◇家裁と弁護士会 連携
認知症や障害のある人の財産を守り、生活を支える成年後見制度で、松山家裁は今年度、後見人に弁護士を選任する際、愛媛弁護士会に候補者の推薦を依頼する運用を始めた。県内では2年前に弁護士が制度を悪用し、預かった金を着服した事件が発覚。弁護士会は「法で人を守る立場。不正は許されない」と危機感を強め、家裁と再発防止に乗り出した。(水谷弘樹)
■研修受講が条件
後見人には親族がなるのが一般的だったが、家族の形が多様化し、高齢の親と同居しない家庭が増加したことなどで、弁護士や司法書士、社会福祉士などが選ばれるケースが増えているという。
愛媛弁護士会は3月、推薦する弁護士の名簿を家裁に提出した。家裁から推薦の依頼を受けると、名簿に記載された弁護士の中から候補者を推薦する。
弁護士が推薦を得るためには、同弁護士会主催の研修を毎年受けることに加え、不正などによって生じる損害を賠償する保険に加入することを条件とし、名簿は毎年1回更新する。
今回記載された55人は、2月に日本弁護士連合会の担当者や家裁の裁判官らを講師とする約2時間半の研修を受け、業務を適正に行う心構えなどを学んだという。
■着服事件が契機
新たな運用を考えるきっかけが、2015年6月に松山市内の弁護士が業務上横領容疑で逮捕された着服事件だった。弁護士は事務所の資金繰りに困り、後見人を務める男性から預かった保険金約2200万円を着服したとして、半年後に有罪判決を受けた。その年末に不正防止に向けた意見交換が始まった。
従来は、家裁が弁護士に直接、後見人業務を依頼していた。希望者なら誰でも弁護士会が提出する名簿に登録することができ、家裁は名簿を参考に候補者を選任。面接などで弁護士の適否を確認することはなかった。
一方、司法書士でつくる「成年後見センター・リーガルサポート」のえひめ支部(松山市)では、後見人制度が始まった2000年から推薦制度を導入。日弁連によると、2016年までに全国52の弁護士会のうち、東京や大阪など35の弁護士会でも同様の制度を取り入れている。
愛媛弁護士会高齢者・障害者総合支援センター運営委員会の山岸義和副委員長は「対策が遅れ、不正で弁護士全体の信頼が失墜した。各弁護士には推薦の重みを受け止めてもらい、弁護士会として不正を防ぐとともに業務の質の維持に努め、信頼を回復させたい」と話す。
◇県内被害1億8730万円 10年6月〜16年12月
成年後見制度は、病気や障害などで判断能力が十分でない人の財産管理や、福祉サービスなどの契約行為を後見人が代行する制度。高齢化に伴って制度利用は増えているが、後見人による不正も相次ぐ。
松山家裁によると、同家裁への後見人選任の申し立ては、昨年は342件で、10年前の1・6倍に上った。一方、後見人の着服行為は10年6月〜16年12月に35件あり、被害総額は約1億8730万円に上った。
同家裁は不正防止策として、15年5月から後見人に年1回、報告書と財産目録を提出するよう求めている。不正が疑われる場合、金融機関と連携して財産口座の出金を止める対策も講じる。
2017年09月13日 Copyright The Yomiuri Shimbun
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