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2020年02月07日

ンフルエンザワクチン効果にエビデンスはあるか?

大阪赤十字病院小児科
山本 英彦

はじめに

この冬(1998−99年)、インフルエンザによる老人の死亡、小児の脳症の発症がマスコミでも大々的に取り上げられた。また、アメリカを中心に、海外ではここ数年インフルエンザワクチンの効果ありとした論文が多数発表され、世界的にワクチンの接種率は向上してきている。

一方、日本は足かけ30年にわたり小児にインフルエンザ予防接種を続けてきたが、1994年、予防接種対象ワクチンからはずされた事はまだ記憶に新しい。しかし、1998年6月から公衆衛生審議会の予防接種問題検討小委員会において予防接種制度の5年ごとの見直しがおこなわれており、1999年6月には最終答申が出される予定である。インフルエンザワクチンはその中心課題の一つとなっている。

日本でインフルエンザワクチンが中止されるに至った判断を否定的にとらえ、ワクチン再開を促す視点からレビュ−した論文はある1)。しかしながらワクチン中止の根拠となった世界的レベルの優れたデ−タを新たな視点で再検討し、今日世界的に集積されてきたエビデンスをも考慮してインフルエンザワクチンの有効性を論じたものは皆無である。こういった視点からインフルエンザワクチン効果に関する国内外の最近の文献的レビュ−をおこなった。その上で日本での再開の是非についての提言をおこないたい。

1.日本でインフルエンザワクチンの義務接種が中止となったのはなぜか?

はじめに、日本でのインフルエンザワクチン中止を概括したい。

日本では、世界に先駆けてインフルエンザワクチンの義務接種を小児に実施し、有効性の証明がなされないとして中止された。

勧奨接種に組み入れられた(学校での集団接種が始まった)のが1962年、予防接種法に組み入れられたのが1976年、予防接種法内のまま、実質的に任意接種となったのが1987年、予防接種制度全体の見直しの中で予防接種制度の対象からはずされたのが1994年、足かけ30年であった。

1987年の公衆衛生審議会の「インフルエンザ予防接種の当面のあり方について」には中止された理由について「現行の不活化インフルエンザワクチンを用いた予防接種では、社会全体の流行を抑止することをできるほどの研究デ−タは十分に存在しないが、個人の発病防止効果や重症化防止効果は認められる。」とある。

予防接種制度から除外される前の1993年には上記に加え、「流行するウィルスの型が捉えがたく、このためワクチンの構成成分の決定が困難であるという特殊性を有すること等にかんがみ、予防接種制度の対象から除外することが適当である。しかし、インフルエンザ予防接種には、個人の発病防止効果や重症化防止効果が認められていることから、今後各個人が、かかりつけ医と相談しながら、接種を受けることが望ましい。」とした(今後の予防接種制度の在り方について−平成5年公衆衛生審議会答申、平成5年12月14日より)。
この間、前橋市医師会でのワクチン中止でインフルエンザ罹患がなんら変化しなかったことをまとめたデ−タ(以後前橋デ−タ2)と呼ぶ)の公表、高橋によるワクチンを無効とする一連の論文3)などがあり、1994年にはワクチン被害裁判で国は敗訴した。ワクチン接種率はそれまで60−70%台を維持してきたが、1987年以降低下し続け、1993年には20%以下となった。なお、インフルエンザワクチン脳症で死亡したり、重篤な後遺症などで被害認定された人だけで121名にのぼった(1993年末現在)4)。

2.学童の流行を防げなかった根拠デ−タ
−前橋デ−タは今日の国際的手法で無効を確認−

前橋デ−タについては、前橋市医師会がまとめたもので、TIP誌1987年10月号にも詳細に紹介されているが、ワクチン中止の根拠となった論文であり、今日のインフルエンザワクチンの効果判定のための世界的な疫学的手法のレベルからいっても優れたものであるので、再度概略を紹介する。

1979年11月、前橋市は、ワクチン接種後の痙攣発作患者の出現を契機に学校でのインフルエンザワクチンの集団接種を取りやめた。その後の、1980−81年から85−86年までの、6年間に及ぶ前橋市でのインフルエンザ流行状況を集積し、近接地域と比較したものである。ワクチン中止前後で市及び県の超過死亡は全く変化していないこと、高崎市など、周囲の接種地域と比較しても、地域全体のインフルエンザ様疾患の発症に差異の見られないことを示した。

また、表1、2に示したように、欠席率を end point として、学童での前橋市と周辺市とのワクチン効果が比較された。周辺地域ではインフルエンザワクチンを接種する場合、普段欠席しがちな病弱な児童には接種を敬遠するため、欠席率が低くなる方向ににバイアスがかかる。前橋市では欠席しがちなそれらの児童をも含んだデ−タなので、前橋市に不利に働くはずだが、それでも周辺地域と前橋市とで罹患率にほとんど差がなかった。

なお、インフルエンザワクチン評価の end point に欠席率をもちいて比較する方法は、今日でも国際的にも十分通用するものであるだけでなく、むしろ最近世界的に採用されはじめた多数の集団を扱ったコホ−ト研究と同じ手法であり、優れた手法といえる。

3.抗体上昇だけで評価指標にならないことはもはや国際的常識

高橋は、血清抗体の上昇でインフルエンザ罹患と診断した研究では、抗体の頭打ち現象のためワクチン効果を見かけ上高めることが問題であると我が国で初めて指摘した5)。ワクチン接種群では、インフルエンザ罹患の前にすでに抗体が上昇しているために、発熱などインフルエンザの臨床症状があっても抗体価が上昇せず、インフルエンザに罹患しなかったと診断される例が多くなり、罹患率がワクチン群で低く見積もられる。だから適切なRCTで臨床診断によるインフルエンザ罹患率を比較する必要がある。

成人に対するインフルエンザワクチン論文評価の方法を検討した Cochrane Library の Demicheli protocol でもこの点に触れており6)、最近の論文では、抗体上昇による罹患診断のみをワクチン評価の end point とした文献はほとんど見られない。RCT論文をまとめた表3をみてもこの点は明かである。

4.日本のインフルエンザ研究論文

予防接種中止後、RCT文献は存在しないが、最近の老人を対象とした調査として池松の論文7)がある。病院内の4つの療養型病床群のうちの2つの病棟でのワクチン群86名、非ワクチン群123名の比較である。37.5度以上の発熱患者の発生で両群間に有意差があった(28/86 vs 61/123)が、9ヶ月間の死亡は差がなかった(4/86 vs 12/123)。この論文の限界は、非接種者がワクチン拒否者であることである。また、肝心な死亡についても、有意差は認められなかった。総数も少なく、小児接種の苦い経験を持つ我が国で、老人にインフルエンザワクチン接種を勧める根拠とするには、あまりにも貧弱なデ−タである。

インフルエンザワクチンの義務接種が実質的に中止された1987年以後小児を対象としたワクチン評価論文として菅谷氏と Morio 氏の論文がある。

菅谷論文A-29)は2才から14才までの重症喘息児を対象に、ワクチン接種群85名、非同意者52名を対照群としてワクチン効果を検討した prospective なコホ−ト調査であり、RCTではない。A香港型ウィルスの流行株とワクチン株とでは、抗原型が drift(小変異)しているにもかかわらずワクチンは有効とされた。一方、B型インフルエンザは両株が抗原的にほとんど同じであったのに7才以下で有効でなかった。RCTでない点が随所に問題としてでてくる。primary end point を抗体上昇においたため、臨床症状に基づくワクチン効果判定はできていない。さらには、ウィルス分離を end point として評価した場合には、ワクチン群でむしろ感染が多かったとする論文であるが、それに対する考察はなされていない。このようにきわめて限定的かつ問題の多い論文であり、ワクチン評価を普遍的に論ずる根拠にはならない。

Morio 論文B-12)は、学童への義務接種中止後の1989−91年にかけて3年間にわたる、アンケ−トによる臨床診断に基づいた、ワクチン群、非ワクチン群を比較したコホ−ト調査である。インフルエンザの流行した90−91年はワクチン効果あり、その前後の2年間は効果が認められなかったという内容である。インフルエンザワクチンの発症阻止効果は弱く、地域、学校での流行を防ごうという目的での全学童接種は不適切とした。接種希望者による群分けであり、RCTではない。

以上の3つの国内文献は、いずれも規模も小さく、RCTでもないので、前橋デ−タを上回るものではなく、ワクチン再開の根拠とするには不十分な論文である。

また、基本的なワクチンの製法はこれらの調査当時から変わっておらず、新たに有効であるとの可能性が示唆されるデ−タが示されたわけでもない。

5.レビュ−したインフルエンザワクチン関連文献

我が国でのインフルエンザウィルス見直しの論拠にあげられるのが、アメリカを中心とした国外での最近の研究である。その意味でも、海外文献の評価は重要である。そこで、インフルエンザワクチンの効果を論じた論文について、1980年から1999年1月の間の MEDLINE を“Influenza vaccine” and “efficacy or effectiveness or clinical trial or RCT”を検索キ−として検索した結果、 約600件が検出された。これら文献をタイトルやサマリ−から判断し、不活化ワクチン群と非ワクチン群の効果比較が可能な71文献を一時検索対象(A-*)とした。さらに、これらの参考文献などを含めて二次検索し、ハンド67文献を追加(B-*)、計138文献をあらためて検討した結果、62文献を最終検討文献とした。

RCT 9, cohort study 40(challenge3を含む), non controlld trial 1, case control study 10, meta analysis2文献であった。

6.RCT文献の評価

上記の絞り込んだ結果、1980年以降、influenza(不活化)ワクチンを偽薬群と比較したRCT( RCT= randomized controlled trial;最も信頼のおける効果判定方法 )文献は以下の9件にすぎなかった。

(1) Govaert 論文(A-27)について

Govaert 論文は高齢者に対する唯一のRCTである。60歳以上の高齢者に対して、ワクチン群927例、placebo 群911例を比較した論文である。抗体診断を primary endpoint としている。臨床診断でもワクチン群有効とされた(17例対31例、p=0.049)。しかし臨床診断はインフルエンザ診断基準の取り方によって有意差がでたりでなかったりする。著者らは second end point としているが本来 primary end point とすべき適切な診断基準の臨床診断で比較すれば、107/927対115/911で有意差はない。また、もともと層別化した群を総計したが、層別ではほとんどの群で有意差が検出されない程度の差である。更に、この論文でもっとも問題となるのが死亡者の扱いである。ワクチン群6名、placebo 群3名の死者がいるが、いずれもインフルエンザ様症状は認められなかったとして考察対象から除かれてしまった。最大の negative event であるワクチンの副作用による死亡は、どういう形で出現するか予測がつかず、死亡をワクチンの効果判定対照から除くのは明らかに誤りである。

(2) Nichol KL論文(1996)(A-22)について

18才から64才までの健康成人を対象としたワクチン群422名、placebo 群424名、登録後脱落3名、計849名のRCT文献である。臨床症状を end point とした研究であり、あわせて cost benefit を研究した論文である。ワクチン群の上気道炎罹患61%、placebo 群の罹患は69%と、有意にワクチン群で罹患が少なかった。併せてワクチン投与は経済効果もありとした論文である。上気道炎罹患が高すぎることがこの論文の問題点である。通常、臨床的にインフルエンザ様疾患(ILI)を定義する場合、発熱に加えて咳や咽頭痛などの他の症状を組み合わせる。ところが、本研究では咽頭痛を基準にし、咳または発熱を加えたものを上気道炎と定義した。そのため、罹患が60%とべらぼうな数字になってしまったものと思われる。表から解るように、同じ成人を対象にしたRCTである、Keitel, Douglas 両論文ではILIは約5%である。以下に述べる老人収容施設での流行でも30%を超えることはほとんどない。本研究は、インフルエンザが、同じ割合であるにしろ、少なくとも50%以上は他の風邪で薄まったものと考えるのが妥当であろう。この点に関しては、例えば、Carrat F..がフランスにおいて、インフルエンザ様疾患での受診は、就労人口の1.4−6.5%であり、Nichol 論文の頻度はいかにも高すぎると指摘した8)。RCTであり、両群に同じ割合でインフルエンザは含まれると考えられるので、例えば半分の30%がインフルエンザとしても(この30%という数字ですら、community としては新型インフルエンザによる pandemic に匹敵する)、128/422対146/424例となり、有意差はなくなってしまう(イェ−ツの補正P=0.22)。インフルエンザの効果がほかの風邪によって薄められるといわれるが5)、本論文は、風邪によるインフルエンザの薄めが必ずしもワクチン群の効果判定に不利とはならないことの好例である。層別に randomized しながら、背景因子の補正をしていないこと、経年のデ−タでないこともこの論文では問題である。罹患率が異常に高いというきわめて限定した条件の下での論文として見ざるを得ない。

なお、浜の試算によると、cost-benefit を計算した原著の Table4 を罹患を1/3に減らし、ワクチンを単価4000円×2回として計算すると、1000人あたり414万円、1/4にすると226万円の損出となる(personal comment)。

(3) William論文について

臨床症状で不活化ワクチン群と偽薬群の間で著明な差を認めた論文である。1985年、3才から18才まで、189名について不活化ワクチン、弱毒ワクチン、偽薬群の三者を比較した。流行したB型インフルエンザと不活化ワクチン株が小変異していたにもかかわらず、著明な差を認めたとした論文である。が、B型ワクチンを含んでいない弱毒ワクチンと偽薬群との間でもB型インフルエンザ感染に有意の差を認めており、無作為化が崩れているとしか言い様のない論文である。

臨床症状で差のあるとしたRCT3論文について検討したが、以上の分析からも解るように、RCTでのインフルエンザワクチンの臨床評価はきわめて限定的である。

7.高齢者死亡に対する効果

高齢者の死亡に対するワクチンの効果を評価した論文は以下の20論文であった。RCT論文はなく、対照群は拒否群がほとんどである。

この表に明らかなように、上記の20論文の中で、実は、ワクチン群と対照群での死亡の有意差が確定されたのは、論文数で言えば8編に過ぎない。高齢者施設での研究に絞ると、判定可能な16文献中4文献に過ぎない。有効とした残りの4文献は(A-70,A-34,B-8,B-1) database に基づくものである(経年の変化を見た Nichol K.L. の論文については最終論文のみを記載した)。

表を見ても解るように、施設によってワクチン群、非ワクチン群ともに死亡率がかなり異なる。1986年の Patriarca 論文(A-62)でのRRRは80%であるが、7施設の総計であり、統計的には単純合計してはならないものである。

それぞれの施設での研究報告で有意差が出ないのは死亡数が少ないためである可能性もある。例えば20の cohort study に対して Gross がおこなった meta analysis(A-21) ではワクチンにより施設入居者の死亡リスクは32%になるとした。Gross 論文は、インフルエンザワクチンが高齢者の死亡阻止に効果があるとする根拠によく引き合いに出される論文であるが、この Gross 論文については、Potter(B-4) の批判がある。Potter によれば、Gross 論文では、対照群が拒否群であり、身の回りの自立ができない、重度の痴呆が多く含まれる群であり、死亡の confounding factor として働くとしている。

最近、施設入居高齢者への接種率があがるにつれ、たとえ90%前後に接種したとしても、インフルエンザ流行は抑制できないし、死亡も減らないとする論文が目立つようになってきている(A-24,B-3,B-4)。例えば、Drinka 論文は(B-3)、1997年に発表されたが、1992−93年及び93−94年のシ−ズンに、Nursing home 入居者の85%、86%という効率でワクチン接種をしたにも関わらず、93−94年は死亡がなかったが、92−93年は6例、うち5例はワクチン群であり、死亡率に有意差はなかった。Discussion の中では、スタッフのワクチン接種の必要性を強調しているが、ちなみにスタッフの接種も56%と46%であった。

Potter は同じ1997年、スタッフへのワクチン投与による controlled study を初めて発表した(B-4)。グラスゴ−の12の老人病院で、患者1,056人、スタッフ1,078人を対象とした、1994−95シ−ズンでの研究である。スタッフへのワクチン投与は randomize されている。スタッフへのワクチン投与が患者全死亡を有意に減らしたとした論文であるが、患者自身へのワクチン投与では、死亡がワクチン投与群61/538例に対して、非投与群での死亡は67/521例と有意差がなかった。

最近の高齢者の死亡について調査した cohort study としてはそのほか、1995の David(B-5)、1996年の Libow(A-14) によるものもあるが、いずれも施設入所高齢者に対する死亡ではワクチン効果を見いだせなかったものであり、David は Nursinng home での院内感染に対する不活化ワクチンを中心とした対策は見直すべきであると結論している。

最近の文献では、この他に deta base に基づく多数例での死亡数の比較を研究したものが2編ある。Nichol 論文(1998;B-1)とイギリスの Fleming 論文(B-8)である。Nichol論文は Mineapolis 地域の保険機構デ−タベ−スより、1990年から96年まで、6シ−ズンに渡り、高齢者ワクチン群87,898名、非ワクチン群59,653名を比較した論文である。ワクチン群は総死亡を50%減らすとした。対象者が多いため、たとえば平均年齢がワクチン群72.5に対し、対照群72.7の間に差があるように、背景因子としての risk factor で差のある群同士を比較した統計量となっており、数量を比較する解釈には注意を要する研究である。6年間のこの地域における高齢者総死亡はそれぞれ10万対600, 1000, 900, 1200, 1000, 700であり、総死亡はインフルエンザワクチンの恩恵を受けてるとは思われない。

むしろ Nichol らの研究は今後、前橋デ−タで示されたように、地域でのインフルエンザ流行阻止や超過死亡の現象などに本当にワクチンが有効であるかについての疫学的効果を判定する基礎になるものであろう。前橋デ−タをすでに有する我々としては、Nichol らが、Mineapolis 周辺の高齢者へのワクチン接種で、最終的に、疫学的にどう結論するかについて今後注目したい。

Fleming 論文は、1989−90年の流行について data base を基に分析した論文であり、1995年に発表された。55歳以上のワクチン群対非ワクチン群について、総死亡は3/599対84/7932(RR = 0.47, CI;0.15-1.48, confounding factor を補正してRR=0.25, CI;0.08-0.79と有意差あり)、死亡ないし重症呼吸器疾患でみると、10/599対102/7932(補正してもRR=1.03,CI;0.89-1.19と有意差なし)という結果であった。経年調査が必要である。

以上見てきたように、高齢者の死亡に関するRCTは、Govaert 論文以外には存在せず、他はすべて背景因子の異なる集団での限定された範囲の比較論文しかない。さらに、最近の高齢者施設での高接種条件下における研究では、有効性を疑問視する論文ないしスタッフへのワクチン接種が必要とする論文が特徴的である。Database を利用した多人数での2研究でも今後のデ−タ蓄積が必要である。

厚生省はこれらの外国の論文をもってワクチンの効果はすでに明らかであるとしているが、その根拠はきわめて脆弱なものでしかない。しかも解析に耐えうる根拠となる日本独自の調査研究も実施されていないのが現状である。

アメリカの論文から最も学ぶ必要があるのは、日本での施設や地域の高齢者のインフルエンザ肺炎罹患や死亡率の正確なサ−ベイランスの集積だと思われる。その上でワクチンを含めた死亡の危険因子の推定が重要である。たとえば一人当たりの面積一つをとってみても、ヨ−ロッパの施設と日本の高齢者施設の環境の差は明らかである。死亡率やQOLを改善するために、施設環境の改善とワクチン接種のどちらが貢献するのか、言い換えれば同じ費用を投資するとしてどちらが効果的かつ当事者や家族にとって価値があるかについての検討が必要ではないかと考える。

8. 国内外のワクチンの違い

日本のインフルエンザワクチンは split virion vaccine であり、抗原量をCCA(chick cell agglutinin)unit で表現し、アメリカは subunit virion vaccine または whole virus vaccine であり、抗原量はμg/mlで表示している。先の Cochran protocol を書いた Demicheli は split virion vaccine と subunit vaccine を異なるワクチンとして扱っている。また、William が、B型ワクチン効果を低く評価した Foy, Wright の2論文に対して、抗原量をCCAで標準化しているので信用できないとしたものが見られるA-44)。Subunit vaccine は HA 抗原と NA 抗原だけを含むといわれる。Split virion vaccine は他の蛋白も含む。両ワクチンは明らかに異なるものとして扱う必要があると思われる。この意味でも、我が国が、国産ワクチンでの接種を高齢者に勧めようとすれば、国産ワクチンでのRCTがまずおこなわれなければならない。

9.副作用

冒頭で述べたように、1993年末現在、インフルエンザワクチンによる認定被害者(死亡や重篤な後遺症を残した者)数は母里によれば121人、1997年末では187人にのぼる(厚生省が全国予防接種被害者の会会長藤井俊介氏へした回答)。以前の whole virus vaccine と異なり、最近の split virion vaccine の副作用はとるに足らずという意見が多い。ところが、安全なはずの split particle vaccine に変わった1972年以降も、インフルエンザワクチン脳症は散発していることを忘れてはならない。これについては、厚生省は全ての副作用症例を開示してほしいものである。特に、昨今の小児のインフルエンザ脳症との関連で、低年齢層に(インフルエンザ脳症は乳幼児に多発している)ワクチンを勧める場合、世界的にも初めての経験であり、科学的根拠を欠いたまま実施することは大きな悲劇を生む可能性大である。さらに、小児のかなりの部分に接種されていた時期に比べ、最近は抗原量の多いワクチンが使用されており(1998年細菌製剤協会発行、ワクチンの基礎より)、接種にはより慎重でなければならない。急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の報告もあるC-13)。頻度は少ないが、アメリカで年間数十名の Guillaine Barre 症候群の報告があり、最近のワクチンでも OR=1.7(CI1.0-2.8; 1992−93年)と、インフルエンザワクチンは明らかに G-B 症候群を増加させるC-14)。とりわけ高齢者の場合は、原疾患や他疾患の重篤化と、ワクチンの害との区別が出来にくいことも十分予想され、ワクチン接種には慎重でなければならない。

10.結論

過去30年間でワクチンの有効性を示す研究デ−タが得られず小児への接種が中止された日本のインフルエンザワクチンであるが、そのことはあらためて前橋デ−タを検討し直しても明瞭に示されている。

義務接種中止後も再開の根拠となる国内デ−タは示されていない。国外文献を見ても、インフルエンザワクチンが有効という結果は、最も信頼に足る臨床診断を指標にしたRCT文献でもきわめて限定されたものであり、日本でのワクチン再開については根拠となるほどのものではないと考えられた。

高齢者死亡に対しては、異なる背景因子を比較した論文がほとんどであり、しかも最近高齢者施設での接種率が向上するにつれ、むしろ入居高齢者に対する単独接種だけでは効果を疑問視する論文が出現してきたのが特徴である。

デ−タベ−ス統計から経年のワクチンの実地効果を検討する論文も見られつつあるが、日本の前橋デ−タと対比させながら今後の蓄積に注目したい。

小児のインフルエンザ後の急性脳症阻止を目的としたワクチン接種の根拠となるデ−タは全くない。したがって、これを理由にした再開の根拠はない。ライ症候群など、インフルエンザ後の急性脳症の防止に関しては、TIP誌でも再三取り上げているように、まず非ステロイド抗炎症剤系解熱剤との関連を調査すべきである。

高齢者に対しては日本では国内ワクチンの接種デ−タどころかインフルエンザ死亡の実体すらはっきりしない。早急な疫学デ−タの集積とともに、ワクチンを含めた危険因子の特定をまず始めなければならない。

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