2019年03月18日
金融庁は仮想通貨規制をどこまで強化するのか
仮想通貨相場が低迷している。ビットコインは2018年以降、右肩下がりとなり、足元では40万円前後でもみ合い相場の様相。2017年末に付けた最高値と比べ5分の1の低水準だ。国内はもとより世界的に仮想通貨(暗号資産)への関心が低下し、投機対象として積極的に売買する投資家も減少しつつある。
その一方、国内では仮想通貨に対する規制が徐々に強まっている。金融庁は2017年の改正資金決済法で仮想通貨を資金決済手段と位置づけ、交換業者に登録制を導入した。これは世界各国に先駆けた動きだったが、ここにきて仮想通貨技術を使った資金調達「ICO」(イニシャル・コイン・オファリング)に対する規制も検討しているのだ。
■ICOはいまだ「無法地帯」、詐欺まがいの案件も
ICOに対する規制が定まれば仮想通貨への関心が再度高まっていく、とは限らない。しかし、無法地帯だったICOに一定のルールが構築されることは決してネガティブな話ではないだろう。
金融庁は有職者会議「仮想通貨交換業等に関する研究会」を設置し、仮想通貨の流出リスクや証拠金取引などへの対応策に加え、投機性を有するICOへの規制について検討してきた。
ICOでは、「トークン」と呼ばれるデジタル権利証を発行して投資家から資金を調達する。ただ、ICOには審査や業績開示といった厳しい規制がなく、事業計画がずさんで詐欺まがいの案件も目立つと指摘されている。トークンは仮想通貨交換所で取引できることから、投機性を帯びるようにもなっている。
「仮想通貨交換業等に関する研究会」は2018年3月に設置され、合計11回の議論を重ねている。何が話し合われたのか、論点を具体的に見ていこう。
2018年11月12日の「第9回仮想通貨交換業等に関する研究会」では、従来の証券市場では不公正取引と見なされるような仮想通貨取引や、ICOに絡んだ詐欺事案なども報告された。現行の資金決済法の枠組みでは対応できない点を考慮すれば、「金融商品取引法(金商法)での規制が必要」としている。
それに続く11月26日の第10回研究会では、「ずさんな事業計画と詐欺的な事案が多く、既存の規制では利用者保護が不十分」「他の利害関係者(株主、債権者等)の権利との関係も含め、トークンの権利内容に曖昧な点が多い」などと、さらなる問題点が指摘された。「投資性を有するICOの特質と、それに伴い必要と考えられる規制の内容を整理する必要がある」と突っ込んだ。
そして12月21日の第11回研究会の後、同研究会はA4・33ページから成る報告書をまとめた。仮想通貨交換業者に対し、顧客の仮想通貨相当額以上の純資産額および弁済原資を保持することを義務付ける。財務書類の開示も義務付ける、などとした。さらに「ICOへの対応」については10ページ以上を割き、下記のような規制に向けたポイントを挙げている。
ICOへの対応(仮想通貨交換業等に関する研究会の報告書概要から)
◆投資性を有するICOへの対応
●仮想通貨による出資を募る行為が規制対象となることを明確化
●ICOトークンの流通性の高さや投資家のリスク等を踏まえて、以下のような仕組みを整備
・50名以上に勧誘する場合、発行者に公衆縦覧型の発行・継続開示を義務付け
・仲介業者を証券会社と同様の業規制の対象とし、発行者の事業・財務状況の審査を義務付け
・有価証券と同様の不公正取引規制を適用(インサイダー取引規制は、今後の事例の蓄積等を踏まえて検討)
・非上場株式と同様に一般投資家への勧誘を制限
◆その他のICOへの対応
●ICOトークンを取り扱う仮想通貨交換業者に、事業の実現可能性等に関する情報提供を義務付け
ICOをめぐっては中国や韓国が禁止するなど、規制から踏み込んで一律禁止する動きもある。ひるがえって日本(研究会の報告書概要)は、ICOの有用性に配慮し、リスクに応じた投資家保護の規制を施して存続は認める、という方針に見える。
ICOのうち投資性を有すると認められるものに関しては、法定通貨のみならず仮想通貨で購入可能なものについても、金商法の規制の枠組みに当てはめる方針と見られる。報告書では、「情報提供(開示)の仕組み」「第三者による事業・財務状況のスクリーニングの仕組み」「公正な取引を実現するための仕組み」「トークンの流通の範囲に差を設ける仕組み」の4点が規制対象として挙げられている。
それぞれの内容を確認すると、「情報提供(開示)の仕組み」については第一項有価証券と同レベルの開示が必要とされており、「第三者による事業・財務状況のスクリーニングの仕組み」については第一種金融商品取引業者と同レベルの義務負担が生じるとある。一方、「公正な取引を実現するための仕組み」では原則的に有価証券に対する規制と同様にしているが、インサイダー規制については要検討とされ、詳細の詰めはこれからといったところだ。
■アメリカではICOから「STO」への流れに
このようにICOに対しては金商法上の規制の中でも高度なものが課される可能性が高い。アメリカでは2018年3月、アメリカ証券取引委員会(SEC)がほぼすべてのICOトークンは有価証券であるとの見解を表明している。既存のICOも規制する方針だ。アメリカと同様に、日本ではICOのうち投資性を有すると認められるものは「プロ向け」の商品となり、参加者が限られる一方、ライセンス取得の困難さを踏まえると参入障壁は高いものとなるだろう。
現状、ICOはホワイトペーパーのみ作成すれば、トークンに資産の裏付けがなくても発行することができる。実は、ここに最大の問題があると私は見ている。どう解決するか。ブロックチェーン技術を応用した新たな資金調達手段として「STO」(セキュリティ・トークン・オファーリング)が活用される可能性があると考える。ICOからSTOへの転換だ。これはすでにアメリカで潮流になりつつある。
STOは、その名に「セキュリティ」が含まれるように「証券」に分類される。株などの有価証券を裏付けとして発行されるトークンのことで、利益分配や議決権等を投資家に配当する仕組みをすべてトークンに置き換えたものである。
証券に該当するため、既存の金融商品関連の法律に沿った格好となることから、投資勧誘と販売にあたっては監督官庁の管理のもと行われることとなる。2018年8月、エニーペイ株式会社のグループ会社であるAny Pay Pte.Ltd.(本社:シンガポール)が、収益分散型トークン発行システムをリリースすると発表した。しかし、国内ではSTOに関する確定した規制枠組みが存在せず、STOによる資金調達が行われた事実も観測されていない(2019年1月28日時点)。
■STO市場のメインプレイヤーになるのは誰か?
アメリカでは2018年以降、SECなどによって有価証券であると指摘を受けたICOがSTOの枠組みに沿った格好で修正している例も多数報告されている。STOは、アメリカ市場で知名度が徐々に増している。
ただし、STOはICOに比しても参入障壁が高い。ICOのように、資本力に乏しいベンチャーなどがメインプレイヤーになるとは考えにくい。金融商品関連の法律に通じ、一定のコンプライアンスを備え、かつ有価証券に慣れている既存の金融業界、つまり証券関連のプロフェッショナルである証券業界がメインプレイヤーになる可能性もある。既存ビジネスで閉塞感が強まり、株価も冴えない証券業界(特に国内)において、今後、STOに絡む動きが活発化するか注目したい。
もっとも、日本円との連動を想定して開発を進めているメガバンクのステーブルコインの先にSTOがあるとすれば、注目すべき業界は証券業界だけではなくなってくる。変動率(ボラティリティー)が抑えられたステーブルコインをベースにSTOを展開するというシナリオは、調達資金がブレるリスクを抑えられるからだ。今後、メガバンクの動向も注視すべきだろう。
引用元:東洋経済オンライン
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190313-00270408-toyo-bus_all
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