2019年06月27日
家族の木 THE SECOND STORY 俊也と真梨 <39 普通の会話>
普通の会話
家に帰ると、真梨はぼんやりと洗濯物をたたんでいる。いつもなら夕方に終わらせてるようなことだ。家事がはかどらないのだろう。「絵梨は?」と聞くと「部屋にいるわ。食事がすんだらすぐ部屋に入っちゃって、話し相手もないわ。いったい何なんだろう。」とぼやいた。
ダイニングテーブルには食事の支度がしてあった。以前なら真梨と絵梨がテレビを見ながら、とりとめのないおしゃべりをしていた。そのおしゃべりを聞きながら食事をするのが普通だった。
今は真梨もつまらなそうな顔をしているし僕は孤食だった。つい、そそくさと食事を済ませてしまった。「悪いね。美味しいんだけど、なんか味気なくて。」というと、「いいのよ。気が入ってないんだから。」と答えた。
「風呂に入ってから話がある。二階で話したい。ウィスキーも持って上がってほしい。軽く飲みたいんだ。君も一緒に飲もう。いいかね?」と聞くと、真梨は「なんだか、酔っ払いたいと思ってたのよ。」といった。
二階の寝室で今日の話をした。真梨は「純一も絵梨もいい方向へ向いてくれるといいわね。」と普通の顔をして言った。その通りではあるが、やっぱりうれしそうでも悲しそうでもない。なんだかわからない表情だった。
僕が「明日もう一度会う。その時に養子になった経緯を説明する。君も一緒に来てくれないかな。僕は、どう説明していいかもわからないんだ。」というと、「それを私にやらせるの?」と少し酔いが回った顔で泣いた。
そうだ面白くない原因はこれだ。事の発端は実母が亡くなったことだ。これを純一がどのように受け取るのか?想像もつかない。自分が実父から隠された身だということを、どのように感じるだろう。ここの説明の仕方が分からなかった。うちでは大切に育てたし僕や真梨の愛情は理解できるだろう。
だけど実父のことをどのように思うだろう。母が亡くなっていることを悲しまないだろうか?実母のことを悲しむ純一を見て真梨はどう思うのだろうか?なにか、悲しみや怒りの感情と愛がごっちゃになったややこしい気持ちだった。
真梨は自分は行かないといった。「お兄ちゃん、行ってきて。純一に話してやって。きっと悲しむわ。ホントのお母様のこと。でも純一の母親は私なのよ。私以外の人のことを本気で慕う姿なんて見たくもないの。純一に、そう伝えてほしいのよ。私の前では私の息子でいてほしい。自分が身勝手だってわかってるの。でも、お兄ちゃん私無理だから。」とまた泣いた。
そうだ、ほかに親がいる話なんてまったく面白くもない腹の立つ話だった。それでも、この話は進めなくてはならない。舵を切ってしまった話だった。真梨はこんな時、人使いが荒い。嫌な仕事を押し付けられたものだ。
話が終わってから大阪の聡一に電話をかけた。深夜だったが、あの家は宵っ張りだった。
この時間なら、まだみんな起きているだろうと思った。電話を取ってくれたのは隆君だった。今は弁護士として働いている。駆け出しなので給料は安いと嘆いていた。聡一に代わってもらった。
「純一に絵梨と結婚する気があるか確かめた。絵梨以外の女とは結婚したくないらしい。」というと、聡一は「おお、それやったら、戸籍のこともしっかり調べる。僕としては一旦こっちへ欲しいんや。」といった。途端に拍手が聞こえた。美奈子さんと隆君がずいぶん喜んでいる。
隆君が代わって、「叔父さん、大丈夫、細かいこと僕協力させてもらいます。ほっとしました。僕の兄ちゃんやから絶対幸せになってほしいんです。」といった。
喜んでやがると腹が立ったが、こんなに喜ぶ話なんだと改めてわかった。この話は冷静に考えると喜ばしい話だった。僕は「明日純一に、実親の話をする。お母さんの話もする。
」といった。
昔、実父に会いに行ったことを思い出した。温かい思い出になっている。そういう意味では母を亡くしている純一はかわいそうだった。
続く
家に帰ると、真梨はぼんやりと洗濯物をたたんでいる。いつもなら夕方に終わらせてるようなことだ。家事がはかどらないのだろう。「絵梨は?」と聞くと「部屋にいるわ。食事がすんだらすぐ部屋に入っちゃって、話し相手もないわ。いったい何なんだろう。」とぼやいた。
ダイニングテーブルには食事の支度がしてあった。以前なら真梨と絵梨がテレビを見ながら、とりとめのないおしゃべりをしていた。そのおしゃべりを聞きながら食事をするのが普通だった。
今は真梨もつまらなそうな顔をしているし僕は孤食だった。つい、そそくさと食事を済ませてしまった。「悪いね。美味しいんだけど、なんか味気なくて。」というと、「いいのよ。気が入ってないんだから。」と答えた。
「風呂に入ってから話がある。二階で話したい。ウィスキーも持って上がってほしい。軽く飲みたいんだ。君も一緒に飲もう。いいかね?」と聞くと、真梨は「なんだか、酔っ払いたいと思ってたのよ。」といった。
二階の寝室で今日の話をした。真梨は「純一も絵梨もいい方向へ向いてくれるといいわね。」と普通の顔をして言った。その通りではあるが、やっぱりうれしそうでも悲しそうでもない。なんだかわからない表情だった。
僕が「明日もう一度会う。その時に養子になった経緯を説明する。君も一緒に来てくれないかな。僕は、どう説明していいかもわからないんだ。」というと、「それを私にやらせるの?」と少し酔いが回った顔で泣いた。
そうだ面白くない原因はこれだ。事の発端は実母が亡くなったことだ。これを純一がどのように受け取るのか?想像もつかない。自分が実父から隠された身だということを、どのように感じるだろう。ここの説明の仕方が分からなかった。うちでは大切に育てたし僕や真梨の愛情は理解できるだろう。
だけど実父のことをどのように思うだろう。母が亡くなっていることを悲しまないだろうか?実母のことを悲しむ純一を見て真梨はどう思うのだろうか?なにか、悲しみや怒りの感情と愛がごっちゃになったややこしい気持ちだった。
真梨は自分は行かないといった。「お兄ちゃん、行ってきて。純一に話してやって。きっと悲しむわ。ホントのお母様のこと。でも純一の母親は私なのよ。私以外の人のことを本気で慕う姿なんて見たくもないの。純一に、そう伝えてほしいのよ。私の前では私の息子でいてほしい。自分が身勝手だってわかってるの。でも、お兄ちゃん私無理だから。」とまた泣いた。
そうだ、ほかに親がいる話なんてまったく面白くもない腹の立つ話だった。それでも、この話は進めなくてはならない。舵を切ってしまった話だった。真梨はこんな時、人使いが荒い。嫌な仕事を押し付けられたものだ。
話が終わってから大阪の聡一に電話をかけた。深夜だったが、あの家は宵っ張りだった。
この時間なら、まだみんな起きているだろうと思った。電話を取ってくれたのは隆君だった。今は弁護士として働いている。駆け出しなので給料は安いと嘆いていた。聡一に代わってもらった。
「純一に絵梨と結婚する気があるか確かめた。絵梨以外の女とは結婚したくないらしい。」というと、聡一は「おお、それやったら、戸籍のこともしっかり調べる。僕としては一旦こっちへ欲しいんや。」といった。途端に拍手が聞こえた。美奈子さんと隆君がずいぶん喜んでいる。
隆君が代わって、「叔父さん、大丈夫、細かいこと僕協力させてもらいます。ほっとしました。僕の兄ちゃんやから絶対幸せになってほしいんです。」といった。
喜んでやがると腹が立ったが、こんなに喜ぶ話なんだと改めてわかった。この話は冷静に考えると喜ばしい話だった。僕は「明日純一に、実親の話をする。お母さんの話もする。
」といった。
昔、実父に会いに行ったことを思い出した。温かい思い出になっている。そういう意味では母を亡くしている純一はかわいそうだった。
続く
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