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2019年03月11日
映画「海外特派員」ヒッチコックの快作
「海外特派員」(Foreign Correspondent)
1940年 アメリカ
監督アルフレッド・ヒッチコック
脚本チャールズ・ベネット
ジョーン・ハリソン
撮影ルドルフ・マテ
音楽アルフレッド・ニューマン
〈キャスト〉
ジョエル・マクリー レライン・デイ
ハーバート・マーシャル
ニューヨーク・モーニング・グローブ紙の社長室。
開戦間近の不穏なヨーロッパ情勢を探るため、イギリスへ特派員を送り込むことを社長は決めますが、ヤワな記者では勤(つと)まりそうにもない仕事。社内にはこれといった人物が見当たりません。
ジョニー・ジョーンズ(ジョエル・マクリー)は記者をクビになりかけていましたが、警官とモメて武勇伝を発揮したことから社長に気に入られ、クビは取り消し、海外特派員としてヨーロッパへ渡ることになります。
「海外特派員」の導入部分ですが、なんだか稚拙(ちせつ)な脚本で、風雲急を告げるヨーロッパへ向かう新聞記者にしては緊張感のカケラもなく、ユーモア好きなヒッチコックの悪い面が出ている感じで、その後の展開も、イギリスへ渡り、大物政治家のパーティーの席上で若く美しいキャロル(レライン・デイ)と感情の行き違いがあるのですが、結局この二人はそれなりの関係になるのだろう、と先の読めてしまう展開。
ところが、脚本の稚拙さはそこまでで、開戦のカギを握るオランダの政治家ヴァン・メアとパーティーで知り合ったはずのジョーンズでしたが、雨のアムステルダムの取材で再びヴァン・メアと顔を合わせると、メアはジョーンズをまったく知らない様子。
この雨のアムステルダムのシーンは素晴らしく、ジョーンズは盛んに話しかけるのですが、ヴァン・メアは、君はいったい何を言っているのだ、と見ず知らずの人間に対する表情。
ヴァン・メアに近寄った男が大型のカメラを構え、メアの写真を撮ろうとしますが、カメラの横に隠したピストルでメアは射殺されてしまいます。
ここで一気にヒッチコックの世界に引き込まれます。
男を追うジョーンズ。
雨のアムステルダムでの追跡劇も見ごたえ十分で、やがて車での追跡に変わり、雨は上がり、風車が立ち並ぶ草原で男の乗った車を見失うのですが、この風車のシーンも見事です。
ヒッチコック映画はどの映画でもそうなのですが、撮影が見事で、この風車の場面は美術感覚が素晴らしい。
★★★★★
でも、ここで一点。
風車の近くで男の車を見失って、どこへ行ったんだろう、とジョーンズと友人の記者フォリオット(ジョージ・サンダース)、キャロルの三人は風車の前で佇(たたず)んでいるのですが、普通に考えれば、風車の中を疑ってもよさそうなものです。
「海外特派員」はところどころ脚本の不備のようなシーンがあるのですが、それを補って余りあるのが才気あふれるヒッチコックの力量です。
風車の場面でいえば、やはり風車が怪しいとにらんだジョーンズが風車の中へ忍び込み、そこに囚(とら)われていたヴァン・メアと再会(射殺されたヴァン・メアは替え玉)、敵の会話を盗み聞きしながらも、巨大な歯車にコートが挟まってしまう怖さは、ヒッチコックの本領発揮。
「海外特派員」が公開されたのは1940年ですが、その前年には「風と共に去りぬ」が公開され、ハリウッドの黄金時代が築かれていくのですが、ヒッチコックにしてみれば、そのアメリカで「レベッカ」に次ぐ第二作ということもあったのでしょう、「海外特派員」はかなり力の入った作品になっています。
特にドイツの軍用艦からの艦砲射撃を受け、ジョーンズたちの乗った飛行機の海上への墜落と、沈みゆく飛行機からの脱出、飛行機の残骸にしがみ付きながら荒波との必死の格闘は、この場面だけで並の映画以上の重量感があり、後の傑作「救命艇」にもつながっているようです。
現実にはアメリカは後に世界大戦に参戦。
ジョーンズとキャロルが空襲を受けるラジオ局のマイクに向かって開戦の様子を伝えるラストに見られるように、「海外特派員」はプロパガンダの要素を持った映画ですが、当時41歳の若きヒッチコックがその力を十分に発揮した映画でもあるといえます。
1940年 アメリカ
監督アルフレッド・ヒッチコック
脚本チャールズ・ベネット
ジョーン・ハリソン
撮影ルドルフ・マテ
音楽アルフレッド・ニューマン
〈キャスト〉
ジョエル・マクリー レライン・デイ
ハーバート・マーシャル
ニューヨーク・モーニング・グローブ紙の社長室。
開戦間近の不穏なヨーロッパ情勢を探るため、イギリスへ特派員を送り込むことを社長は決めますが、ヤワな記者では勤(つと)まりそうにもない仕事。社内にはこれといった人物が見当たりません。
ジョニー・ジョーンズ(ジョエル・マクリー)は記者をクビになりかけていましたが、警官とモメて武勇伝を発揮したことから社長に気に入られ、クビは取り消し、海外特派員としてヨーロッパへ渡ることになります。
「海外特派員」の導入部分ですが、なんだか稚拙(ちせつ)な脚本で、風雲急を告げるヨーロッパへ向かう新聞記者にしては緊張感のカケラもなく、ユーモア好きなヒッチコックの悪い面が出ている感じで、その後の展開も、イギリスへ渡り、大物政治家のパーティーの席上で若く美しいキャロル(レライン・デイ)と感情の行き違いがあるのですが、結局この二人はそれなりの関係になるのだろう、と先の読めてしまう展開。
ところが、脚本の稚拙さはそこまでで、開戦のカギを握るオランダの政治家ヴァン・メアとパーティーで知り合ったはずのジョーンズでしたが、雨のアムステルダムの取材で再びヴァン・メアと顔を合わせると、メアはジョーンズをまったく知らない様子。
この雨のアムステルダムのシーンは素晴らしく、ジョーンズは盛んに話しかけるのですが、ヴァン・メアは、君はいったい何を言っているのだ、と見ず知らずの人間に対する表情。
ヴァン・メアに近寄った男が大型のカメラを構え、メアの写真を撮ろうとしますが、カメラの横に隠したピストルでメアは射殺されてしまいます。
ここで一気にヒッチコックの世界に引き込まれます。
男を追うジョーンズ。
雨のアムステルダムでの追跡劇も見ごたえ十分で、やがて車での追跡に変わり、雨は上がり、風車が立ち並ぶ草原で男の乗った車を見失うのですが、この風車のシーンも見事です。
ヒッチコック映画はどの映画でもそうなのですが、撮影が見事で、この風車の場面は美術感覚が素晴らしい。
★★★★★
でも、ここで一点。
風車の近くで男の車を見失って、どこへ行ったんだろう、とジョーンズと友人の記者フォリオット(ジョージ・サンダース)、キャロルの三人は風車の前で佇(たたず)んでいるのですが、普通に考えれば、風車の中を疑ってもよさそうなものです。
「海外特派員」はところどころ脚本の不備のようなシーンがあるのですが、それを補って余りあるのが才気あふれるヒッチコックの力量です。
風車の場面でいえば、やはり風車が怪しいとにらんだジョーンズが風車の中へ忍び込み、そこに囚(とら)われていたヴァン・メアと再会(射殺されたヴァン・メアは替え玉)、敵の会話を盗み聞きしながらも、巨大な歯車にコートが挟まってしまう怖さは、ヒッチコックの本領発揮。
「海外特派員」が公開されたのは1940年ですが、その前年には「風と共に去りぬ」が公開され、ハリウッドの黄金時代が築かれていくのですが、ヒッチコックにしてみれば、そのアメリカで「レベッカ」に次ぐ第二作ということもあったのでしょう、「海外特派員」はかなり力の入った作品になっています。
特にドイツの軍用艦からの艦砲射撃を受け、ジョーンズたちの乗った飛行機の海上への墜落と、沈みゆく飛行機からの脱出、飛行機の残骸にしがみ付きながら荒波との必死の格闘は、この場面だけで並の映画以上の重量感があり、後の傑作「救命艇」にもつながっているようです。
現実にはアメリカは後に世界大戦に参戦。
ジョーンズとキャロルが空襲を受けるラジオ局のマイクに向かって開戦の様子を伝えるラストに見られるように、「海外特派員」はプロパガンダの要素を持った映画ですが、当時41歳の若きヒッチコックがその力を十分に発揮した映画でもあるといえます。