私と伯母のほかに、私の母、弟、伯母の娘にあたるいとこが乗っていました。
夕方のまだ薄明るいうちに出発して、ちょうど夕食ごろに着く予定だったのですが、道に迷ってしまい、あたりはもう真っ暗です。
時刻は深夜をまわり、道はどんどん人里離れた山奥に入っていきます。
さすがに道を間違えたことは明白なので引き返そうにも、狭い一本道の山道がずっと続いていて車をUターンさせる場所がありません。
地図を見てみると、少し先にレストランがあるのが分かりました。
出発が夕食前だったこともあり、みんなお腹ペコペコです。
私どもはレストランに寄ることにいたしました。
車を止め、木々に囲まれた、とてもこの先に建物があるとは思えない草ボウボウの階段を上ると、少し開けた草むらに出ました。
山に囲まれ、枯れた感じの草むらの奥に、ポツンと木造の建物が立っています。
小ぢんまりとした、レトロで風情のある店舗でした。
狭いドアを開けて中に入ると、まるで中世ヨーロッパのような素朴な木の壁の部屋に、こちらも木でできたテーブルと椅子が置かれていました。
奥にもう一部屋あるらしく、なにやらレトロな音楽が聞こえてきます。
椅子に座っている、ちょうど人間と同じくらいの大きさの、いわゆる肋骨服(昔のヨーロッパの軍服)を着た山羊の頭をした人形がちらりと見えました。
私は壁にかかっている、店の雰囲気とは不釣り合いな電光掲示板に「2」と表示されているのを見つけ、「今日って2日だっけ?」「違うよね。」といとこと一緒に首をかしげました。
そうこうしているうちに、お店の人が出てきました。
60代くらいの小太りの女性で、偶然にも私の伯母とは小学校時代の知り合いだと言っていました。(ただし、伯母はピンとこないようでしたが。)
店は彼女がひとりで切り盛りしているようでした。
店の雰囲気と、この女主人のいかにもといった風貌から、私はこの店に「魔女のレストラン」といった印象を受けました。
メニュー表はなく、女主人のおまかせです。
まさかネズミやトカゲの丸焼きなんか出てこないよなと心配していると、最初に出てきたのはカボチャのスープでした。
いとこは「かぼちゃは嫌いだ。」と言って食べませんでしたが、かぼちゃ大好きな私は喜んでいただきました。
スープを食べ終わるころ、ふと壁の電光掲示板を見ると、数字が「0」になっています。
得体のしれない不安感にとらわれていると、女主人が水の入ったコップを載せたお盆を持って入ってきました。
私は「あっ!」と驚きました。
最初は60代前半くらいだった女主人が、ヨボヨボの老婆になっていたのです!
プルプル震える手と声で「お水をお出しするのを忘れていたから。」というようなことをつぶやき、一同の前にコップを置いていきました。
老婆が退室しようとしたとき、例の電光掲示板の数字が「6」に変わりました。
なにか予感がして私が女主人のほうを見ると、ちょうど彼女はこちらを振り返ったところでした。
そこに立っていたのは先ほどまでの老婆ではなく、なんと40歳くらいの女性ではありませんか!
彼女がおそらく厨房であろう場所に引っ込み、私が掲示板の数字と彼女の外見との関連性に気づき始めていると、まもなく次の料理が運ばれてきました。
ネズミの丸焼きでした。
冗談まじりに恐れていたものが、本当に出てきてしまったのです。
さすがにこれには、だれも手をつけようとしませんでした。
つぎに出てきたのは、モグラと思しき物の丸焼きです。
串に刺されたそれを、女主人は目の前で火であぶってくれました。
おいしそうな色の焦げ目が表面に付き、香ばしい匂いが漂ってきます。
これならさっきのよりは少しは食べられそうだと考え、その得体のしれない物体を指さして言いました。
「モグラですか?」
女主人は答えました。
「マグロです。」
とてもそうは見えません。
私はもう一度聞きました。
「モグラ?」
「マグロのモグラ。」
もう、わけがわかりません。
私以外の親族一同は怖がって手をつけようとはせず、私一人が「表面の焦げ目のついたところなら食べられそうかな。」とためらっているうちに、つぎの料理がきました。
一口大に切った、おいしそうなレアステーキです!
いままでとはうって変わったようにまともな食べ物が出てきて、一同は歓喜しました。
なかなか高そうな肉で、私は喜んで口に入れました。
ほかのメンバーはレアが好きでないのか、そこまで食が進んでいませんでしたが。
まだ食べている途中でしたが、つぎの料理が運ばれてきました。
これまでのことがあるので、一瞬私はそれをミミズだと思いぎょっとしました。
皿の上でのたくる大量のミミズ。
しかしそう見えたのは一瞬のことで、なんのことはない、よくあるベーコンの乗ったカルボナーラスパゲティでした。
ここにきて突然まともになった食事に安堵と警戒の相反する感情を覚えつつ、私は女主人にずっと気になっていたことをたずねました。
「奥の部屋から聴こえてくるあの歌は、何語ですかね?」
店に入った時に聞こえてきたBGMだと思っていたものは、私たちが食事をしている間にしだいに大きながやがやいう音が加わり、いまやどこの言葉とも知れぬ歌が混じっていました。
ここからでは部屋の奥の様子は見えませんが、私たち以外に先客として来てきていた者たちが騒いでいるように思えました。
それでいて、私はなぜか生身の人間はいないという印象を受けていたのですから、不思議です。
「何語だと思います?」
「歌詞の2行目の部分は、ラテン語ですよね。」
「ええ、ラテン語ですよ。」
しかしいちばん盛り上がる1行目は「ケ・チャ・キャ」だか「チャ・チェ・チェ」だか、聞いたこともない語感の聞き取りにくい言葉です。
首をかしげて考えている私を、女主人はニタニタ笑いながら見つめてきました。
奥の部屋からは相変わらず姿は見えず、複数人が騒いでいるような歌声、楽器の音、話し声、食器がカチャカチャという音が聞こえます。
ちらりと見える入り口の席には、あいかわらず軍服を着た山羊頭の人形が微動だにせず腰かけていました。
いや、そもそもあれは人形なのか。
奥で騒いでいる、得体のしれない言語で歌う連中は何者なのか
あれが人形でないとしたら、その外見から正体として思いつくのは
嬉々として食べたさっきのステーキだって、思い返せばまともな肉だという保証はない。
では私たちは何の肉を食べたのか。
目の前のカルボナーラの上に載っているベーコンだって、いったい何の肉なのか。
いまや数字を確認する気も失せたが、さきほどからまた年を取った女主人のもはや隠そうともしないニタニタ笑いが私の目の前いっぱいに広がって
そこで、目が覚めました。
はい、以上は、私が見た夢の内容です。
我ながら怪奇小説のようなすごい夢を見ましたね〜。
あと起きてからふり返ってみると、夢の中で聞こえていた謎の歌の2行目の歌詞はラテン語ではなくイタリア語でした。
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