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2020年02月08日

インフルエンザ脳症による成人の死亡例(インフルエンザワクチン接種者)

National Institute of Infectious Diseases

インフルエンザ脳症は、インフルエンザ罹患に伴って発症する意識障害を主徴とする急性脳症であり、その臨床像は様々で、成人では稀とされている1-3)。我々は、極めて急速に進行する意識障害、けいれんおよび頭蓋内圧亢進症状を呈し死亡したインフルエンザ脳症の成人例を経験したので報告する。

症例:41歳女性、看護師
主訴:発熱、意識障害
家族歴:特記事項なし
既往歴:アレルギー性鼻炎(花粉症)、常用薬なし。2014年4月過敏性肺臓炎で入院、自然軽快。アレルゲンは不明。2014年10月27日インフルエンザワクチン接種。

現病歴:2015年1月10日に3名のインフルエンザ患者が本例の勤務する医療機関に入院した。1月15日は通常に勤務を行っていたが、帰宅後18時頃に38.5℃の発熱あり、アセトアミノフェン200mg、セフカペン100mg、カルボシステイン500mgを内服した。21時30分頃にも38.6℃の発熱を認めた。1月16日7時頃起床困難で、腰痛あり、声が出しにくい状態で意識が朦朧とし、着替えも困難であった。10時頃に近医を受診したが、受診中に意識消失あり、当院に救急搬送された。経過中、下痢・嘔吐なし。

初診時現症:体格中等度、体温37.2℃、血圧131/85 mmHg、心拍数76 bpm整、SpO2 97%、呼吸 20/minで、意識レベルはJCS 200、GCS E4V2M3で右方向への共同偏視、瞳孔径 右 5mm、左 5mm、両側対光反射消失、項部硬直あり。心肺、腹部に異常なし。

入院時検査所見:<生化学>TP 7.3 g/dL、Alb 3.9 g/dL、T-Bil 0.3 mg/dL、ALP 24 U/L、γ-GTP 19 U/L、AST 24 U/L、ALT 10 U/L、LDH 199 U/L、CPK 104 U/L、Amy 53 U/L、BUN 8 mg/dL、Cr 0.5 mg/dL、Na 137 mEq/L、K 3.3 mEq/L、Cl 102 mEq/L、Ca 8.8 mg/dL、Glu 214 mg/dL、CRP 2.23 mg/dL。<血液>WBC 11,270/μL、RBC 503×104/μL、Hb 12.3 g/dL、Hct 37.4%、Plt 26.9×104/μL。<凝固>PT 86.7%、APTT 30.0 sec。<血清>HBsAg(-)、HCVAb(-)、HIV-Ab(-)。<血液ガス>pH 7.400、pCO2 37.2 mmHg、pO2 75.0 mmHg、HCO3 22.5 mmol/L、SBC 22.9 mmol/L、tCO2 23.7 mmol/L、ABE-1.9 mmol/L、AnGap 11.1 mmol/L。<鼻腔ぬぐい液>インフルエンザA抗原陽性。<心電図>異常なし。

入院後経過:11時03分に左上肢に1分間の強直性けいれん出現、その後は筋弛緩状態となった。11時20分頭部CT(図1A)では、すでに右後頭葉から右側頭葉に広範に低吸収域が出現していた。強直性けいれんが重積し、ジアゼパム30mg静注でも気管内挿管不能で緊急輪状甲状膜穿刺術後、全身麻酔下で気管切開(12時55分〜13時40分)が行われ、呼吸状態が安定した。脳浮腫に対し、メチルプレドニン 1,000mgとマンニトール300mLの点滴が行われた。14時20分頭部MRIでは病変は右後頭葉、右側頭葉の皮質に認められ(図1B)、MRAでは頭蓋内血流がみられない(non filling)状況であった。続けて行ったCTでは皮髄境界はさらに不明瞭となり、脳全体に浮腫の増強を認め(図1C)、造影CTでもnon fillingであった。これらの所見からインフルエンザ脳症と診断した。低体温療法を含め、さらなる治療適応の可否を含め、15時に信州大学医学部附属病院高度救命救急センターに救急搬送された。転院時、GCS E1VtM1、瞳孔 6mm/6mm、両側対光反射消失、血圧 70 mmHg台(ドパミン使用下)、心拍数 150 bpm台、体温 36.7℃と意識障害の遷延とショックバイタルの継続を認めた。ノルアドレナリンを使用したが、昇圧は得られず、循環動体不安定のため低体温療法は不可能と判断された。脳症の治療としてステロイドパルス療法の継続、ヒト免疫グロブリン製剤、アシクロビル、ペラミビル、メロペネムの投与を行った。徐々に体温は上昇し、40℃の発熱と心拍数170台となるもアセトアミノフェンでの解熱は得られなかった。17日6時13分死亡した。病理解剖は行われなかった。

インフルエンザウイルス関連検査:HI法によるインフルエンザ抗体測定(1:40以上抗体保有)では、A/California/07/2009(H1N1)pdm<10、A/New York/39/2012(H3N2)10、B/Massachusetts/02/2012(Yamagata)40、B/Brisbane/60/2008(Victoria)40であった。リアルタイムPCR法と遺伝子解析では、HA遺伝子はAH3N2亜型のclade 3C.2aでクレード3C.2に含まれ、YOKOHAMA/119/14 NOVやHYOGO/3058/14 NOVと類似した株であった。今シーズンのAH3のワクチン株は3C.3に属しており、本株とアミノ酸がいくつか異なっていた。NA遺伝子検査では、薬剤耐性に関与する変異は認めなかった。ウイルスの細胞培養は実施されていない。

考 察:インフルエンザ脳症を発症したウイルス側の要因は調べた範囲では明らかではなかった。一方、ホスト側の要因として、ワクチン接種するもインフルエンザAに対する抗体が産生されておらず、インフルエンザ発症を抑えにくい状況にあったと考えられる。しかし、過敏性肺臓炎の既往があるものの脳症発症との因果関係は不明であり、アセトアミノフェン内服による脳症の報告も稀であり、何故脳症に至ったのかは不明であった。

インフルエンザ脳症は脳浮腫と脳圧亢進を主症状とする脳の血管内皮細胞の透過性亢進状態により引き起こされる。本例においては明らかではないが、木戸らは血管内皮細胞障害の観点から検討し、長鎖脂肪酸代謝酵素のCPTIIに熱不安定性遺伝子多型があると代謝変動に対応できずエネルギークライシスが起こり、中でもミトコンドリアの多い脳の血管内皮細胞が真っ先に影響を受けると報告している4)。今後さらにこうした検討が進むと、インフルエンザ脳症をきたす背景因子が明らかにされていくと思われる。

考察:
インフルエンザワクチンを接種しても効果がありませんでした。
インフルエンザワクチンによる副作用とも言える。
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