諦めたらそこで終わり、まだまだこれからですよ！

むかしむかし、あるところに、ひとりのまずしい男がありましたとさ。

この男、うんにみはなされたような男で、なにをやってもうまくいきません。

あさからばんまでせっせとはたらいても、くらしはらくになりませんでした。

きょうもとぼとぼあるいていた男は。かんのうどうのまえにさしかかりました。

「かんのんさまか、ひとつおねがいしてみるか。」

男は、かんのうどうの中にはいり、かんのんさまに手をあわせました。

「かんのんさまあ、おらにうんをさずけてくんろ。うんがねえんなら、やすらかにしなせてくんろ。」

男がねむりこんでしまうと、こうごうしい光があらわれて、「これ、男や、おきなさい。」

ふしぎなこえがしました。

なんと、かんのんさまがはなしかけているのです。

目をさました男にかんのんさまは、「おまえにもいよいようんがむいてきたのですよ。」

とおっしゃいます。

そして、「おまえは、このおどうをでるなり、すぐにすっころびます。」とつづけました。

男は、「やっぱりついてねえ。」

「いいえ、それがうんのつきはじめなのですよ。そのときつかんだものをたいせつにして、にしのほうがくにすすみなさい。」

これはゆめかいなとおもった男ですが、ゆめではありませんでした。

かんのうどうからでたとたん、すぐにころりんとすっころぶと、手には一本のわらをつかんでおりました。

「足までくじいたあげくに、わら一本じゃ、やっぱりおらにはうんがねえのかな。」

そこへあぶが一匹とんできたので、男はつかまえて、わらでしばってあるきだしました。

とにかくにしへむかってあるいてみようとおもったのです。

しばらくいくと、町で、大泣きしているあかんぼうにであいました。

いくらあやしてもなきやまなかったあかんぼうですが、あぶをみると、きゃっきゃとよろこぶではありませんか。

男は、かんのんさまがおっしゃったことをおもいだしました。

（そのときつかんだものをたいせつに・・・・・・。）

「うん、そうじゃ。子どもがよろこぶっちゅうのは、たいせつなこっちゃ。あぶをこの子にやるべぇ。」

男は、わらにむすんだあぶをあかんぼうにわたしました。

そして、またとぼとぼとあるきだそうとすると、あかんぼうをせおっていたばあさんが男をよびとめました。

「ちょっと。なーんもありませんが、せめてこれでも・・・・・・・。」

みかんを三つさしだしています。

男は、みかんをうけとると、また、にしのほうがくをめざしてあるきはじめました。

あるきつかれてのどもかわいた、男は、木の下で一休み。

（みかんでもくうか。）

もらったみかんをたべようとしたときでした。

そばに人のけはいがします。

「おじょうさま、しっかり。おじょうさま、しっかり。」

ふりむいら男がたずねました。

「おじいさん、いったいどうしたんじゃ？」

すると、こまったようすのおじいさんが、「おじょうさまがきゅうにくるしみだされて、水をほしがりますのじゃ。」

わきで、うつくしいむすめがくるしんでいます。

「はあ、これはこまったのう・・・・・・。このあたりは、川もいけもないし・・・・・・・。」

じぶんだってのまずくわずだった男でしたが、「うん、じいさん。いいものがある。」

ここのろやさしい男は、くるしんでいるむすめのために、たべようとしていたみかんをさしだしました。

おじいさんは、たいそうよろこんで、さっそくむすめにみかんをたべさせてやりました。

みかんをすっかりたべおわると、むすめはみちがえるほどげんきになりました。

そして、おれいだといって、じょうとうなきぬのたんものをさしだしました。

「ありがとうございました。」

男は目をぱちくり。

「それではこれで。」

「ごおんは一生わすれません。」

ふたりは、こころから男にれいをいうと、ふかぶかとおじぎをして、さっていきました。

あとには、ぴっかぴかのきぬのたんものがのこされています。

男は、ぽかんとしながらも、かんのんさまのことをおもいだしていました。

男は、また、にしへとあるきだしました。

「はーん、わら一本がみかんになって、そのみかん三つが、きぬ三たんになったなぁ・・・・・・。おらにもうんがむいてきらんかなぁ。」

そうおもうと、、男はなんだかこころがはればれとしてきました。

そして、まえよりも足どりかるく、にしへむかったあるきつづけました。

しばらくいくと、みちばたにいたさむらいが、男をひっぱってよびとめました。

そばにはうまがたおれています。

「おい。まて、男！」

「な、なにをするんじゃい。」

さむらいは、「どうじゃ、わしのうまとおまえのにもつをとりかえんか？」

「こりゃ、しにうまじゃねえか。」

さむらいは、「いんや。ちょっとたおれて、よこになっとるだけじゃ・ちょっとそれをよこせ！ほら、ほら。」

さむらいは、むりやり男から、たんものをとりあげると、「こりゃ、すごいきぬだぞ。とりかえた、とりかえた。いいか、とりかえたぞ！」

そういうと、さっさといってしまいました。

「ま、まってくれー！」

男は、じぶんのうんのなさにがっかりしましたが、もともとこころのやさしい男のこと。かわいそうなうまをみすてることができません。せっせとかいほうをはじめました。

男は、わらでうまのからだをこすりつづけました。やすみなくあさまでこすりつづけました。

すると、なんと、うまがぱっちり目をあけたのです！

男は、まるでじぶんがいきかえったような気もちになり、うまをつれて、うきうきとにしへむかってあるきはじめました。

そして、あるじょうか町へとやってまいりました。

大きなおやしきのこぞうさんがうまのせわをしているのをみた男は、えさをわけてくれないかとたのみました。

「ああ、いいとも。」

「ありがてえ、よかったなぁ。」

こぞうさんは、男のうまをみていいます。

「それにしても、りっぱなうまだあ。そんなうま、みたこともねえ。そうだ！」

こぞうさんは、おやしきのしゅじんにしらせました。

うまをみたしゅじんは、男にぜひうまをゆずってくれといいます。

「いくらでもだすぞ！」

千りょうでもだすといわれた男は、目をまわしてしまいました。

「しっかりせい！むすめよ水じゃ。」

水をもってきたむすめは、男をみておどろきました、

「この人は・・・・・・。」

「そうか。この人だったのか、おまえをたすけてくれたおかたは。」

男が目をさますと、しゅじんがいいました。

「のう、おまえさん、むすめのていしゅになって、わしのあとつぎになってくれんか？」

「ふあー、うんがつきすぎたー。」

こうして、男はかんのんさまのおつげどおり、わら一本からたいおうな長者になりました。

そしてそれからもいっしょうけんめいはたらき、わらしべ長者とよばれるようになったとさ。

おしまい。