バスに乗ろうとしたらランドセルを背負った男の子が割り込んできた。
交通系ICカードをタッチする装置は、別のICカードと重なっていたりタッチ時間が短すぎたりすると、エラー音が鳴って再タッチを促すようになっている。
男の子がタッチした直後「ピ―――」とエラー音が鳴った。
初めて聞いた音だったのだろう。
思わず出たらしい「は?」の声があまりにも完璧だった。
そこそこの声量だったため、車体前方にいた他の小学生の耳にも届いたようでドッと笑いが起きた。
呆然と固まる様子が滑稽で、直前まで「はははこやつめ後で足の小指ぶつけろ」なんて思っていたが許した。
もう一回タッチしたら良いよと伝えたが男の子はまだ困惑から抜け出せずにいた。
他の子たちが大きな声で同じことを言った後、男の子はフリーズ状態から復帰した。
車体前方に駆ける男の子に、苦笑いしつつ自分もバスに乗り込んだ。エラー音は鳴らなかった。