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2019年12月02日

造船再編?

衝撃的なニュースが流れてきました。


https://www.nikkei.com/article/DGKKZO52045790R11C19A1TJ2000/


 


三井E&S(旧三井造船)が600億円に上る赤字を流し、企業再編に乗り出すそうです。約1000人規模のリストラと事業再編を主とし、造船事業にもかなり大きな影響をうけてます。


日本の造船産業:弱小企業の乱立


世界的にみると、日本の造船産業は規模の割に企業が多すぎるといえます。


実は、全世界で建造される船のうち80%は日本、中国、韓国の3か国で建造されてます。しかし、その内訳は中韓で30%ずつ、日本が20%弱で、お世辞にも日本造船業が好況とは言えません。


それは円高によるコスト競争力の少なさと、国際法上違法である政府支援の有無ももちろんありますが、それ以上に大きな問題があります。


それが、業界の企業数です。


詳しくは造船研究にて述べていきますが、実は日本ではオイルショック後に2度、国家主導の下で設備削減がなされました。その目的は「過剰設備の処理と再編」ではなく、「倒産企業を1つでも減らし雇用を最大限維持する」というものでした。


確かに再編の目的もありました。事実、乱立していた企業は最終的に6〜8程度に集約されました。


しかし、その結果、本来倒産するはずだった企業は生き残り、そして規模のあった大手企業は多大な設備を処理しました。簡単に言いましょう。


「多くの弱小企業が乱立される」という最悪の結果が引き起こされたのです。


1企業1船台(ドック)の弱小規模企業が勝てるはずがありません。


第2次設備処理と業界再編


第2次設備処理(1988年)の結果、次の8つのグループに大まかに再編されました。


@三菱・今治、A川重・鋼管、B石播、C日立、D住重、E三井、F常石・尾道、G来島。


ちなみに、三菱・今治はこういう感じでした。



見てもよくわからないと思いますが、参考にどうぞ。


少し解説すると、CGTとは建造能力のことで、これを各グループで20%削減するのが目的でした。三菱の神戸と下関の各1基、新山本などの1基を処理し、20%目標を達成しました。


なお、この時、今治は一切処理しておりません。グループ処理だったので、新山本などの倒産企業を買収し処理したのです。


※かなりグレーではありますが、一方で倒産企業にとっては労働者の解雇費用などを今治が負担することとなったので、決して悪い話ではありませんでした。


中韓と日本の造船企業の違い


今現在の造船業界を見ると日本では今治造船グループが唯一世界的に戦えております。それは、設備処理時に倒産企業を買収し、その設備を処理することにより自社の戦力を維持したからにほかなりません。それでも造船所は瀬戸内を中心に数か所に広がり、最大のシナジー効果を得られてはおりません。


規模では2位の日本のJUMは2010年以降に再編により誕生した企業です。日本鋼管(現JFE)と日立造船の両造船事業が合併して誕生したユニバーサル造船、石川島播磨(現IHI)と住友重機械工業の艦船事業が合併して誕生したIHIマリンユナイテッドの2社がさらに合併して誕生しました。全国的に造船所が広がっておりほとんどシナジー効果は得られてません


これが日本の現状です。規模のある上記2社でもこの状況です。


 


一方、中国や韓国の大手企業は設備が広域に広がってはおりません。そもそも誕生した時点で規模が大きく作られましたので、1造船所内に9ドックという企業でさえ存在します。


1社に設備が集中していると、ロット受注にも対応できます。コンテナ船などは一気に12隻発注とかもあり、小規模な設備しか持たない日本企業はそもそも相手にされないのです。


先の三菱のものを見て頂くと神戸や下関、長崎に散らばっているのとは正反対ですよね?



 


さらに、クレーンなどの設備に関しても日本では昔のまま使いつぶしている一方、中韓は最新の設備を導入して運用しております。


規模も設備も劣位にある中で、むしろよくここまで粘れているなと思いますね正直なところ。


これからどうなる日本企業


実は三井造船と川崎重工は造船事業を統合する計画がありました。実際、​MES-KHI由良ドック 株式会社という、船舶修繕を目的とした会社は2社協業です。しかし、新造船を含めた統合には至りませんでした。なんなら、川崎側はクーデターのような手法も選び統合に反対しておりました。


2度の設備処理で確かに国内造船業も再編されました。しかし、それでもまだ企業は乱立しているのです。より一層の再編を行はなければ戦えないでしょう。


もちろん、造船所といっても建造する船の種類は大きく異なります。高付加価値船と低付加価値船です。


実は、オイルショックまでは超大型タンカーなどの高付加価値船を大手企業が、バルクキャリアなどの低付加価値船を中小企業が建造するという、暗黙の線引きがなされてました。しかしオイルショックによりタンカー需要が激減し、大手が中小企業の市場に乱入し市場が破壊されました。


※とある大手企業では造船所設備が大型船建造のためのクレーンであったので、建造するバルクキャリアが小さすぎて鉄板が落ちたそうです(笑)


そして、今現在韓国は高付加価値船を中心に建造し、中国は低付加価値船を中心に建造してます。日本は両方を建造してますが、今治や常石などの力ある企業は低付加価値船を建造してます。高付加船はコストやロット生産に対応できないなどの点から韓国に勝てないのです。


なぜ再編が起きない?


造船所1つあるだけで、数千や数万もの雇用が誕生します。特に造船業は裾の長い産業で、1隻作るだけでも20万点以上の部品が必要です。そしてこれらを作る企業にとって、造船所がなくなることは大打撃なのです。


労働問題や雇用問題などが大きく簡単に閉鎖できないのが造船産業で、どれだけ再編したくてもできない事情もあります。


もし、そういうことを無視できるなら、大いに再編されていたことでしょう。


もし再編されるとなればどうなる


たとえ問題が解消され再編されたとして、これから一気に成長するかといえばそうはならないでしょう。


安い海外労働者を利用し値下げに応じても、コストで勝てないのが現状です。今では中国企業の船でさえ品質は十分なのですから。


それでも日本の造船業が生き残っているのは日本船主という固定客がいる川にほかなりません。


 


結局のところ、今治造船のように瀬戸内の造船所をグループ化するか、常石造船のように海外に造船所を作るかの2択となると思います。実際、川崎重工は中国に合弁会社を設立し売り上げを伸ばしておりますし、今治造船は常石造船が持っていた工場を買収しています。


仮に再編されたとしたら、@三菱・今治造船グループ、AJMUグループが主体となるでしょう。川重や常石など海外拠点を持つ企業は再編に参加することはないでしょう。する必要性がありませんので。


あるいは日立造船のように造船事業を売却し、海洋やインフラ関係の製造へ移る企業も出てくるでしょう。


 


どちらにせよ、今回のショッキングなニュースはある意味運命づけられていたものとも言えます。三菱でさえ造船を本体から切り離してますし。


これからどうなるのか、楽しみといえば語弊が生じますが、しっかり見ていきたいですね。


 


 


 


 


 

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