気の向くままのシングルライフ

その瞬間、自分が何をしていたのか記憶がない。

いつものように机でPCに向かっていたのは確かだ。

都内23区にあるとあるオフィスビルの１０～１５階フロア。

「地震！」

誰かの叫びに周囲を見渡す。

いつもなら、「震度いくつだろう？」そんな会話を交わすところ。

ガタン。

はっきりと分かる縦揺れに顔色が変わる。

ガタガタガタ。

これは大きい。かなり。

「私、机の下に潜る。」

誰にいうとでもなく、宣言して机の下に潜る。

向かい側で、机の下に荷物がたくさんあり、潜れない後輩の女の子がおろおろとしているのが見えた。

やむかと思った揺れは、更に大きく揺れた。

「机の下に潜れない人はヘルメットを被って！」

総務の女性が叫ぶ。

こと。が勤務している会社では、社員全員に緊急時の持ち出し袋（布製のリュック）が配られていて、軍手や非常食の他にヘルメットが入っている。

が、とてもリュックの紐を解いてヘルメットを取り出す心の余裕はない。

机の下に潜り込み、荒くなる息を必死に抑えた。

床が揺れる。

今まで感じたことのない程、大きく左右に。

柔らかく大きなその揺れに、血の気が引いて、体がひやりと冷たくなる気がした。

9.11のビル崩壊やNZ地震のニュース映像が脳裏にちらつく。

崩れるんだろうか。

実際には言葉にならない思考の断片がぐるぐる回っていたように思う。

目の前で机の下に体半分を入れた、後輩の女の子の腕がガクガク震えているのが見えた。

握り締めた携帯電話がその手からいまにも落ちそうに震えている。

私と目があうと、

「やだっ・・・！」

涙を浮かべて叫び出しそうになっている彼女に、唇の前に人差し指を当ててみせる。

落ち着かせようという意識はなく、条件反射的な行動。

いつもの地震ならとうに揺れがおさまっているのに、揺れは止まらない。

ガタガタと大きく揺れる中、総務の女性がその場で立ったまま注意を叫び、

大きく飛び出したこと。の引き出しを手で戻すのが目に入った。

止まって止まって止まって。

必死に心の中で繰り返す。

揺れがおさまった時は、呆然としていた。

「震源地は宮城だって！」

HPを見た誰かが言っている。

宮城・・・？こんなに大きいのに震源地がそんなに遠いの？

「まだ揺れている気がするな。」

向かいの男性社員が言うので、思わずにらみつけた。

「実際揺れているんです！」

2人の間にあるカレンダーがゆらゆらと揺れている。

ガタガタガタ。

第一陣の地震の興奮も冷め遣らぬ間に、再び大きく揺れ始める。

再び机の下に潜り始める。

ギシギシギシ。

フロアを区切るパーティションだろう。

ガタガタという振動音の中に、ギシギシときしむ音が響く。

「もう外に出たい。」

思わず口に出すと、

「揺れが収まってから非常階段でね。」

総務の女性から返事が返ってくる。

どこまでも冷静な人だ。

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