2019年03月24日
家族の木 THE FIRST STORY 真一と梨花
真知子
噂話はやがて忘れられて行って仕事量が戻りつつあった。が、今までのように、なんでも食いつくようなことができなくなっていた。「なんだ、その手のひら返しは!」という気持ちと「もう自分を大事にしなければならない年だ。」という気持ちが働いていた。
食えるだけ稼げばいい。有名でなくてもいい。貧しくてもいい。そんな気持ちが芽生えていた。今までの角張った栄達欲がしぼんでいた。「いかん、老化だ。」と思う気持ちと「老化してどこが悪い?」という気持ちがあった。友人たちは、家庭を持って、あくせくしながら幸福そうだった。
そんな時に真知子から連絡がきた。今から部屋に行くという。なぜ電話してくれなかったんだと泣かれてしまった。会わなくなって半年がたっていた。今ちょっと立て込んでいて会えないと断って、そのまま働いた。
僕には、もともと家庭は無理なのかもしれない。家庭を持たないなら、あくせくする必要もないのだ。のんびり不幸せをかみしめて生きるのもいいのかもしれない。悩みは、軽くなったり重くなったりした。頭の中で梨花の姿が見え隠れした。封印できなかった。
2時間ぐらいして真知子が部屋へ来た。また泣かれてしまった。部屋へ入れるんじゃなかったと後悔したが、もう遅かった。帰る気はなさそうだった。真知子はぼくの部屋では、かいがいしく家事をする。その日も何か食材を持ってきて夕飯を作ってくれた。
なんとなく、ずるずるとその夜は泊めてしまった。梨花のように別室へ行くわけもなかった。また引き際を探しながら、いい加減な付き合いが始まった。
梨花は、好きでも手を出してはいけない女、目の前にいるのは結婚を熱望してくれる女だった。
ただ、一つ言えるのは、この女が欲しがっているのは僕自身ではなくて僕が演じている男だった。この女は僕と郊外の一戸建てに住み、可愛いカーテンやおしゃれな家具に囲まれて暮らすのを夢見ている。僕がもっと有名になって、やがては自分が有名人の妻として暮らすのを夢見ているのだ。
この女は僕が妾の子で収入が不安定で、しかも僕自身が今の暮らしに少し嫌気がさしていることを知らない。僕は、やはり引き際をさがすだけだった。なぜ、ずるずると部屋へ入れてしまったのだろう。梨花を帰したあの日の「惜しいことをした」という隠避な思いがしつこくくすぶっていた。
続く
噂話はやがて忘れられて行って仕事量が戻りつつあった。が、今までのように、なんでも食いつくようなことができなくなっていた。「なんだ、その手のひら返しは!」という気持ちと「もう自分を大事にしなければならない年だ。」という気持ちが働いていた。
食えるだけ稼げばいい。有名でなくてもいい。貧しくてもいい。そんな気持ちが芽生えていた。今までの角張った栄達欲がしぼんでいた。「いかん、老化だ。」と思う気持ちと「老化してどこが悪い?」という気持ちがあった。友人たちは、家庭を持って、あくせくしながら幸福そうだった。
そんな時に真知子から連絡がきた。今から部屋に行くという。なぜ電話してくれなかったんだと泣かれてしまった。会わなくなって半年がたっていた。今ちょっと立て込んでいて会えないと断って、そのまま働いた。
僕には、もともと家庭は無理なのかもしれない。家庭を持たないなら、あくせくする必要もないのだ。のんびり不幸せをかみしめて生きるのもいいのかもしれない。悩みは、軽くなったり重くなったりした。頭の中で梨花の姿が見え隠れした。封印できなかった。
2時間ぐらいして真知子が部屋へ来た。また泣かれてしまった。部屋へ入れるんじゃなかったと後悔したが、もう遅かった。帰る気はなさそうだった。真知子はぼくの部屋では、かいがいしく家事をする。その日も何か食材を持ってきて夕飯を作ってくれた。
なんとなく、ずるずるとその夜は泊めてしまった。梨花のように別室へ行くわけもなかった。また引き際を探しながら、いい加減な付き合いが始まった。
梨花は、好きでも手を出してはいけない女、目の前にいるのは結婚を熱望してくれる女だった。
ただ、一つ言えるのは、この女が欲しがっているのは僕自身ではなくて僕が演じている男だった。この女は僕と郊外の一戸建てに住み、可愛いカーテンやおしゃれな家具に囲まれて暮らすのを夢見ている。僕がもっと有名になって、やがては自分が有名人の妻として暮らすのを夢見ているのだ。
この女は僕が妾の子で収入が不安定で、しかも僕自身が今の暮らしに少し嫌気がさしていることを知らない。僕は、やはり引き際をさがすだけだった。なぜ、ずるずると部屋へ入れてしまったのだろう。梨花を帰したあの日の「惜しいことをした」という隠避な思いがしつこくくすぶっていた。
続く
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