2019年06月13日
家族の木 THE SECOND STORY 俊也と真梨 <29 弟の恋>
弟の恋
ホテルで日がな一日のんびりする暮らしは退屈だった。ある日朝食の後ウトウトしていると純一から電話が入った。「ああ、僕、純一。姉ちゃんどうしてる?」「だいぶ回復した。あと4,5日で東京に帰れる。今お前どこからかけてる?」と聞くと、「家から。誰もいないからどうしたかなと思って。ママ電話に出ないし。姉ちゃん、大丈夫か気になって。」といった。東京にいると聞いて驚いた。急きょ帰国していたのだ。
もともと仲良しの姉のことだ。気になるのは無理もないと思った。それなら、こちらへ来て僕と代わってほしいと頼んだら二つ返事で引き受けた。会社もそんなにほったらかしでは済まない。もしも長谷川の人間が来た時に男がいたほうが安心だと思った。それにしても、あの婿野郎は一回も電話もよこさないじゃないかとむかっ腹が立った。
絵梨が可愛そうで仕方なかった。馬鹿な我慢をする質ではなかった。ダメだと思えば、すぐ見切りをつけて帰ってくると思っていた。その娘が、こんなことになるまで我慢し続けたことが理解できなかった。
純一は僕たちのホテルに到着して絵梨の顔を見るなり大粒の涙を流した。「姉ちゃん、姉ちゃん」と泣いた。まるで子どもの父親のように見えた。真梨は「純一、疲れたでしょう。今日はゆっくりしなさいね。」とねぎらった。
翌日、僕は純一と入れ替わりに東京へ帰った。真梨は絵梨のそばを離れなかった。僕は家で一人の夜を過ごした。絵梨も純一も久しぶりの帰宅だ。掃除をしておこうと思った。絵梨の部屋には衣類もなにもなかった。ただ独身時代に使っていた家具があるだけだった。
若い娘らしい少女っぽい趣味だった。高価なものは何もなかった。
純一の部屋には衣類も少し残っていた。いつでも帰ってこられるようになっていた。ほこりだらけだったので掃除機をかけた。純一の本棚には、たくさんの風景写真が飾られていた。あいつ、こんなに風景写真が好きだったのかと意外な気がした。
あやまって写真立ての一つを落として割ってしまった。そして、しばらく呆然としてしまった。写真立ての中には絵梨の成人式の写真が隠されていた。ほかの写真立てを全部調べてみた。
すべての写真立てに絵梨のスナップ写真が隠されていた。二階の窓から絵梨が出かけるときの何気ない様子を撮ったものだった。どれも絵梨は撮られているのを知らないようだ。明らかに隠し撮りだった。
わざわざプリントアウトして丁寧に写真立てに隠してあった。その作業を楽しんだとしか思えなかった。僕は軽く震えが来た。
机の袖の引き出しには、たくさんの会計系の本が積まれていた。そしてその下の箱には、絵梨から贈られた誕生日プレゼントが丁寧にしまわれていた。若者向けの、おとなしいブランドだったので覚えていた。純一は絵梨を愛しているのだと悟った。
あのバカ、何を考えてやがるんだと腹が立った。その一方で、純一の気持ちがよくわかりもした。赤ん坊だった純一が不安におののきながら我が家へ来て、笑顔の多い元気な子供に育ったのは絵梨の働きが大きかった。可愛がってかまいまくった姉だった。
絵梨の流産を聞いて矢も盾もたまらなくて帰国したのだ。やつれた絵梨の顔を見たとたんに涙を流した。思春期の気の迷いなのか?本気なのか? その夜は夕食を取りそびれた。あと2日でみんなが帰ってくる。僕はどんな顔をして純一と会えばいいのだろう。
続く
シワやタルミでお悩みですか?飲むだけでできるスキンケアがあります。
1日3粒飲むだけでお肌を内側からケアします。
高濃度プラセンタとアスタキサンチンをはじめとする有効成分がお肌を若々しく保ちます。
ホテルで日がな一日のんびりする暮らしは退屈だった。ある日朝食の後ウトウトしていると純一から電話が入った。「ああ、僕、純一。姉ちゃんどうしてる?」「だいぶ回復した。あと4,5日で東京に帰れる。今お前どこからかけてる?」と聞くと、「家から。誰もいないからどうしたかなと思って。ママ電話に出ないし。姉ちゃん、大丈夫か気になって。」といった。東京にいると聞いて驚いた。急きょ帰国していたのだ。
もともと仲良しの姉のことだ。気になるのは無理もないと思った。それなら、こちらへ来て僕と代わってほしいと頼んだら二つ返事で引き受けた。会社もそんなにほったらかしでは済まない。もしも長谷川の人間が来た時に男がいたほうが安心だと思った。それにしても、あの婿野郎は一回も電話もよこさないじゃないかとむかっ腹が立った。
絵梨が可愛そうで仕方なかった。馬鹿な我慢をする質ではなかった。ダメだと思えば、すぐ見切りをつけて帰ってくると思っていた。その娘が、こんなことになるまで我慢し続けたことが理解できなかった。
純一は僕たちのホテルに到着して絵梨の顔を見るなり大粒の涙を流した。「姉ちゃん、姉ちゃん」と泣いた。まるで子どもの父親のように見えた。真梨は「純一、疲れたでしょう。今日はゆっくりしなさいね。」とねぎらった。
翌日、僕は純一と入れ替わりに東京へ帰った。真梨は絵梨のそばを離れなかった。僕は家で一人の夜を過ごした。絵梨も純一も久しぶりの帰宅だ。掃除をしておこうと思った。絵梨の部屋には衣類もなにもなかった。ただ独身時代に使っていた家具があるだけだった。
若い娘らしい少女っぽい趣味だった。高価なものは何もなかった。
純一の部屋には衣類も少し残っていた。いつでも帰ってこられるようになっていた。ほこりだらけだったので掃除機をかけた。純一の本棚には、たくさんの風景写真が飾られていた。あいつ、こんなに風景写真が好きだったのかと意外な気がした。
あやまって写真立ての一つを落として割ってしまった。そして、しばらく呆然としてしまった。写真立ての中には絵梨の成人式の写真が隠されていた。ほかの写真立てを全部調べてみた。
すべての写真立てに絵梨のスナップ写真が隠されていた。二階の窓から絵梨が出かけるときの何気ない様子を撮ったものだった。どれも絵梨は撮られているのを知らないようだ。明らかに隠し撮りだった。
わざわざプリントアウトして丁寧に写真立てに隠してあった。その作業を楽しんだとしか思えなかった。僕は軽く震えが来た。
机の袖の引き出しには、たくさんの会計系の本が積まれていた。そしてその下の箱には、絵梨から贈られた誕生日プレゼントが丁寧にしまわれていた。若者向けの、おとなしいブランドだったので覚えていた。純一は絵梨を愛しているのだと悟った。
あのバカ、何を考えてやがるんだと腹が立った。その一方で、純一の気持ちがよくわかりもした。赤ん坊だった純一が不安におののきながら我が家へ来て、笑顔の多い元気な子供に育ったのは絵梨の働きが大きかった。可愛がってかまいまくった姉だった。
絵梨の流産を聞いて矢も盾もたまらなくて帰国したのだ。やつれた絵梨の顔を見たとたんに涙を流した。思春期の気の迷いなのか?本気なのか? その夜は夕食を取りそびれた。あと2日でみんなが帰ってくる。僕はどんな顔をして純一と会えばいいのだろう。
続く
シワやタルミでお悩みですか?飲むだけでできるスキンケアがあります。
1日3粒飲むだけでお肌を内側からケアします。
高濃度プラセンタとアスタキサンチンをはじめとする有効成分がお肌を若々しく保ちます。
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/8883793
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック