当時、沖縄は日本国ではない。米国統治下でパスポートを持っており、ましてやひかるの生まれ育った島など、日本の地図には載っていない。
彼女の実家は、代々手広く卸問屋をしており、嘘かまことかは分からないが、皇族にもつながる由緒ある家だと言っていた。
そんな家柄が、ひかるみたいな見た目も格好も田舎者。ましてや沖縄とパスポートとなると、反対するのは当然だ。
座布団を投げ付けられ、しまいには塩を捲かれるありさまだ。
生まれて初めて他人さまに馬鹿にされ、コケにされる屈辱感は半端じゃない。
当時、沖縄生まれでパスポートを持っている。自分でも劣等感は感じていたが、それをもろに罵られると、人間の感情は火に油を注ぐようなものだ。
こんな人間、生きている価値がない・・ぶっ殺してしまえ!それくらい憤りを感じた。
しかし故郷で、今日もヘラで草取りに汗を流し、爪に火を灯して生きる両親の事を考えると、息子が東京へ出て殺人を犯した、なんて白い目で周りから見られて生きるのは、あまりにも酷だ。悔しくても、侮辱されても、頭を下げ続けたが、結果的に、許してもらえなかった。
彼女が、親兄弟、親戚含め全て縁を切り一緒になる、と言ってくれた時は、涙が止まらなかった。
ひかるは一生、彼女を路頭に迷わす事はすまい、と心に誓って新婚生活をスタートさせた。
新婚当時、女房の友達を含め7、8人、同年代の仲間でよく飲み食いをした。
その中に一人、独身の中山学がいた。
学はとんでもない男で、十数億もの資産を持ち、自由が丘の邸宅住まいだ。
外国製のカマロだとかいう、訳の分からない外車を乗り回していた。
日本の車は、ドアを閉めた時の音が軽すぎる、といって重厚なドアの音のする外車を次から次と乗り回していたのである。
親父を早くに亡くしており、母と2人の生活だ。
邸宅へ誘われていったが、庭には外車を4台収納出来る車庫があり、門の横には鉄格子で囲った、立派な犬小屋だ。
ひかるの三畳一間の生活、犬以下だ。
この犬がまたデッカイ、3匹もおり、人間なぞひと噛みで殺しそうで、それこそ血統書付のいい犬だという。
家の中へ入ると、そこにはまた、青い眼をした、ペルシャ猫だとかなんとか言っていたが、これまた血統書付の高級な猫だというのが3匹ほど、母親が可愛がっていた。
家のなかの家具や調度品は見た事もない、皇族のお宅ではないかと思われるようなしつらえだ。
泊まっていくようにと勧められ、泊まった。そこには全く見た事もない、そのために作らせたのかと、思われるような本棚があり、そこには、とんでもない百科事典等が、びっしり収まっている。
母親は上品な女性で、何人かのお手伝いを雇い、家の中や庭等、綺麗に作り上げていた。
なんで金があるのかと聞くと、学の祖父は次男ではあったが、長男を手伝い、その昔造園業をやっていたという。
貯木のため、原っぱだった土地をかなり持っていたので、兄貴に分けてもらったとの事だ。
その土地は自由が丘、あれよあれよという間に値上がりし、手が付けられない程の大金が転がり込んできたという。
本家の姪達は、20歳前だと言うのに二十億もの資産を相続、渋谷駅近くに億ションを購入し、優雅に遊び呆けているとの事だ。
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