借金の差押えと併せて行われる転付命令とは?
借金をしている債務者が返済を長く滞納していると、債権者から裁判所を通した「差押え」の手続きがとられるようになります。差押えは勤務先の給与や銀行の預金などに対して行われます。
差押えは早い者勝ち?目的物は?
押えの目的物は債務者が勤務先に対して所有する「給料支払請求権」や、銀行に対して所有する「預金払戻請求権」です。
なお、勤務先や銀行は債務者に対する債務者になるため、「第三債務者」と呼ばれます。
ところで、仮に債務者の預金口座を差し押えたとしても、実際に取り立てるまでにもたついていると(差押え命令の送達処理など)、その間に他の債権者からも差押えを受けることがあります。
差押えは早い者勝ちではないため、差押えが競合すると債権者の間で「按分配当(債権金額の割合に応じた配分)」することになります。
例えば、200万円の債権を所有しているA社が差押えによって、債務者の預金残高150万円を差押えたとします。
差押命令の送達が銀行に届いたことで150万円を回収できれば問題ありませんが、仮に回収が終わる前に、他の債権者B社(債権額が100万円)が同じく預金残高の150万円の内100万円を差押えてきた場合、この150万円は供託所に供託され、裁判所による配当手続きになります。
この場合、債権額に応じた按分配当になるため、A社は100万円、B社は50万円の配当になります。
これを回避するためには、銀行預金の差押命令と同時に「転付命令」を申立てることが必要です。転付命令が確定すれば、差押えた預金の回収を債権者が独占することができます。
転付命令とは?
転付命令とは、債務者が銀行に対して持っている預金払戻請求権をそのまま銀行に移転する命令のことです。
つまり、差押命令と一緒に転付命令が下されると、銀行は第三債務者としてではなく、直接の債務者として支払義務を負うことになります。いわば、債務者から銀行への債権譲渡と同じことになります。
例えば、上記の例で言えば、A社が債務者の預金残高150万円を差押えて転付命令が出たとします。
この場合、元の債務者が負っていた150万円の債務は消滅し、銀行が債権者に対して直接150万円の債務を負うことになります。ちなみに、A社の債権は200万円なので、差額の50万円はそのまま債務者に対する債権として残ります。
なお、元の債務者には預金払戻請求権という債権が無くなるため、他の債権者は差し押さえるものが無くなることになり、転付命令を申し立てた債権者は他の債権者による差押えの競合を排除することができます。
さらに、通常では一般的な債権より税金、社会保険料などの公租公課の請求権の方が優先されますが、転付命令が確定すると、税務署や市役所よりも優先して債務者の預金から債権額を回収できます。
ところで、債務者の預金残高が500万円ある場合は、200万円の転付命令が出たとしても、残額の300万円に対する差押えは可能です。また、転付命令の前に別の差押えの申立があると、転付命令を行うことができません。
転付命令のデメリットは?
転付命令が出るとその分の債権が消滅し、もう元の債務者に請求できなくなります。
そのため、第三債務者がもし無資力の場合、回収不能になるという事態が起きます。第三債務者が銀行などの金融機関の場合はその心配はありませんが、仮に第三債務者が債務者の勤務先や知人だったりすると、資産が無いことで回収できないということがあり得ます。
従って、債務者が保有している売掛金や売買代金請求権などの債権を差押えた場合は、転付命令の申立を慎重に判断する必要があります。
・民事執行法160条:差押命令および転付命令が確定した場合においては、差押債権者の債権および執行費用は、転付命令にかかる金銭債権が存する限り、その券面額で、転付命令が第三債務者に送達された時に弁済されたものとみなす。
転付命令は確定しなければ効力が生じません。従って、転付命令が銀行に送達されるより前に、他の債権者から同一の預金について仮差押え、差押え、配当要求を受けた場合は、転付命令は無効になります。つまり、差押えは速やかな処置が最も重要ということです。
ちなみに、債務者が差押え、転付命令に対して執行抗告を行って認められると、差押えや転付命令は無効になります。
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