2019年03月31日
家族の木 THE FIRST STORY 真一と梨花
恋の焔
その翌日は僕が梨花を呼び出した。喫茶店で会った後はホテルに入った。いわゆるラブホテルだ。僕は何度か使った経験があったが梨花は初めてのようだった。
「真ちゃん慣れた感じやね。ちょっと腹立つ。」とむくれていたが僕は無視した。それよりも何よりも昨日の続きの方が僕には大切だった。僕が抱き締めると梨花もすぐに応じてくれた。僕たちは、一晩のうちに恋仲になった。
梨花は僕の母のことを聞きたがった。「ねえ、お母さん、いくつのときに結婚しはったん?」
「僕が11歳だから32だな。それがどうかした?」
「亡くなったんいくつ?」と聞かれて僕はイライラしてきた。
「それから2年後。不愉快な話は打ち切りにしたい。」と僕が怒っても梨花は話し続けた。
「お母さん、34歳や。私、今34歳よ。」
「嫌なこと言うなよ。もうやめにしてほしい。」
「真ちゃん、もし、今、真ちゃんに一緒に死んでくれって言われたら、私、一緒に死ぬよ。」白い胸はほのかに赤みがさしていた。僕の時間はとまってしまった。
「お母さん、お父さんに死なれてから真ちゃん一筋やったと思うのよ。せやけど、今、私、わかるけど、火が付いたら止められへんのよ。・・・・・死ななあかんほど借金抱えてたのに真ちゃんの養育費守りはったんでしょ?・・・・・お母さん、真ちゃん捨ててへんのよ。ただ、ただ、恋の焔に巻き込まれてしもただけなんよ。」
コイノホノオ?そんな古臭いメロドラマのようなセリフを聞くとは夢にも思わなかった。僕は梨花をしげしげと見つめた。今僕の腕の中に居るのは良家の娘でもオヤジ姉ちゃんでもなかった。恋の焔の中に呑まれてしまった一人の女だった。
その日の帰りの新幹線はすいていた。ずっと目をつぶっていたのだが、僕は、きっと卑猥な顔をしていたに違いない。梨花の規則的な息づかいや声を思い出すと頭の芯が快感でしびれた。梨花の白い胸が頭の中で何度も何度もよみがえった。
僕は女性体験は多い方ではなかった。ただ、真由美のようなプロの女性との経験も持っていた。それでも、そんな女性たちのとの関係におぼれるという感覚はなかった。真由美と突然別れた後も、そんなにわびしい気持ちにはならなかった。すぐに、次に付き合う女を物色したのかもしれない。今はもう何も覚えていない。
梨花との時間は今まで経験したことがないような、脳の芯がしびれるような時間だった。僕は大麻やマリファナというものを使った経験はない。でもこんな感じかもしれないと思った。僕の頭の中に駆け巡っているものはドーパミンというものだろうと思った。
しっかりしろよと自分を叱咤したが、すぐに梨花への執着心がむくむくと湧き上がっていた。
僕は家へ帰ってから、書棚の上に追いやった父の仏像を、またベッドサイドに戻した。父は僕を救い出した。母を呪うという泥沼から引き上げてくれたのだ。もちろん、母に感謝とまでは気持ちを持っていくことはできない。
ただ、母が一人の女として恋を全うしたのだということは、それとなく感じることができた。26,7で子供の父を亡くし、水商売で稼ぐ中で30過ぎで男に出会って恋の火が付いた。僕は今、それを責めるのは酷だとわかる年になっていた。
そして、ひょっとしたら、自分も恋を全うしてくれる女に出会えたのかもしれない、という思いもあった。
梨花は、僕と一緒になら死んでやろうといった。実際に誘ったわけではないから本当かどうかわからない。でも、こんなにも情熱的な告白を受けたのは初めてだった。ああいうとき、気が利いた男なら、もっと情熱的に愛の言葉を言うのだろう。
ただ、ただ、熱に突き動かされて愛の言葉を一言もいえなかった自分はなんと子供っぽいのか?また、後悔した。ひょっとしたら恋の焔に巻き込まれたのは自分かもしれないと思った。
続く
その翌日は僕が梨花を呼び出した。喫茶店で会った後はホテルに入った。いわゆるラブホテルだ。僕は何度か使った経験があったが梨花は初めてのようだった。
「真ちゃん慣れた感じやね。ちょっと腹立つ。」とむくれていたが僕は無視した。それよりも何よりも昨日の続きの方が僕には大切だった。僕が抱き締めると梨花もすぐに応じてくれた。僕たちは、一晩のうちに恋仲になった。
梨花は僕の母のことを聞きたがった。「ねえ、お母さん、いくつのときに結婚しはったん?」
「僕が11歳だから32だな。それがどうかした?」
「亡くなったんいくつ?」と聞かれて僕はイライラしてきた。
「それから2年後。不愉快な話は打ち切りにしたい。」と僕が怒っても梨花は話し続けた。
「お母さん、34歳や。私、今34歳よ。」
「嫌なこと言うなよ。もうやめにしてほしい。」
「真ちゃん、もし、今、真ちゃんに一緒に死んでくれって言われたら、私、一緒に死ぬよ。」白い胸はほのかに赤みがさしていた。僕の時間はとまってしまった。
「お母さん、お父さんに死なれてから真ちゃん一筋やったと思うのよ。せやけど、今、私、わかるけど、火が付いたら止められへんのよ。・・・・・死ななあかんほど借金抱えてたのに真ちゃんの養育費守りはったんでしょ?・・・・・お母さん、真ちゃん捨ててへんのよ。ただ、ただ、恋の焔に巻き込まれてしもただけなんよ。」
コイノホノオ?そんな古臭いメロドラマのようなセリフを聞くとは夢にも思わなかった。僕は梨花をしげしげと見つめた。今僕の腕の中に居るのは良家の娘でもオヤジ姉ちゃんでもなかった。恋の焔の中に呑まれてしまった一人の女だった。
その日の帰りの新幹線はすいていた。ずっと目をつぶっていたのだが、僕は、きっと卑猥な顔をしていたに違いない。梨花の規則的な息づかいや声を思い出すと頭の芯が快感でしびれた。梨花の白い胸が頭の中で何度も何度もよみがえった。
僕は女性体験は多い方ではなかった。ただ、真由美のようなプロの女性との経験も持っていた。それでも、そんな女性たちのとの関係におぼれるという感覚はなかった。真由美と突然別れた後も、そんなにわびしい気持ちにはならなかった。すぐに、次に付き合う女を物色したのかもしれない。今はもう何も覚えていない。
梨花との時間は今まで経験したことがないような、脳の芯がしびれるような時間だった。僕は大麻やマリファナというものを使った経験はない。でもこんな感じかもしれないと思った。僕の頭の中に駆け巡っているものはドーパミンというものだろうと思った。
しっかりしろよと自分を叱咤したが、すぐに梨花への執着心がむくむくと湧き上がっていた。
僕は家へ帰ってから、書棚の上に追いやった父の仏像を、またベッドサイドに戻した。父は僕を救い出した。母を呪うという泥沼から引き上げてくれたのだ。もちろん、母に感謝とまでは気持ちを持っていくことはできない。
ただ、母が一人の女として恋を全うしたのだということは、それとなく感じることができた。26,7で子供の父を亡くし、水商売で稼ぐ中で30過ぎで男に出会って恋の火が付いた。僕は今、それを責めるのは酷だとわかる年になっていた。
そして、ひょっとしたら、自分も恋を全うしてくれる女に出会えたのかもしれない、という思いもあった。
梨花は、僕と一緒になら死んでやろうといった。実際に誘ったわけではないから本当かどうかわからない。でも、こんなにも情熱的な告白を受けたのは初めてだった。ああいうとき、気が利いた男なら、もっと情熱的に愛の言葉を言うのだろう。
ただ、ただ、熱に突き動かされて愛の言葉を一言もいえなかった自分はなんと子供っぽいのか?また、後悔した。ひょっとしたら恋の焔に巻き込まれたのは自分かもしれないと思った。
続く
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