2019年06月26日
家族の木 THE SECOND STORY 俊也と真梨 <39 確認>
確認
金曜日の夜、純一は空港ホテルのロビーで待っていた。数カ月合わなかっただけで一段と大人びて見えた。「おお、久しぶりやな。大人っぽくなったなあ。仕事はうまくいってるか?」と聞くと「うん、まあまあだよ。他の新入社員より老けてることが悩みかな?でも、仕事は好きだよ。それに上司とも良好だよ。僕はけっこう年上の扱いはうまいんだよ。」と笑った。
僕は「これからの話はパパと純一の二人の話にしてほしい。」と切り出したが後のことばが出なかった。純一は「縁談のことかな?それならまだ早すぎるよ。仕事も半人前なのに結婚もないし、しばらくは仕事一本で頑張らせてほしいんだよ。なんか、そういう話、凄くめんどくさくて。」と最初から断ってきた。
「いや、結婚というよりは恋愛の話や。」というと、おかしそうな顔をして「えっ、恋愛?どうしたのパパ、こんなに深刻そうに呼び出して二人だけで秘密に恋愛の話するの?パパと僕で?」と笑ってしまった。男親と息子は恋愛の話などしないものだ。
「お前、好きな人はいないのか?」と聞くと「いないよ。」とそっけない。「惚れた女はいないのか?」と聞いても「いない」としか答えない。
意を決して「実は絵梨が長年一人の男を愛していたことが分かった。」というと、急にムッとした顔をして「それを僕に言ってどうなるの?」と不機嫌に答えた。
「その長年の恋男って誰やと思う?」と聞くと「そんなこと僕が知るわけないじゃないの。話ってそういう話?」そうだと答えると不機嫌に立ち上がって、次の便で帰るという。
「お前、絵梨を愛してるんやないのか?写真立ての中を見た。」というと、「だからどうだってんだよ。若い時の気の迷いだよ。何もしてないし、そっとしておいてほしいんだよ。こっちはそのために留学したり大阪へ行ったり、それなりに忘れる努力してるんだよ。」と言い捨ててその場から立ち去ろうとした。
「絵梨も忘れるために好きでもない奴と結婚をしてしまったらしい。」というと、立ち止まった。「絵梨も忘れる努力をしてたらしい。」と念を押した。
「座れ。よく聞け。」といって座らせた。僕が「お前たちはいつまでメロドラマごっこをしているつもりだ。親をいつまでも騙せると思うなよ。」といったとたんに純一が眼がしらを押さえた。しばらく無言だった。
「大阪のおばさんが、いろいろ調べてくれた。どうも、結婚しても法律上問題ないようや。お前に、その気があるなら絵梨にもその話を進めてみる。ただ、絵梨は一度流産を経験してる。今後の妊娠や出産にどんな影響があるのかは誰にもわからん。子供を持てないリスクもある。結婚するなら、その部分をいたわる気持ちがなかったら無理や。もし、その部分で絵梨に辛い思いをさせるようなことが有ったら誰だろうと許すわけにはいかん。お前にその気がないなら、もう東京には戻るな。絵梨はもうぎりぎりや。これ以上悲しいことがあると本当に死んでしまう。絵梨は今はママがいなかったら一人では歩けない。」
純一はきょとんとしていた。叱られるかと思っていたのだろう。それが話が意外な方向を向いていったのが解せないようだった。「純一は養子や。絵梨とは実の兄弟じゃない。だからお前たちは結婚しても問題はない。戸籍の問題を法律的に解決できたら何も問題はない。戸籍も法律的に解決方法があるらしい。今日の話はこれだけや。よく考えて返事をしてくれ。」と話を打ち切った。
「ママと、めんどくさい、じいさんばあさんになろうと約束した。いい加減に決着をつけてくれ。」と言うと、純一は「考えたりしない。考える必要がない。姉ちゃん以外の女とは結婚したくない。」と答えた。
僕は自分のやっていることが、よくわからなかった。姉の縁談を弟に進めている。これはいったい何なんだろう?
「ありがとう。考えはわかった。法律的なことは自分でもしっかり調べてくれ。もともとは絵梨とお前は遠縁の間柄や。結婚しても何ら不思議はない。こちらでもよく調べる。大阪の叔父さんと叔母さんにきちんと報告してくれ。」というと、「はい」と短く素直に返事をした。
「お前の本当の両親の話もしないといけない。これは、もう一度ママと話し合ってみる。ママはお前のことを大切に育てた。だから自分以外の親なんて認めないんや。感謝しろ。」というと「はい」と答えた。「今晩こちらに一泊しろ。明日もう一度会おう。また電話する。」と言うと、また「はい」と答えた。
純一は思春期に入ると急に反抗的で扱いにくい子供になった。今日のように「はい、はい」と何度も素直に答える姿を見るのは何年ぶりだろう。
僕は嬉しくも悲しくもなかった。いや、嬉しいには嬉しかったが同時に悲しかった。腹も立てなかったし笑いもしなかった。いや腹立たしくてしょうがないのに、なんだか気分がほっとして気が緩みそうになる。
結局、無表情の普通の顔をして話した。不思議なことに純一も普通の顔をして「はい」といった、業務連絡を受けたときのようだった。話しながら二人とも先のことがいま一つわからない、呑み込みにくい話だった。
続く
金曜日の夜、純一は空港ホテルのロビーで待っていた。数カ月合わなかっただけで一段と大人びて見えた。「おお、久しぶりやな。大人っぽくなったなあ。仕事はうまくいってるか?」と聞くと「うん、まあまあだよ。他の新入社員より老けてることが悩みかな?でも、仕事は好きだよ。それに上司とも良好だよ。僕はけっこう年上の扱いはうまいんだよ。」と笑った。
僕は「これからの話はパパと純一の二人の話にしてほしい。」と切り出したが後のことばが出なかった。純一は「縁談のことかな?それならまだ早すぎるよ。仕事も半人前なのに結婚もないし、しばらくは仕事一本で頑張らせてほしいんだよ。なんか、そういう話、凄くめんどくさくて。」と最初から断ってきた。
「いや、結婚というよりは恋愛の話や。」というと、おかしそうな顔をして「えっ、恋愛?どうしたのパパ、こんなに深刻そうに呼び出して二人だけで秘密に恋愛の話するの?パパと僕で?」と笑ってしまった。男親と息子は恋愛の話などしないものだ。
「お前、好きな人はいないのか?」と聞くと「いないよ。」とそっけない。「惚れた女はいないのか?」と聞いても「いない」としか答えない。
意を決して「実は絵梨が長年一人の男を愛していたことが分かった。」というと、急にムッとした顔をして「それを僕に言ってどうなるの?」と不機嫌に答えた。
「その長年の恋男って誰やと思う?」と聞くと「そんなこと僕が知るわけないじゃないの。話ってそういう話?」そうだと答えると不機嫌に立ち上がって、次の便で帰るという。
「お前、絵梨を愛してるんやないのか?写真立ての中を見た。」というと、「だからどうだってんだよ。若い時の気の迷いだよ。何もしてないし、そっとしておいてほしいんだよ。こっちはそのために留学したり大阪へ行ったり、それなりに忘れる努力してるんだよ。」と言い捨ててその場から立ち去ろうとした。
「絵梨も忘れるために好きでもない奴と結婚をしてしまったらしい。」というと、立ち止まった。「絵梨も忘れる努力をしてたらしい。」と念を押した。
「座れ。よく聞け。」といって座らせた。僕が「お前たちはいつまでメロドラマごっこをしているつもりだ。親をいつまでも騙せると思うなよ。」といったとたんに純一が眼がしらを押さえた。しばらく無言だった。
「大阪のおばさんが、いろいろ調べてくれた。どうも、結婚しても法律上問題ないようや。お前に、その気があるなら絵梨にもその話を進めてみる。ただ、絵梨は一度流産を経験してる。今後の妊娠や出産にどんな影響があるのかは誰にもわからん。子供を持てないリスクもある。結婚するなら、その部分をいたわる気持ちがなかったら無理や。もし、その部分で絵梨に辛い思いをさせるようなことが有ったら誰だろうと許すわけにはいかん。お前にその気がないなら、もう東京には戻るな。絵梨はもうぎりぎりや。これ以上悲しいことがあると本当に死んでしまう。絵梨は今はママがいなかったら一人では歩けない。」
純一はきょとんとしていた。叱られるかと思っていたのだろう。それが話が意外な方向を向いていったのが解せないようだった。「純一は養子や。絵梨とは実の兄弟じゃない。だからお前たちは結婚しても問題はない。戸籍の問題を法律的に解決できたら何も問題はない。戸籍も法律的に解決方法があるらしい。今日の話はこれだけや。よく考えて返事をしてくれ。」と話を打ち切った。
「ママと、めんどくさい、じいさんばあさんになろうと約束した。いい加減に決着をつけてくれ。」と言うと、純一は「考えたりしない。考える必要がない。姉ちゃん以外の女とは結婚したくない。」と答えた。
僕は自分のやっていることが、よくわからなかった。姉の縁談を弟に進めている。これはいったい何なんだろう?
「ありがとう。考えはわかった。法律的なことは自分でもしっかり調べてくれ。もともとは絵梨とお前は遠縁の間柄や。結婚しても何ら不思議はない。こちらでもよく調べる。大阪の叔父さんと叔母さんにきちんと報告してくれ。」というと、「はい」と短く素直に返事をした。
「お前の本当の両親の話もしないといけない。これは、もう一度ママと話し合ってみる。ママはお前のことを大切に育てた。だから自分以外の親なんて認めないんや。感謝しろ。」というと「はい」と答えた。「今晩こちらに一泊しろ。明日もう一度会おう。また電話する。」と言うと、また「はい」と答えた。
純一は思春期に入ると急に反抗的で扱いにくい子供になった。今日のように「はい、はい」と何度も素直に答える姿を見るのは何年ぶりだろう。
僕は嬉しくも悲しくもなかった。いや、嬉しいには嬉しかったが同時に悲しかった。腹も立てなかったし笑いもしなかった。いや腹立たしくてしょうがないのに、なんだか気分がほっとして気が緩みそうになる。
結局、無表情の普通の顔をして話した。不思議なことに純一も普通の顔をして「はい」といった、業務連絡を受けたときのようだった。話しながら二人とも先のことがいま一つわからない、呑み込みにくい話だった。
続く
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