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司法試験と司法書士試験の合格者です。(行政書士試験及びその他の資格試験にも合格しています。)本サイトは正確な記載を目指しますが,これを保障するものではありません。従いまして,ブログ内容等につきましては,誤記載のまま改訂されていない状態の記事もありえます。また,本サイトブログは法改正等に対応していない場合もあります。自己責任にてお読みくださいますようお願い申し上げます。(広告等:本サイトはアフィリエイトプログラムに参加しております。広告内容等に関しまして,閲覧者様と本サイト所有者とは何らの契約関係にありません。広告内容等に関しましては,広告表示先の会社等に直接お問い合わせください。)(免責事項:本サイトに起因するいかなる責任も負いかねますので,自己責任にてお読みください。この点について,ご了承願います。)
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2018年01月08日

司法試験・国会の事後の不承認条約の効力

[ はじめに ]

条約については,憲法と条約の形式的効力関係についての憲法優位説と条約優位説,条約に対する違憲審査の可否,国会の事後の承認のない条約の効力,国会の条約の修正権の肯否等が,主な論点となっています。

司法試験においては,言うまでもなくこれらすべてが必須の論点となっています。
しかし,司法書士試験においても,今後は年度を重ねるごとに漸進的に出題論点となっていく可能性があります。

そこで,今回は国会の不承認条約についての国際法上の効力について,短答・択一式問題を作成しました。
新司法試験の従来からの短答式出題形式にはあまり適合しないかもしれませんが,短答が3科目となったことから,今後,旧司法試験の短答式の出題形式の利用も考えられます。
一方,司法書士試験の出題形式においては,今後可能な択一式出題形式であると言えます。
以上のことを考慮した上で問題を作成しました。

また,慎重に問題文を読めば,意外とあっさりと解答できるようにも問題を作ってあります。

知識の理解・整理を第一目標においたからです。

ところで,基本は絶対に外さないことを旨とする受験勉強においては,基本を学習し尽くすことがなによりも大切であると考えます。とりわけ,司法書士試験は基本です。ともかく,基本,基本,基本です。

司法試験では,今回の短答式の知識,理解は殆ど必須ですが,司法試験とは出題科目の異なる司法書士試験においては,憲法のここまでの理解・知識は過ぎたるものとの評価もありえます。なかなか難しいところです。

正解は,参考文献の下に記載してあります。



[ 問 題 ]

以下の記述は,国会の事後の承認のない条約の国際法上の効力に関して,見解を異にする学生A,B,C,Dの会話の一部である。各学生は,次のTからWまでのいずれかの異なる見解に立っている。学生と見解の組み合わせとして正しいものは,後記1から5までのうちどれか。

【 『事後に』承認の得られなかった条約の効力についての見解 】
T 国内法的には無効であるが,国際法的には有効であるとする説
U 国内法的には無効であるが,条約法に関するウィーン条約に従って,条約の効力を判定し,国際法上の効力については原則として有効とする説
V 国内法的にも,国際法的にも無効とする説
W 国内法的には無効であるが,国会の承認権規定の具体的意味が諸外国にも「周知」の要件と解されている場合には,国際法的にも無効とする説。すなわち,原則無効の要件を緩和し一定条件に該当する場合に無効を限定する説

A 「条約の国会による『事前』不承認の場合,条約は成立しない。これに対して,『事後』不承認の場合には,確かに,条約の国内法的効力は有効には生じていないものの(つまり,無効ではあるものの),しかし,国際法的効力については争いがある。この国際法上の効力の有効・無効について論ずるのが,まさに『事後』不承認の条約の効力に関する論点だね。」

B 「この点,A君は,条約締結に国会承認の必要なことは当然相手国も承知すべきだし,また,承認につき『事前』と『事後』でその法的効力の有無につき区別を設けるのは,憲法の趣旨に反すると主張するんだね。」

C 「しかし,各国の条約締結手続を相手国が熟知しているとは限らない。そして,条約締結手続が不明確なこともある。だから,当事国は相互に相手国の条約締結権者の行為を信頼すれば足りる。さらに,法的安定性も考慮しなければならい。これがB君の主張だよね。」

D 「C君は,周知の憲法手続に違反した場合のみ国際法上の効力は無効であるとするね。」

A 「D君とC君の見解の趣旨は実質的には同じだね。しかし,C君が『事後』不承認の条約の国際法上の効力につき,これを原則無効とするのに対して,D君は原則有効とする。ところで,B君の見解によると,国会の意思の尊重に欠けるとの批判が予想されるけど,その点はどう対処するのかな?」

B 「そもそも事前の承認を本則とすべきだし,やむを得ない事情で署名のみで条約を成立させるときは,国会の承認を得られないときは,失効する旨の条件を予め附しておけば足りるよ。」

 AV−CW         AT−DU         BW−CU 
 BT−DW         CT−DV        

( 参 考 )
(憲法)
第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。

(条約法に関するウィーン条約)
第四十六条
1 いずれの国も,条約に拘束されることについての同意が条約を締結する権能に関する国内法の規定に違反して表明されたという事実を,当該同意を無効にする根拠として援用することができない。ただし,違反が明白でありかつ基本的な重要性を有する国内法の規則に係るものである場合は,この限りでない。
2 違反は,条約の締結に関し通常の慣行に従いかつ誠実に行動するいずれの国にとつても客観的に明らかであるような場合には,明白であるとされる。





[ 解 説 ]

条約締結の国会の事前承認が得られなかった場合には,条約の国内法的効力,国際法的効力のいずれも生じません。

問題は条約締結について国会の事後承認が得られなかった場合です。
条約は,調印により成立する場合には調印により,あるいは批准により成立する場合は批准により,既に成立していることから,国会の事後承認が得られなかった場合の国際法上の効力が問題となります。
なお,国会の事後承認がなければ,条約の国内法的効力が認められないこと,このことは議論の当然の前提となっています(伊藤・憲法p686,内野・憲法解釈の論点p137,渋谷・憲法p568参照)。



[ 学 説 ]

(学説の名称の多くは,渋谷・憲法p568に依った)
[無効説,承認法定成立要件説]

問題文Vの説  国内法的にも,国際法的にも無効とする説

無効説は,@憲法条文上これを端的に見れば,条約成立の要件として,内閣の締結行為と国会の承認の二つが必要であることが明示されていること,及び政府の締結行為に対する国民の代表機関たる国会の民主的コントロールの重要性が認められること,これらを理由に国会による条約の承認は,条約が有効に成立するための「法定成立要件」であるとします。

また,無効説は,A国会の承認について「事前」と「事後」で,その法的効力につき違いを設けるのは,憲法の趣旨に反し根拠がないとします。
憲法条文上(憲法73条3号),国会による条約の承認が必要とされているにもかかわらず,有効説はそれを事前の承認がなければ,条約の効力が発生しない,つまり無効だが,事後の承認に欠ける場合には,今度は逆に条約を有効とする。これでは,事前,事後という時期によってのみ条約承認につきその法的効力の差異を設けるものであって,国政の重要事項に対する国会による民主的コントロール,すなわち国民代表機関たる国会の意思の尊重という憲法の趣旨からは,かかる区別になんらの合理性を見出し得ない,このように無効説は主張します。

さらに,無効説は,B条約締結に国会の承認が必要であることは,憲法上の重要な要請であって,このことは当然相手国においても容易に知り得ることであって,知っているとみなしうることを主張します。
(伊藤・憲法p686~,長尾・日本国憲法第3版p382~参照)


無効説に対しては,次の批判があります。
すなわち,無効説によれば,各国はほしいままに国内法を理由に条約上の義務を免れようとすることになってしまう。その結果,国際条約関係は不断に動揺し,法的安定性を害する。
(橋本・国政と人権p142参照)




[有効説]

問題文Tの説  国内法的には無効であるが,国際法的には有効であるとする説

無効説に対して,有効説は以下のように主張,反論を行います。
@条約は国際法上の法形式であるから,その国際法上の効力は国際法に従って決定されるべきであり,国内法的手続の瑕疵で国際法上の効力が失われるのは適当でない。(伊藤・憲法p687,長尾・日本国憲法第3版p382参照)

A国会承認という憲法の手続規定の履践がないことを以て,条約の国際法上の効力を無効とすることは,条約の法的安定性を害する。
(長尾・日本国憲法第3版p382参照)

B国会の承認について,事前と事後とで条約の法的効力につき区別を設けることは合理的でないとの無効説の主張に対しては,有効説から次の反論があります。
本来,条約は批准を必要としない条約は,署名,調印により,また,批准を必要とする条約は批准により,それぞれ確定的に条約の効力が生じているのだから,条約が確定的に成立する前と後で,承認の法的意味につき違いが生じてくるのは寧ろ当然である。
(橋本・国政と人権p142参照)

C条約締結に国会の承認の要することは,多くの国の憲法に規定されているところであり,相手国も当然に承知すべきものであるとの無効説からの主張に対しても,有効説から次のような反論がなされています。

@)多くの国家において,成文憲法の規定に反する慣習法が成立している。
A)諸国の憲法規定を的確に知ることは困難である。
B)憲法の条項について,学説の対立があり,どの説を以て正当とすべきか判断できない。
(橋本・国政と人権p141参照)

D 無効説によると,相手国が憲法所定の条約手続を遵守したかどうか,これを確認しなければならなくなるが,これでは相手国への内政干渉ともなりかねない。
(橋本・国政と人権p142参照)

ところで,有効説に対しては,国会の意思の尊重に欠けるとの批判が予想されます。その点についての手当ても有効説は主張しています。
すなわち,そもそも事前の承認を本則とすべきだし,やむを得ない事情で署名のみで条約を成立させるときは,国会の承認を得られないときは,失効する旨の条件を予め附しておけばよい,とされています(橋本・国政と人権p143,佐藤功・ポケット注釈全集 憲法(下)[新版]p892参照)。


[条件付無効説,原則無効説,停止条件付無効説]

問題文Wの説  国内法的には無効であるが,国会の承認権規定の具体的意味が諸外国にも「周知」の要件と解されている場合には,国際法的にも無効とする説。すなわち,原則無効の要件を緩和し一定条件に該当する場合に無効を限定する説(条件付無効説)。

かかる条件付無効説は,国民代表機関たる国会の意思の重要性とその尊重,及び内閣の条約締結行為に対する民主的コントロールの必要性,並びに国際条約関係の可及的な法的安定性の現実的要請,これら諸要素を勘案しているものと思われます。

ここにおいて,同説は事後不承認の条約につき原則無効の要件を緩和し,そして一定条件に該当する場合に無効を限定する説となります。
(樋口ほか・注釈日本国憲法 下巻 p1097参照)


[条件付有効説,原則有効説,解除条件付有効説]

問題文Uの説  国内法的には無効であるが,条約法に関するウィーン条約に従って,条約の効力を判定し,国際法上の効力については原則として有効とする説

条件付有効説は,以下のように自説を根拠付けます。


日本国は,条約法に関するウィーン条約(条約法条約)を批准しており,憲法のその拠って立つ国際協調主義(憲法98条2項)から,「条約を締結する権能に関する国内法の規定」について定める条約法条約46条の適用があります。
してみれば,国会の条約に対する事後の不承認は,条約法条約46条1項の定める「基本的な重要性を有する国内法(憲法)の規則」の違反であり,かつかかる違反は,同条項に定める「違反が明白であり」にも該当します。なぜなら,憲法上国会の承認が必要とされていることは,相手国にとっても容易に知り得る,条約締結に係る重要な憲法的手続規定であり,調印・批准により一旦は確定的に成立したとされる条約ではあっても,事後の不承認によって条約の効力が無効とされることがありうること,このことについては,相手国も十分に知り得る立場にあるからです(憲法73条3号)。

したがって,条約法条約によって,条約の国際法的効力を判定すれば,国会の事後の不承認条約に係る国際法上の効力については,同法46条の援用を以て相手国との同意が無効であることを主張できる。

これが条件付有効説からする一つの帰結です(渋谷・憲法p569参照)。

ただし,これに対しては異なる考え方もあります。
確かに,内閣以外の何らかの機関(条約法条約8条参照)が条約を締結したというような場合には,「基本的な重要性を有する国内法(憲法)の規則に係るもの」に「明白」に「違反」したことが「客観的に明らか(条約法条約46条2項)」であり,条約法条約46条1項の「違反が明白でありかつ基本的な重要性を有する国内法(憲法)の規則に係るものである場合」に該当し,相手国との同意を無効とする根拠として同条項を援用することができるであろう。

しかし,これに対して国会による事後の不承認条約については,事後の不承認に係る憲法の明文規定を欠き,その効力については憲法の解釈問題となるのであるから,憲法の手続規定に「明白に違反」したことがいずれの国とっても「客観的に明らか」(条約法条約46条2項)であるとまではいえない。

したがって,条約法条約によって,条約の国際法的効力を判定すれば,事後の不承認条約に係る国際法上の効力について,同法46条の援用を以て相手国との同意が無効であることを主張することはできない。
このように異なる考え方もあります(佐藤功・ポケット注釈全集 憲法(下)[新版]p895~参照)。


条件付有効説(明白説)に対しては,次のような批判があります。
@明白な違反と明白でない違反との区別が困難であること,A条約上の義務を免れようと各国は,ほしいままに明白な憲法違反を主張して,争いが絶えないこと,その結果,B国際条約関係の法的安定性が害されること,さらに,C条件付有効説(明白説)を貫くと,条約締結機関の説明を信頼した相手国に無理を強いる結果となること,等これら批判があります。
(橋本・国政と人権p142,143参照)




→ところで,条件付有効説も,条件付無効説もその趣旨とするところはほぼ同じであり,結論的には実質的に異ならい,と言えると思います,

条件付無効説の諸説の論旨を読むと,実際の適用において,逆に原則として有効,例外として無効になるのではないか,このように思われるとの評価もあります(橋本・国政と人権p136参照)。


(条約法に関するウィーン条約)
第46条(条約を締結する権能に関する国内法の規定)
1 いずれの国も,条約に拘束されることについての同意が条約を締結する権能に関する国内法の規定に違反して表明されたという事実を,当該同意を無効にする根拠として援用することができない。ただし,違反が明白でありかつ基本的な重要性を有する国内法の規則に係るものである場合は,この限りでない。
2 違反は,条約の締結に関し通常の慣行に従いかつ誠実に行動するいずれの国にとつても客観的に明らかであるような場合には,明白であるとされる。


第7条(全権委任状)
1 いずれの者も、次の場合には、条約文の採択若しくは確定又は条約に拘束されることについての国の同意の表明の目的のために国を代表するものと認められる。
(a)当該者から適切な全権委任状の提示がある場合
(b)当該者につきこの1に規定する目的のために国を代表するものと認めかつ全権委任状の提示を要求しないことを関係国が意図していたことが関係国の慣行又はその他の状況から明らかである場合
2 次の者は、職務の性質により、全権委任状の提示を要求されることなく、自国を代表するものと認められる。
(a)条約の締結に関するあらゆる行為について、元首、政府の長及び外務大臣
(b)派遣国と接受国との間の条約の条約文の採択については、外交使節団の長
(c)国際会議又は国際機関若しくはその内部機関における条約文の採択については、当該国際会議又は国際機関若しくはその内部機関に対し国の派遣した代表者


第8条(権限が与えられることなく行われた行為の追認) 
条約の締結に関する行為について国を代表する権限を有するとは前条の規定により認められない者の行つたこれらの行為は、当該国の追認がない限り、法的効果を伴わない。




以上から,問題文の各学生のとる学説をまとめると次のようになります。*

学生A [無効説]                               →V説
学生B [有効説]                               →T説
学生C [条件付無効説,原則無効説,停止条件付無効説]             →W説
学生D [条件付有効説,原則有効説,解除条件付有効説]             →U説
(*学説の名称の多くは,渋谷・憲法p568に依った)


[参考文献]
日本国憲法 橋本公亘 著 有斐閣
国政と人権 橋本公亘 著 有斐閣
ポケット注釈全集 憲法(下)[新版] 佐藤功 著 有斐閣
憲法 第三版 伊藤正巳 著 弘文堂
憲法 第六版 芦部信喜 著 高橋和之 補訂 岩波書店
注釈 日本国憲法 下巻 樋口陽一・佐藤幸治・中村睦男・浦部法穂 著 青林書院
日本国憲法 [第3版][全訂第4版] 長尾一紘 著 世界思想社
憲法解釈の論点 [第4版] 内野正幸 著 日本評論社
憲法 第3版 渋谷秀樹 著 有斐閣
新・コンメンタール憲法 木下智史・只野雅人 [編] 日本評論社
など
正解 1 AV−CW
 

学説及び判例あるいは判決事例の解読・理解・説明には,非常に微妙な点が多数現出します。
説明の過程において,どうしても私見となる部分が出てきます。
従いまして,以上の記述の正誤につきましては,是非ご自身の基本書,テキスト等によりご検証,ご確認ください。
                                以 上












posted by 略して鬼トラ at 06:15 | 司法試験

2017年09月07日

短答・択一 緊急集会 憲法

 はじめに

緊急集会についての知識を準備しておくと,短答,択一においていざという時,役立つことがあるかもしれません(殊に司法試験に限って言えば,ここまでの知識が求められているとの評価が可能でしょう)。

本番でいきなり緊急集会について問われれば,準備していない限り,その問題は恐らく予備校でよく見かける「難易度表」でいうところの「難」の部類に入り得る問題と言えましょう。

言うまでもなく単純知識問題は,知っているか知っていないかで問題の難易度が変化します。多くの受験生が準備手薄であろうところの知識問題が,一般的に「難」になり得る問題だと言えましょう。

受験生一般が使用しているであろう基本書に書いてはあるが,重要性の評価が低く読み飛ばしがちな傾向にあったり,あるいは過去問末出題であったり,また試験結果の実際の正答率など色々なファクトを分析した結果,予備校は「難易度」をレジュメや過去問集等に記載するのでしょう。ここでいう「難」は,そういう意味で想定したところの「難」です。

いずれにせよ知識問題は,知っていれば瞬時に答えが出て解答が波に乗る一方で,躓いて時間をとられると調子が崩れます。調子の乗りのよしあしが,短答,択一の全体としての正答率に影響を及ぼします。

そこで,「教授」と「学生」の対話形式を通じて,緊急集会についての知識確認をするため,以下の対話文を作成してみました。さらに,基本書,テキスト等により,ご確認なされるならば,より正確で漏れのない知識になろうかと思います。



(なお,試験勉強においては,「基本」が大切であることはご案内のとおりです。「基本」を超えて,奇を衒った勉強をすることを推奨しておりません。勉強の合間に当サイトを訪問して下さった閲覧者の方々が,「ちよっと手が届かなかったなあ・・。まあ,読んでみるか。」といった軽い気持ちでお読みいただける記事を作成したものです。普段の勉強において,「基本」こそが大切である事に変わりはありません。念のため。)





 教授と学生の対話



[教授] 緊急集会を求める権能は内閣のみにあるのですか?それとも内閣に加えて議院にもあるのですか?

[学生] 緊急集会を求める権能は,内閣のみにあります。


(長尾・日本国憲法[第3版]p369[全訂第4版]p206,野中ほか・憲法Up121参照)





[教授] 緊急集会が行われるのは,どういう場合ですか? 

[学生] @衆議院の解散中に,A国に緊急の必要がある場合であって,B内閣の求めによって行われます(憲法54条2項但書)。







[教授] 解散によることなく,衆議院議員の任期満了によって衆議院不存在となった場合においても,緊急集会は開かれるのですか? 

[学生]  議員の任期満了の場合においても,理論上,緊急集会の必要は考えられますが,憲法はそういう場合を想定しておりませんので,開かれません。


(佐藤(幸)・日本国憲法論p452参照)





[教授] 緊急集会において,会期の定めはありますか?

[学生]  いいえ,緊急集会には,会期の定めはありません。すべての必要案件が議決されたときに,参議院議長は終了を宣言することになります。これにより,緊急集会は終了します。


(佐藤(幸)・日本国憲法論p453,野中ほか・憲法Up122,木下ほか・新・コンメンタール憲法p487参照)






[教授] 緊急集会において,天皇の召集は必要とされていますか? 

[学生]  いいえ,緊急集会は国会の召集とは異なり国事行為ではないので,天皇の召集は必要とされていません。


(長尾・日本国憲法[第3版]p369[全訂第4版]p206,野中ほか・憲法Up121参照)







[教授] 緊急集会を求める権能が内閣のみに属するとなると,議案の発議権も内閣のみに専属するとして,これにより議員による議案の発議は一切行うことができないのですか? 

[学生]  いいえ,そのようなことはありません。内閣の示した案件に関連するものに限ってではありますが,議員による議案の発議も認められています(国会法101条)。請願についても,同様に取り扱われています(国会法102条)。



(佐藤(幸)・日本国憲法論p453,野中ほか・憲法Up121,木下ほか・新・コンメンタール憲法p487参照)




[教授] 緊急集会において,内閣総理大臣の指名や憲法改正の発議を行うことができますか? 

[学生]  いいえ,できません。緊急集会は,参議院が国会に代わって,緊急案件について,臨時的,応急的,暫定的措置をとるころに実質的意義を有しますので,内閣総理大臣の指名や憲法改正の発議を行うことができないと解されています。



(長尾・日本国憲法[第3版]p370[全訂第4版]p206,木下ほか・新・コンメンタール憲法p488参照)






[教授] それでは緊急集会において,内閣に対する不信任の決議を行うことができますか? 

[学生]  いいえ,できません。なぜなら,緊急集会の権能は,国会の権能に属するものでなければならないところ,内閣に対する不信任の決議は,衆議院の権能に属するものであって,緊急集会の権能には属さないからです。



(長尾・日本国憲法[第3版]p370[全訂第4版]p206参照)







[教授] 緊急集会においても,発言・表決の免責特権(憲法51条),不逮捕特権(憲法50条,国会法100条)を参議院議員は享受することができますか? 

[学生]  はい,できます。


(野中ほか・憲法Up122,木下ほか・新・コンメンタール憲法p487参照)






[教授] 緊急集会において採られた措置について,次の国会開会の後10日以内に,衆議院の同意がない場合に,該緊急集会でとられた措置の効力はどうなりますか? 

[学生]  憲法第54条第3項は「・・・緊急集会において採られた措置は,臨時のものであって,次の国会開会の後10日以内に,衆議院の同意がない場合には,その効力を失う。」旨規定しています。従いまして,衆議院の同意が得られない場合,緊急集会で採られた措置の効力は失われます。







[教授] 緊急集会で採られた措置の効力は,過去に遡って失われることになるのですか?

[学生]  いいえ,そうではありません。緊急集会で採られた措置の効力は,過去に遡って失われるものではありません。将来に向かって,失われます。



(佐藤(幸)・日本国憲法論p453,野中ほか・憲法Up122参照)



日本国憲法
第五十四条  衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
2  衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
3  前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。







緊急集会と臨時会の比較のため,以下に条文掲載します。
     臨  時  会            
第五十三条  内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

     緊 急 集 会 
第五十四条  衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
2  衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
3  前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。


[参考文献]
日本国憲法 橋本公亘 著 有斐閣
日本国憲法論 佐藤幸治 著 成文堂
日本国憲法[第3版][全訂第4版] 長尾一紘 著 世界思想社
憲法U 第5版 野中俊彦 中村睦男 高橋和之 高見勝利 著 有斐閣
新・コメンタール憲法 木下智史。只野雅人[編] 日本評論社
など


以上の記述の正誤につきましては,是非ご自身の基本書,テキスト等によりご検証,ご確認ください。                               以  上




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posted by 略して鬼トラ at 06:35 | 司法試験

2017年07月25日

国民審査制の法的性質( 司法試験 )


             最高裁判所裁判官の国民審査制の法的性質

               (司法試験・予備試験 論点)                
 




国民審査制の法的性質についての択一問題を作成しました。

判例の見解を知っていれば,あとは文章の文脈の前後関係でキーワードの連続性,論理性を追っていくと,何とか正解に達することができるのではないでしょうか。


正解は参考文献の下に記載してあります。










[ 問 題 ]

次の甲と乙の会話の中の[ア]から[オ]までの[ ]内に下記AからEまでの文章の中から適切なものを選択して入れると,最高裁判所裁判官の国民審査制の法的性質に関する対話が完成する。[ア]から[オ]までの[ ]内に入れるべきものの組み合わせとして最も適切なものは,後記1から5までのうちどれか。



学生甲 憲法第79条第3項が,国民審査の法的効果として当該裁判官が「罷免される」ことを定めていること,また,国民審査以前に有効に任命され,裁判官はその職務に完全に就いており,裁判官に対する罷免決定は将来に向かってのみ効力を有すること,これらを考えれば,[ ア ]ことは,明らかである。


この説によれば,特に罷免すべきものと思う裁判官にだけ×印をつけ,それ以外の裁判官については何も記さずに投票させ,×印のないものを「罷免を可としない投票」(この用語は正確でない、「積極的に罷免する意思を有する者でない」という消極的のものであつて、「罷免しないことを可とする」という積極的の意味を持つものではない)の数に算える国民審査の投票方法について,合憲であるとの結論を導くことができる。



学生乙 甲君は判例と同旨の見解を採っている。
しかし,甲君の説は適格性審査が制度の核心と捉えるが,[ イ ]のだから,かかる国民審査は妥当性に欠けるのではないか。



学生甲 しかし,最高裁判所裁判官としてなしたことのみが判断資料になるのではなく,最高裁判所裁判官になる前の経歴,所業,業績などを資料として,罷免すべきか否かを国民が審査することができる。

ところで,憲法第79条第2項によれば,「最高裁判所の裁判官の任命は,・・・・審査に付し・・」とある。この文言を根拠に,[ ウ ]とする説を乙君は採るのか。



学生乙 いいえ。かかる説によれば,[ エ ]から採らない。

そこで私は,国民審査制度の法的性質について以下の説を採る。
法的効果の面からリコール(解職制度)であるということを承認した上で,さらに内閣の任命行為に対する事後審査としての性格を併有する。
すなわち,[ オ ]とする説を採る。



学生甲 しかし,乙君のいう「事後審査」という概念は不明瞭である。また,乙君の説によれば「事後審査」に任命行為を完結させるという意味が含まれておらず,国民審査制度の法的性質に関する限り,私の説と径庭がないように思われる。






(文章群)

A  国民審査は任命行為に向けられたものであるから,国民審査制度は「任命」行為を完成(完結),確定させる公務員選定作用である


B 任命後初の審査は任命行為に対する事後審査,10年を経過する毎に行われる審査は個々の裁判官の過去の職務遂行の業績から判断する解職としての意味を有する       


C 国民審査制度は裁判官の適格性を国民が審査し,不適格者を罷免する国民解職(リコール)の制度である


D 任命から国民審査までの裁判官の地位を説明できない難点がある


E 任命後間もない時期に行われる国民審査においては,最高裁判所裁判官としての実績に乏しく,判断資料が不足している



1   アにA  ウにB       2 イにD  エにE    3 アにC  エにD
4  ウにB  オにC       5 イにE   オにA    





(参考)
憲法
第七十九条  最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
2  最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3  前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
4  審査に関する事項は、法律でこれを定める。
5  最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
6  最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。


                  
               
                以上が問題,この下に行くと解答












































[解 答]

学生甲 憲法第79条第3項が,国民審査の法的効果として当該裁判官が「罷免される」ことを定めていること,また,国民審査以前に有効に任命され,裁判官はその職務に完全に就いており,裁判官に対する罷免決定は将来に向かってのみ効力を有すること,これらを考えれば,ア 国民審査制度は裁判官の適格性を国民が審査し,不適格者を罷免する国民解職(リコール)の制度であることは,明らかである。(ア・C)(解職制度説・リコール説)(宮澤・全訂日本国憲法p642,憲法の争点p266参照)

この説によれば,特に罷免すべきものと思う裁判官にだけ×印をつけ,それ以外の裁判官については何も記さずに投票させ,×印のないものを「罷免を可としない投票」(この用語は正確でない、「積極的に罷免する意思を有する者でない」という消極的のものであつて、「罷免しないことを可とする」という積極的の意味を持つものではない)の数に算える国民審査の投票方法について,合憲であるとの結論を導くことができる。

→最高裁昭和27年2月20日大法廷判決(昭和24年(オ)第332号最高裁判所裁判官国民審査の効力に関する異議事件)参照
→佐藤(幸)・日本国憲法論p400,長尾・日本国憲法[第3版]p428参照



学生乙 甲君は判例と同旨の見解を採っている。
しかし,甲君の説は適格性審査が制度の核心と捉えるが,イ 任命後間もない時期に行われる国民審査においては,最高裁判所裁判官としての実績に乏しく,判断資料が不足しているのだから,かかる国民審査は妥当性に欠けるのではないか。(イ・E)(憲法判例百選U[第4版]p397参照)




学生甲 しかし,最高裁判所裁判官としてなしたことのみが判断資料になるのではなく,最高裁判所裁判官になる前の経歴,所業,業績などを資料として,罷免すべきか否かを国民が審査することができる。(宮澤・全訂日本国憲法p643,渋谷・憲法p668−669参照)

ところで,憲法第79条第2項によれば,「最高裁判所の裁判官の任命は,・・・・審査に付し・・」とある。この文言を根拠に,ウ 国民審査は任命行為に向けられたものであるから,国民審査制度は「任命」行為を完成(完結),確定させる公務員選定作用であるとする説を乙君は採るのか。(ウ・A)(任命確定説)(憲法判例百選U[第4版]p397参照)



学生乙 いいえ。かかる説によれば,エ 任命から国民審査までの裁判官の地位を説明できない難点があるから採らない。(エ・D)(野中ほか憲法Up251,憲法判例百選U[第4版]p397)

そこで私は,国民審査制度の法的性質について以下の説を採る。
法的効果の面からリコール(解職制度)であるということを承認した上で,さらに内閣の任命行為に対する事後審査としての性格を併有する。(憲法の争点p266参照,憲法の基本判例p192参照)

すなわち,オ 任命後初の審査は任命行為に対する事後審査,10年を経過する毎に行われる審査は個々の裁判官の過去の職務遂行の業績から判断する解職としての意味を有するとする説を採る。(オ・B)(二面的性格説・併有説)(憲法の争点p266,憲法の基本判例p192参照)




学生甲 しかし,乙君のいう「事後審査」という概念は不明瞭である。また,乙君の説によれば「事後審査」に任命行為を完結させるという意味が含まれておらず,国民審査制度の法的性質に関する限り,私の説と径庭がないように思われる。(憲法判例百選U[第4版]p397,憲法の基本判例p192参照)



[参考文献]
日本国憲法 橋本公亘 著 有斐閣
全訂日本国憲法 宮澤俊義 著 芦部信喜 補訂 日本評論社
演習 憲法 新版 芦部信喜 著 有斐閣
日本国憲法論 佐藤幸治 著 成文堂
日本国憲法[第3版][全訂第4版] 長尾一紘 著 世界思想社
憲法U 第5版 野中俊彦 中村睦男 高橋和之 高見勝利 著 有斐閣
憲法 第3版 渋谷秀樹 著 有斐閣
注釈日本国憲法 下巻 樋口陽一・佐藤幸治・中村睦男・浦部法穂 著 青林書院
憲法の基本判例[第2版]樋口陽一・野中俊彦 編 有斐閣
憲法判例百選U[第4版] 芦部信喜・高橋和之・長谷部恭男 編 有斐閣 
判例プラクティス憲法 増補版 憲法判例研究会 編 信山社
[ 正解 3 ]


学説及び判例あるいは判決事例の解読・理解・説明には,非常に微妙な点が多数現出します。
従いまして,以上の記述の正誤につきましては,是非ご自身の基本書,テキスト等によりご検証,ご確認ください。

                                     以  上 





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posted by 略して鬼トラ at 05:00 | 司法試験

2017年05月27日

私見含みの!? 学説整理・国会議員の不逮捕特権その3



                憲法・その3・国会議員の不逮捕特権
                   (司法試験向き)




不逮捕特権については,議論自体は簡明なので勉強すれば記憶に残り易いと思います。


比較的時間の余裕のある方は,一度サラッと流しておくと良いかもしれません。

深堀の必要性はないと思います。

時間に余裕のない方は,このブログ記事は無視してください。

貴重な時間ですから。






1 不逮捕特権の目的



不逮捕特権の目的については,大きく分けると三つの説があります。



一つ目が,不逮捕特権の目的を議員の身体の自由を保障し,政府権力によって議員の職務遂行が妨げられないようにすることと考える見解(議員の身体的自由保障説)です(第T説)。(後掲 芦部憲法p307参照)



この説を平たく言えば,不当逮捕(政治的動機・政略的動機)から議員の身体の自由を保障する説と言ってもいいでしょう。[議員]に焦点を当てて考える説です。






二つ目が,不逮捕特権の目的を議院の審議権(正常な活動)を確保することとする見解(議院の活動確保説)です(第U説)。(後掲芦部憲法p307参照)



この「議院の活動確保説」は,以下のような理由をその立論の基礎とするものと思われます。


憲法第50条 後段は「両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。」と規定しています。


すなわち,「会期中逮捕されず」,かつ「会期中これ(議員)を釈放しなければならない」と規定しており,「会期中」に限って,この限りにおいて,憲法は議員の身柄の自由を認めているのです。


このような「会期中」という議員の身柄自由の期間限定文言からすれば,憲法は「会期中」を重視していると言えます。これは,「会期中」に議院の審議が行われるためです。ですから,議院での審議権確保に憲法は不逮捕特権保障目的の焦点を当てていると理解するのが合理的なのです。(後掲 憲法学読本p285参照)


すなわち,不逮捕特権の目的を議院の審議権確保に求めて初めて,かかる「会期中」という憲法第50条後段の身柄自由期間限定文言が効果的に生きてくるのです。この文言と不逮捕特権保障目的との間のよりよい整合性が保たれてくるのです。


このように会期中に限っての議員の身柄の自由を重く見れば,不逮捕特権保障目的を議院の審議権確保とする見解(議院の活動確保説)に落ち着くのが合理的なのです。







三つ目が,行政府による逮捕権濫用によって,議員としての職務活動が妨害されるのを防ぎ,もって議院の組織活動力の保全を図るところに,不逮捕特権の保障目的(趣旨)があるとする見解(折衷説)です。(第V説)(後掲 佐藤憲法p202-203,日本国憲法論p470-471参照)。





ごく大雑把にこの折衷説を言うと,不逮捕特権保障目的について,「議員の身体的自由保障説」と「議院の活動確保説」とを合体させた説と言えます。
「議員の身体的自由保障説」と「議院の活動確保説」の両説は,相互に排斥する関係には立たないことをその理由とします。


この折衷説は,「議員の身体的自由保障説」イコール手段と捉え,「議院の活動確保説」イコール目的と捉えるのです(後掲 憲法判例百選U第六版p373参照)。


この折衷説は,行政権・司法権の逮捕権濫用に対して議員の職務遂行の自由を保障し,もって議院の自主性(議院の審議権・正常な活動)を確保することに不逮捕特権の保障目的を求める見解(後掲 野中ほか憲法U103参照)と同じことを言っているものと思われます。







2 議院の逮捕許諾の判断基準
 
→(後掲 憲法判例百選U第六版p372・373,判例プラクティス憲法増補版p347参照)

不逮捕特権の保障目的を議員の身体の自由を保障し,政府権力によって議員の職務遂行が妨げられないようにするとの説(議員の身体的自由保障説)によれば,逮捕許諾の判断基準を逮捕の適法性・正当性に求める見解(逮捕正当性基準説)を原則として採用することになります。

不逮捕特権の沿革からすると,この説が妥当となります(後掲 注解 法律学全集3 憲法Vp93参照)。




不逮捕特権の沿革 

→ イギリス議会制の歴史において,国王君主による議員の不当拘束が行われたことに対して,これを避ける趣旨で議員の不逮捕特権が認められるようになった。
(後掲 憲法学読本p284参照)


→ 議会制発達史の中で,君主権力の妨害から議員の職務遂行の自由を守る制度として,不逮捕特権は重要な役割を担ってきた。
(後掲 注解 法律学全集3 憲法Vp90参照)






  不逮捕特権の目的          逮捕許諾の判断基準
「議員の身体的自由保障説」  →   「逮捕正当性基準説」



→ 逮捕正当性基準説に対しては,議院に果たして本当に逮捕の適法性・正当性についての判断能力があるのか。逮捕の適法性・正当性の判断は,そもそも裁判官の判断によるべきではないのか,といった疑問があります。(逮捕の理由と必要性について,専門家ではない議院の判断によることができるのか,このような疑問が生じてきます。)

憲法第33条は,「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。」と規定しているからです。






一方,不逮捕特権の目的を議院の審議権を確保することに求める見解(議院の活動確保説)によれば,逮捕許諾の判断基準を所属議員の逮捕が議院の審議の妨げになるかどうかについて求める見解(審議基準説)を原則として採用することとなります。

 

 不逮捕特権の目的         逮捕許諾の判断基準       
「議院の活動確保説」   →   「審議基準説」











3 期限付逮捕許諾の可否
 
(後掲 憲法判例百選U第六版p372・373,判例プラクティス憲法増補版p347参照)


不逮捕特権保障目的における「議員の身体的自由保障説」(第T説)からは,
「議員の身体的自由保障説」→「逮捕正当性基準説」→「期限付逮捕許諾の否定」という一連の見解の流れが考えられます。




→ 不逮捕特権保障目的の「議員の身体的自由保障説」からは,逮捕が適法・正当であり,逮捕権の濫用が認められない以上,審議における支障の有無にかかわらず,当該議員の逮捕を無条件に認めることができると考えられるからです。⇐ ( 但し,この論理の流れは必然の関係に立ちません。後掲 注解法律学全集3 憲法Vp93は,「不当に長くなることが想定される自由の拘束に対して,期限をつけることは考えられうる」としています。)


「議員の身体的自由保障説」の本質たる,排除すべき逮捕権濫用の事実が認められない以上,逮捕請求拒否の根拠が見出せないからです。







また,不逮捕特権保障目的における「議院の活動確保説」(第U説)からは,
「議院の活動確保説」→「審議基準説」→「期限付逮捕許諾の肯定」という見解の流れが考えられます。



→不逮捕特権保障の目的を議院の審議権確保に求める「議院の活動確保説」からは,逮捕請求された議員において,審議に加わることの重要性・必要性が認められるのであれば,逮捕の適法性・正当性の有無にかかわらず,議院は所属議員に対する逮捕請求を拒めると考えることができるからです。



⇐ 但し,この論理の流れは必然の関係に立ちません(後掲 注解法律学全集3 憲法Vp93 -94参照)。
この点,東京地裁昭和29年3月6日決定は,逮捕許諾の判断基準について,議院の審議権確保(所属議員の逮捕が議の職務遂行の妨げになるかどうか)を加味するニュアンスをみせながら,しかし,期限付逮捕許諾については,これを否定し,逮捕許諾は無条件でなければならないとしました(後掲 佐藤憲法p202-203,日本国憲法論p471参照)。











以上見てきたことから分かることは,
不逮捕特権の目的と逮捕許諾の判断基準,それに期限付逮捕許諾の可否との一連の関連性については,下記の関連図式のような一応の論理の流れを考えることができます(後掲,佐藤憲法第3版p203-203 日本国憲法論p471参照)。( 但し,あくまでも一応の論理の流れを考えることができるのであって,論理必然の関係に立ちません。)

<関連図式>
「議員の身体的自由保障説」→「逮捕正当性基準説」→「期限付逮捕許諾の否定
あるいは,
「議院の活動確保説」→「審議基準説」→「期限付逮捕許諾の肯定



しかし,かかる関連図式は必ずしも精確な対応関係に立つわけではありません(後掲 判例プラクティス憲法増補版p347参照)。


その例外があります
これを具体的に見ていきましょう。





関連図式の例外 その1

不逮捕特権の保障目的を「議員の身体的自由保障説」(第T説)とし,逮捕許諾の判断基準を「逮捕正当性基準説」に求める見解によっても,期限付逮捕許諾については,逮捕請求を全面的に拒否できる以上,期限付逮捕許諾を肯定することができるとする見解があります。


この見解は,全面的逮捕許諾ができる以上,部分的逮捕許諾もできると考えるのでしょう。
あるいは,全面的に逮捕許諾を拒める以上,部分的に逮捕請求を拒むこともできると考えるのでしょう。



ごく簡単に言ってしまえば,かかる期限付逮捕許諾の肯定説は,「大は小を兼ねる」的な論理を以て,期限付逮捕許諾を憲法上適法と認めるものと言えます。


しかし,この見解に対しては,二つの反論が考えられます。



まず,一つ目の反論です。

逮捕の目的を「議員の身体的自由保障説」(第T説)に求め,逮捕許諾の判断基準を「逮捕正当性基準説」に求める見解によれば,期限付逮捕許諾については,これを否定し,無条件の逮捕許諾を行うのが論理的であるとの反論です。


なぜなら,「議員の身体的自由保障説」(第T説)によれば,不逮捕特権の保障目的の本質は逮捕権の濫用排除にあるのですから,逮捕の適法性・正当性が認められる以上は,ここに逮捕権濫用の事実が看取できず,もはや逮捕許諾を拒む理由が見出せないからです。


すなわち,逮捕の適法性・正当性が認められ逮捕権濫用事実が看取できない以上,議院は部分的な逮捕許諾の拒否にも相当する期限付逮捕許諾を行う合理性・必要性がなく,したがって逮捕請求に対しては無条件・全面的に逮捕許諾を与えなければならないと考えられるからです。





次に,二つ目の反論です。

期限付逮捕許諾は,逮捕の許諾と同時に期限経過後の議員釈放要求を含む許諾と考えられます。
しかし,憲法第50条後段は「会期前に逮捕された議員は,その議院の要求があれば,会期中これを釈放しなければならない。」と規定するのみで,会期中に逮捕された議員の釈放要求についてはこれを認めていません。

したがって,期限経過後の議員釈放要求を含む期限付逮捕許諾については,憲法はこれを認めていないとの反論が考えられます。(後掲 憲法判例百選U第四版p373参照)


関連図式の例外 その2

逮捕許諾基準について,「審議基準説」を採用しながら,逮捕許諾を検察・捜査機関の逮捕権に対する「阻止する権限」と解して,期限付逮捕許諾を否定する見解があります。(後掲 憲法判例百選U第6版p373参照)







ここでもう一度繰り返します。


不逮捕特権の目的と逮捕許諾の判断基準,それに期限付逮捕許諾の可否とのこの一連の関連性については,下記の関連図式のような一応の論理の流れを考えることができます(後掲,佐藤先生憲法第3版p202・203参照 )。( 但し,あくまでも一応の論理の流れを考えることができるのであって,論理必然の関係に立ちません。)

<関連図式>
「議員の身体的自由保障説」→「逮捕正当性基準説」→「期限付逮捕許諾の否定
あるいは,
「議院の活動確保説」→「審議基準説」→「期限付逮捕許諾の肯定


しかし,かかる関連図式は必ずしも精確な対応関係に立つわけではありません(後掲 判例プラクティス憲法増補版p347参照)。
その例外があります


以上で,関連図式及びその例外に関する話を終わります。







それでは,不逮捕特権の保障目的を逮捕権濫用に対して,議員の職務遂行の自由を保障し,もって議院の組織活動力(審議権)の保全を図ることに不逮捕特権の保障目的を求める説(第V説・折衷説)に立脚した上で,期限付逮捕許諾を認めることができるでしょうか。



逮捕許諾の判断基準につき,議員の逮捕が議院の審議の妨げになるかどうかについて求める見解(審議基準説)をとって,これを可能とする見解があります。


この見解によれば,国政審議の重要性が認められる場合であれば,議院の審議の確保,議院の自主性に重点をおいて,期限付逮捕許諾を認めることができます。


→ どうして,逮捕の許諾基準を「審議基準説」にするかというと,逮捕の適法性・正当性についての議院の適正な調査能力・法技術的な判断能力に疑問があるからです(後掲 佐藤憲法p202-203,日本国憲法論p471参照)。
すなわち,議院の調査能力・判断能力を消極的に評価するからです。




<期限付逮捕許諾のケース> 

 不逮捕特権の目的          逮捕許諾の判断基準       
「議員の身体的自由保障説」
   プラス           →   「審議基準説」
「議院の活動確保説」   



なお,東京地裁昭和29年3月6日決定は,逮捕許諾の判断基準について,議院の審議権確保(所属議員の逮捕が議の職務遂行の妨げになるかどうか)を加味するニュアンスをみせながら,しかし,期限付逮捕許諾については,これを否定し,逮捕許諾は無条件でなければならないとしました(後掲 佐藤憲法p202-203,日本国憲法論p471参照)。







また,第V説・折衷説に立脚して,逮捕許諾の判断基準につき,「逮捕正当性基準説」及び「審議基準説」の両基準を採用した上,所属議員逮捕の適法性・正当性と所属議員出席の上での議院審議・運営の必要性とを比較衡量し,後者が前者に優位する場合,議院審議・運営の必要性の限度において所属議員逮捕の許諾に期限を付しうるとする見解もあります。(後掲 憲法判例百選U [第6版]p373参照 )

←しかし,これに対しては,逮捕の適法性・正当性についての議院の適正な調査能力・法技術的な判断能力につき疑問がまた生じてきます。(後掲 憲法判例百選U [第6版]p373参照 )







⇐いままで期限付逮捕許諾について議論してきましたが,条件付逮捕許諾についても,期限付逮捕許諾と同様の議論がほとんどそのまま当て嵌まると思います。











まとめ


国会議員の不逮捕特権については,次の関連図式(あくまでも一応の論理の流れを考えることができるのであって,論理必然の関係に立ちません。)を理解しておけば最低限の守りを保てるでしょう(択一問題)。



<関連図式>

不逮捕特権保障の目的   逮捕許諾の判断基準    期限付許諾の可否

「議員の身体的自由保障説」→「逮捕正当性基準説」→「期限付逮捕許諾の否定

「議院の活動確保説」    →「審議基準説」  →「期限付逮捕許諾の肯定






憲法第五十条  両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

国会法第三十三条  各議院の議員は、院外における現行犯罪の場合を除いては、会期中その院の許諾がなければ逮捕されない。



不逮捕特権に関する文章を読む上で,注意を要することが一つあります。
『議員』と〖議院〗の言葉の使い分けです。

当該文章は,一体『議員』の主観的地位(議員の身体の自由イコール議員個々人の職務活動の自由)を問題としているのか,それとも〖議院〗の自主組織権(議院の審議権・組織活動力の保全)を問題としているのかです。
(憲法判例百選U [第6版] p373参照)

たった「員」と「院」の一文字の違いですけれども,この違いは大きいです。
文献を読むとき,注意された方がよいかと思います。







[参考文献]
憲法 第6版   芦部信喜 著  高橋和之 補訂   岩波書店
日本国憲法論   佐藤幸治 著  成文堂
憲法 [第3版]  佐藤幸治 著  青林書院
注解法律学全集3 憲法V 樋口陽一 佐藤幸治 中村睦男 浦部法穂 著 青林書院
憲法U 第5版 野中俊彦 中村睦男 高橋和之 高見勝利 著  有斐閣
憲法判例百選U [第4版] 芦部信喜・高橋和之・長谷部恭男 編  有斐閣
憲法判例百選U [第6版] 長谷部恭男・石川健治・宍戸常寿 編  有斐閣
判例プラクティス憲法 増補版 憲法判例研究会 編 信山社
憲法T 総論・統治 第2版 毛利透・小泉良幸・浅野博宣・松本哲治 著 有斐閣
憲法学読本 第2版 安西文雄 巻美矢紀 宍戸常寿 著  有斐閣
など



                                   
                               以    上

学説及び判例あるいは判決事例の解読・理解・説明には,非常に微妙な点が多数現出します。
説明の過程において,どうしても私見となる部分が出てきます。
従いまして,以上の記述の正誤につきましては,是非ご自身の基本書,テキスト等によりご検証,ご確認ください。






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