抜群に効果があった。しかし、今日は完全な結論が必要だった。
人目のある場所で、泣かれるのはみっともないし、また、誰かに見られはしないかと恐ろしかったがギリギリのところで踏ん張った。
翌日真知子の父親から電話があって慰謝料の話にしたいといわれた。世間に知られれば今度こそ仕事を無くすだろう。それもしょうがないと覚悟を決めていた。
ただ、それが原因で大阪の親戚に嫌われるのが怖かった。梨花との関係が切れるのが怖かった。が結局は、それ以来真知子からも真知子の父親からも連絡が途絶えた。
続く
僕の日々は、いつもと同じように地味な仕事をこなしながら続いていた。何のために文章を書いているのだろうと考えていた。生活費を稼ぐために毎日粛々と与えられた仕事こなしていた。それは工場の生産ラインにたって作業をこなしているのに似ていた。
不幸感はなかった。これが生活というものだと、わかりかけてきた。生活費を稼げるだけの仕事があることは幸福なことだとわかってきた。僕は、やっと大人になってきたのだ。
真知子は、時々僕を急襲した。僕は女を怒れない性格だった。仕事を盾にとって泊まるのを断るのが精いっぱいだった。梨花への執着心は、そのまま真知子への衝動となっていく。なのに、その時間が過ぎれば、何か足りない空虚な時間に思えた。真知子にあまりにも酷な自分を軽蔑した。
僕は父の不始末の子供だった。父は母への執着心を募らせて断ち切ることができなかったのかもしれない。執着心を愛というのなら、僕は父と母の愛の結晶なのかもしれないと思った。
今、僕は女への執着心を愚かなものだと思うことはできなかった。僕は、いい大人になって初めて本当の恋を知ったのかもしれなかった。
梨花は真知子のことには一切触れなかった。お互いに、触れてはいけないという不文律ができていた。梨花とは結婚できないだろう。多分、相応の縁談がまとまれば、別れなくてはならないだろう。その事を受け入れる自信がなかった。
身分違いなどという言葉は今の日本では死語だと思っていた。ところが、その言葉が今、自分に降りかかってきていた。梨花とはあまりにも持っている条件が違い過ぎた。
あまりにも暮らしぶりが違い過ぎて、梨花が僕の暮らしに適応できるような気がしなかった。それでも、どうしても、たとえつかの間でも梨花との関係を続けたかった。
真知子も考えてみれば身分違いだ。れっきとした医者の娘だった。それでも、こんなに怖気づかなかった。結局は、いずれ別れる女だと割りきっていたということだ。自分は根が冷たいのだ。梨花との関係ができてしまった以上、真知子と続けるわけにはいかなかった。
真知子とホテルのロビーで待ち合わせた、人目がある場所の方が修羅場にならないだろうと見込んでいた。他に好きな女ができたと正直に打ち明けた。これほど決定的な別れ方はないのだ。
真知子は、人目があっても泣き出してしまった。僕は、こんな場面に弱い。僕の部屋に居れば泣き止ませるために、また抱いてベッドに連れて行ってしまっただろう。女を喜ばせたいときも黙らせたいときも、いつも、僕は一つの方法しか思い浮かばない。何も解決せず、その場をごまかすのにその方法は抜群に効果があった。しかし、今日は完全な結論が必要だった。
人目のある場所で、泣かれるのはみっともないし、また、誰かに見られはしないかと恐ろしかったがギリギリのところで踏ん張った。
翌日真知子の父親から電話があって慰謝料の話にしたいといわれた。世間に知られれば今度こそ仕事を無くすだろう。それもしょうがないと覚悟を決めていた。
ただ、それが原因で大阪の親戚に嫌われるのが怖かった。梨花との関係が切れるのが怖かった。が結局は、それ以来真知子からも真知子の父親からも連絡が途絶えた。
続く
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